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第41話:6歳から王侯貴族と付き合い始める場合1

 1月16日、例年通り、王城主催の新年のパーティ最終日を迎えた。

 王都クラウディアには国中の大半の貴族の名代が集まっている。

 最終日となる今日は国の東西南北を治める四侯家も参加し、最終日に限っては社交界デビューを果たしていない年少者も参加が可能な慣わしのため、王領所属で無い家のうち幼年者以外に名代が勤まる者がいない家は、この日に嫡子に目付け役の務まるぎりぎり未成年のメイドや家臣夫婦などを同伴させて出席させる。


 そして、そうでなくてもこの日には、王家の孫たちも参加するため、年の近い子どものある家は最終日まで残り、それぞれ顔を繋いで置くために、子どもたちをつれて出席するのだった。


------

(ジークハルト視点)

 今年も無事新年祝賀の最終日を迎えた。

 1月16日までに4回もパーティを開くのは、近くに領地を持つ貴族には旅費はあまりかけさせず、滞在日数を増やさせることで、遠くに土地を持つ貴族には長い旅路をさせることで資材を消費させてバランスを取るためだといわれているが、実際には「鑑定」の能力によって有力な貴族たちをもらさず鑑定するためだ。


「鑑定」は、始祖キリエ・イシュタルトから連綿と受け継がれてきたイシュタルト王家の王位を継ぐための条件である。

 何度か持たざる王が誕生したものの2世代以上途切れたことは無く、「鑑定」持ちを生んだ親を繋ぎの王とすることで「鑑定」を条件とする王位継承はなされてきた。


 この継承条件については王家に寄り添う3つの影の家の当主、次期当主と、王家にて「鑑定」を継承した者とその親たちにのみ口伝され続けて今も秘密裏に継承されている。


 この「鑑定」の力があることで、王国は他の国に対して優位に才能あるものを要職につけることができ、さらにある代の王が鑑定石と呼ばれる魔道具を作ることで王都以外でも簡単な鑑定はできる様になった為その効果はさらに高まった。

 その王以外鑑定石の作成ができたものがいないため現在は鑑定石の生産技術は損なわれ増産はできないが・・・。

 まぁそれは仕方ないことだ。


 今年は今日までのところ新しいめぼしいものはいなかった。

 大人は去年までと大体変わらず。

 今日から参加する四侯爵家とそれよりも遠い土地から来る僻地のもの、さらに子どもたちの中に、めぼしいものがいないかを確認しないといけない。


(そういえば西侯家のユークリッドが今年は婚約者候補を連れてくるということだったな。)

 ユークリッドは初めて引見した際に鑑定したところ、そのあまりのステータスに驚嘆させられ、さらには能力にオケアノスとホーリーウッドの固有能力をすべて引き継いでいたため能力の自覚があるかたずねたところ。

『自分は簒奪侯に殺された。リリー・マキュラ・フォン・オケアノスの生まれ変わりですから、ご無沙汰しておりますハルト様、年をとられましたね』

 と挨拶をされた。


 そのことを最初こそ驚いたものの、リリーで無ければ知らないことを、あの時代の思い出話や当事者の中でエドワードだけが気づいていなかったリリーからエドワードへの恋心を語られれば、それは信じざるを得なかった。


その転生者にして、最低でも3歳にして勇者の状態にあったユークリッド・・・ユーリが言っていたのだ。

 自分が連れてくる嫁は自分よりも強く、誰よりもかわいらしい娘を選ぶ。

 必要ないかもしれないが、その後ろ盾になって欲しい・・・と


 今日つれてくるのがその嫁ならば、それはさぞ愉快なステータスをしていることだろう。

 そういえば・・・別に初の顔合わせではないが、ユーリには初顔合わせとなるものたちが今日はたくさん来る。


 まず今日のパーティには四侯家すべてから参加者がいる。

 東はジョージ同伴者は未定、西はギリアムとエミリア、ユーリとその嫁候補のアイラという娘、南はまだ6歳のアイビスの付き添いに領民想いで有名なスワンレイク子爵夫妻が付き添っている、さらにその甥っ子だったか、アイビスの3つ年上の一族の男子をアイビスの同伴者としている様だ。

 そして北は次期北侯たるまだ13歳のジャスパーが有力家臣の娘ジルコニア・ナハトというものを婚約者として同伴してきている。さらに付き添いといっていいのか12歳のユミナが兄の乳兄で婚約者のトーマと、さらに下の妹のラピスが出会った翌日に求めたというジルコニアの弟ヒアシンスと同伴している。

 ジャスパーとトーマ、ジルコニアは来年度から軍官学校に通う予定ということで、本来ジャスパーと一年遅らせる予定だったユミナも同時入学にするとアレクが言っていたか・・・?


 それぞれ私は顔を合わせたことがあるが、

 いずれも優秀な若者たちだ。

 アイビスの同伴者だけは会ったことが無いが、かのスワンレイク子爵が主家の令嬢の同伴者に着ける以上優秀なはずだ。


---


 パーティ会場の開放から少し経った。

 続々と参加者が集まっており

 すでに会場内・・・クラウディア城最大の広間は2500人以上の人間を招くことができるが、今日来ることが予想されている程度の人数は集まっている。

 後は上位貴族と扱われる伯爵家と侯爵家が訪れれば王家の出番だ。


 そろそろ用意をするか、と腰を上げようとしたところ会場のほうが俄かに騒がしくなった。

「珍しいな、なにがあった?」

 気になりつぶやくと、近侍していたメイドのノイシュが「確認してきます」と会場のほうへ続くドアから出て行った。


 今この室内には今日のパーティに参加するもののうち王族として扱われるものたちと近侍するメイドが待機している。

 王族として扱われるのは国王である私ジークハルト、長男であるヴェルガとその正室のフローリアン、そして正室との間の子どもたちハルベルト、サーリア、リントハイムの3人だ。

 今日はリントの同伴者としてエミリーも待機させているが・・・。


 私にはヴェルガ以外にも息子も娘もいるし、ヴェルガにはほかに側室との間に子どもが3人いるが、それらはすでに王族としては扱われていない、名称こそ王子や姫と呼称されるが、私の息子たちはすでに公爵になっているし、娘たちは一人の例外を除いてすでに降嫁した。


 ヴェルガの側室の子たち、オルガリオ、グレゴリオ、エミリーは王家の庇護の下にはあるが、王位継承権は無いに等しい。

 なにせ私の次の王はヴェルガであり、そのヴェルガですらサーリアが女王となるまでのつなぎに過ぎないからだ。


 イシュタルト王家には絶対的な王位継承権の優先度が存在する。

 それが『鑑定』の能力だ。

 かつて私には鑑定もちの子どもが生まれず、正妻は早世したあと、これでは足りぬと焦り、多くの女性と関係を結んだ。

 結果好色王という不名誉なあだ名もされたが、それはイシュタルト王家にとって必要なことであった。

 私が生きている間に、鑑定持ちの跡継ぎが必要だったからだ。


 いや、子の中に鑑定持ちを持つものが居ないというのは前例が無いわけでもないと若いうちからヴェルガが西侯の娘であったフローリアンに目を奪われていたのを確認して早々に婚姻させて、二人目のサーリアに鑑定能力を認めた時には安心したものだが、焦っていた私はすでにヴェルガにも3人の側室を取らせた後だった。


 取らせたものは仕方ない一人ずつは子を成し、体面を保つ様にとヴェルガには指導し、私も「鑑定」持ちのサーリアが生まれたことで女性関係を整理した。

 その後も一人だけ、サーリアの1歳の誕生日の祝いをしたときに泥酔してしまい、メイドのノイシュと関係を持ち、結果子どもまで出来てしまったが・・・


 そのノイシュは自身も生まれた娘もメイドとして勤めたいと申し出ており今も私に誠心誠意仕えてくれているのが、非常に申し訳なく感じることもあるが、たまにノイシュと隠し子であるエイラとを、塔の上にある秘密の部屋に呼び、家族の時間を過ごす様にしている。


 ノイシュが戻ってきた。

「陛下、どうやら東征候代理アクア様のご長男ジョージ・フォン・オケアノス様のお連れになった同伴の女性の美貌にざわついていた様にございます。」

「は?」

 何を言っているのか・・・

 仮にも貴族が、他の貴族が連れている同伴女性の美貌に、息を呑む位ならわかるが、ざわつくだと?

 下品であるし、みっともないことだ。


 しかし、我が国の貴族の程度はそこまで低かったか?

 否、そんなはずは無い、我が国の貴族たちの大半は連綿と受け継がれてきた作法や責任感を持った者たちだ。

 いやだが、今日はデビュー前の子どもたちも出席している。


「年少者たちが騒いでいたのか・・・?」

 だとすれば、各家にはもう少し、子どもの教育をしっかりとさせなければ

 そう思いノイシュにたずねたが・・・


「いいえむしろ、東の御歴々のうち、特に王家に対して態度の悪い方たちほど騒いでいた様でございますね・・・」

 態度の悪い、つまり簒奪侯寄りの立場を示しているものたちか・・・。


 現在東に所属する領地持ち貴族のうちの一部が、かつてヴェンシン王国が崩壊したときに「獣たちの支配なぞ到底受け入れられない」とイシュタルトに保護を求め擦り寄ってきたものたちである。

 それから代を重ねてもいまだヴェンシンへの思いを捨てきれず秘密結社「シンの火」を立てヴェンシンを再興するためなら何でも許されるといわんばかりに、イシュタルトの国益すら無視する連中であるが、なかなか根絶できないで居る。


 我が国の国益を無視するどころか、定期的にドライセンとの戦争を起こそうとする連中で、わが国にもたらした最大の被害が、現在でも続いているオケアノス家の簒奪だ。

 代えの効かないオケアノスの正当な血脈、その最後の一人であるアクアを人質に取られ、状況は今も膠着している。


 こちらも一度こちらにつれてこなければ正式なオケアノス侯爵とは認められないと伝えているが生ませた子のジョージやセルゲイは送り出してきても、かたくなにアクアを送ってこない。

 こちらもアクアの安全を確保できないので手が出せない状態が続いている。


 そんな中リリーの転生だというユークリッドの存在は、こちらに最悪アクアを失っても良いと思わせるものだ。

水棲アクアティック」「奪魔法インターセプト」「穿魔法ペネトレイト」三種のオケアノスの能力すべてを所有しているのだ。

 しかしながら彼(彼女)にとってアクアは大事な妹だった。

 ユークリッドは「絶対にアクアを見捨てないで、ハルト様自ら見捨てる様であれば私はイシュタルト王国を許さない」とまで言った。

 もちろんこちらとしてもアクアを救出することは最善であるのだが・・・。


「まぁ、どういうことかは行ってみればわかるでしょう。」

 と、ヴェルガがフローリアンに手を差し出しながら述べた。

 まぁそのとおりだ。

 そろそろ時間でもある・・・。


「それじゃあ皆、参ろうぞ・・・サリィや、ジジの手を取りなさい」

「はい、おじい様」

 今日は、正妻の亡くなっている私は溺愛している孫娘で王位継承権2位の9歳、サーリアを伴いホールに入る。

 ヴェルガはもちろん正妻のフローリアンを、13歳のハルベルトは婚約者のキャロルを、8歳のリントハイムは適当な婦女子が居なかったため、同じ年度生まれで腹違いの妹のエミリーをエスコートさせているが、エミリーは筋肉質な男性が好きなため少し不服そうだ。

 無論ホールに入ればそれを顔に出さない程度には教育できているが・・・。


 ホールの扉が開け放たれると、会場内のざわめきが、空気が伝わってくる。

 王族が入ってきたことで皆がこちらに注目する。

 視線を受けつつまっすぐ席まで進み、先にサーリアを席の前に連れて行く。

 それから自分の場所に移り座る。

「皆のもの、楽にしてくれ今日も余の主催する新年祝賀に大勢集まってくれて感謝している。知ってのとおり今日は皆の自慢の子女たちが主役の様なものだ。ぜひ若い世代同士、交流を深め、イシュタルトの未来を友誼に満ちた明るいものとして欲しい。」

 そういって締めくくると、まずは私のほうへ今日までに挨拶に来ていない家が、格の高いホーリーウッド家から順にやってくる。


「陛下、2年も新年の挨拶をせず申し訳ございません、こうしてまた新しい年を陛下と共に迎えられたことをうれしく思います。父エドワードより献上品がございますので後ほどご確認ください。」

「ギリアムよ、そう堅苦しくするな、そちの姉は余の義理の娘、そなたも息子の様な者だ。」

「身に余るお言葉でございます。」

 ギリアムは相変わらず、無難な人間だ。

 人柄は良いし、うちから嫁にやったエミリアのことも大事にしている。

 ウチのヴェルガにギリアムの姉であるフローリアンが嫁に来ていることもあって、どうしても家族の様にこちらが振舞ってしまうのだが、ギリアムからこちらへは、王族に対する臣下の礼を崩してはくれない。

 当然といえば当然なわけだが、面白くはない。


「エミリア・・・そなたと会うのは久しいな、元気そうで何よりだ。」

 実はギリアムはつい2ヶ月ほど前、ルクス帝国からの密書を自ら運んで来てくれたため顔を合わせている。

 しかし、そもそも一年に一度この新年の宴の頃にしか顔を出す機会の無いエミリアは昨年は娘が幼かったため、一昨年は妊娠中のために挨拶にこられなかった。

 エミリアは元々とある没落貴族の四女で当時クラウディア城でメイドをしていたが、学生であったギリアムの熱烈な求愛を受けてホーリーウッドに嫁いだ。

 そのためこの娘の人となりは良く知っているし、哀れな境遇から可愛がっても居たので、今幸せに暮らしていることが我が身のことの様にうれしい。


「ありがとうございます、陛下のお心のおかげでギリアム様との娘を授かることが出来ました。また後日お目通りいただければと思います。」

 そういって頭を下げたままで一歩下がる。

 そして息子ユーリとその嫁候補を前に出した。


「大変ご無沙汰しております陛下、お変わりないようで、今年も心穏やかにお過ごしになれます様お祈り申し上げます。」

 と、長い金髪を右側に流して、堂々とした若干7歳の少年・・・中身がリリーと知らねばあっけに取られていただろう。


 新年の挨拶は短いほうがいい、特に上位の貴族は時間をあまりかけてはならない、しかしデビュー前の子どもでは覚えた言葉を、あるいは礼をすべて見せようとする様な、無駄に長くともすれば反って不敬になってしまう様な挨拶をするものも居る。

 そんな中ユーリが執ったそれは、最低限必要な言葉を淀むことなくすっきりとした気持ちで見ていられる程度に完成された礼であった。

 そして何よりも・・・・


 ユークリッド・フォン・ホーリーウッドM7ヒト/

 生命311魔法39意思1105筋力12器用111敏捷95反応188把握89抵抗91

 適性職業/勇者 剣士 槍騎兵

 技能/剣術M 槍術M 弓術M 杖術M 拳術M 斧術M 投擲術M 精神汚染耐性M 毒耐性9

 魔術/身体強化魔法上級 空間魔法上級 水魔法中級 風魔法下級 火魔法下級 地魔法下級 治癒魔法初級 解毒魔法初級 

 特殊/超反応 強運 戦法 水棲 奪魔法 穿魔法 カリスマ 聖母の加護 愛M


 鑑定するたびに見せ付けられる異様なステータス。

 おそらくは・・・剣術か杖術あたりがマスタークラスになっていて、それがホーリーウッドの遺伝技能の戦法タクティカルの効果で、一度でも持ったことのある武器に適用されているのだろう。

 おかげで本当はどの様な技能持ちなのかがほとんど見えない。


 しかしながら相変わらず「オケアノスのすべて」と「ホーリーウッドのすべて」をもっており、幼くして勇者として目覚めている。

 それは彼の、リリーとしての言葉を裏付けるものの一つだった。


「うむ、ユーリも息災の様だな。相変わらず美しい子だが、そなたの隣に立っても輝く乙女というのはなかなかいない・・・二人並んでいると素晴らしいな」

 そういって「もう一人」の方へ視線をやる。

 ユークリッドとどこと無く似た容姿をして、しかし綺麗な顔をしたユーリと比べると、かわいい顔。


 誰の趣味なのか可愛らしい花の様な輪郭の淡い青のドレスで着飾り、その体の小ささから、ドレスすら重たくてつらいのではないかと心配になる。

 しかしその目の力はとても強く、顔を見たものはその整った可愛らしい顔立ちよりも、その目にひきつけられる。


 まるで朝焼けの様な金と赤の混じったその目は、体格的に4歳くらいに見える少女がどれだけの決意をもって、その伴侶(ユークリッドは未来の西侯爵だ)の隣に立っているのかを、見たものに分からせるだけの力を持っていた。

(引き寄せられる目だ。アイラといったな・・・鑑定は・・・?)


 アイラ・ウェリントン F6ヒト/

生命147魔法312意思2165筋力6器用172敏捷165反応151把握171抵抗88

適性職業/勇者 『○△●●』 聖母

 技能/能力選択 剣術M 感知M 格闘術M 杖術M 魔法構築M 気配遮断M 精神汚染耐性M 

 魔術/『●●○△』 火魔法上級 風魔法上級 身体強化魔法上級 水魔法上級 光魔法上級 飛行魔法上級 空間魔法上級 雷魔法上級

 特殊/『●●』『●●』『●●』『鑑定』カリスマ 龍王の加護 光化 光の加護 博愛


 目を疑った。

 まずはその異常な数値・・・生命力は並であるし筋力もその齢の女児にしては高いといった数値だが、ほかの数値は何だ・・・?

 ほとんどの数値が、今まで鑑定してきた王国が誇る勇者たちの中でも一点に特化したものたちを彷彿させる数値の高さ、さらに意志力にいたっては4桁というだけでも異常であるのに、最初の一桁目が2・・・。


 長く鑑定してきた王家が所有している学生のデータによれば

 軍官学校生で体の完成してくる15歳程度の者の平均が

 一般的男子生徒

 生命240魔力5意思110筋力15器用21敏捷20反応18把握25抵抗15

 一般的女子生徒

 生命210魔力10意思110筋力12器用22敏捷22反応21把握25抵抗15

 程度であり

 そしてそこから女性は生命力と魔力が上がり易く、男性は筋力、敏捷、把握の数値が少しずつ上がっていきやすい。

 意思力を除いたステータスのピークは25~30程度

 それから考えてもこの子の数値は以上だ。

 一般どころかこれより何割かは平均値の高い軍官学校生でさえ筋力と生命力以外ではこの6歳のアイラに勝てるものはいない・・・。


 次に技能だが、ホーリーウッドの血縁だというこの娘が「戦法」を受け継いでいる可能性もあるが、気配遮断などというスキルもマスターになっていることから考えて本人が相当に訓練していると考えるべきであろう。

 ホーリーウッドの「戦法」は何か一つでも武器や戦技を習得していれば、ほかの武器や戦い方を強いられても同じ程度に武器を扱えるという、ひどくずるい能力だがあくまでも武芸の類に有効なもので、その他の技術であるたとえば、鷹の目や、硬気法などの体技や能力は得られないため拳士や弓士としての性能は本職に劣る。

 それに対してこの娘はおそらくはこの年齢ですでにここまでの武技を身に着けているとは考えにくい・・・やはり考えうるのはユークリッドと同じ転生者か?


 さらに魔法の枠、ここについても同じ突込みが必要だろう。

 この世界にある魔法は、初級から始まり、下級、中級、上級、超級、その後伝説級やら神話級やらいろいろと呼び方のある建国神話や創世神話に語られる魔法が存在するとされているが、人のステータスに発生する上限は上級までだ。

 これはあくまでも適正というか、その本人の持っている資質がどの程度かを判断できる程度のもので、たとえば得手不得手、苦手意識、本人の努力などでも実際の能力は変化する。

 同じ火の上級まで魔法資質が届いても、炎を圧縮できないものもいれば、炎を熱線という帯に変換して城壁を切り裂いてしまうものもいる。

 前者が使える火魔法はせいぜい中級程度、後者は超級といっていい魔法だ。


 このアイラという娘がどの程度の鍛錬をしているかは不明だがこれだけたくさんの魔法を上級に到達させている以上なにか一つくらいは超級魔法の域に到達していることだろう。

 最後に特殊枠、残念ながら見切れていて、すべては見えない、能力が多すぎるためわれわれ王族の鑑定では把握できないのだ。

 魔法も、技能もそうだが、王家の鑑定では職適正は3つ、技能、魔法、特殊は9つまでしか能力が見えない。


 そもそも王家の持つ鑑定は自身のステータスにある『鑑定』という文字すら読むことができない字で出現する特殊能力でその存在は秘匿されている、

 そして同じ様な文字で書かれた能力がアイラのステータスの中に『○△●●』『●●○△』『●●』『●●』『●●』『鑑定』と6つある・・・・そう『鑑定』がある。


 今まで王家にしか現れたことが無く、しかも世代を経るにつれて数の減った鑑定能力・・・それをこの娘が持っている?

 いやなに、ホーリーウッド家は大本をたどれば始祖から分かれた家の一つ、その先代当主の孫に当たる彼女が鑑定をもって生まれる可能性はまったくの無ではない、無ではないが・・・。


 と、おそらくアイラはすでに私に対して挨拶をしたのに、私がそれどころでは無く固まってしまっていたので、アイラが不審そうな目をしている。

 非常に可愛らしい。


「すまんな、二人があまりに似合いで惚けてしまった。」

 この娘の最初の声を逃したのが惜しい、そう思えるほどに、この幼い娘の魅力は振り切れていた。

 容姿の美しさだけを見れば、サリィやフローリアンのほうが美しいだろう。

 しかしながら比べる相手が悪いだけで、アイラも絶世の美少女ではある・・・、この娘を手元で育てたいと思う者は多いだろう。


 カリスマの能力を持っている以上この娘は、多くの人間を味方につけられる可能性がある。

 それはユーリも同じことだが、もともと後ろ盾と、敵対勢力のはっきりししているユーリと異なり、この娘は後ろ盾にホーリーウッドがついていることは確かであるが、明確な敵が存在しない

 その上にこの容姿と今の年齢を鑑みれば老若男女問わずカリスマの真価を発揮できるだろう。


 カリスマの能力は、ふさわしい振る舞いをした際に人をひきつける能力で、それは周囲の人間が彼女に対して良い印象を持っている時ほど効果が高い。

 あの容姿の幼い、それでいて礼儀正しい振る舞いの女児を見て、悪い印象を持つ者などごくごく一部であろう、この広間にいるものは大半が彼女に惹きつけられたと思うべきだ。


「陛下から似合いとお褒め頂いた、これ以上の喜びはございません。これからもユークリッド様のお隣にふさわしいワタクシでおりたいと思います。」

 そういって深々と頭を下げるアイラの姿に、周囲の貴族が・・・王家に反抗的な旧ヴェンシン派ですらほぅとして息を吐いた。


 にぎやかな宴の最中だというのに、場内のアイラが見える位置にいる者はすべてアイラを見ようとこちらを向いていた。

 遠くにいる者はなぜ王家側が急に静かになってしまったのかと首をかしげている。

 そしてその静かになってしまった周囲の中でただ一人、にぎやかな娘がいた。


「アイラ・・・かわいい、こんな素敵なお嬢さんになって、お姉ちゃんうれしい」

 にぎやかな場内であれば目立たなかったであろう程度のうっとりとした声だが、この静まり返った場内ではかなり目立つ。

(いや賑やかな場でも目立つか・・・)

 その娘の容姿を見て私は考えを改めた。

 長いピンクブロンドの髪はシルク地の様に滑らかで光沢をもっていた。

 その白い肌はくすみ一つ無く、その娘はそこにいるだけで宴の一つや二つ開いてやらねばならない存在感を放っていた。

 サリィやフローリアンは傾国の美姫というやつだが、あの娘は国を傾けても足らぬというやつだ。

(しかもいまアイラの姉だといったな・・・。)

 それが・・・


 隣にいるのはオケアノス家のジョージ、簒奪侯家の子でありながら王家に対して尊敬の意を表す男、考えが読みきれず危険ではあるが、軍官学校の成績も優秀な男だ。

(それが・・・?ホーリーウッド家の2代先の当主の奥方候補の姉を同伴している・・・?)

 なるほど、旧ヴェンシン派貴族がザワツクわけだ。


 これでようやくジョージという男の言葉を信頼できそうだ。

 そう思うと自然口の端がつり上がるのが自分でも分かった。


------

(アイラ視点)


 クラウディア王城のパーティ、それも主催者がまだジークの頃のとなるとボクが15歳の時以来だから90年ちょっとぶりだ。

 ジークはいい王様だったと思う。

 国益のさらに先、大陸の共存共栄を目指した彼は、同時にボクやユーリに対しても愛を持って接してくれた。

 女癖に関する評判が少し悪かったけれど、それすらも女性に対して誠意をもって接する男だった。


 その会場に入ったのはかなり最後のほう。

 それなりに早い時間に城には到着していたけれど、いろいろルールがあるため一旦別室で待機した。

 侯爵や王族は最後のほうに入場するもので大体30分くらいか、待機することになった。

 そもそもこんな早くにきたのは、ジョージがサークラを迎えに来るのが早すぎて、付き合って一緒に出てきたボクたちも家を出るのが早くなったからだ。


 通常オケアノス家とホーリーウッド家は別個に待機するが、今回はサークラのために同室にしてもらった。

 ジョージが言う「シンの火」に与する一部の東貴族に対する牽制として、ジョージがホーリーウッドと仲良くするところを見せ付けるという目的もある。


 そんなことをしてオケアノス家でのジョージの立場は悪くならないのか?とギリアム様が尋ねたところ

ジェファーソンくそじじいには、旧ヴェンシンが独立を果たす時に邪魔になる東側の王国派貴族の一部を引き取ってもらうために他の侯爵家にも根回しをしているところだと事前に説明している」

 と、堂々と述べた。



 それから、いざ広間へと歩を進める時、南北の侯爵家の様子が見えた。

 北の侯爵家は3組、5人はこちらが一方的に知った顔だが一人は知らない顔だった。

 組み合わせまで考えるとジル先輩・・・今は別に先輩後輩の関係じゃないからおかしいか・・・ジルコニアの隣にいるのがおそらくは前の周では夭折していたジャスパー様だ。

 そして、ユミナ様とトーマが同伴、ラピスとヒースが同伴している。

 どうやらこの周では北家はすべてがうまくいっているみたいだ。


 遠いからか鑑定は届かないが、ラピスかヒースが周回者になっている可能性がある。

 あとでジークへの挨拶が終わったあと話す機会もあるだろう。


 そしてもう一方、南家はコロネのお兄さんらしき人がアイビスの同伴者をしていた。

 それとコロネの両親であるスワンレイク子爵と夫人が付き添いに出席しているみたいだ。


 今日は最終日なので、デビュー前の子女も祝宴に出席できる。

 サーリアやリントハイムに目通りするチャンスでもあるので、各貴族は子女を出席させるがそもそも同伴者が必要な会で目通りさせてうっかり気に入られて嫁か婿にと要求されたらどうするつもりなのだろうなと少し不安にも思う。


 しかし・・・見ていて不思議に思う。

 南北の侯爵家の娘のアイビスとラピス、北侯ペイロードの家臣家の息子のヒースはそれぞれボクや神楽と同じ世界からの転生者だった。

 見たところラピスとヒースは仲がよさそうだが、普通ならさびしがってチラチラ見そうなアイビスが二人の方も、ボクのほうもちっとも見ない。

 そしてラピスとヒースもお互いのことばかりで、アイビスのことを気にしたそぶりが無い・・・これはもしかすると、アイビスが幼馴染の此花このかちゃんだということを認識していない可能性がある。


 あの子たちはいつお互いの存在を認識したといっていたか・・・?

 ラピスとヒースが婚約をジークの前で認めてもらって、なおかつアイビスは両親と王都にいたといっていたから、年始のシーズンではないことは分かるけれど・・・。

 ちょっと年齢までは覚えていないな・・・。

 ただ今の3人はまだ親友になっていないと分かる。


 アイビスは同伴の男の子ともうまく歩けずにいるほど緊張・・・いや、おびえている。

 こちらもあとで接触したい。


---


 広間の扉をくぐると、たくさんの視線がボクたちに向けられたのが分かった。

 侯爵家は国に4家しかない重臣、公爵家が世襲できない仕組みになっているイシュタルトでは最高位の貴族だ。

 それが久々に四家そろい踏みだからか値踏みどころか凝視といった方が良いレベルでじっと見つめられる。

(こういう嘗め回す様な視線は落ち着かない、前の周では最後のほうはなんていうか、視界に納めるのも畏れ多いみたいな人が多かったからなぁ・・・。)


 それとなく後ろの気配を探ると他の子は慣れているのか落ち着いているけれど、アイビスだけは極端に緊張しているのが分かる。

 見なくても雰囲気で伝わってくる。

 心細いのだろう。


 そしてボクたちの後ろのサークラとジョージが会場内に納まったとたん雰囲気が一気に変わった。

 雰囲気っていうか、声を出している連中がいる。

(あいつらはだれだ・・・?)

「ジョージ様は何をやっている!」

「われわれが用意した娘ではないぞ!あの娘はなんだ!」

「なんて美しい・・・いやしかし誰だあれは?」


 うん小さく聞こえてくる声で分かった。

 あれは東のヴェンシン派の連中だ。

 ヴェンシン派の連中はイシュタル貴族式の作法も忘れたのか、観察対象こちらに聞こえるほどの声でざわついている。

 教育が行き届いてないね。


 うん、ボクらと同じデビュー前の未成年貴族が口をあけて姉サークラに見ほれているのはよしとしようじゃないか、同じ年代のよしみだ。

 それに姉があれだけ好意的な視線で見られているとなればそれはボクにとっても誇らしいことだ。

(おかげでボクたちに向けられる視線もかなり減ったし、アイビスも少しは緊張がマシになるだろうし・・・なるよね?)


 会場の一番奥側にたどり着くと、侯爵家が納まる様に開けていたスペースに収まる。

 するとほどなくして、ボクたちが入ってきたのとは逆のドアから王族たちが入ってきた。

 先頭はヴェル様と、フローリアン様、お二人が並んでいる姿を見るのはなんというか・・・胸にこみ上げるものがある。


 ヴェル様はボクが12歳の頃の戦闘で、ジョージに討ち取られた。

 あのジョージは確かヴェル様のことを尊敬していたという様なことも言っていたので、憎くて手にかけたわけではなかったのだろうが・・・こうしてジョージとも早い段階で接触した以上あんな結末を引き起こしてなるものかと、心の中で誓った。


 そしてリントとエミリー、ハルベルトとキャロルと並んで最後にジークとサリィが入場し、ジークはサリィを先に座所までエスコートしてからその玉体を最奥の席へと進めた。


 さぁ、初お目見えだ・・・ボクのステータスはジークに見られるだろう、どうなるやら・・・。

ちょっと難産しました。

全体的にまとまりが悪く冗長気味になり、ジークから見たステータスを書くのに時間がかかってしまいました。


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