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第33話:君を迎えに3

 ルクス帝国の帝都ルクセンティア、その帝城の中を、3人の男女が連れ立って歩いている。

 30台の男は引き締まった筋肉質な体をしており、その身のこなしから只者ではないと伝わってくる。

 それに対して連れられている女二人は明らかに若年で、ともすれば父娘か?といいたくなる年の差だが、あまりに似ていない上、距離感もあるため実際にその見間違えをするものはいなかった。


------

(アイラ視点)

 どうしていつも暴力を振るう人たちは女性を食い物にしているのだろう・・・。

 前世のウェリントン襲撃の際のゲイルズィ将軍麾下山賊部隊然り、グレゴリオ、ブリミール、セルゲイ、ミナカタの南部人もみんな、相手が逆らえないと思ったら、相手を貶めて奴隷にしたり、欲望のはけ口にしたりする。


 自分の身に同じ災禍が振りかかることがないと思っているのだろうか?

 自分の力によっぽどの自信があるんだろうか?

 少なくともセルゲイ辺りはその可能性がありそうだ。

 まぁなんにせよ、今回の連中はじきに報いを受け、おそらくは死刑になるだろうとセメトリィさんが言っていた。


 被害者の女性たちはほとんどが村から出てきた直後に優しい言葉で誘い出されたため、ルクセンティアに生活基盤がなく、また、精神的被害も非常に重たいものであったため、希望者は城や兵舎での雑用に雇うことになるらしい。

 この内容は同じ系統の事件と同じ処理らしい。


 また、ボクたちはセメトリィさんの計らいでクレアリグル姫と、皇帝陛下にお会いできるらしい。

 皇帝直轄の帝都防衛隊の隊長格とはいえ、皇帝との面会の許可を取り付けることができるなんて、セメトリィさんの裁量できる内容はかなり大きいらしいけれど、こちらはただでさえ敵国扱いのイシュタルト人なので、緊張する。

 その上相手がクレアリグル姫とまだ見ぬ皇帝陛下・・・、クレアのことを前世の癖でクレアと呼び捨てない様に気をつけないとね。

 初対面(・・・)の他国の君主一族相手だから、ボクが従属する王家でないとは言え礼儀を弁えねばならない。


 すでにセメトリィさんには、神楽について尋ねている。

 どんな名前を名乗っているか、どの程度能力を見せているかもわからないので年齢や名前すら伏せて、艶のある黒髪の女の子で、礼儀正しい娘であるということと、婚約者とともに行方不明になったことだけを伝えている。


 年齢を伏せたのは、こちらの人は栄養環境のせいか現代日ノ本人と身長は大差ないものの、若年でも顔立ちが大人びて見えるものが多く、前世でサークラと同い年で、10月生まれとしていた神楽はおそらく現在14歳なのだけれど、それがこちらの人にとっては何歳に見えるか、微妙にわからなかったからだ。

(ボクは9歳の神楽とはぐれた後次にあったときは20歳の頃だったからね・・・)


 愛しい神楽と再会した戦場を思い出す。

 まだ見ぬ強敵との邂逅に怯えて、ユーリと互いの正体を明かしあい初めて結ばれた翌日に出会ったその強敵がまさか神楽だなんて思わなかったけれど。


 ちょうど皇帝陛下は時間があったらしく、城に入ったあととんとん拍子にことが進み、今向かっているのは、皇帝陛下が休憩をされている喫茶用の部屋らしい。

 その扉の前でセメトリィさんから追加の注意を貰う。

「二人はイシュタルト人ということで、通常であれば陛下が休戦中の敵国人と公式の会談を持つことはできない、しかし今回は二人が帝国民の保護と犯罪者の摘発に協力してくれたことと、目的が家族探しだということで特別に面会を許可していただいた。謁見ではなく面会であり、皇帝陛下としてではなく年の近い娘を持つ父親として会話になるため通常の年上の男性への態度をとるようにとの仰せだ。故にここから先にはメイド数名と陛下と姫様しから居られない、くれぐれもおかしな真似はしないように頼む。」


「大丈夫なんですか?護衛とか・・・」

 ナタリィが思わず聞き返してしまう。

「なんだ?護衛が必要になる様なことをしでかすつもりか?」

 とジト目でセメトリィさんはつぶやくがすぐに笑顔になる。

「2人はわざわざ帝国まで家族を探しに着たんだろ?だったらそれは信じられるよ、お前たちは善良な目をしているし・・・それに・・・」

 と何かを言いよどむセメトリィさん


「それに・・・なんですか?」

 ボクが聞き返してもセメトリィさんはそれ以上は語らず。

「よし、陛下もいつまでも休憩時間じゃない、俺はここを守っているから。」

 と扉を守っていた女性の守衛にボクたちを引き渡す。

 後宮みたいな扱いの場所なのか、入り口もそうだけれど、女性しかいなかった。


「陛下、セメトリィ隊長から紹介の娘たちです。」

「よい、入れよ」

 守衛が扉の中に声をかけるとメイドが内側から扉を開いた。


---


 20畳ほどの広さの部屋の中に8人くらい座れそうな円卓があり、そこに少し白髪の目立つ50くらいの男性とおそらく現在10歳のクレアリグル姫とがお茶とお菓子を楽しんでいた。

 皇帝陛下から見てテーブルで体が隠れない位置に立ちスカートの裾を持ち足をちょんとしてみせる。


「ご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます、ナタリィ・デンドロビウムと申します。陛下に置かれましては・・・」

「あぁよいよい、堅苦しいのはなしだ。せっかくクレアと年の近いお嬢さんらとお近づきになれたのだ。今の私は皇帝ではない、そうだなフィル小父さんとでも呼んでくれ。」

 とナタリィの挨拶に割ってはいる皇帝陛下もといフィル小父さん。


「それでは、はじめましてフィル小父様。」

「はじめましてフィル小父様、アイラ・ウェリントンと申します。本日はお時間をいただきありがとうございます。」

 と、ボクもナタリィに倣って改めて地球で言うカーテシーを行う、こちらでは特に名前はついていないけれど、スカートを穿いた女性が行う挨拶としては一般的なものだ。


「座ったままで失礼、クレアリグルです。さぁ、二人も掛けて?あまり長い時間はむりだけれど、ぜひお国の話を聞かせてくださいな。」

 と若草の髪を長く伸ばしているクレアが座ったままでボクたちに着座を促す、こちらも時間が押しているが、失礼にならない程度に話し相手を勤めさせていただく。


「まてまてクレア、彼女らは、ご家族を探して態々ルクセンティアまでやってきたのだ。その話から聞くべきであろう。」

 クレアはムッとした顔で致し方なしと口を噤む。


「ありがとうございますフィル小父様、ボクたちはしばらく前に行方知れずになってしまったカグラという女性を捜しています。もしかしたら、カナリアと名乗っている可能性もありますが、アキラさんという婚約者が探していたのです。その後、アキラさんは亡くなり弔ったのですが、その後も遺品を渡し、一緒に暮らすために、カグラさんをずっと探していたのです。」

 そういった瞬間ボクたちが入ってきたのとは逆のドアから、帝国式メイド服姿の女の子が飛び込んできた。


 あまりにも突然のことだったので、ボクもナタリィも、フィル小父さんとクレアもびっくりしてそちらを見る。


 その子は黒い髪をしていた。

 その子は悲痛な顔でボクのほうを見ていた。

 そしてボクは、その子のことをありえない、と思ってみていた。

「カグラ!やっぱり貴方の知り合いなの?」

 クレアはその少女のことをカグラと呼んだ。


 しかし、それはありえないことだった。

 目の前にいる少女は、クレアと同い年くらい・・・。

 ボクと離れてからそう時の経っていない姿の神楽だ。


(なぜ?ボクは生まれてもうすぐ6年経つ、だというのに、どうして神楽がこんなにも若い姿で・・・?)

「あの、アキラさんが亡くなったって・・・本当ですか・・・?アキラさんが私を探してたって本当ですか?」

 ボクに縋り付く様にして、神楽は暁のことを尋ねる。

 今はクレアやフィル小父さんの目もあるので、一旦はその様に進めよう。

 ナタリィはボクから聞いていた「カグラ」と年齢が違うので少し戸惑っているみたいだけれど、今目の前にいる少女は神楽で間違いない、ボクだけがそれを保証しうるのでナタリィに対して頷く。


「あの、フィル小父さん、カグラさんとボクだけで、一旦お話をさせていただきたいのですが、一旦席をはずしても良いでしょうか?」

 とボクが尋ねると、フィル小父さんは小さく頷いて、今神楽が出てきたほうの扉を示した。


 ボクは動転している神楽をつれてそちらの扉をくぐった。


「あのアキラさんのこと聞かせてください!」

 隣の部屋は、お湯を沸かしたり、するためのスペースだった。

 おそらく神楽はここから、彼女のことを探しに来た何者かわからないボクたちのことを覗き見ていたのだろう、それはクレアたちが神楽を連れ出そうとする何者かが、本当に彼女のことを探しに来た知人なのかを確かめるために様子見のための行動だったのであろうが、結果としてアキラの名前を出したボクに神楽がこらえきれず出てきてしまった。


 ただボクのほうも少し気が動転している。

 覗き見する彼女の気配に気づけなかったのは、皇帝相手で緊張していたからだとして、どうして彼女は15歳ごろの彼女ではないのだろうか?

 まぁそれはいい、彼女が神楽なのは見てわかるのだから。

 今はその愛しい彼女の涙を、少しでも早く止めてやりたい。


「よく聴いてカグラ、ボクがアキラなんだ。」

 彼女は周回者でないことは今アイラであるボクのことを暁として認識していないことから見ても明らかだ。

 ただ彼女はすでにこちらの言葉を習得している様だが、こちらに来てどれくらい経っているのだろうか?


「え?な、何をいっているんですか・・・?貴方はどうみても女の子で・・・。それに私より年下です。」

「クロノさんのこともあるから、カグラは生まれ変わりのこと信じてくれるよね・・・?」

 神楽の姉の一人黒乃さんは転生者であり、前世ではそのことを神楽自身が引き合いにだして、前世のアイラボクボクだと認めてくれていた。

 クロノさんのことをこちらの人間が知るわけがないのだから、これを言えば多少は信じてもらえるだろう。

 神楽の目が見開かれる。


「生まれ変わり・・・。本当にアキラさんなんですか?【私の、姉と妹の名前全員言えますか?】」

 と神楽は途中で、日ノ本語に切り替えて尋ねてくる。

「うん、もちろん【姉が、上から天音さん、黒乃さん、リアさん、刹那ちゃん、彼方ちゃん妹が雪羅ちゃん、魂でつながった姉がテノンさんで、刹那ちゃんと彼方ちゃん、雪羅ちゃんは神楽と4つ子】」

 ボクも日本語で答える。

 桐生家の7(8)人姉妹、それも一卵性4つ子の神楽たちの順番なんて、親密にかかわっていないと覚えていられない。

 神楽の婚約者だった暁はもちろん知っているけれど・・・。


「本当に・・・アキラさんなんだ。でもどうして・・・?私がナワーロウルドこっちにきてまだ2ヶ月半くらいしか経ってないのに、なんで4~5歳の女の子になってるんですか?」

 ボクの肩にしがみつく様にして神楽が尋ねてくる。

 前世でも神楽がこちらにきたタイミングと暁がこちらにきたタイミングは微妙にずれていた。


 それと同じ様な理由、たとえば神楽が走り出すのが1秒遅れたとかで、あるいは先にこちらで生まれていたボクの起こした何かが作用して、神楽がナワーロウルドに降り立つタイミングがずれたのかもしれない

「うん、アキラがこちらの世界にきて死んでからもう6年ちょっと経ってるんだ。カグラがこちらに来るのが遅れたのかもしれない。それと、こちらにきて2ヶ月半なのにもう言葉が堪能なの?」

「はい、どういうわけか、こちらに来てすぐに、日ノ本語が通じないのに気づいたんですけれど、相手の話している言葉も普通にわかって私も話せたんです。字も書けますし・・・。」


 知識の部分だけ周回者になっているんだろうか?まぁおかげで神楽が寂しい想いをせずにこちらに早くなじめたのなら、それはそれでいいことだ。

「ごめんねカグラ、ボク、死んじゃった。でもどういうわけか、アイラとして転生して、君を迎えに来ることができた。詳しいことはまた時間のあるときに話すけれど、ボクと一緒に暮らしてくれないかな?ボクはその、女の子として生まれていて、男の婚約者もいる身ではあるんだけれど、彼はボクの前世が男であったことも、君の存在も認めてくれているし、ボクが君の事を愛していることも知ってくれている。その上で今回も君のことを向かえに行っていいよって言ってくれたんだ。」

 矢継ぎ早に気持ちを伝える。


「その、姫様たちとは離れないといけないということですよね・・・?いえ、はい、アキラさんと一緒に暮らしたいです。アキラさんがたとえ人のものになってしまうんだとしても、私はアキラさんを側で支えたいです。」

 神楽は、ボクの死んだことについては悲しく笑っただけで、ボクについてきてくれるといった。


「ただその、メイドの先輩方や姫様たちにもちゃんとお別れをしたいので、明日まで待っていただけませんか?今夜ちゃんとお別れしてから行きたいです。」

 と寂しげにつぶやいた。

 2ヶ月半しかたっていないということは、彼女は今まだ本来9歳7ヶ月くらいだ。

 彼女の日ノ本での誕生日は12月24日、もし今回も彼女が誕生日を10月24日と設定するのであれば、約100日分早く彼女は年を取ることになるが、そんな年齢の彼女にとっての2ヶ月半はあまりに長い、きっと親しくなった先輩たちもいるだろう、そんな彼女にボクがさらに別れを経験させてしまう。


「仲良くなったメイドの先輩がいるの?」

 と興味本位でなんとなく尋ねると、神楽はとたんに笑顔になってかつての様にボクにお友達のことを、どんな出来事があったのかを教えてくれる。

「聞いてくださいアキラさん、リスタ先輩はなんと犬耳の女の子なんです!もうモッフモフでしかも動くんです。カーラ先輩は厳しいけれど私が寂しくなったときにはリスタ先輩ともども一緒に添い寝してくれたりしますし、サマリ先輩はもうすぐ結婚で退職されるんですけれど、私に養子にならないかって言ってくれて・・・お断りしたけれど、たまに遊びにきなさいよ?って言ってくれてるんです。エイプリル先輩はサマリ先輩と仲が良いんですけどサマリ先輩が結婚するのを呪ってやるー裏切り者ーって言っていつも仲良くケンカしてるんですよ・・・ほかにも仲良くなった先輩がたはいるんですけれど、うん、でも死に別れるわけじゃないので、ちゃんとまたねっていってお別れします。」

 百面相しながらメイドの先輩たちのことを教えてくれた後晴れやかな笑顔で神楽は笑った。


 愛しいと思えた。

 神楽はどういうわけか前の周とまったく異なる年齢でこちらにやってきた様だけれど、なんにせよ彼女が愛しい人であることに代わりは無い、彼女の表情が、言葉がめまぐるしく変わっていくのを、胸にあふれる感情を楽しみながら見つめていると彼女はボクの手を握っていった。

「それじゃあそろそろ姫様たちのところに一旦戻りましょう。 明日お城を去ると、姫様にご挨拶して許してもらわないといけないです。」

 と少しだけ寂しそうに言ってボクの手を引っ張った。


若い神楽と再会しました。

ホーリーウッドにつれて帰ります。

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