表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/220

第42話:6歳から王侯貴族と付き合い始める場合2

 イシュタルト王国の王都クラウディア、その王城の大広間に、たくさんの人間が集まっている。

 地方の貴族の当主は同時期に開催されている四侯爵家の祝宴に集まっているため名代が、王領出身者は貴族の当主本人が、国王主催の新年の祝宴のために集まっている。


 そしてその中でももっとも注目が集まり易い国王ジークハルトの周辺には現在、国の最上位貴族である四侯の名代が揃っており、視線を集めていた。


 四侯とは、イシュタルト王国の四方向の広い地域の統括を担当する王国に四つしかない侯爵家であり、イシュタルト王国における世襲可能な貴族の最高位である。

 もともとは建国期にイシュタルト王国の始祖にして両性具有、あるいは元は男の振りをした女性であったが聖母のお力によって両性具有になったというキリエが、イシュタルトに嫁いだ4人の室との間に設けた子を始祖として発生した家だといわれている。


 四つの家にはそれぞれその母となった室の特殊な能力が遺伝し易く、逆にこの四家の本流に近い血筋でないとそれらの能力は発現しないものだといわれている。

 

 4人の室はそれぞれ高位の魔法剣士、戦士、治癒術士、戦場鍛冶職人だったといわれていてそれらを受けついだ四家の能力もそれに準じているとされる。


 西安侯ホーリーウッドは魔法剣士の室の家でありその遺伝能力は「強運」「戦法」「超反応」の3つ、家を継承する条件で優勢なのは「強運」となる。

 東征侯オケアノスは戦士の家であり、「水棲」「奪魔法」「穿魔法」を継承する。

 戦士と魔法剣士が逆でないかという意見もあるが、実際に使い勝手を試せば、魔法剣士には強運ほか2つの能力が強力であるし、戦士には水棲ほか2つの能力が有用であることがよくわかる。


「強運」は実力が伯仲しているときなど生死を分ける一瞬にちょっとした幸運が訪れる程度のもの、これは戦士でも剣士でも有効な能力で、効果は実感されにくいがその効果は高い。

「戦法」は何か一つの武術を見につけることですべての武器をほど同じ程度まで扱える様になるという能力だ。

 これは一見かなり凶悪なものに見えるが、通常武器を使う時などに同時に鍛えられる筋肉や、その武器のたの付随技術が必ずしもすべて同じ水準には到達しないため、やはり自分で身につけたものが一番扱い易いし強い、しかしながら手元に武器が無いときに、たとえばカーテンを引きちぎっただけの布でも魔力で固めて武器にできるならば、それはかなり有利なことだった。

 最後に「超反応」これも近接戦特に優位な能力で、人間には到底反応できない様な速度の攻撃にも対応可能な能力だ。

 シンプルだが強運とあわせることで異様なまでの当たり難さを得る。


 一方オケアノスの能力「水棲」は戦士にとって不利な場である水の中での呼吸を可能とし、自由に動き回れる特殊な浮力を発生させるものだ。

 熟練の魔法剣士なら水上歩行という魔法もあるので、そちらに頼ればよいのだがオケアノスの始祖にはそれはできなかった。

「奪魔法」は魔法的防御を切り裂いたり、敵の魔法攻撃を切り払ったりすることができる能力で、直接体に作用する魔法をある程度はじいたりもできるが、相手の使っている魔法をある程度理解する必要がある。

「穿魔法」は逆に物理的に硬質なものを突き抉ることが可能な能力だが、一定よりやわらかいものや、魔法的効果が付与されたものには効果が薄い。


 南進侯スザクは治癒術士の家であり、その能力は「再生魔法」「共振魔法」「蘇生」これらはいずれも怪我病気の治療にかかわるもので「再生魔法」は文字通り欠損した部位を再生させる魔法、通常の治癒魔法では回復不可能な段階の欠損すら直す魔法であるが、消耗が激しく腕一本修復しようとすれば1週間はかかりきりになる。

「共振魔法」はいくつか用途がある魔法だが、治癒術士としてのスザク家に合う使い方としては止まった心臓を動かすために使われる。

 これは、即死する怪我や病理は存在しない状態で心臓が停止してしまい、蘇生が必要な相手に抱きついた状態で発動させると、自身の心臓の脈に相手の心臓を共鳴させ、徐々に脈拍を戻す効果がある。

 それ以外の使い方としては、両方の手に別個に同じ魔法を構え、共振させることで効果を8倍程度に跳ね上げるという使い方もあるが、これは3つの魔法を同時に構築できるだけの魔法と把握の力が必要だ。

 最後に「蘇生」であるが、これは言葉からイメージできる死者を蘇生させる魔法ではなく、この能力を持つ本人が一日に一度だけ、死んでも蘇るという能力である。

 この能力は心臓がとまると同時に術が自動的に起動し、肉体、あるいは肉体だったものを分解、その日日の出を迎えた場所にて肉体を再生して復活する能力だといわれているが、別に若返ったりはしないので、老齢による死などの場合は、その場でもう一度死ぬだけと伝えられている。

 しかしそもそも、ほとんど継承が発生しない能力でありここ3代には「蘇生」持ちは発生していない。


 最後に北伐侯ペイロードは軍需物資の確保や、輸送、武器の製造など、軍の雑務に携わった者が始祖である。

 日ごろから剣や槍、荷車などを製造し性能の良い鉄農具を作り、土壌を改良し建国期のイシュタルトを支えると同時に、戦においては坑道戦術や水攻めなどを得意とし自身も戦闘に参加する。

 能力は「鉱物生成」「地中移動」「硬体化」

 能力としては名前のとおり、材料から新たな金属などを作り出す能力と、地中に穴を掘り自由に移動する能力(同時に掘削した土を鉱物生成することで、投擲や簡易陣地作成に使えるレンガやガラスを得ることも可能)、硬体化はあくまで硬くなるだけなので熱さなどは感じるが、勇者相当の剣術を食らっても魔法を帯びていなければ斬られない程度には硬い。


 そんなこれらの家の特色である能力も、その貴族としての家柄と同様連綿と受け継がれてきたものであり、6000年を超えるイシュタルト王国の歴史、そのどの時代にあっても王国の四方を守り固める守護者であることを誇りにしていた。


 そして彼ら以外の貴族たちも、その4つの家が王家を守っている限り、王国は安泰であると、だれもが考えていたのだ。

 それが破られたのが二昔前の話、オケアノス侯爵夫妻と長男長女が相次いで死亡したことが、ジェファーソンら旧ヴェンシン派のものたちの謀り事であるのは、公然の秘密であった。

 王も、ほかの3侯爵もそれがわかっていながら、絶やすわけにはいかないオケアノスの最後の一人、アクアを事実上人質にとられているために、手出しができない状態に陥ってしまった。

 そこからイシュタルトの蚕食を目論む旧ヴェンシン派と旧来からのイシュタル派というオケアノス領内の不和は、イシュタルト全体とオケアノスへと形を変えて長くくすぶり続けていた。


 その簒奪オケアノス侯の子であるジョージが、他三家に続いて王家に頭を下げている姿に会場の貴族たちは、目を放すことができないでいた。


------

(アイラ視点)

 ジークとギリアム義父様の挨拶は恙無く終わった。

 エミリア様もおっとりした方ではあるが、昔は王家で働いていたメイドなだけあって、ジークとも気後れせずにシンプルに挨拶を終えた。


 イシュタルトの例年の祝宴は、最初の挨拶はなるべくシンプルに短くするのが慣わしだ。

 開催者は客のほぼすべてと挨拶をしなければならないし、例年行われている宴、それも特例で15歳以下も参加を許されている新年の祝宴の最終日ともなるとその数はあまりにも多い。

 なので、大人はなるべく短く、子どもも一度でも目通りしたことがあるものはなるべく手早く挨拶を終わらせるお国柄だ。


 その例に倣って、ユーリもごくごく短い挨拶で済ませ、ジークは次にボクとユーリが並んでいて似合いだと言葉を放ちながらボクに視線を向けたのでボクは貴族の子女の作法に倣って礼を執り口上を述べた。

「お初にお目にかかります陛下、このたびご縁を頂きましてユークリッド様と一緒に陛下主催の祝祭に参加させていただきましたアイラ・ウェリントンと申します。陛下にお目通りかないましたこと、光栄に存じます」

(すこし長かっただろうか?)

 そう考えて、ジークの表情を伺う。

 そして、驚く

 おそらくはボクのステータスを鑑定しているんだろう。

 ボクを凝視するジークの目は困惑している。


 それ自体は想定の範囲なのだけれど、恐ろしく長い・・・。

 この祝宴での挨拶はなるべく早い時間でシンプルに済ませるのが一般的であるのに、ジークが言葉に詰まっていることで周りの貴族の視線が寄りいっそうボクたちに集まる。

 少しいたたまれない。


 周りからちらほら、ジークの様子に疑問をもった貴族たちの声が漏れて聞こえる。

 しかしその声が大きくなる前にジークが気を取り直したのか、それとも幼女を見つめている自身の状況に気づいたのか

「すまんな、二人があまりに似合いで惚けてしまった。」

 と、好々爺然とした笑顔を浮かべた。


 こんな大注目の中で国王陛下からお褒めの言葉を頂くなんて普通の6歳なら耐えられない、周りの貴族たちの視線が興味から、警戒になった気がする。

 今まで浮いた話のなかった優良物件のユ-リに、突然現れたポッと出のフォンすら冠していない娘だからね・・・。

 やはりいたたまれない、しかしここで萎縮してしまえばジークにも、周りの貴族にも良い心象とはならない。


「陛下から似合いとお褒め頂いた、これ以上の喜びはございません。これからもユークリッド様のお隣にふさわしいワタクシでおりたいと思います。」

 そういって頭を下げると心なしまわりの貴族の視線がやわらかいものに戻った。

 ただし視線の数はおそらく増えた。

 嫌な汗と、緊張感が幼いアイラボクの体を襲う。


「アイラ・・・かわいい、こんな素敵になって、お姉ちゃんうれしい」

 と、ジークの奇行(失礼)の後静かになった場内だからぎりぎり聞こえた程度の声でサークラがつぶやいている。

 ジークの視線がサークラに向くと貴族たちの視線もサークラに向き、おそらくその声が聞こえていたのか、ボクとサークラとを見比べる者が少し出始めた。


 ボクとサークラは正直ぱっと見はあまり似ていない、髪の色が違うせいで印象が大分違うのだ。

 それでも眉の形や、口元は母譲りですごく似ている。

 姉妹だと言った上で見比べたのならば、あぁ姉妹かぁとわかる程度には似ているはずだ。

 ホーリーウッド家とジョージが歩み寄ったという事実の周知という目的の一つが思いがけず達せられた。

 ジークも合点が言ったとばかりに口元がにやけている。


 これであとは後日のジークとの対談でいろいろ話すことができるだろう。


---


 ボクたちはその後ジークの前を辞し、ヴェル様やサリィたち王族たちの前へ行き挨拶した。

 フローリアン様はギリアム様の3つ上の姉であり、ユーリから見れば伯母、しかしボクから見た彼女はいったい何に当たるだろうか?

 父エドガー経由でみれば従姉妹同士ということになるが、ユーリ経由でみれば伯母ということになる。

 ・・・うん従姉妹として接したほうが普通は心象が良いのだけれど、周囲には父エドガーとエドワードおじい様が異母兄弟であることは伏せられているので、そう呼ぶわけにもいかないよね。

 ボクたちはサリィの前に通された。


「ご無沙汰いたしております、姫様」

「お初にお目にかかります姫様、お会いできて光栄です」

 ジークに挨拶し終えた人々がこちらに流れてくるので、やはり挨拶は短くしなくてはならない。

 それは王族側も一緒で、一人ひとりではなくどなたかお一人かお二人までが、挨拶を下さる様になる。

 大人たちはヴェルガ様とフローリアン様のほうに、子どもたちは王族に使える近衛メイドたちに案内されて誰かの前へと進むことになる。


 子どもを連れて行く予定の場合先に王城へは知らせているので、メイドたちにはあらかじめどの貴族の子を誰の元に連れて行くかはあらかじめ決まっているらしい。

「お久しぶりです、ユーリ、以前の様にサリィと呼んで欲しいです、私と貴方は従姉弟なのですから・・・」

「それでは失礼して、サリィ様お久しぶりです。」

 サリィの願いににこやかに答えるユーリの笑顔は横から見ても天使なのがわかる。

 ユーリにサリィと呼ばれご満悦のサリィは、それからこちらにも向きなおして笑った。

 相変わらず恐ろしい位の美少女だ。

 サリィはおそらくサークラと同じくらいのレベルの美少女だと思うのだけれど、生まれてからほとんど毎日見続けているサークラのそれには慣れてしまっているからか、サリィ相手のほうがドキドキさせられる。

 といっても今の時点ではサリィも9歳の美少女に過ぎないので父性か母性がキュンキュンさせられる。


 しかしながらそれはサリィのほうも同じだった様で・・・。

「アイラちゃんと呼んでもいいでしょうか?」

 と呼び捨てでよいところをちゃん付けで呼びたいとたずねてくる。

 ザワりとする感覚、前世でもずっとサリィはボクにちょっとした執着を示していた。

 妹分としてたくさんかわいがってもらい、ボクもサークラの次の姉くらいの気持ちで接していた。

 ヴェル様が亡くなったあと、サーリアが王位を継承した後と、年を経るにつれてそういう私的な関わりも減ってしまったが・・・


「はい、サリィ姉様ねえさまがそうされたいのであれば」

 前世の様に姉様と呼ぶとサリィはとたんに花を咲かせた様に笑顔になり、抱き着いてきた。

 後ろで様子見をしていた貴族たちがザワザワとする。

 サリィも美人だから、笑顔の火力が高いのと、同時にボクに抱きついてきたためだと思う。


 王族であるサリィが感極まってボクに抱きつくというのは、本来であればありえないことだ。

 でもまだ9歳のサリィだから、ざわつくだけですんでいる。

 これがユーリ相手なら許されないことだけれど、幸いボクもそれなりにかわいい女の子なので大きな騒ぎにはならなかった。

 しかし周りのざわめきに気がついたのかサリィはボクから体を離した。

 離れるときその丁寧に伸ばされた茶色い髪から鼻腔をくすぐる様な甘いにおいがした。

(懐かしいサリィのにおいだ・・・。)


「ごめんなさい、私以前からアイラちゃんみたいなかわいい妹が欲しくて・・・」

 サリィはそういって照れた後で

「またホーリーウッド家との食事会の時には同席しますから、そのときはまた是非アイラちゃんも着てくださいね。」

 と笑った。


「はい、ぜひ!」

 時間も押しているため、ボクたちはそれで王族の元を離れた。

 そういえばサリィと話している間、サークラたちの様子を見て無かったけれど、あちらは大丈夫だっただろうか?

 王家の居場所から離れる際こっそり後ろに目をやると、ヴェル様とフローリアン様の前にサークラとジョージの姿があった。

(別に落ち込んだりはしていないね?大丈夫そうだ。)


 ボクたちは先に戻っていた義両親のいる、最初に佇んでいた場所に戻った。

 それから代わる代わるに、挨拶を終えた比較的上位の貴族や、挨拶がまだ先の下位貴族の子女らと交流しながら、祝宴の時間を過ごした。


 何組か、かわいらしいカップルの友達ができ、さすがにこの場で話すことではないのでアイビス、ラピス、ヒースに対して日ノ本関連の話をすることはできなかったが、同い年のよしみで、連絡を取り合う約束はそれぞれ取り付けた。


 さてこういった場では普通高位の貴族ほど長い時間場に残らねばならない、高位の貴族ほど王城の近くに王都別宅を持っているものだからだ。

 しかしたとえば体調が悪いとか、怪我を押して出席したとかならその限りではない

 今日もそういった場の一つであり、子どもをつれてきているので早上がりをするとか、子どもをつれてきているけれど早上がりはせずに子どものために部屋を借りるという対応が発生する。

 当初ボクたちは前者の予定であったが、サークラを貸し出しているジョージは16歳の若者扱いではあるが成年のため侯爵にふさわしい時間帯まで滞在しなければならない。


 そのためボクたちホーリーウッド家もサークラを引き取るために遅くまで残っていることになった。

 ただ6歳のボクと7歳のユーリを長く夜会に参加させるのは体力的に難しいということで、8時には部屋を借りて休むことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ