第22話:男女比率と格差社会
辺境の村ウェリントンから出てきた村人たちが、ホーリーウッド城に入って1時間ほど経った。
夕食会はつつがなく進行し、もてなしと挨拶という目的は果たされつつあった。
行儀見習いとして使用人働きをしていたコンラッド・ハーディスティフ・フォン・マッキンタイアーは、せっかくエドワード侯爵の近くを陣取ったにもかかわらず、その侯爵に命じられ不本意ながらも農民の世話を焼いていた。
「・・・それではモーラ嬢は、紡績、型紙、縫製などを習ってウェリントンに帰りたいわけじゃな。」
ホストであるホーリウッド侯爵エドワードは、ゲストに順に声をかけ、今は最後のモーラの番となっていた。
「は、はい、ゆくゆくはウェリントンの特産品になる様な織物を作りたいと思っています。ウェリントン周辺では毛織物の需要はそうでもないですが、ホーリーウッド北部や大陸北部ではそれなりに需要が高いと村長から伺いました。村の食料生産は足りているので、村の長期的な発展のためには現金収入が必要だと常々父も言っておりましたので、その、幼い弟妹のためにも私が道を作れたらと思い、今回のホーリーウッド行きに志願しました。」
モーラはその健康的な肌に赤みを帯びながら受け答えをしている。
緊張し噛みながらも自分の言葉で語るその姿は、勤勉で内気な乙女が、精一杯の冒険心と村へ貢献したいという志で、彼女を村から出したと周囲に感じさせた。
そしてそんな彼女の真横で見ていたコンラッドは彼女の横顔に、見ほれていてこれがわずか数ヶ月後には恋心に代わっているのだが、このときの彼は田舎娘が分不相応な志を持ったに過ぎないと、冷めた目で見ていた。
実際のところモーラは自分が継ぐつもりだった村の治水や渡船の事業を弟のソラに譲ることにしたため、あわてて自分の食い扶持を考えるために村を出たに過ぎなかった。
性質はがさつだが手先は器用なため、エドガーがこれからウェリントンで発展する見込みの服飾系の産業とホーリーウッドでの修行を勧め、提示された可能性に反射的に飛びついただけであったのだが、せめて格好をつけたいと父やエドガーの言った言葉をうろ覚えに述べた結果、初見の人たちはおろか、ウェリントン出身組にまで半ばそれを信じさせたのだった。
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(コンラッド視点)
(クソ!失敗した!)
俺は奉仕的笑顔を貼り付けて心の中でため息を吐いた。
苛烈な場所取りに勝ち侯爵閣下に程近い場所を得たというのに、右手側にいたせいで、この田舎娘につく様に命じられてしまった。
今回ははずれを引いてしまった様だ。
田舎娘が、ウェリントンとか言う開拓村から来たと聞いているが、そんな僻地出身では基礎学校卒業程度の能力を認定する試験にも通るまい。
あれは、田舎出身で基礎学校に通えなかったが優秀なものの可能性を絶たない為に作られた制度で、普通に5年かけて卒業する程度の知識を求められるものだ。
(この田舎娘、とりあえず領都にまで出てくれば一花咲かせられるとか甘い考えで出て来た無学な娘、所詮たまたま同じ村に侯爵閣下に縁故のあるものがいて、便乗したに過ぎない。)
そんなやつが緊張の色を見せたせいで、俺が侯爵に覚えられるチャンスをフイにしやがって、俺はもう15であと2年ちょっとで貴族を名乗れなくなる、早く侯爵に覚えていただいてよい縁談か任官先を紹介していただかないといけないというのに・・・。
貴族家を継ぐことができない下級貴族の三男以下は上位の貴族の下で行儀見習いをすることが多いが、15歳の成人か、結婚適齢期といわれる18歳まで実家の籍に入れておいて貰えるのが一般的だ。
貴族を名乗れるほうが結婚に有利なのと、大きな権力を持つ家と縁故ができたときに実家に利益をもたらすかもしれないからだが、この期間に結婚や任官を決めるか、縁故をつくれない様な無能は容赦なく縁を切られる。
よほど優秀なら行儀見習いに出された家の娘婿に、なんてこともあるが、現在ホーリーウッド家にいる娘はまだ1歳にもならないユーディット様だけ、まぁそもそも男爵家の三男風情にはそんな話は回ってこないか・・・。
考えてて悲しくなってきた。
あぁそうか、あのウェリントン家の娘なら、年齢的にも俺とつりあうし、よくは知らないがホーリーウッド家の遠縁らしくこのたび呼び寄せたとのことだから、あの長女に気に入られればホーリーウッド侯爵家の縁故になれるかもしれない・・・そう思って長女の顔を改めてみて絶望・・・。
(あれ絶対無理。)
どうやったって伯爵家や子爵家の長男からぜひに・・・と縁談が来る顔だ。
お顔の出来が俺とは違いすぎる・・・。
ってよく見ると、この村娘たちみんな容姿が整ってるな、俺も貴族だし顔は整っている方だと思っていたが、顔の等級が近いのは俺がつけられた短髪か、その隣の赤毛くらいか・・・。
本当に村娘かよ?下っ端とはいえ貴族の三男と同等以上の顔しかいないなんて・・・。
(自信なくすよなぁ・・・)
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食事会が始まって40分ばかり経った頃、順にそれぞれの娘(一人男と美人の母親もいるが)に話題を向けていた侯爵閣下がとうとう俺のついている短い髪の女に会話を試みた。
短髪、名前はモーラ・シルバーレイクというらしいが、村娘が村の中では頭のよい娘だったかも知らんが、甘っちょろい分不相応な夢を見て町に出てきたらしい。
内気そうな女が浮かべたその情熱を持った瞳、横から見ていて一瞬強く惹きつけられて、少し不愉快に思った。
(どーせ、夢破れて村に帰ることになるさ)
そう、思いながらも顔には笑顔を貼り付けたままで、俺は給仕を続けた。
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(エミリア視点)
私エミリア・カミオン・フォン・ホーリーウッドはもともとは没落した貴族の娘らしい。
らしいというのは、実家は何らかの理由で取り潰され、私は家名を伏せた状態で王家に養育されたからだ。
私は実家のことを知らない。
物心ついたときにはすでにメイド見習いであったし、とりあえずとある貴族の四女だったということしか教えられなかった。
王家でメイド修行をしている頃、武芸の才はなかったので普通のお側メイドの修行をしていた私は、ギリアム様と出会い、一目で恋に落ちた。
10歳で出会って、その5年後にはこの腕でユーリを抱いていた。
私とギリアム様だって初恋で一目ボレを経験したので、アイラちゃんがユーリとお互いに一目ぼれだというのも信じることができる。
でも初恋がいつだってかなうとは限らない。
だから私は自分からアイラちゃんを焚きつけたのに、少し待つ様に二人に提案した。
なにせ二人はまだ若いから、結婚を意識するにはまだ10年近くあるはずだ。
婚約は2~3年くらい相性を見てからでもいいはずだ。
だけど、夕食会を経てその考えも少し危ういかと感じ始めた。
そのくらいほかの子たちも魅力的だったのだ・・・。
はじめ私は年齢とその優れた容姿からアイラちゃんかアイリスちゃん、そしてアニスちゃんがユーリのお嫁さん候補になればと思っていたけれど。
まずサークラちゃんは、その類稀な美貌はうちの主人、ギリアム様や、エドワード様の視線までもを釘付けにしてしまった。
これは年の差があろうとも、それを覆せるほどの美貌だった。
そして結構な豊乳
そしてほかのウェリントンから預かった女の子3人と次期村長夫人のアンナちゃん、アンナちゃんはハンナさんの姉妹だけあって美人さん、サークラちゃんやその姉妹たちとの血のつながりを感じさせる。
そして結構な豊乳
アルンちゃんは気品のある子で、ホーリーウッドで商人になり、間接的に村の助けになりたいそうだ。
その志を現実にできそうなほど頭の回転は速くて、なおかつ結構な美人さん、そして結構な豊乳
エレノアちゃんは恥ずかしがり屋さんで髪を長くして目元を隠しているけれど、アレはかなりの美少女顔だ。
アルンちゃん、モーラちゃんと違い、アイラちゃんのメイドになりたいとホーリーウッドにやってきた子の子は、サークラちゃんに匹敵する貴族たちの間でもそれなりに話題になりそうな美貌とその暴力的なまでの巨乳、あの胸だけでもその辺のエロ貴族に目をつけられるであろう、絶対に守ってあげないといけないけれど、ホーリーウッド家が後ろ盾とはいえ主人になるアイラちゃんは平民扱い、ヘタを打つと頭の悪い貴族がどうにかできると思って、ひどい心の傷を作らせる恐れもある。
ちょっと対策を考えるべきかもしれない。
最後にモーラちゃん、今回連れてこられた子の中では一番普通の顔立ちの女の子だ。
聞いている話では活発で、弟妹想いの子。
しかし、今話している彼女は、借りてきた猫の様におどおどとしていて、守りたいという庇護欲がかき立てられる。
現に横につけられた、お義父様の言うところの「気位ばかり高くて使い物にならないマッキンタイアーの」が、気をとられている。
それに、唯一私と分かり合えそうなおしとやかな胸の女の子だ。
私にとってはある意味一番将来が気にかかる女の子である。
そんな彼女が話した志は、村娘が一人で描くには大きな絵だけれど、村の人たちみんなで描くことで現実味を帯びる夢だ。
自然に、応援したいと思った。
食事会も終盤となり、アイラちゃんやアイリスちゃん、そしてアニスちゃんがお義母様に、ご挨拶をしてかわいがられている。
お義母様はあの幼い娘たちはもちろんウェリントンの村娘たちのこともすごく気に入って下さった様だ。
「困ったときは私やミリアに相談しなさい、力になります」と直々に声をかけていた。
最後に今までメイドのナディア以外の女の子に興味らしい興味を示さなかったユーリがアイラちゃんと何の気なしにキスをしているのがお義母様の目に留まり二人が出会って2時間ほどですでに相思相愛になっていることを知ると大層喜んだ。
こうしてアイラちゃんは、ホーリーウッド家の真の支配者のお気に入りとなったものの、一度女の子に興味を持った以上ユーリがほかの女の子に心惹かれないとも限らない状況となってしまった。
今までユーリには、家柄目当ての女の子が群がってきていたけれど、アイラちゃんもほかの子たちもホーリーウッド家のことを強く求めているわけではない、みんなほかに見ているものがあって、志があって、それぞれに魅力的な女の子たちだ。
今はアイラちゃんが2歩くらいリードしているし、二人はとってもお似合いだけどほかの子も・・・などと、私は息子の未来図を思い浮かべて一人で妄想を続けるのだった。
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(トーレス視点)
ディバインシャフト城で頂いた昼食も素晴らしかったけれど、ホーリーウッド城の夕食もまた素晴らしいものだった。
ウェリントンからついてきた皆も緊張はしているものの、料理自体は楽しめている様だし、一番心配していたモーラもがさつさはなりを潜めて、実に乙女らしい態度で食事と対話をしている。
いつもこうならもっとモテただろうに・・・。
しかしなんというべきか・・・、初めサークラ姉さんの次にエドワード様からお声かけしていただいた後、もうずっと会話に加われないでいる。
この場にいる男はエドワード様、ギリアム様、ユーリ様と使用人たちだけど、ユーリ様はアイラに夢中、ギリアム様はそんなアイラとユーリ様の様子に気をとられていて僕を気にかけている人はいなかった。
僕はアニスに付いてくれたユイさんと一緒にずっとアニスの食事の世話をして、その日の食事会では最後に姉、妹とともにフローレンス様に挨拶をするまで、ほとんど僕は目立つことができなかった。
目立ちたいわけではないけれど、姉、妹と比べてどうも僕は地味なのかもしれない。
今まで村の中では男が少なかったので気にすることのなかったことを本気で考える様になった・・・。
何がとはいいませんがアイラ、アイリス、アニス、ナディア、トリエラ>成長前
ハンナ、アンナ、サークラ、ユイ>豊
エッラ>巨
アルン>普
モーラ、エミリア>無




