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第32話:君を迎えに2

 大陸西部に位置するルクス帝国の帝都ルクセンティア、その片隅の怪しい食堂兼宿屋に二人の女の子が連れ込まれた。

 それを見届けていた男たちは時間を確認しながら、後続の合流を待ち、突入のタイミングを見計らっていた。


 男の名前はセメトリィ、軍部において帝国三騎士と讃えられる槍の名手であり、自他共に認める帝国最強の兵の一人である。

 彼は皇帝の忠実な駒としてこの5年ほどずっと帝都内で暗躍する闇奴隷商人を摘発するための活動を続けていた。


「そろそろあの子たちが連れ込まれて10分ほど経つか・・・?」

 ここ1ヶ月ほど目星をつけて調査していた食堂兼宿屋「眠るミミズク亭」を睨み付けてセメトリィは焦っていた。


 事前の調査でおそらくは若い女性や少女を誘拐して売春させている非合法の売春宿であることがわかっているのだが、女性たちは通いの売春婦で闇奴隷など使っていないと言い張り、一度一般の取り締まり員が立入調査をしているが監禁部屋を見つけることができず。

 公式の売春宿としての書類などもある程度そろっているため、それ以上手が出せずに終わったことがある宿屋だった。


 今連れて行かれた少女たちが外に出ていないことを確認し、内部に突入し調査、なおかつすでに少女たちが監禁か暴行を受けている現場を押さえる必要があるが、そんな調査方法しか取れないことをセメトリィは嘆いていた。

 自分たちではないとはいえ一度立入調査に失敗している以上、再び捜査に失敗すれば社会のゴミどもに好き放題言われてしまう、とはいえ年端もいかない少女たちを囮に使う様な調査はセメトリィにとっては不本意だった。


「隊長、そろそろよいのでは?」

「あぁ10分経った。2箇所ある出入り口と、念のため裏の路地も固めたまま維持、どこかに隠し扉や通路でも用意しているかもしれない。オスカーとベルナルドは俺と来い20分経っても俺たちが出てこない場合には後続と全員で突入しろ。」

(さぁ、今度こそ年貢の納め時だ・・・。)

 それから、なるべく少女たちにまだ直接の危害を加えていないでくれ・・・。

 そんなことを祈りながら、セメトリィは眠るミミズク亭の入り口へと歩みを進めた。


------

(ナタリィ視点)

 アイラが言ったとおり、どうもこの男たちの目的が私とアイラを拐して人身売買かなにかをするつもりであるということが、私にもわかった。

 たどり着いた建物は食堂兼宿屋らしい、昼と夕方の間の時間帯だからか、食堂を利用する客の気配は無かった。

 厨房のほうは騒がしかったので、仕込みの時間なのかもしれない。

 男たちはやけに急かして私たちを扉の向こうに連れて行こうとして、それにしたがって扉の向こうに入ると、すぐに扉が閉められた。


「ほらナタリィちゃん、アイラちゃん、階段を下だ。上は宿泊用の部屋で、下に物置と休憩室があるんだ。」

 そういって男の一人が指示を出す。

 階段を下るとまた分厚い木の扉があって、中に入ると薄暗い倉庫だった。


 その中に入り扉が閉められると確証を持つためなのかそこでアイラが一芝居打った。


「おじちゃん、アイラ、暗いの怖い・・・。上のテーブルのところでまってちゃだめ?」

 と、1階の食事スペースのほうを指差して、アイラは私の腕にしがみついたままで、男たちに尋ねた。

 すると男たちの態度が急変した。


「ワガママいってんじゃねぇ!」

 バン!

「キャッ」

「ふぇぇぇん、怖いよ、大きい声やめてよー!」

 いきなり大きな声を出して扉を叩くので私も小さな悲鳴を上げてしまったが、アイラは本当に怖がっている様に私にしがみついてくる。

(演技がうまいね、この子を私が守らないとっていう使命感が心にわきあがってくるよ)


「人が親切にしてやってんだからワガママいってんじゃないよ!お前みたいなガキに上で騒がれたら邪魔なんだよ!いいからさっさとこっちこい!!」

 今まで私たちを囲む様にしていた男が私とアイラを引き離す様にして一人ずつ私とアイラの手をつかんで引っ張り始める。

「や、やだ!おねえちゃ、手つなぐの!」

 アイラが腕を引かれ奥に連れて行かれながら叫ぶ、迫真の演技に私も応えなくては

「な、何するんですか!やめてください、アイラに乱暴しないで!」

 そういって男の手をフリほどこうとして、ヒトの女の子並の力をこめるが私の腕をつかんだ男は逆の手で私の頬を張った。


 パシン!

 まったくダメージは無かったが音だけは派手に響く。

「あぁ!な、何をするんですか!?乱暴は、乱暴はしないでください、何でこんな、いきなりひどいじゃないですか!姉さんがきたら言いつけてやります!」

 すると男はおかしそうに笑い始めた。

「ハハハ、ばかだなぁお前らの姉ちゃん?カナリアちゃんなんかしらねぇよ!お前ら騙されたんだよ、オラ!わかったらこっちこい!」

 そういって男はさらに強い力をこめて私を引っ張る、アイラもすでに奥の壁際に連れて行かれている。


 泣き叫ぶアイラと、少女並みの力で抵抗する私を左奥の壁際まで行くと倉庫の中にいた男が、箱を二つ場所をずらして、壁の端っこのあたりを押した。すると壁が反転して壁の向こうに通路が現れた。


 その向こうがどうやら監禁部屋らしい。

 弱い少女を食い物にするこのゴミたちをここからどうしてやろうか、と私はおびえた表情を浮かべたまま心の中で笑った。


------

(アイラ視点)

(計画通りだ!)

 成熟していないアイラの体では腕を引っ張られたりするのも少し痛いが、おかげでおびえる子どもの演技に熱が入ったと思う。

 おそらく今のボクの演技を見ればユーリだってボクが真実、幼女のアイラだと信じるに違いない。


 後は深刻な実害をボクたちが被るかここにいるつかまっている女の子たちに命の危機が迫るかをするか、もしくはセメトリィさんたちが突入してくるまで待てばいい。

 念のため気配を探ってみるけれど、セメトリィさんの気配は感じられない、石造りの壁と天井、に阻まれてか地上の気配が感じ取りにくい、しかしながら上のカウンターにいた男の気配はぎりぎり感じられるので、セメトリィさんが店内に入ってきたらわかるということだ。

 最悪そのタイミングでちょっと暴れるのでもいい。


 ボクとナタリィが押し込まれたのは、隠し通路の奥の部屋。

 隠し扉が開いた瞬間から、すすり泣く様な声がすでに聞こえている。

 はじめに鉄格子で囲まれ寝台が1つ置かれた部屋が右手にいくつか見え、20~30歳くらいの若い女性が一人ずつ閉じ込められていた。

 その表情はすごく草臥れていて、泣き叫びながら通路に入ってきたボクとナタリィを見ても「あぁ、かわいそうにね?」位の冷めた目をしていた。


 左手には3~4人ずつ閉じ込められた牢屋が3つと空っぽの牢屋がひとつあり、暗い顔をした少女たちが座り込んでいた。

 さらに突き当たりには拷問部屋か調教部屋とでも言うのか小さい、扉の無い部屋が3つあり、話に聞く嗜虐趣味の道具がいくつか置かれていたそのうちの2つの部屋にナタリィと変わらない位の少女が全裸で拘束されていて、一人は半分吊り下げられた状態で三角柱を横に倒した形の台の上に立たされていた。

 といっても、その台は跳び箱の様に高さを変えることが可能なつくりで、両足はギリギリ届かない様に調整されているらしく、女の子はなるべく痛くない姿勢をとろうと必死に片足立ちで体を動かしていた。

 そのたびにキリキリと拘束された手に革の紐が食い込んで痛々しい。


 もう一人の女の子はもっと直接的に腕と首を拘束されていた。

 上半身をベッド上にうつぶせに寝かされ、2つの木の板をつないで三つの穴が開いた状態になる枷をつけられて手と首を動けなくされた上で、男に乱暴をされて呻き声をあげていた。


 その2人を見た時点で、ボクはもう演技を続けることができなくなった。


「もういい、セメトリィさんたちを待つまでもない・・・こいつら許せない。」

 ボクが誰にも・・・聞こえないくらい小さい声でそう告げたとたん、耳の良いナタリィは自分を捕まえていた男の腕をつかむと軽々と投げ飛ばし、後ろにいた2人の男に投げつけた。

 同時にボクも、ボクを捕まえていた男の顔面に大人のパンチ位の威力に設定した光弾を挨拶代わりに2発当てた。

 さらに首枷の女の子を虐げていた男は人の頭部を破断させる程度の威力の光弾を足に当てて、その瞬間男は左足のひざから先を完全に失って、右足の膝から先も半分千切れぷらついた状態になった。

「グルバァァァァァ!」

 突然足を失った男が無様に聞き取れない叫び声をあげて転倒する。


 気配を探る限り今ここにいるのはボクたちを連れてきた4人と調教部屋で女の子を虐げていた男以外は監禁された女性たちであり、その女性たちは何が起こったのかわからないという顔をした。


 ボクは引き続いて頭に光弾を受け昏倒した男の手足の筋を後で治癒魔法を使えば動く程度に筋切りして無力化した。

 後ろを確認するとナタリィは3人の男を殴りつけて意識を刈り取った様だ。

 ひとまずひと段落。


「あ、あの貴方たちは!?」

 個室に監禁されていた女性のうち、たぶん25歳くらいのこげ茶髪の女性が先ほどまでとは違い目に光を宿して、鉄格子につかまってボクたちのほうに身を乗り出そうとしている。


 なんとなく純朴そうな印象を受けるけれど、先ほどまでの様子を見るに長い間、非道な扱いをされてきただろうことに疑いはないだろう。

 その目は縋る様にボクたちを見ていた。

 助かるという希望を宿していた。


「囮捜査みたいなものだと思ってください、こう見えて私も妹も強いんです。皆さん誘拐されたりした方たちですよね?今から帝都の兵隊さんたちが助けにきますから、その間にあの男たちを拘束したいと思います。牢屋の鍵はあの奥の人がもってるんですか?」

 とナタリィがたずねると女性はコクコクと頷いて、ほかの女性たちは「助かるのね・・・」とか「生きて出られるなんて・・・」と天を仰いでいた。


 ボクは奥にいて足を破断されて呻いていた男の頭を近くにあった鉄の棒(たぶん本当は火で炙って使うもの)で殴りつけて昏倒させるとそのズボンについていた鍵束を奪い取った。

 下級の治癒魔術をかけて流血だけ止めておく。

 意識を失ったまま失血死なんて楽な死に方させてあげない


「お姉ちゃん、倉庫のほうにいた男が来るかもしれないから、しばらくそっちの4人と倉庫のほうを警戒お願いします。」

 ナタリィがまだボクを妹と呼んでいるのでボクもあわせてお姉ちゃんと呼ぶ。

 ナタリィはボクが昏倒させていた男を軽く蹴り上げるとほかの3人たちと同じ場所に置き、そこから倉庫側の入り口を警戒した。


 鍵束を使って最初に一番手近な3人の女の子が閉じ込められている牢屋を開けて3人の女の子に出てもらう。

「まだあまり声は出さない様にね」

 といって鉄格子から出てもらうと3人は涙ぐみながらありがとう、ありがとうといって出てきた

 そしてその子たちに鍵を預けてボクは次に首枷で拘束された女の子とつられた女の子を助ける。

「ふぐ・・・・グズッ・・・」

 と泣きじゃくる女の子は、ここの女性たちは全員そうなのだろうけれど到底計り知れない深刻な心の傷を負っている。

 慰めることなんてできなかった。


 入り口側にトイレと浴室があるということで、鉄格子から出た女性の一人に、泣きじゃくる女の子をお風呂に連れて行ってもらう。

 残った女性に男たちの身包みをはいでもらい、最初に3人の娘を助けた牢屋に閉じ込めた。子どもが4人寝かせられる程度のスペースに5人の男を閉じ込めたのでそれなりにギュウギュウだが、人権の無い連中なので知ったことではない。

 そうしていると上に気配がある。

 セメトリィさんたちが店の中に入って来た様だ。

 すると何かカウンターとの間で合図があったのか

「おい、いつまでやってんだ早く出てこい、調査が入ってきてるんだ、いつまで経っても扉がしめられないだろうガッ!」

 と倉庫にいた男がこちらに喚きながら入ってきたところでナタリィに意識を刈り取られた。


 ちょっと入りきらなかったので、5人の男たちの隣の牢屋に放り込む。

 無論身包みは剥がしているが、4人部屋を1人でだなんて贅沢な男だ。

 吊られていた子と嬲られていた子も体を洗い終えて少し落ち着いた様なのでボクの収納に入っていた適当なロングワンピースを着せる。

 おそらく15歳になる頃のはずの神楽に似合いそうだと、ユーリのコレクションから用意していたものだけれど仕方ない、彼も許してくれるだろう。

 下着もいくつか用意してあったので女性たちに選んでもらう。

 

 女性は全部で17人閉じ込められていた。

 大人といっていい年齢の女性が5人と、10歳から18歳までの女の子があわせて12人閉じ込められており、そのうち4人はまだ捕らえられて日が浅く、買い手を捜しているところでまだ性的な虐待は受けていなかった。

 服を脱がされていた2人は昨日から性的な拷問を始められたらしく憔悴しきっていたが、今は収納に入れていた非常食のビスケットを分け合って食べていて、少しは落ち着いている。


 女性たちによれば彼女たちは地方から出てきたばかりの頃に誘拐され、この宿に泊まる客に夜伽をさせられたり、売られたり、ある程度の年齢になって引き取り手がなければ殺害されたりしていたそうだ。


(と、そろそろいいかな・・・)

 セメトリィさんたちが入店してから10分程度経っているが、まだ上から動く気配は無いそれならこちらから出て行くのもいいだろう。

 ナタリィと目線をあわせて頷いて合図する。


「それでは皆さん、上に行きましょうか、今上に兵隊さんたちがいます。ただ、証拠が無くて捜査に踏み切れない状態みたいですので、私たちで助けを求めましょう。」

 そういってナタリィが言うと女性たちが、子どもたちは一旦残していく様に進言した。

 上にもまだ厨房とカウンターの男たちがいるため、万が一にも怪我をさせたくないということで女性のうち2名とボクとナタリィとで助けを求めにいくことにした。

 ほかの子達は一旦待ってもらう。


------

(セメトリィ視点)

(さすがに長年やってるだけあって、こっちの嫌なことを平気でやりやがる!)

 余裕の表情は崩さないままで、心の中で俺は毒づいた。


「やましいことがなければ、立ち入り調査に協力願えるでしょう?」

 と、何度か掛け合っているが

「お泊り頂いているお客様のためにもここはお通しするわけには行きません、それともなんですか?罪のない私を押しのけて強制捜査されますか!?先日もなんとかっていう兵隊がそういう風に入ってきて結局何も見つけられずに謝罪だけしておしまいにされまさいたけどなぁ!!おかげでこちらは何人かの顧客が落ち着けない宿だと離れて仕舞われました!!だというのにまたですか!?」


「それならニコラやサヴォイをここにつれてきてくれって頼んでるだろ?ここに連中が入っていくのは目撃されてるんだ。」

 とオスカーが怒鳴りたいのを抑えて要請するが、カウンターの男ジョンスンはシラを切る。

「今お楽しみ中だっていってんでしょうが!娼館からオキニの子を呼んで楽しんでる真っ最中ですよ、邪魔できんでしょう!」

 そう言って取り合わない。


 そのときジョンスンが背中を預けている扉がドンドンとたたかれた。


「おい誰かでたがってるんじゃないか?」

 そういうと、ジョンスンは自分だけ中を覗き込みながら扉を少し開ける。

「すみませんいま立て込んでるのデェ!!」

 しかし、突然叫び声をあげてその場に倒れてしまった。

「何だ!?」

 とオスカーとベルナルドが警戒するが、出てきたのはかわいらしい女の子、紫の髪の色を見るに先ほど連れ込まれた姉妹の姉の方だった。


「貴方たちは、悪い人たちとは違う人たちですよね?」

 そういって首をかしげる姿はまだ大人になりきっていない少女のものだが、握りこんだ拳には強い魔力が感じられた。


---


 この日闇奴隷の売買と人攫いに殺人、それを用いた違法売春宿営業の咎で眠るミミズク亭の職員と人攫いの組織合計12名が逮捕され、その後芋づる式に暴かれたいくつかの闇奴隷商とともに打ち切り(帝国における伝統的な死刑の方法)に処された。

 我々は、17人の被害者と家族を探す2名の王国民を保護した。

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