第40話:突然の来客は?
ホーリーウッド家の内クラウディア別邸にて明日のパーティ、あるいは数日後の王族との会食のために英気を養っていたホーリーウッド家、ウェリントン家の面々は突然の来客を告げる碧騎のブランシュの声に各々背筋をただしピクリと反応した。
明日には王城でパーティがあるので貴族ならば明日には会える。
パーティに行かないユーディットやウェリントン家の面々に用事があるならまた別ではあるが、その様なものがいるとは考えにくかった。
「客人?どこの誰か?」
しかしながらギリアムが次期ホーリーウッド侯爵として、王都に来ている以上、来客の対応はせねばならなかった。
「は、オケアノス侯爵代理アクア様のご長男ジョージ・フォン・オケアノス様です」
問われた近衛兵ブランシェは淡々と答えた。
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(ユーリ視点)
(いったいなぜジョージが?)
僕の頭の中に最初によぎったのは疑問そして次に宿ったものは・・・
「どうも、ご無沙汰いたしておりますギリアム閣下、突然の来訪をお許しください。」
ジョージは僕の前世であった私の妹アクアの長男であり、同時にアクアの長女テティスと次女マリアナの胤も彼のものであった。
そして、簒奪侯によるオケアノスの後継者候補として剣をもって軍勢を指揮し、ヴェルガ様を殺害した反逆者でもあった。
しかし彼自身の行動はいくつかの謎があり、母アクアのために何かを成そうと動いていたことまではわかっている。
しかしながら僕たちと彼との間の対話は完了することなく永遠に絶たれ、彼の「理由」はわからないままで終わってしまった。
(今目の前にいる彼は普通の、礼儀正しい青年でしかない)
簒奪候の係累であるとか、未来ヴェルガ様の仇となったことを考えなければ好青年といっても良い。
今日の来訪も、昨日馬車入ったことをうわさで聞き、放課後駆けつけたらしく、何か頼みごとがある様ではあるが、年齢を、身分を弁えている。
そういえば彼は今16歳で軍官学校2年なのだったな・・・そう思い出した。
在学中の彼はそのカリスマ性と堅実さとで東のシュバリエールを発展させ、学校内に多くのシンパを作り出した男だ。
僕は前のユーリの人生という知識を持っているものの、彼の人となりについてよく知らないのだと、ようやく理解した。
(さて、私のかわいい甥っ子の来訪の目的は何なのか、聞かせてもらおうか)
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(アイラ視点)
ジョージがここを訪れるだなんて、誰が予想しただろうか?
部屋からギリアム義父様、エミリア義母様、ユーリが外して、ユディはアニスに世話を焼かれて積み木遊び中、ハンナとサークラ、モーガンがほほえましそうに見守っている。
アイリスはエッラ、ナディア、トリエラとを巻き込んでお人形遊びに興じている。
ボクはといえば、神楽と一緒に・・・というか神楽に抱きかかえられて揺り椅子で揺られており、傍らにはフィーが侍っている。
気持ちよくて眠りそうだけれど、ボクの意識は応接室でジョージを迎えているはずのユーリたちの方に向けていた。
今の時点でのジョージが果たしてどういう人物なのかと考えをめぐらせてみたけれど、そもそも前世においても彼の目的というのはわからないまま、対話の機会は失われてしまったのだったと思い返す。
わかっていたのは彼が誇りを持って剣を握る武人であったことと、アクアのために何かもくろみがあったということくらい。
今は危険人物かどうかもわからないジョージの気配に注意していることくらいしかできない。
今のところ物音もせず安全だと思う、まぁもしもジョージが武器を構える様なことがあってもギリアム様もユーリも超反応スキルを持っているのでそうそう遅れをとることも無いのだろうが・・・。
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30分ほど経って、動きがあった。
応接室で給仕をしていたユイがこちらの部屋にやってきた。
「サークラ様、アイラ様、ギリアム様がお呼びです。」
その内容は同席する様にとの呼び出し、次期侯爵(ジョージは代理だが)の対談に、いまだ平民のボクやサークラを呼び出す意味とはなんだろうか?
ボクと母ハンナだけなら、ユーリの婚約者としての紹介と考えられたが・・・。
しかしギリアム様に呼ばれた以上ボクやサークラに断るという選択肢は存在しない。
「なんだろうね?」
と首を傾げつつボクの装いを正すサークラ、ボクもわからないと首をかしげながらその手に身を委ねる。
ただ、ボクの手を握って歩く大義名分を手に入れたサークラは少しうれしそうだった。
応接室の前に着くとユイが中に声をかけ入室の許可をとる。
それから入室。
「お呼びでしょうかギリアム様?」
とサークラがいつもどおり華やかな笑顔で挨拶すると、ギリアム様はまぁ座りなさいと着座を促した。
背中を向けているジョージにはこちらは見えていない。
「アイラは僕の隣に」
と、ユーリに促されてボクはユーリの隣に座った。
かくしてテーブルの4辺に義父義母とジョージが向かい合って座り、ボクとユーリの対岸にサークラが座った。
すぐにユイが追加の紅茶をいれてくれて、ボクは早速それに口をつけた。
口を潤している間に、義父たちの話を聞く。
「サークラよ、君が嫌なら断ってよいことだと前置きさせてくれ。実はだな・・・」
「閣下!」
口を開きかけたギリアム様にジョージが待ったをかけた?
ギリアム義父様はすぐに口を動かすのを止めてジョージの方を見た。
「私の頼み事です、私から説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
ジョージは成り行きを自ら説明したいとのことで、ギリアム義父様はすぐに頷きで答えた。
話の内容は単純といえば単純な内容であった。
明日のパーティにオケアノスの名代として参加する、彼は成人しているとはいえ学生であるため本当は参加しなくても良いのだが、最終日くらいは参加することにした。
しかし彼には現在婚約者がおらず、王都に連れてきているメイドにはふさわしい教育を持っているものがいないため同伴する女性がいない。
そこで屋敷の場所を知っているホーリーウッド家に相談をしにきた。
それが表向きの理由。
しかしそれだけが理由ではなく
「私は、私がホーリーウッド家やスザク、ペイロードと仲良くしているという評判が欲しいのです。」
ジョージはそういって目を瞑った。
その眉間に苦しげと表現しても良いほどの皺を寄せて、長く重たい息を吐く。
「私は、今のオケアノスの状態を快く思っておりません、それは先ほどもギリアム閣下に申し上げたとおりです。」
義父義母も頷いている。
となりでユーリも・・・。
でもボクとサークラには説明していなかったからと、ジョージは説明を続ける様だ。
「オケアノスが現在簒奪侯と呼ばれ、嫌悪されているのはご存知でしょうか?」
とサークラにたずねる、
サークラもすでに半年ほど貴族教育に準じる教育を受けているためそのあたりの知識に抜けは無い。
ボクも本当は知っているけれど、ボクはそもそもたずねられていない様だ。
「それならば話は早い、私は現在オケアノスを牛耳り暗躍しているジェファーソンを取り除きたいと思っている。しかしながらヤツにはドライセンやミナカタとの間にパイプがあり、私単独ではヤツの私兵を抜けない状態だ。仮にもイシュタルトの臣下をなのっておきながらヤツはドライセン・・・というよりは旧ヴェンシン系の自治領に対してかなりの金を流している、結果としてオケアノス領の民に負担を強いている。また本来政治を行うはずの母アクアに教育も施さず軟禁している状態なのも、私にとっては許せないことなのだ。」
そういって悲しい目をする。
アクアは彼の母親だ。
母親が軟禁されている状態であるのはそれだけでも苦痛だろう。
それだけではなく彼は、ジェファーソンから母親を抱く様に強要されたことがある。
幸い・・・といって良いのかこの周ではオケアノス家にテティスは生まれていない様だが、強要されたことはあるのだろう。
つまるところ彼は、オケアノスから用意された以外のそれも教育の行き届いた女性を伴って王家のパーティに参加することで、オケアノス家に対して、自身にオケアノス家以外の後ろ盾があることを示したいということだ。
「それでは、ジョージ様は私を、その・・・明日のパーティに同伴させたいということでしょうか?」
サークラがおずおずと尋ねる。
「その通りです、ギリアム閣下からサークラ殿はすでに社交界に出られる状態だとうかがいました。無理にとはいいませんが・・・」
ホーリーウッド家から出せる人は今回碧騎兵の面々とサークラしかいないだろう。
社交パーティの男女同伴にはいくつか規則があり、招待されるのは基本的に爵位をもつ主体の人間になる、通常なら伯爵本人や子爵本人や後継者で、同伴者はその配偶者であるのが基本だ。
ここにいくつかの追加ルールで、配偶者が女性で妊娠中の場合や、怪我病気の類で同伴が不可能な場合には欠席か代理の同伴が認められるその場合の代理の人間は既婚者か自身の側室でなければならない。
次に配偶者や婚約者がいない者の場合のルール、この場合は主体者が成人か否かで別れ、主体者が成人である場合は婚約者がいる未成年者か、未婚かつ婚約者のいない成人を同伴しなければならない
逆に主体者が未成年である場合は婚約者のいない未成年者か結婚している成人を連れて行かねばならない。
多くの場合は未成年者は社交パーティに連れて行かないが、今回ユーリは参加することにした(ボクの存在を知らしめるため)のでボクたちは未成年者同士の婚約者のいない者同士という条件になる。
そして、その条件があるためにジョージは今、婚約者のいない成人(15歳以上)の女性で、ダンスや礼儀作法もある女性を探していた様だ。
しかも東侯家以外で・・・。
ふと、気になった。
今回彼はテティスを授かっていないけれど、それは母親であるアクアとの姦通があったわけではなく、ジェファーソンからの強要を避けることができたからではないか・・・?と
つまり彼が、周回者なのではないか・・・、そういう疑いをボクは持った。
(鑑定してみよう、意志力が異常に高ければその可能性はある。)
ジョージの顔を見る。
ジョージはセルゲイともセルディオともあまりにていない、アクアともあまり似ていない。
身長は180cmほど顔はなかなか男前で意思の強そうな瞳をしている。
髪は色の薄い金髪で、目は青っぽい銀色・・・ステータスは
ジョージ・フォン・オケアノスM16ヒト/
生命867魔法42意思302筋力47器用47敏捷52反応46把握72抵抗66
適性職業/魔法剣士
うんかなりのスペックだね、例年の軍官学校ならば主席級のステータスにすでに届いている。
意志力はかなり高いけれど、周回者ではない様に思える・・・。
「わかりました。ギリアム様が私をここにお呼びになったということは、おそらくはホーリーウッドとイシュタルトの、そして私のためになる話なのでしょう・・・。」
サークラはジョージの同伴者の役目を引き受ける様だ。
彼女がそういうのであればボクが否という必要は無い。
しかしなぜサークラだけではなくボクも呼ばれたのだろうか?
考えが顔に出たのか、それともただ順番だったのか、エミリア義母様が突然ボクの手をとった。
「それでは、ジョージ殿紹介いたしますね、こちらがサークラの妹のアイラです。明日のパーティにはユーリの同伴者として出席します。つまり、ジョージ殿とユーリが姉妹を同伴者として出席することになります。それがどういう風に見られるかはわかりますね?」
「私の計画にとってはこの上ない援護となります、私ジョージは私自らの名においてここに誓います、必ずやこの10年のうちにオケアノスに蔓延る内患を取り除き、イシュタルト王国のため、母アクアのために正しきオケアノスを取り戻してみせます。ギリアム閣下、エミリア様、これからよろしくお願い致します」
ジョージは深く頭を下げた。
操作ミスで2800文字くらい消失してしまいました。
マウスの戻るボタンがまれに暴発してしまいます・・・。




