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第24話:お茶会の話2

名前が唐突に出てきた人物が居るので、作りかけの人物表を後で出します。

 6月30日、暑い時期が終わりに差し掛かり、秋の足音が聞こえつつある今日この頃

 まだ少し日差しは強いものの、じっとりと汗をかくほどでもなくすごし易い季節となった。

 木陰であれば爽やかな風も吹き、絶好のお茶会日和であった。


 ディバインシャフト城の西側の庭園にせり出した茶話室では、すでにお茶会が始まっていた。


 6人がけの円卓が2つと小さな子ども用のベビーフェンスで区切られたスペースが用意されており、一番大きなテーブルには主催者であるエミリア、付き添いのために招かれたオイデ子爵夫人、リーフェンシュタール男爵夫人、トランティニャン夫人、ビュファール夫人、ハープナ夫人が座っており。


 小さなテーブルの方には主催者枠としてアイラが座り、1つあけてアイリスが座っていた。

 二人の間にはアイラが今回特に取り込みを図りたいと感じているカテリーン、アイラの隣から順にソニア、アルフォンシーナ、クロ-デット、エルスティン、シャルロットと順に並んでいる。

 6人がけの円卓ではあるが、みなまだ幼少の娘たちのため、スペースは十分にある。


 赤ちゃん用のスペースには世話をする役に黒髪のメイドナディアとすでにメイドとしての一通りの所作を身につけたエレノアが付き幼児用のイスに座らされたユーディット、アニス、クローデット、キトリー、エレオノールと男児のソル、シルヴェストル、テオドールらがすでに食べ始めていた。


 今でこそ落ち着いてお茶会の体裁を整えているが、ここに至るまでにちょっとした騒動も発生していた。


------

(アイラ視点)

 ポピラー男爵の滑稽さは前世と変わらずすさまじいものだった。

 一口サイズに作ったクリームサンドに水分を奪われた口にお茶を含んで潤わせる。


 この世界には本来紅茶というものはあまり発達しておらず、偶然に発生したものが飲まれる程度であり非常に高価であった。

 一般には茶は緑茶として飲むのが一般的であったが、一部貴族は茶を生産している農家に偶然発生した紅茶葉を献上させることで手に入れていた。

 西洋人風のものが多いサテュロスでは、緑茶よりも紅茶の方が人気は高いものの、その製法については詳しくわかっていなかったのだ。


 前世では神楽が紅茶好きだったため紅茶の発酵工程をこちらの魔法を使った手法で再現することに成功させ、ボクが22歳の頃には、ホーリーウッドの東よりの地域で紅茶専用の茶の栽培も始まっておりだいぶ安価に手に入れることができた。

 そして今生では、神楽には申し訳ないが、すでに紅茶の製法はエドワード様に提出しており(ウェリントンにも茶畑はごく小さいが村の分程度はあったのでそこから作った試作品を提出した。)、今日のお茶会には何箇所かの茶畑から取り寄せた茶葉から作った紅茶の中で特に味にクセがないものを選んで振舞っている。

 味の良い紅茶は前世で栽培地域に選んだ東よりの場所のものが多かったので、おそらく土質が紅茶向きなんだろう


(やっぱりバター系のお菓子には、緑茶より紅茶だよねぇ)

 そう思いながら一息つくと隣に座らせたカテリーンが申し訳なさそうにボクのほうをちらちらと見ているのがわかった。


「カテリーンお姉さん、どうぞお茶を楽しんでください。紅茶がお嫌いでしたら、緑茶もたくさんありますよ?」

 そういってカテリーンに笑顔を向けると、カテリーンは苦笑を浮かべて言う。

「何といいますか、父がご迷惑をおかけしてしまって、申し訳なくって・・・」

 カテリーンが言うと座っていたほかの娘たちも・・・アイリス以外、ちょっと困った様な顔をする。

 アイリスはリンゴのタルトに夢中だ。


 彼女が言う父がかけた迷惑というのは今から約30分前にさかのぼる。



 招待状には、母親と子ども二人を案内する内容を書いていたのだが、ポピラー男爵は夫人をホーリーウッド市内の屋敷に残して今年9歳になるカテリーンと4歳になるテオドールをつれてやってきた。

 カテリーンはあっているがテオドールのほうは間違いである。

 前世ではボクとカテリーンが出会ったときにはすでに死んでしまっていたが、もう一人同母妹がいる。

 こちらが招待状に示したユディの年齢に近い子どもとはその娘であり、ちょうど来月に1歳になるアイリーンという娘のことだったが、なぜか男爵は次男のテオドールを連れてきた。

 本当はアイリーンを見てみたかったのだが・・・、アイリーンは前世においては1歳の誕生日にポピラー男爵のうっかりのせいで命を落としたため、顔を合わせることのなかったが、前世のカテリーンが病的なまでのいとけない子ども好きとなった主因である。

 今日呼びつけた子の中でも一番ユディと誕生日が近い娘だったというのに、ポピー(※ポピラー男爵のこと)ときたら相変わらず自分に都合のいい解釈をしたんだろうな。


 カテリーンをユーリの嫁に、テオドールをユディの婿に・・・とか、ポピーならきっと年若いユーリ君には姉さん女房のほうが向いていると言っておいてその6秒後には、幼いユディ殿にはリードできる優秀な年上の男性の方が向いているとかいって婚姻を迫ってきそう・・・というか下手したらそれをホーリーウッド家が望んでいるとか考えていたのだと思う。


 そして、招待状がないと入れない旨を告げたメイドに平手打ちをしたところで、ボクに声をかけに来たユーリと護衛についていたウェルズに見咎められ、母と妹を見送りに着ていたトランティニャン伍長に捕まり連行されていった。

 連行されていこうとしているのになぜかユーリにカテリーンがいかに素晴らしい娘かを説いていたが・・・

 招待状はカテリーンの母とカテリーンとアイリーンの分であったが、一人で帰れというのもテオドールがさすがにかわいそうなので参加は許可してあげた。


 しかし若年とはいえ娘たちのお茶会に混じってハーレムというわけには行かないので、赤ちゃんたちの中に押し込めている。

 テオドールは前世では悪い大人たちにチヤホヤされて育ったために選民思想を持ち、大人相手でも自分の思い通りにならないとクビにしたり打ち据えたりするクソガキであったが、さすがに自分の妹と同じくらいの年頃の娘たち相手にはわがままも言えずおとなしくしている。

 4歳にしてはむしろ分別があるほうに見えなくもない。


 ポピーは普段着で来いといったのにやけに派手な服着てきてたし、カテリーンは薄手のコートは派手な装いだったが、それを脱いだら普通の格好だったのでちゃんとドレスコードを守っていたが、テオドールは金具までついた派手な服を着ていたのでちびちゃんたちの中に入れる際に脱がせた。


 少しごねていたが、子どもたちが怪我をするからと伝えるとおとなしく言うことを聞いたので、もしかするとまだ矯正が効くかもしれない。

 そういうわけで、カテリーンが気にしているのはポピーのとった態度についてなのだろうけれどね。


「カテリーンお姉さんが申し訳ないと感じる必要はありませんよ、子どものしでかしたことは躾を怠った親の責任ですが、大人のしでかしたことは本人の責任です。それよりも、今日は楽しんでいってください。」

 お茶会開始時にすでに挨拶と自己紹介は済ませていて、真の主催者は義母エミリアではなくボクであることも説明しているし、ユーリとは遠縁の親戚で、すでに結婚を前提としたお付き合いを始めていると、ボクと義母と二人で説明している。


 ここに座っている子は頭の回転はいい子たちなので、この集まりが何のために開かれたもので、ボクとどう付き合うのが家のメリットになるかはわかるはずだ。


「はい、ありがとうございます。アイラちゃんは、ユーリ様に見初められただけあって、かわいらしい上にとても立派な方ですわね、まだ6歳にもなってらっしゃらないというのに素晴らしいことですわ。わたくしのお父様もせめてアイラちゃんの半分でも分別がついて、弁えてくださる方だったら良かったんですけれど、早晩ポピラー男爵家はお取り潰しになりそうです。」

 とカテリーンは申し訳なさそうに笑う。


 カテリーンはまだ9歳直前だというのにそんな悲痛な覚悟をしていたの・・・?

 でも、あの父親相手じゃあ怖くて意見も言えなかっただろうね・・・、なにせ木を切るなと言った先代すら殺している様な男なのだから・・・。


 この2年ポピラー男爵領の収益は10年ちょっと前の先代の末期の時期と比べて1/6ほどの収益しか上げておらず、それをポピーは周囲に領地を持っている土地持ち貴族が才能ある自分に嫉妬して、貶めるために妨害していると吹聴しているので、ホーリーウッド系貴族の中で完全に孤立しつつある。

 ポピー本人は領地いることが多いので領都に流れている話は知らないだろうが、来年の基礎学校入学に備えて市内に居を構えているカテリーンとポピラー男爵夫人はさぞ辛い思いをしているだろう。


「でしたら、お兄さんかカテリーンお姉さんが相続して、男爵を隠居させてもいいんですよ?実権をすべて取り上げて善政を敷くならエドワードおじい様に一緒にお願いしてあげます。」

 最後だけわざと子どもらしい言葉で用意できる道筋を伝えるとカテリーンもクスと笑い

「アイラちゃんは本当に恐ろしい方ですわね、私も年の割りに賢いつもりではいたんですが・・・レグルスお兄様に相談しておきますね。アイラちゃんとエミリア様の心遣いに感謝いたします。」

 と、紅茶を飲み。

「あら・・・これは素晴らしいですわね、領地でも偶に紅茶は取れますが、こんなに香りが良いものは初めて飲みましたわ。」

 と、ようやくちゃんとした笑顔になった。


 カテリーンが笑顔になったことでようやくほかの娘たちも安心してお茶を楽しめる様になり、身分を問わないお茶会は、大いに盛り上がった。


 途中アルフォンシーナの席が遠いことでおねえちゃんを求めてシルヴェストル君が顔をクリームだらけにして泣き出したり、商家の娘のクローデットの名前を呼んだ時に、たまたま名前が同じトランティニャン伍長の下の妹が返事をしてしまったりと賑やかな時間をすごし。

 お茶会が終わる頃には、母親たちも仲良くなり、娘たちも親しく呼び合う様になった。


 一応ボクとユーリが結婚前提でお付き合いしていることは正式に発表がされるまでは伏せる様にしてもらったが、後日城に出入りする商人や貴族たちには、『若君の隣にいる娘は相応しいご令嬢らしい』といううわさが流れ、ユーリだけでなくボクにも挨拶していく人たちが増えた。


 お茶会に招いた女の子たちとは互いに手紙をやり取りするほど親しくなり、家ぐるみの付き合いは生涯続いていくことになった。


------

(ソニア視点)

 昨年弟が生まれて、家業を継がせるお婿さんを取る必要がなくなった私は、来年から学校に通うことになった。

 なるべく3年の最短卒業がしたかった私は、あわてて勉強をしていたのだけれど、ある日突然領主様の紋章の入ったお手紙が届いた。


 封を開いてびっくり、ホーリーウッド家のお茶会に呼ばれた。

 私とママとまだ1歳になったばかりの弟のソルと、たまたまユークリッド様と年が近く、たまたまソルがユーディット様と年が近いからという理由で呼ばれるらしい・・・。

 身分を問わず呼んでいるので、町娘の格好で良いよとは書いてあるし、作法も問わないと書いてあるけれど、貴族様が作法の範疇だとも考えてない様なことがあって、無礼を働いたと見られるかもしれない。


 そもそも私の家は平民の中でも荒っぽい鍛冶屋さんなのだ。

 おおよそ淑やかという範疇にはない私やママが何かやらかして処罰されるとかあったらやばい・・・。

 そう思って親友のコリーナの家に駆け込んだ。

 コリーナの家「春の狐亭」は、中級までの貴族が滞在することもある有名な旅館で、コリーナなら、最低限貴族の前でやっちゃいけないこと、なんてものもわかっているはずだと、そう思ったんだ。


---


 結果的にコリーナの家で初めて顔を合わせたクローデット・ビュファールちゃんという、私の3つ下の女の子と一緒になりクロエと呼ぶ様になったけれど、彼女もお茶会に呼び出されていて商店を営んでいる母親は貴族の相手をすることもあるから心配ないけれど、自分はちょっと怪しいから・・・とコリーナに教えてもらいにきたのだった。

 思わぬ同士とであった私は、コリーナに最低限のマナーを教えてもらってお茶会の当日を迎えたけれど。

 いざ本番を迎えるとお茶会というのはたいしたことはなかった。


 たいしたことがないというとお茶会がショボかったみたいに聞こえるか・・・。

 緊張する必要はなかったというだけだ。


 お茶会に呼ばれていたのは、貴族3家族と、平民3家族、平民は商人、兵士、職人の3つの身分とさらに主催者側が、ママたちの相手をしていたのは次期ホーリーウッド侯爵夫人だけれど、私たち子ども組の相手をしていたすごくかわいい女の子の双子で、その最初の自己紹介が・・・


「はじめまして!アイラ・ウェリントンと申します。本日はボクとエミリアかあ様のお茶会に足を運んでいただきありがとうございます。ボクの社交界デビューの前哨戦ということで、まずはお友達の伝を作っておきましょうと、本日のお茶会を開くに至りました。かあ様と呼ばせていただいているのでお分かりかと思いますが、現在ユークリッド・フォン・ホーリーウッド様と結婚を前提にお付き合いをさせていただいております。」

 ところどころで、貴族の女の子たちの息を飲む声が漏れて、私はそのたびにビクついてしまいそうになるけれど、年下のクロエが我慢しているのにみっともないところは見せられないからと、何とか我慢した。


「ボク自身最近知ったのですが、ユークリッド様とは遠縁の親戚らしくエドワードおじい様やギリアムとう様にも二人の仲は認めていただいていますがつい2ヶ月ほど前まで農村で暮らしていた身でもあります。まだまだ至らないところも多いですがユークリッド様の隣に居るに相応しい乙女となるべく日夜努力しているところです、今日のお茶会もかあ様に手伝っていただきながらボクが内容を決めました。お菓子やお茶もボクが手配したものになります。ですので赤ちゃん席あり、お母さん席ありになってます、伝統的な貴族のお茶会とは外れたものになってますので、気楽に楽しんでいってください」

 そういって、双子の片方が座るともう一人の双子が頷き立ち上がり。


「アイリス・ウェリントンです。こーちゃとリンゴのタルトと最後に出てくるあいすくりーむって言うのがおいしいです!」

「アイリス!あいすはまだ内緒だよ!あとそれ自己紹介になってない!」

 なんていって急に子どもらしい空気になったのがすごく楽しくて

 緊張していたのがばかばかしくなるくらいみんなで賑やかにおしゃべりしておいしいお茶とお菓子を楽しんだ。


 お茶って言うと普通は薄い緑色をしたものが一般的だってきいていたのに、この日メインで振舞われたのはなんと紅茶!

 一回分の茶葉で平民一家族の一日分の食事代に匹敵するとまで言われる高級品が何回も出てきて正直気が気じゃなかった。

 普通のお茶だって毎日は飲めないっていうのに・・・。

 と、領主様の家のお金の使い方を不満に思っていたら。

 なんとアイラちゃん(親しく呼んで欲しいといわれた)が紅茶の作り方を開発したので今後は徐々に安くなる。

 今日のお茶はそのためにできた試作品であるというのだからさらに驚くことになった。


 そうして最後に出てきたあいすくりーむはすごかった。

 普通冷たいお菓子って氷の魔法でカチカチに凍らせた果実の濃縮液とかが一般的で、それならうちでもたまに食べたことがあったけれど、出てきたのはなにやら白っぽい色のやわらかい食感のおやつで・・・。


 招待されていた貴族の娘のカテリーンさん、エルスちゃん、アルフィちゃんも『こんなの初めて食べた!なにこれ!?』と目を丸くしていたので、きっとすごく高いお菓子なんだろうって思ったら材料は卵と牛乳と砂糖とバニラ後はお好みで果実汁くらいだといっていた。

 それなら高いだろうけれど、すごくまでは行かない気がする。

 ミルクブレッドにつけられてるのとほとんど同じ材料だ。


 このアイラちゃんはきっとものすごい子なんだと、私は信じることができた。

 だとしたら・・・もしかすると私とクロエ、共通の友人にコリーナを持つ私たち二人がこのお茶会に呼ばれたのも偶然じゃないんじゃないか?


 お茶会の前にカテリーンさんの父親が暴れたのもアイラちゃんの読みどおりじゃないのか?なんてたくさんのことが怪しく見えてきた。

 そして後日、カテリーンさんのお父さんを無理やり隠居させて、お兄さんが家を継いだという手紙がカテリーンさんから届いて、私の感想が正しかったのだと確信した。


人はたくさん出てきますが、ほとんどはちょい役です。

また話の中には一部ファーストネームが同じ人が出てきたりもしますがただの偶然ということでお願いします。

特にジャック、ケビン、メアリあたりは大陸中いたるところに居ますので今後も同じ名前というのは出てくると思いますが、別の町で出てくる場合、特別な言及がないなら別人です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ポピラー男爵に対しての言及は最大限オブラートに包んでいるのに対し テオドール君に対してだけクソガキ呼ばわりなのは釈然としなかったです そもそもテオドール君は父親のせいで歪んだある意味…
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