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再プロローグ:暗い部屋となつかしいぬくもり


 暗い部屋の中で、温かいものに包まれている。

 ついさっきまで、たくさんの孫や曾孫たちに囲まれて、自分の命をつないでくれる来孫の誕生を待ち望んでいたはずなんだけれど・・・たぶん抱くことができずにボクは死んだのだ。


 なんとなくだけれど耳に、愛しい子どもたちの泣き声が残っている気がする。

 さっきまで・・・玄孫のアイシャが握っていてくれた手は今も同じ様に暖かいものに包まれているけれど、それと同じものが全身を包んでいるのがわかる。


 ボク、アイラ・ホーリーウッドは、そもそも日ノ本という国で生まれ育った近衛暁このえあきらという男子だった。

 それが元服と婚約者桐生神楽きりゅうかぐらとの祝言を1ヶ月後に控えたある日、本家筋の近衛虎徹という矮小で歪んだ男の起こした事件により命を落としてこちらで転生するに至ったものである。


 なれない女児の体に当初こそ混乱したものの、たくさんの出会いと別れ、婚約、結婚、妊娠出産、さらには、かつて暁の婚約者だった神楽との再会や、大陸全土を渡り歩く日々を経て最後には幸せをかみしめながら終わったはずだった。

 300では納まらない自分の子孫に、ほかの妻との間に生まれた夫の子もすべて自分の子どもの様に思っていたから、1500人以上の家族に囲まれてまだ若い娘や幼子にアイラおばーちゃん、アイラおばーちゃんってじゃれつかれて、神楽を日ノ本に返してやれなかったこととか、行方不明になったままの妹のアニスのこととか、心残りはもちろんたくさんあったんだけれど、それでもナワーロウルドで102歳まで生き、幸せに逝けたはずだったのだ。


 だというのに、もう何も悲しみも喜びも感じることのなかったはずのボクの魂は、再びの体の感触を得た・・・。

 この感覚は一度経験したことがある。


 それは、ボクがかつて近衛暁から、アイラ・ウェリントンに生まれ変わったときに体験したもの・・・。

 ボクは102年のアイラとしての人生で、暁であったかつての自分を忘れることなく、アイラとしての生を全うしこの世を去ったあと、再びの『転生』を遂げた様だ。



 この暗い部屋は、ボクの体験から言って十中八九母親の胎内であろう・・・。

 そしてこれも経験からわかることだけれど、この部屋の中には同居人がいる様だ。

 ボクは再度双子として生を受けるらしい。

 それも、前世とその前の生の記憶を両方引き継いで・・・。


 考えがまとまるとやはり覚えのある、唐突な意識の混濁を感じた。

 ほぼ出来上がりつつあるとはいえ胎児の体は頭脳労働に向いていない。

 自分の意識とは関係なく突然眠りに落ちるのだから・・・。


---


 そろそろ、生まれる日が近い、それがわかるのは、別に体の完成を自覚したからでも、子宮から追い出される感覚があったからでもない。

 単に経験からわかっただけだ。


 母の腹をあまり蹴ると痛いと、前世のハンナ母さんに言われていたから、ボクはなるべくお腹を蹴らない様にした。


 そんなボクを心配してか後ろから何度か同居人(きょうだい)に蹴られたが、所詮胎児の脚力、対した威力はなかった。


 しかし憂鬱である。

 ただでさえ前世では、前々世の男の子としての暁の記憶があるのに、女の子に生まれ。

 途中でそんな自分になれていって、男の子と婚約して睦み合って、かと思えば暁の婚約者であった神楽とも再会し、とても複雑な思いをしたものだ。


 前世の夫だったユーリとも前々世の婚約者であった神楽とも話し合い、結局両方と添い遂げる様な形で暮らして、神楽とはずっと神楽を元居た世界に戻すための研究を続けたけれど、目指した成果は出せずに終わり。

 結局彼女は、日ノ本に帰りたいわけではないと言い続けてこちらに骨を埋めた。

 選択肢をあげられなかった。

 彼女の家を継いだサクヤやその子どもたちも当然ではあるがこちらに根を下ろしコノエ子爵家はそれなりの研究成果と王家への貢献をもって繁栄した。


 神楽が亡くなってから30年、ユーリがなくなってから22年、妹のアイリスがなくなってから14年・・・寂しい想いもしたけれど、たくさんの子や孫に囲まれて幸せに、ボクが死ぬ直前に生まれた新しい子に会えなかったのは残念だったけれど、とにかく幸せに生きることができたのに、再度転生することになろうとは、誰が予想しただろうか?


 ボクはこの幸せの残り香を胸に宿したままで、幸せな子どもになれるのだろうか?

 男から女に生まれ代わりその次は?

 これで男だったら頭を切り替えるのが大変そうだ・・・晩年は体裁もあってわたくし口調の女言葉で話していたけど、うっかり年頃の男の子がそんな口調で話したら男色を疑われる。

 かといって女に生まれた場合、ボクの中にあるユーリへの貞操を捨て切れないと思うので、女として幸せになる道というのはだいぶ狭まるだろう。

 その場合はいっそ修道女にでもなろうかな?

 あぁでも聖母教のシスターは出産を推奨してるんだっけ?


 もうすぐ出て行かなければならない暗い部屋は、なんとなく懐かしい暖かさで心地よかったけれど、ボクが今から生れ落ちる場所は、果たしてボクが幸せになれる場所なんだろうか?


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