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第45話:寝耳に水、1リットル

 新年の祝いに催された王城での宴は、例年通りに最終日をを迎え、その宴も恙無く終了した。

 王族へ、あるいはお互いに挨拶周りを終えた貴族たちは順次普段の生活へと戻って行く。

 王国西部の大貴族、ホーリーウッド家も、本日昼より王城での会食を控えており、それが終われば明日は自由に過ごし明後日にはホーリーウッドへの帰途につく予定であった。


------

(アイラ視点)

 王城での会食を控えた朝のこと、ボクは頭を抱えていた。

 先日の王城での宴を中座した後眠ってしまったのだけれど、気がついたらサリィ(※王国の王位継承権第二位の姫様)と一緒にお風呂に入っていてその後部屋にお呼ばれ、しかもやっぱりまたいつの間にか眠っていて、気がついたら翌日の朝・・・しかもいつの間にかホーリーウッド家の王都邸の自室として割り当てられた部屋で寝ていたのだ・・・。


 サリイの世話になったことを証明するのは自分の着ている寝間着がホーリーウッドから持ち込んでいたベビードール風のワンピース寝間着ではなく、新品で丈の長いシュミーズとズロースであること。


 混乱する頭で、隣に寝ていたユーリをゆすり起こして、夕べ何があったのかを尋ねようとしたら、ユーリときたらどんな淫夢を見ていたのか

「・・・んぅ?アイラまだし足りないの?いいよ・・・おいで・・・?」

 と寝ぼけた顔でボクの背中に腕を回して、すごい力(10歳並)で引き寄せると濃厚な口付けをして、さらにボクを体の上に乗せるともう片方の手を使ってボクの体をまさぐり始めたのだ。


 シュミーズの長い裾、そのおしり側をめくり上げてズロースに手がかかったと思ったらその内側にまで手を挿し入れられて撫でられた。

 そういう気分ではなかったので抵抗したのだけれど、魔力強化もしていない状態ではユーリを引き離すこともできず。

 ユーリ相手なので魔力強化してまで拒否するかといわれればそういうわけでもないと、なすがままになっていたら。

 なにがとはいわないが、ユーリが寝ぼけたままホンキになりつつあり

「むにゃ・・・もうアルマも3歳になったし・・・弟か妹をほしいって・・・。」

 なんて、はっきりした前世の寝言をモニャモニャ言い始めた時点でさすがに抵抗して

「ユーリボクまだ6歳だから、そろそろ起きて朝ご飯食べないと・・・」

 と6歳部分を強調して起こすとようやく目を覚まし、最初ボクの下着に手を入れていたことに対して、寝ぼけて申し訳ないと平謝りしていたユーリは途中で今自分の手元にリリも、アルマもいないことを再認識したためか大粒の涙が頬を伝い、落ち込んでしまったため、サリィの部屋で何があったかなんて尋ねることができなくなってしまった。


 ユーリは昨日一日ぼんやりとして過ごしていて、ボクはただ隣で彼が求める時に口づけを許したり、体を触らせてやるくらいしかできず。

 神楽やアイリスも普段ならもっとよってくるのに、ユーリの様子がおかしいと気付いたのかそっとしておいてくれた。


 そして今朝、ようやくユーリは多少いつものユーリに戻っていたけれど、一昨日サリィの部屋で何があったのか尋ねるのに昨日のことを思い出させたりするかもしれないと聞くことができず。

 自分が何か失態をやらかしたのではないかと不安でたまらないのだ。

 たとえばフローリアン様をおばさんなんて呼んでいたりしたら・・・・おぉブルブルっときた、想像するだけでも恐ろしい。


 なにせ、ユーリとサリィに羽交い絞めにされて、こんな状況で寝れるか!と思ったあとの記憶がないのだ。

 これはよほど、記憶を消したくなる様な恐怖体験をしたに違いない。

 精神的苦痛にはかなり耐性のあるはずのボクがここまで綺麗に記憶を失うなんてどんな体験をしたのか・・・・。

 いったいボクは王城で何をやらかしてしまったのか・・・。

 もしやらかしていたなら、どうして無事部屋に戻れたのかもわからないが今はその幸運に感謝したい。

 しかしその上で、ボクは今日もまた王城に行かないといけないというのに、自分が何をやらかしたのか聞くこともできず、反省することも誰かに何かをやらかしていた場合に謝罪をすることもできないという状態だ。


 しかし時間というのは残酷なもので、もう身支度を始めないといけない時間になっていた。

 今日招かれているのは、ホーリーウッド家の4人とウェリントン家の6人、そこに神楽と、メイドとしてユイ、ナディア、エッラが同席する。

 トリエラは何かやらかしそうなのでお留守番、フィサリスは今の時点では間違ってもジークに鑑定させるわけにいかないのでお留守番、邸に客人がある可能性も考慮してモーガンも残ることになった。

 護衛の騎兵たちももちろん全員お留守番である。

 当初夜の食事会を予定していたのだけれど、ジョージがホーリーウッドに接近していることを受けて昼のジョージとの会談の予定をつぶして、昼はジョージを含んでの昼食会を、夜にはこども達のお泊り会を行う様急遽変更になったそうだ。

 どうもサリィが早速行動を起こしたらしい。


 前述の14人が城に向かい、メイドの3人も今日に限っては客人として招かれるため、装いも普段の王国式メイド服ではなく、挨拶用に用意したそれぞれに似合った略式のドレスと寝間着だ。

 王国式のメイド服は基本的に黒を基調として、白いエプロンをつけるか黒を基調にして白いエプロンをつけたエプロンドレスが多くエッラやナディアは普段からも慣れているからとそのモノクロカラーのメイド服を着ていることが多いのだけれど、今日の食事会ばかりはとエミリア義母様とハンナ母さん、サークラとが嬉々としてドレスを選んでいた。


 逆にボクたち女の子は、メイド服とデザインは似ているけれど、カラーリングで子供服に分類されているエプロンドレスを着ることになっている。

 ボクは薄い水色のフリルが三段になったエプロンをつけた白いドレス、アイリスはボクとエプロンの色がピンクになっただけの違いで、比較的すっきりとしたデザインのものをおそろいにした。


 アニスとユディはよりいっそう「アリス」らしいデザインのエプロンドレスにスカートが膨らませるためとスカートの中身が見えても良い様にとかぼちゃパンツを穿いている。

 このかぼちゃパンツはドロワーズとは別物で下着ではない、お出かけのため下にもう一枚布オムツを穿かせているので、おむつが目立たない様にふくらみのあるデザインのズボンを穿かせているのだ。

 それでも丸みを帯びたおしりがポテポテとしていてかわいいけれど・・・。

 二人もセットで色違いのエプロンドレスで、ボクとアイリスとは違ってスカートの大きく膨らんだデザイン。

 ひざの上にちらりと見えるかぼちゃパンツの裾がぷにぷにのふとももにわずかに食い込んでいるのがわかる。

 色はアニスが空色でユディは藤色だ。

 ユーリがつけている襟巻きが藤色なので、アニスはボクと、ユディはユーリと色を合わせたことになる。

 そして神楽は和風をイメージした花と蝶をデザイン、刺繍した、スカート部分に多段フリルのあるボリューミーなワンピースに、濃い紫の羽織を自作したものを合わせて、帯状の布を巻き日ノ本でいうところの和ロリに相当する装束を演出した。

 袖口の広いドレスというのはこちらにもあるけれど、振袖みたいな大きなものは珍しいらしく試着した神楽のかわいさにエミリア様がユーリに、「ユーリユーリ!アイラちゃんはもちろんだけど、カグラちゃんもお嫁さんにもらってもいいのよ!!」

 なんて興奮気味にユーリに詰め寄っていたっけか。


 神楽のことを思い浮かべると少し心が楽になってきた。

 神楽はユーリと並んでボクの心のよりどころとなってくれる、ボクにとっての大事な人だ。

 彼女を不安がらせないためにも、ボクはもう少ししっかりとしていないといけない、そう思えば自然と背筋がシャンとする。

 トリエラに着替えを手伝って貰い、エプロンドレス姿になったボクは居間に顔を出した。


「アイラ様は、空色も似合うんですね、春先に空色は少し寒々しいかなとも思っていましたけれど、とってもかわいいです。」

 と、着替えを手伝ったトリエラにもほめられて、元気を取り戻しつつあるボクは居間に入ると、まずはユーリと神楽の姿を探した。

 ユーリはいなかったけれど神楽はすぐに見つかった。


「カグラ!」

 窓の近くに立ってアイリスと話していた神楽の名を呼びながら駆け寄ると、神楽は顔をほころばせてボクを迎えてくれる。

「アイラさん、すごくお似合いです!アイリスちゃんと並んでるとお姫様みたいです。」

 興奮気味に目をキラキラとさせる神楽と

「アイラ!似合ってるかわいい!私も似合ってる?」

 と、腕を広げてくるくるまわりながら尋ねてくるアイリスも良く似合っているので、造形がほぼ同じボクもさぞや似合っていることだろう。


「カグラもかわいいよ?その独特の柄が、カグラの魅力を引き立ててる。黒髪とよく合うから、トリエラやナディアにもあとあと作ってあげると似合うかも?アイリスも可愛い、さすがはボクの妹」

 といった具合に3人でキャッキャと話していると、突然体を浮遊感が襲う。

「ひゃぁ!?」

 そして同時に後頭部になにかが押し付けられる感覚。

 スンスンと空気を吸い込む音がして、それがある人物の鼻だっていうのはすぐにわかったけれど・・・。


「ね、姉さん!?ド、ドレスがしわになっちゃう、姉さんも腕を痛めちゃうから・・・お、おろして。」

 浮遊感の招待はボクの後ろから近づいたサークラが脇の下から手を差し込んでボクを持ち上げたことだった。

「えーアイラは軽すぎるよぉ、もうちょっとたくさんご飯食べたほうがいいんじゃない?まだ15kgも無いんじゃないの?」

 確かにボクはまだ身長107cm体重15kg弱くらいしかないし、かなり発育不良な部類だけれど、前世もそんなものだったしユーリには抱きすくめられるくらい小さいところもかわいいと評判?なので気にしていない。

 それよりもサークラこそ妹とはいえ15kgを軽々持ち上げるほどの腕力、嫁入り前の娘としてどうなのかな?

 農村暮らしだったらたくましいからいいけれど、貴族社会で暮らすには少々力強すぎる。


「アイラがお姉ちゃんって呼んでくれたら下ろしたげる。」

 ニッコリと擬音が聞こえてきそうな声の調子で、上機嫌のサークラはボクに告げた。

 今生でのボクは別にサークラをお姉ちゃんと呼んでいないわけではなくって、そのとき甘えたい気分かどうかで使い分けているに過ぎないけれど、サークラはお姉ちゃん呼びの方が好みの様で、度々こういった要求をしてくることがあった。

 一方アイリスと神楽は目を見開いてボクの方、というよりはサークラを見ている。

「サークラお姉ちゃん綺麗!」

「サークラさん素敵です。先日のパーティ用のドレスも急場で間に合わせたにしてはとても素敵でしたが、やはり簡単なものでも、似合うものとして用意したのは格別なものですね。同じ女としてあこがれます!」

 特に神楽は目をキラキラとさせていて、サークラのドレス姿がさぞや理想の姿に近いのだろうと想像させられる。

 ボクからみてもサークラはこの上ない美人なので、その姿を見ることはボクにとっても楽しみであった。


 だがしかし、すぐにその姿を見ようと思えばサークラの要求を飲むことになる。

「ボクも見たいな、お姉ちゃんのドレス姿。」

 まぁ別に何の葛藤もないし、呼ぶことにためらいも無いわけだけれど

 そういうわけで床に下ろされたボクはサークラのほうに向き直った。


「わぁ、お姉ちゃん素敵。この間のドレスではどこの貴族様かと思ったけれど、今日はなんていうかいいところのお嬢さんみたい。今日お姉ちゃんを見かける人は皆きっと、お姉ちゃんに捧げるための花を手折りにいきます、花束なんて過剰なものではなく一輪の花を手に愛の言葉を誓うに違いありません」

 サークラは派手さなんて微塵もないシンプルなラインの薄紫と薄黄色を基調にしたワンピースドレスを着ている。

 その姿は静養地のお嬢様という言葉が似合うもので、世の中の男性の半数は、その清楚さを汚してみたい、その可憐さを手折ってみたいという欲望に抗いきれないのではないかというほどに魅力的であった。

 高嶺の花感あふれるその清涼さは、たとえ成長しきっていたところでボクではたどり着けない美しさだった。


「あら本当、サークラってやっぱり美人さんねぇ」

「娘をほめられて悪い気はしませんが、いつまでもお若く美しいエミリア様がおっしゃってもねぇ・・・。」

 さらにサークラを見てはは義母ははがこちらに歩いてきた。

 母ハンナの足元にアニスとユディが手を引かれている。


「あら、アイラも素敵ね、年甲斐も無くお人形遊びをしたくなるかわいさだわ」

 とさらに義母がボクを見て目を細めたかとおもうと、ボクの頬と肩に手を当てて質感を確かめる様に軽く揉んだ。


「エミリア義母様はいつも若々しくて素敵です、ボクもいつか義母様やサークラお姉ちゃんの様に、立っているだけで空気の華やぐ様な人になれたらと思います。」

 実際この部屋に来て立て続けにみんなと顔を合わせたことで気持ちに余裕ができてきた。

 これはやはり綺麗な義母や姉を見て気分が華やいだことに起因するものだろう。

「あら、母さんにはもうあこがれてくれないのかしら?小さい頃はあんなになついてくれたのに」

 と母ハンナがすねた様に言う

「そんなことはないよ?母さんみたいな落ち着いた美人のお母さんになるのがボクの将来の夢だもの、でもそれはまだきっと先のことだから、あと10年たったらきっと母さんに一番憧れてる。」

 母ハンナだってサークラを生んだ母だけあって大変に美人である。

 ボクの周りには村娘からドラグーンに至るまで美人率が高い、ただの村娘だったはずのエッラだって前髪を上げればかなりの美少女であるし、アルンやモーラだって地球基準なら十分に美少女と呼んで良い整った顔立ちをしている。

 華やかな人が多いこちらの世界では地味可愛い、というレベルになってしまうが。

 それもボクの身の回りに綺麗な人が多いせいだ。


 そこへ美人な男の子代表のユーリも身支度を整えてやってきた。

 ナディアに伴われてきたユーリは予定通り藤色の襟巻きをつけていて、今朝見た時よりもさらに血色が良くなっている。

 落ち込みもひと段落した様だ。

 ユーリはボクと目があうと少しだけ申し訳なさそうな顔を浮かべた後で、笑顔を見せてくれた。


「アイラ、今日もかわいい・・・君がかわいいと、また生まれてきて良かったって思えるんだ。」

 そしてボクに抱きつくと耳の横で囁く。

 ボクだってリリやプリムラボクのこどもたちの生まれてこない可能性があるこの世界に思うところが無いとはいわないけれど、ナタリィの言葉を信じるならば、一周前のあの世界で、リリもプリムラも生まれて・・・死んでいった。

 ボクとユーリの中に記憶があるのだから、それは確かな真実でなかったことにはならないなのだと彼女は言っていた。

 ならば彼女たちの存在もちゃんと覚えたままで、ボクたちはこの周のボクたちとして幸せにならないといけない、ボクが可愛くあることでユーリの寂しさが少しでも和らぐならば、ボクはより一層可愛くなろう。


 ユーリと神楽が笑っていることがボクの幸せなのだから。



アイラは前回眠ってしまったのでサリィの部屋で何をしたか覚えていません、そしてアイラが夜眠ってしまうのは普通のことなので周囲も特になにも伝えていません。


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