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第39話:3人の朝散歩

 イシュタルト王国の首都クラウディアはサテュロス大陸最大の都市である。

 一辺およそ20kmの正方形に整備された周りを高い壁が囲み、さらに内部には要塞都市と呼ぶにふさわしい旧クラウディア、通称内クラウディアが残されている。

 まぁクラウディアがイシュタルトの王都となって以来一度たりとて攻められたことはないのであるが・・・。


 そんな内クラウディアの市街地を3人の美少女が歩いていた。

 いや、一人は美幼女と形容したほうがより近いだろう。

 3人とも少しずつ趣が異なるがいずれも100人に聞けば全員がかわいいとか綺麗だと誉めそやすはずだ。

 一人はまだ幼く、しかしあと12~3年もすれば絶世の美少女となること間違いなしの快活な幼女だった。

 本人はもう少女だとおもっているが、100人にきけば98人くらいは幼女だと答えるだろう。


 一人はどちらかといえば綺麗な顔立ちの、男の子の服を着た・・・・美少女びしょうねんで、一番幼い美幼女をエスコートしている。

 顔立ちは綺麗に整っていて、笑えば可憐な少女だが、キリっと口元を結べば、綺麗顔な美少女かぎりぎり中世的な美少年の顔立ちだ。


 最後の一人はサテュロスには多くない黒髪の少女で、それもちょっと見ないレベルの艶やかな黒髪をしていた。

 物腰や二人への態度からすれば、おそらく10歳以上で育ちの良い娘なのだが、顔立ちのせいでいくらか幼く見える。

 3人は仲の良い姉妹の様に、大通りに面した店をひやかして歩いていた。


------

(ユーリ視点)

 3年ぶりとなるクラウディアの街並み、前回来たときは「前世でよくアイラやリリとも歩いたモノだ」としみじみ思い出した。

 

 そして今、そのアイラの手を引いて歩き。

 さらにはカグラまでつれて歩いている。

 若いカグラを見るのは、なんというかちょっと照れる。

 前世ではすでに大人びた姿の彼女しか見たことが無かったので、「アイラの前世のアキラさんが愛した女の子が成長した姿」という認識だったのが、今の姿だと「かつてのアイラが愛していた女の子」そのものとなり、さらにいえば現状でもアイラが彼女のことを愛していることに変わりはないので、前世で彼女とも婚姻関係にあったことが少し気まずい。

 男女の関係には無く他の貴族からカグラへの誘いをなくすための婚姻だったけれど、彼女をエスコートしたり、踊ったり、アイラを二人がかりで愛でたりもした。

 それを周回者となっていない彼女は覚えているわけじゃないけれど、今生でもアイラとの間に割って入る僕の存在を認めてくれて、周回者についてもすんなりと信じてくれた。


 そんな彼女のことを好ましいと思うし、適応力がありすぎて少し憐れにも思う。

 彼女はどんな環境にあっても、ただ「アキラさん」を求めることで、ある程度安定できる人なんだろう。

 だけどそれだけに彼女はアイラに対していくらでも譲歩してしまう。


 今もアイラはカグラのことを愛しているしとても大切にしている。

 求められれば応じてたくさんの愛をカグラに注ぐけれど、彼女のことを自らは求めない、僕のことは求めてくれるのに・・・。


 前世ではアイラもカグラを求めていた。

 それを今生で躊躇しているのはきっとカグラが見た目どおりの年齢だからだろう。

 アイラはきっと今のカグラに自分の欲をぶつけることを好ましく思っていない。

 カグラが大人になってからと、先送りにしたがっている。

 けれどカグラのほうは求められたがっている。

 仕方ない、ことこういうことに関しては、女の子のほうが早熟なのだ。

 魂が男の子のアイラにはわからないみたいだけれど僕は女の子の魂を持っているから、カグラの気持ちがよくわかる。


 それが少しずつカグラを追い詰めている気がして、だから今日は3人でデートして気分を盛り上げようと思っている。

 もっとアイラが積極的になれる様に、もっと二人が寄り沿える様に・・・。


------

(アイラ視点)

 内クラウディアは治安の良い区画であり、貴族の子どもでも護衛1人だけ連れていれば歩ける様な街だ。

 すでにボクとユーリはメロウドさんに近衛兵並の剣技に到達していると認められているので、カグラと3人で街を歩くことを昼まで限定で許可してもらえた。


 一応後ろに紅騎兵と碧騎兵が1組カップルの振りして護衛してきているけれどね。


「あ、アイラさん!ユーリさん!見てください、かわいいです。」

 と神楽は大通りに面している店が通り側のショーケースで飾っているチャームや髪飾りを目をきらきらとさせて見つめている。


 とてもかわいいし、とても愛しいと思う。

 この笑顔を守りたい、そばで見続けていたいとも思うけれど。

 同時に今のボクが彼女のことを愛する資格があるのかと、また迷ってしまう、前世でもこの迷いは長いことボクに付きまとっていた。

 最後には神楽の愛を受け入れて、ボクも迷わず全力で応えられる様になったけれど、今の神楽は前世の神楽とは違い、まだ、未来ある子どもだ。

 せめてあと3~4年は神楽を縛らないでいたほうが彼女のためなのではないかって臆病になってしまう。

 こんなことを考えていると知られたら、子ども扱いしないでくださいって怒るんだろうけれど・・・。


「アイラさん?聞いてますか?」

 店に入ったあとも呆としているボクに痺れを切らせて、顔を覗き込んでくる神楽、そのまま神楽はボクの脇の下から腰に腕を回して抱きついてきた。

「あまり、難しい顔しないでください、今のアイラさんはかわいい女の子なので、そんな顔似合わないです。」

 そういうと神楽は今選んだらしい三日月の形に穴の開いた円形の黒い髪飾りをボクの頭につけた。

 クリップ式のものだ。


「ほら、すごくかわいい・・・。すみません店員さん、これくださいな!」

 ボクには有無を言わせず、神楽はすぐに購入を決めた。

 2万7000ナーロほどと、子どもにつけるには高い髪飾り・・・。

 鏡を見ると銀のお皿を三日月形に切り抜いて、残った部分に黒い光沢のある石をはめ込んで、切り抜いたところは透明な水晶か何かで被った構造になっている。

 ボクの金髪がぼんやりと透けて、本当に三日月みたい。


「アイラさんお星様とか大好きですから・・・・よくお似合いです。」

 支払いを終えた神楽がもう一度ボクの前に来て髪留めと髪とを順になでた。

「カグラ?」

「さぁ次は、ユーリさんの分ですね。ユーリさんも美人さんなので、似合うものを探すの、すごく楽しそうです!」

 ボクの呼びかけに応えず神楽はアクセサリーを見繕い始めた。


「じゃあ僕もアイラとカグラに、アイラも僕とカグラとに似合うアクセサリを買って贈りあえばいいよ。アイラもお小遣いあるでしょ?」

 そういってユーリがニコリと笑う。


 お小遣いは確かにある。

 前世で神楽が手探りで再現した紅茶の製法や、この年代にはないお菓子やパンのレシピの中からボクがエドワード様に提供することで、ホーリーウッドに入った利益の一部がボクの取り分として渡されている。


 そのほとんどは神楽が前世でがんばって再現したり編み出したりしたものなので、そのほとんどを神楽に渡そうと思ったけれど、神楽からは「私はアキラさんが倒した魔物の報奨金を頂いているのでお会い子ですね、それに今の私が編み出したものでもないですし、今のうちから紅茶や菓子が発展したのなら、きっとこの周は前の周の私が体験したより、早く素晴らしい菓子やお茶が生み出されますよね?ありがとうございます!」

 と断られてしまった。


 なお現在まで5ヶ月の間に、6歳のアイラの稼ぎ・・という名称で1000万ナーロ弱の金額が入ってきており、それとは別にユーリの婚約者候補として毎月3万ナーロのお小遣いが設定され渡されている。 


 参考までにホーリーウッド防衛隊の初任給が補償費など差し引いて手取り16万、夜警隊が研修後なら24~5万、近衛の新入り団員が50万程度だ。

 紅茶はこれから徐々に値は下がって行く予定とはいえ、逆に量は増えるので利益はある程度で安定する予定とのこと。

 まぁそんなわけで、ボクの空間収納の中には大量の銀貨が入っている。

 銀判や金銭にしなかったのは普通子どもはお遣いにだってそんなものもっていないからだ。


 10分ほど経って、ボクは神楽に太陽をモチーフにしたペリドットの飾りのついたリボン型シルバーアクセサリーを購入した。

 神楽が気分でスカートにつけたり頭につけたりもできる様にクリップと留め金もセットで購入した。


 ボクからユーリへは花をモチーフにしたピンクサファイアのチャームを用意した。

 剣の鞘につける用途のもので、少しかわいらしいデザインだけれど、彼にはとても似合いそうだと思ったのだ。


 ユーリからはスピネルの指輪を渡された。

 ただしボクの指には収まらない大きさなので、チェーンに通して首飾りにした。


 ユーリと神楽が何を送りあったかはわからないけれど、その後3人でまた街を歩いて、アイリスとメイドたちへのお土産を用意して、約束通り昼食前に帰宅した。


---


「もぉー!私も街に行きたかったのにー!!なんでおいてくのー!!!」

 アイリスはご立腹だった。

 金髪は八方に広がり、彼女の怒りねむり激しいふかかったことを示している。


 お土産のかわいいうさぎのヘアピンも、蜂蜜たっぷりのクッキーも受け取ってくれなくて、足をバタバタとさせている。

「なんでって、アイリスがおきなかったから。」

「おこしてくれればいいじゃん!!う゛~ぅぅぅ、アイラのばかぁぁぁ!」

 ご立腹な上に朝寝坊の後で意識がはっきりしていないらしいアイリスは子ども特有の理不尽な癇癪でわめき散らす。


 まだ目が眠たげで、甲高い声を上げているが、もう少ししたらたぶん落ち着くだろう。

「アニスー、アニスにもクッキーと、おリボンあげよーねー?」

 先トイレから戻ってきたアニスの方をな相手にすることにして、アニスにお土産のリボンをあげると

「あいがーとー♪」

 と首をウンウンとうごかしながらリボンを受け取り、上から下から眺め始めた。


「クッキーはお昼のあとたべましょーねー?」

 と、神楽が言い聞かせると「うん」と元気の良い返事をする。

 アニスはイイコだなー。


 いやアイリスも決して悪い子じゃあないんだよ?

 ただちょっとマイペースで寝起きが悪いだけで・・・。

 何せボクたちが帰ってきたときまだアニスもアイリスも眠っていて、ボクたちが部屋に様子を見に行ったことでようやくアイリスは起きたからね・・・昨日までの馬車旅で疲れていたんだろうさ。


 しかし気配で起きたアイリスは寝起きがコレで、そのアイリスの声で起きたアニスはいい子・・・落差が激しいよね。

 なりたて6歳と3歳までもうちょっとの姉妹でこの差異はなんだろうか・・・。


「アニス様、お土産のおリボン早速お召しになりますか?」

 とエッラがアニスに伺いを立てると、アニスはまたウンウンと首を動かす。

 神楽に贈ったモノと違い普通にリボンなので7本セットで贈っている。

 着替えを終えた後そのうちの真紅のリボンを短い髪の頭頂部付近にちょんと結んでもらったアニスはご機嫌でおしゃべりを始めた。

「あのねー!アーちゃんねー、アイラおねえちゃね、すきー」

 そういってギューッとボクの腰に抱きついてくる。

 ちょっと前まで髪の毛をしゃぶる癖があったので、髪はまだ短いままだけれど、リボンがアクセントになって一気に女の子らしくなった。


 たぶんアニスなりに、アイリスに散々怒鳴られたボクのことを慮ってのスキーなんだろうけれど、今となってはアイリスの方もおとなしくエッラに着替えさせてもらいながら、口をもにょもにょさせているので、たぶん空腹でしょんぼりしている。

「アイリス、おはよー」

 気を取り直してアイリスにおはようの挨拶をすると、すでにさっきまでのことは夢の中の出来事になっているらしい。

「あ、アイラおはよー、おなかへったねー、ごはんナニかなー?」

 と口元をゆるくしてにへにへ笑っている。


「ほらアイリス、とりあえずおトイレ行っておいで・・・もらしてないよね?」

 さっきまで興奮して暴れてたからちょっと漏っちゃてるかもしれない、そう思ってたずねてみたけれど、問題はない様だった。

 手すきのフィーがアイリスをトイレに連れて行くのを確認してボクたちはアニスを連れて先に食堂に向かった。


 それから母たちにも神楽に買ってもらった髪留めとユーリに貰ったリングを自慢して、ギリアム義父様やエミリア義母様にもほめて頂き。

 

 ユディにもお土産の室内帽をユーリがかぶせてあげるとユディはキョトンとしたものの、周りの人間が自分に向かって微笑んでくれているのをみるとうれしくなったのか、満面の笑顔を浮かべて「キャッキャ」と声を上げた。


 それからようやくアイリスもやってきて

「おはよー、おなかすいたーねーねー朝ごはんはなぁにー?」

 と昼1時だというのにのんきなことを言って、みんなを笑わせてくれた。



 明日の登城に備えて今日の午後はまったりと過ごす。


 食後、そのままほとんど全員が広い居間に移動して思い思いの時間をすごす。

 すでにウェリントン家の皆はホーリーウッド家に完全に家族として受け入れられていて、ギリアム義父様は楽しそうにトーレスに書類仕事を教えているし、エミリア義母様はハンア母さんやサークラと刺繍や子どもの世話など共通の楽しみを見つけてよく一緒にいる。

 今日も暖炉の前で3人は将来アニスとユディに持たせるためのハンカチの刺繍に余念がない。


 そしてメイドたちも・・・前世ではなかった組み合わせが発生していて、ナディアとトリエラ、神楽が黒髪同士でしかも今回は年齢が同じなのでとても仲がいい、立場上神楽がお客様枠なのだけれど、ボクがアイリスとくっついている時なんかによく3人で髪を弄って遊んでいる。


 またエッラとフィーが低身長の童顔で巨乳という非常に稀有なペアが発生していて、よく休日に二人で服を買いに行ったりしている。

 おそらく明日も留守番はユイたちに任せて、若いメイドたちはお買い物に行くのだろう、どこそこに言ってみたいなんて声が聞こえた。


 明日の王城での集まりは男女同伴でのパーティ形式で行われる。

 今回参加するのは義父義母ペアとユーリボクのペアのみで、ほかのみんなは留守番となる。

 フィサリス以外のみんなは3日後に王城に招かれて私的な食事会をする予定、たぶん前世でもよく招かれた家族用の食堂だろう。

 ドレスや靴はホーリーウッドから持ち込んでいるし、今日はもうただ体を休めて明日に備えるばかりのはずだったんだけれど・・・。


 だらけていると居間でだらけていると碧騎枠で随行してきていたブランシュが部屋の外から声をかけてきた。

「ギリアム閣下、お客様です。」

「来客?」

 と顔を見合わせるボクたち。


 今日王都に残っているとなれば明日にどうせ王城で顔を合わせる可能性が高いというのにわざわざの来客?

 怪訝そうな顔をするギリアム義父様に、急に余所行きの顔になるエミリア様。

 わざわざこんなタイミングでの事前連絡なしの来客、きっと厄介ごとに違いない・・・とボクも立ち上がってブランシェの言葉の続きを待った。

ちょっと違う作業をしていたら日が暮れていました。こっちが遅くなってしまいました。

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