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第20話:現状確認

 ディバインシャフト城の一室で、金髪の幼女と、金髪の少年が抱き合い唇を重ねていた。

 学校に通い始めたばかりの少年と、まだ学校にも上がる前の幼女ではあるが、二人の抱擁は実に自然にお互いを求め合い、欲した結果のものだった。


 たった今二人は生まれて初めて出会ったわけだが、一方には7年ほど、そしてもう一方には30年以上の間会うことの叶わなかった想い人との出会いであった。


 しかしそうであるが故に、二人の睦まじいやり取りも感情も、彼らの事情を知らないものにはとても唐突で、非常識なものだった。


---


「な、ナニをやってるんですか若様ぁぁぁぁぁ!」

 少女趣味全開の部屋にまだ幼さを持つ少年の声が響く、少年の名はイサミ・ヘリオトロープ、今この部屋の中で幼女と抱き合い、その唇を吸っていた少年ユークリッドのわずか20日ばかり早く生まれた乳兄弟で、ホーリーウッド家ディバインシャフト城のメイド長を勤めるユイ・へリオトロープの長男であり同じくメイド住み込みで見習いをしながら学校にも通っているナディア・ヘリオトロープの弟でもある彼は、主家の奥方であるエミリアに言いつけられて、ユークリッドが眠っている幼女に何かいけないイタズラをしないかを見張っていた。


 貴族の嫡男でありながら普段女の子に興味を示さないユークリッドだからこそ、エミリアは危惧していた。

 あるいは、このまま一生女の子に興味を持たず、婚姻してもそれは家の存続のために義務感だけによってなる、愛のない結婚生活を送るではないか

 またあるいは、心を開いているナディア、あとは最近心を開きつつあるトリエラに対してすでに何か手を出していてそれに満ち足りてしまっているのではないか?と


 故に彼女はもとより親戚で、背後に他家貴族の影のないアイラというユーリの有力な婚約者が年端も行かないとはいえ、同性のナディアやトリエラに命じず、男であるイサミに見守りを命じたのであった。


------

(アイラ視点)

「な、ナニをやってるんですか若様ぁぁぁぁぁ!」

 と、突然ボクの部屋の扉を開け放ち怒気を放ちながら入室してきた少年は、初めて見る顔だった。

 今生ではなく、前世も含めての初見の彼は、日ノ本人の様な艶のある黒髪、メガネの似合いそうなやや険のある顔立ちに、今は焦りの表情を浮かべてボクたち・・・というかユーリのことをにらんでいる。

 ていうか1桁の男の子に険のあるって・・・ボクはなにを言っているのだろうか。


 若様と呼んだくらいなのだからきっと彼はホーリーウッド家の家臣のはずだけれど、主家の嫡孫をにらみあげるだなんて大丈夫なのだろうか?


 乱入者の存在に急速にボクの思考は冷静さを取り戻していく。

 しかしそんな彼の睨みにも怯むことなくユーリはニコニコとした笑顔でいった。


「どうしたの?イサミ怖い顔して、せっかくナディアに似て綺麗な顔をしているのに」

 ナディアに似ていると言われてその顔立ちを見れば確かに、ナディアに似ているとわかる。

 何よりこちらの世界ではそこそこに希少なはずの黒髪がその名前で結びついた。

(そうか、さっきエミリア様の後ろにいたメイドさんがナディアのお母さんか・・・。エミリア様が生きていらっしゃったのだから、一緒に亡くなったナディアの母と弟がいるのは自然なことだ。)


 ユーリの余裕ぶった態度は、イサミくんを少し苛立たせた様だった。

「若様!そんなことをいっている場合ですか!早くお嬢様から離れてください!普段どんなかわいらしい女性にいいよられても興味を持たれないかと思えば、自分より幼いはじめてあう女の子の寝込みを襲うだなんて、見損ないました!!」

(あ、これ怒ってる?)

 と思いユーリのほうを見るとニンマリと笑っている。


「イサミ、僕が女の子を無理やりどうにかする様な男だと思うのかい?もう7年も乳兄弟をやっている仲じゃないか?」

 と、ユーリは芝居がかった態度と言葉で彼に自身の潔白を伝える。


「それは、若様はすごく賢い方ですし、お家のためにと伯爵令嬢や子爵殿の孫娘様などに言い寄られてものらりくらりとかわされていたのはわかりますとも、ですがその際若様はおっしゃっていました。自分の初めては逢引きも接吻もすべて婚約する方に捧げるのだと、それなのに今日出会った。いえ寝起きなので出会ったとも言いがたい女の子に無理やりされたのですから、文句の一つも言いたくなります!!」

 と、彼は7年になるユーリとの付き合いだからこそ、今のこの行動は信じられないのだと述べた。


 しかし別に無理やりされたわけではないし、すでにボクはエミリア様から婚約を仄めかされているのだから、彼がボクの部屋に入ってくるのはまぁ許されないことはないだろう。

 が、このイサミという少年については別だ。

 せっかくのユーリとのファーストキス、雰囲気もまぁボクが錯乱していたことを除けば「いいかんじ」だったと言えよう。

 話の感じからして、覗き見はしていたが、声は聞こえていなかった様だけれど、イサミ君は今ボクの部屋に、それも30数年ぶりのユーリとの逢瀬に乱入してきたのだ。

 理不尽かもしれないけれど、彼に対して少しばかりの苛立ちの様な感情が芽生えた。


「あの・・・出て行ってください!」

 ボクはなるべく不機嫌に聞こえるであろう声でイサミ君に呼びかける。

 するとイサミ君はそれがユーリと自分の両方に告げられていると判断した様で

「ほら、若様怒ってますよ!早く行きましょう、えーっとお嬢様、申し訳ありませんでした。」

 とユーリを引っ張っていこうとする。

 言いよどんでお嬢様と呼んだのは、たぶんボクの名前をまだ聞いていないかおぼえていないのだろう。


「イサミ君だけです、女の子の部屋にノックもなしで入ってくるなんて!ホーリーウッドの使用人は教育がなってないんですか?」

 とボクがジロリとにらむとイサミ君はうろたえた。

 しかしユーリの乳兄弟だから少し先に生まれた子のはずで、たぶん7歳だとおもうんだけれど、しっかりとした子で、それだけにこんな理不尽な怒りを向けてしまって申し訳ないとは思う、でもボクは一刻も早くユーリとの蜜月の時を過ごしつつ、情報の交換をしたいのである。


「えっ?えっ?」

 とボクの顔を見ながらかわいそうなくらいにうろたえるイサミ君に少し申し訳ない気持ちはあるが、ボクは続けた。

「ユーリと二人きりで今後のことを話し合いたいので、イサミ君は出て行ってください。」

 と冷たい目で告げると、イサミ君は信じられないという顔をして、もう一度ボクとユーリの顔を見てから。


「失礼いたしました。5分以内に部屋の外に姉を立たせておきますので、何か御用があればお呼びください。」

 と頭を下げて部屋の出口へ向かう。

 その表情は失敗したのか?と自分を責めているものだったので念の為フォローもしておくことにした。


「ボクのことを心配してくれたのはありがとう、後でまたお話しましょう?」

 と笑顔を戻して告げると彼は、短く頭を下げて扉は閉められた。


------

(ユーリ視点)

 イサミを追い出したアイラは、ほほを膨らませて僕のほうを見た。


 すでに僕は、心の中の考え事ですら、自分のことを僕と呼ぶ程度にユーリになった。

 何せリリーをやっていたのはすでに80年ほども前のことになってしまったのだから、先の70数年のユーリとしての人生の間に僕の中のリリー・マキュラ・フォン・オケアノスはとても大事なものではあるけれど、自分自身では無くなっていった。

 だから今目の前にいる女の子は前世で初めて出会った頃の、母性をくすぐられる守ってあげたい女の子ではなくて、一緒に添い遂げたいそんな女の子だった。

 もっと言えば抱きたいと思った。


 そんなこの金髪の少女が、春の暁の様な私の大切な女の子が、何か言いたげに口を尖らせてこちらを見ているので自然、引き寄せられる様にその唇を再び啄ばんだ。

「んぅ!?」

 と驚いた声を上げるけれど、すぐに抵抗らしい抵抗はなくなり、僕のなすがままになって体を委ねてくれるまだ幼い体付きのアイラ、普通の5歳にこんなことをしたら罪悪感に潰されてしまうかもしれないけれど、幸い彼女も前世の記憶を持って生まれていることをすでに知っている。


 僕は彼女の頭と背中に両手を回すとより強く彼女を抱きしめてその口腔内を味わった。

 抑えつけたことで彼女は、自分では僕から離れることができなくなり、寝起きでやや水分の少ない彼女の口の中は、僕の舌の水分を奪っていくほどにねっとりとした熱を帯びていく。

 その熱も、その味も匂いも、僕にとっては懐かしい甘さを伴っていた。


 ややあってアイラが苦しそうにし始めたので一度口を離し、一瞬息を吸ったのを確認してもう一度その口をふさいだ。

 今度はさっきと違って、軽く上顎を擦る程度に抑えたけれどアイラの足は力を失ってへたり込んだ。


 とっさに筋力強化を使ってアイラの体を支えると、そのままベッドの淵に座らせる。

 そしてそのまま押し倒してさらに口を吸った。


---


 我ながら抑えの聞かない馬の様になってしまった。

 と、僕は猛省した。


 あれから3分ほどアイラが酸欠寸前になるまで僕はキスを続けて

 アイラが荒い吐息で弛緩しきった手足をだらりとさせて、無抵抗に僕を受け入れる様になった頃にようやく僕は自分自身がようやく7歳になったばかりだったことを思い出した。

 一度前世で味わい尽くしているせいか一度スイッチが入ると歯止めが利かなくなってしまった。

 

「それじゃあそろそろ話を聞かせて欲しいな。」

 ほとんどキスだけで体力を失わせてしまったアイラが、ようやく能動的に動き出して、今度は自分から僕の背中に手を回して胸に顔を押し付けてきて言った。



「ごめんなさい・・・」

 ひとまずは謝るしかない・・・。

 ほとんど会話らしい会話もないままでアイラが寝起きという優位を利用して彼女の唇を奪い、体格差という優位を使って彼女を拷問に近い長時間のキス責めにしてしまった。


 普通の女の子ならトラウマもので、泣いててもおかしくない、先ほどイサミを追い出したこともある。

 今人を呼ばれればボクは自分よりも幼い女の子に乱暴を働いた不出来な子ということになる可能性だってある。

 それなのにとりあえず話を聞いてもらえるというだけでも僕は感謝するべきだろう。


「何を謝ってるの?そうじゃなくてここまでの話、お母様たちのこととか、君の生まれ変わりの話とか・・。ボクは暁に生まれなおすことなく、アイラとして生まれるところから始まった。それからどういうことか、ちょっとずつ人生が変わっていて、こんな早い段階からホーリーウッドにくることになった。そのくらいかな?あと、君が死んでから30年近くボク生きてたんだから・・・、子どもたちがいたとはいえ寂しかったよ?」

 とアイラはたぶん泣きながらいって、僕が謝ったのは間違いだった様だったけれど、やはりもう一度謝らざるを得なかった。


------

(アイラ視点)

 徹底的な蹂躙を受けた。

 矮小で敏感なアイラの体は、体力に勝る彼に腕を回された上、口腔内を侵した彼の舌の動きに翻弄され、抵抗らしい抵抗もできないままボクは足腰立たない状態となった。

 そのままベッドの上に乗せられ、押し倒されて、それでもまた執拗に口を責められて、体にほとんど力が入らなくなってしまった。

 口の中だけじゃなくて、首の周りや、お腹を擦る彼の手が気持ちよくて、少し怖かった。


 それから彼は満足したのか、キスを辞めてしまって、ボクは呆然とした彼の背中に下から手を回して抱き寄せた。


---


 少し彼と話していくつかの情報を得た。

 まず、彼はリリーの段階を経ず前世のユーリから直接ユーリに生まれ直したらしいこと、これはボクと同じ状況だ。

 そして、彼も勇者としての能力を持ったままで生まれ直していること・・・。


 これでボクとユーリが生まれ直したということになり、現状で生まれ直しの条件になりそうなのは、転生を経験していること、または性が転換しての転生を経験していること、一瞬ホーリーウッド家の「強運」もありえるかと思ったけれども、それならギリアム様も覚えているはずだと忘れることにした。


 ほかには、カンナさん他多数の女性を殺しリウィを不幸にする予定だったゲゼル男爵とその一味はユーリの謀略によってすでに処刑されたこと、それがどう因果を回したかはわからないが、エミリア様とナディアの母のユイさんと弟のイサミ君が死ぬはずだった日に前世と異なり、ユーリも馬車に乗ってみたが、事故が発生しなかったこと、結果母エミリアが妊娠し妹のユーディットちゃんが生まれ、これが大変にかわいいこと、そして・・・・。


「ラピスが前世を覚えているかもしれない?」

 ボクは思わず聞き返した。

「うん、まだ直接顔を合わせたことはないし、確定ではないんだけれど、どうも今のところジャスパー様が生きてらっしゃるんだよね」

(だから改変が発生している、近くに生まれ直した人がいるかも・・・ってことか)


 ラピスは前世において出会った北侯爵家の次女で、地球の日ノ本からのボクと同郷の木下昌人きのしたまさと君という男の子が生まれ変わった転生者だ。

 前世において彼女はやはり同じく転生者のヒースという子と一緒にボクたちの助けとなった。


 ジャスパー様はそんな彼女が4歳の時に死に別れたこちらの世界でのお兄さんで、ラピスはボクと同い年、ならもうすでに予定では死んでいるはずだったが、どういうわけかまだその訃報は届いていないらしい。


 現状推定している生まれ直しの条件、転生か性が転換しての転生に当てはまる。

 そしてそれならヒースのほうも当てはまるのでもしかしたら、両方が生まれ直しをしているかもしれない。


 まぁ本当は条件なんかなくて、転生と同様条件不明とかならどうしようもないが、今はまだ推測を続けていきたい。



ユーリがたくさんの情報をもたらしてくれました。

名前が出てきましたが、まだしばらくラピスやアイビスの出番はありません


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