第180話:ボクの可愛いお姉ちゃん
幼女とひと時の平穏な時間を過ごしていたアイラ達は、激しい音と地響きを感じ、恐らくはその発生源らしい訓練場へと移動した。
その扉を開けた向こうには衣服をはぎ取られた様な姿で膝をつくケイコ・チョウビと仰向けに失神たシンチョウ・ヴォーダ、そして地響きの発生源らしいクレーターの真ん中でペタリと座り込み涙を浮かべたエレノア・ラベンダー・ノアがいた。
姉妹の様に仲の良いドラゴニュートメイドのフィサリスに慰められている様子の彼女はアイラの方を振り向くと、その双眸から涙を零し呟いた。
「アイラ様・・・、私、お嫁に行けなくなってしまいました」
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(アイラ視点)
ボクは混乱している。
今、彼女は何を言った?
信頼するメイドの突然の告白で、頭に血が昇ったのが分かる。
待て、一旦状況を整理しよう。
もともとここではケイコ女史が新ダイミョウとなったシンチョウ氏に何かしらの手解きをしていたはずだ。
それは先輩ダイミョウとして、新たにダイミョウとなり、ミカドを支えていくと決めたシンチョウ氏にダイミョウ鎧の扱いを落とし込む様にとミカドに要請されての事だった。
それから工房で簡単な説明を受けていたユーリたちは大きな物音を聞いて、それがシンチョウ氏に対して試し撃ちをして見せたケイコ女史のものだったと報告を受けた様なことを言っていた。
その後エッラとフィサリスはユーリを残して訓練場へ移動、その後ボクたちはエコーのヒビキへの改名とその理由を伝えるためにメグとエイラを先行させたけれど、彼女たちもユーリに伝えた後、エッラたちに伝える為に訓練場へ向かった。
御前会議に参加していたミカドに味方する者たちにはエコーの姿をじっくり見られているので、ごまかしは効かないと考えて=ヒビキであることは伝える予定なので二人にも伝わっているハズだろう。
社会的にエコーは死んだことにするが、それはすでにボクたちがあの森でクマとセントール族の幼女を迎えたことが中央の町人たちにも噂として広まりつつあることを考慮しての策であり、必要以上に悲しむ人を増やしたいわけではない。
つまり、すでにエコーと触れ合い可愛がってくれたエロイースやシンク、トリシア姫、シングウ氏にも事情とヒビキへの改名は知らせる。
彼らはティーダと敵対しているし、ティーダの利益になるマネはしないだろうし、ミカドがヒビキを神楽の養女として認める面倒を見た以上、逆にティーダの大義名分をつぶすためにヒビキを殺す様なマネもしないだろうと判断してのことだ。
あの場に居合わせ者には箝口令を敷き黙っていてもらうことになるが、それはその個人の善意を信用してお願いする形だ。
いや今考えないといけないのはそういうことじゃなくて、訓練場で先に訓練していたのはシンチョウ氏とケイコ女史で、そこに後から入ったはずのエッラが訓練場の真ん中にクレーターを作って泣いている。
それも彼女にしては珍しく多少とは言え着衣を乱して・・・。
すぐ近くには同じく着衣が乱れほとんど裸に近い状態のケイコ女史と、服をはだけて失神しているシンチョウ氏、そしてお嫁にいけない・・・、これはまさかとは思うけれど、まさか?
エッラは魅力的な女の子だ。
それは暁だった過去を持つボクにはもちろんわかる。
背が低く、顔立ちも童顔気味ではあるけれど、それを補って余りある胸部装甲が彼女が立派に女性であることを強調している。
更に彼女は若年の女性でありながらにしてサテュロスの認定勇者の中でも上位の実力を持つに至っている。
その実力は養父や義父と近い世代のイシュタルト王国の軍部の実力者で、サルファー先輩なども習得している近接砲撃術の祖でもある『魔砲将』ボレアスや、ボクやユーリの幼少の師であるメロウドさんとほぼ同世代の熟練の勇者『剣天』ジェリド、二人と比べると随分と若いが並び称されている『槍聖』アクタイオンの三人を訓練とは言え同時に相手取り、互角以上という凄まじいものだ。
その彼女を力づくでどうこうできるものはもはやイシュタルトには居ないだろうけれど、セントール人であるシンチョウ・ヴォーダならば、なんらかこちらの未知の戦技で不意打ちの様にエッラに狼藉を働くことも可能だったのかもしれない。
もしそうだったとしたら・・・。
ビクン!
流石に武芸の心得がある様で、ボクが放った殺気に反応してか、シンチョウ氏の体が跳ねるが、それ以前に受けた衝撃がより強力であったのか、彼は目覚めることなく。
「グゥヌ・・・」
と呻くばかりだった。
なにがグゥヌだ!
ボクの可愛いお姉ちゃんであるエッラの泣かせた罪は重い、だというのにのんきに失神しているだなんて、とは言え過剰な苦しみを与えるのはボクの主義に反する。
だからと言って意識の無い間に断罪する気もない。
とりあえず起こすか
ボクはシンチョウの傍らにいるメグを驚かさない様、普通にゆっくりと二人の方に歩いて近づいた。
「お待ちくださいアイラ様、何か誤解がある様にございます」
あと7歩でシンチョウの脇腹につま先がうっかり当たろうかというところでボクの雰囲気が少し剣呑なことに気が付いたらしいフィサリスが立ちあがり呼び止めた。
誤解・・・ね、たしかに状況だけでシンチョウがすべて悪いと決めるのは些か早計と言えるかもしれない。
そういえば、ケイコ女史も人前にも関わらず嫁入り前のトリシア姫を弄んでいたという実績がある。
結婚もしていないという話だし、もしかして女性好きという可能性もある。
もしもそうだとしたら、どうしてシンチョウの着衣が乱れているのかわからないけれど、ケイコにも罰を受けてもらう必要があるだろう。
彼女が恥ずかしがり屋のエッラを辱めたのであれば、それ以上の辱めは受けてもらわなければ・・・。
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エッラことエレノア・ラベンダー・ノアは言わずと知れたボクの最も頼りとするメイドであり、ボクやアイリスにとっては物心ついた頃から近くにいた姉の様な存在だ。
実際溺愛という言葉では足りないくらい可愛がってくれる実の姉と比べて、幼い頃のアイリスのつまみ食いや、アイリスがパンツ(この場合はいわゆるズボンの事ではなくスカートの下に穿く脚を通す下着全般を目的・形状で区別しない言い方)丸見えでボクにのし掛かってじゃれてきた時なんかにちゃんとたしなめてくれる姉としての役割を果たしていた。
サークラの場合は『可愛い、二人とも可愛いよー』ばかりでボクたちを叱ることはとても少なかった。
代わりに時間外れのおやつを与えたりした父エドガーがめちゃくちゃに怒られていたけれど
彼女からしてもある時期までボクたちは妹の様な存在だったと確信している。
少なくともウェリントンに住んでいた頃は、彼女はサークラ含むボク達姉妹やトーレスの事も呼び捨てだったし、父のことはエドガーさん、母のことはハンナさんと呼んで親しくしていた。
そして教会の学習室に行かない日は当たり前の様にボクやアイリスと遊んでくれたし、家畜の乳や卵を毎朝届けてくれていた関係で『近所のお姉ちゃんたち』の中でも特に親しいお姉ちゃんだった。
ボクがまだ赤ちゃんと言える齢の頃にはたくさん甘えさせてくれたし、サークラに多少似てくるとボクやアイリスにやや性的な悪戯を仕掛けてくる様になったピピンから守ってもくれた。
本人も悪ガキのカールから育ち盛りの果実を狙われるという立場にあり、その度にいつも顔を赤くして俯いていた彼女が、ボクやアイリスを妹の様に可愛がるうちに精神的に強くなっていった。
本当は物心どころか、大人としての精神を宿していたボクは、頼りになるお姉ちゃんと感じると同時に、可愛らしい女の子が成長していく様を近所のお姉(兄)さんの様な感情を持って見つめていた。
前述のカールやピピンとの幼少期からの関係と、幼い頃から常にやや尚早気味に成長し続けててきた体の一部に男性の(だけに限らない)視線が集まることから、恥ずかしがり屋の彼女は視線を避ける様に前髪を伸ばしていた。
それも、ボクのメイドとなってからはメイドとして許容される程度の長さまで短くし(それでも身長の低さから普段は背丈の近い者にしかやや幼げな可愛い顔立ちは見えないけれど)、その健気な頑張りでボクに近侍し続けてくれた。
だから今の彼女が王国最強格の剛槍使いで、その辺の準勇者級や低位の勇者が相手にならない様な実力派の勇者となった今も、ボクにとっては『恥ずかしがり屋だけど頑張り屋さんでもある可愛いお姉ちゃん』
そして彼女も根幹の部分ではボクやアイリスの事を『可愛い近所の双子の妹分』か『可愛いご主人様』くらいに思ってくれていることだろう。
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そんなボクの自慢のお姉ちゃんを泣かせた者がいるのならば、ボクはボクの持ちうるすべての権力を行使して報復することに迷いはない。
軽々しく権力や暴力を振るうつもりはないけれど、彼女がボクのメイドである以上立場を気にして辱めを甘んじて受けてしまう様なこともあるかもしれない。
そんな時にボクが彼女を、メイド達を守らなくてどうするというのだ。
でもそうだね、フィサリスのいう通り一旦待つべきだ。
もしも下手人がいるならば無論相応の報復はするけれど、それはエッラの話と意見を聴いてからにするべきだった。
そう思い直して振り返った時、ボクと一緒にこの訓練場に入った皆は、落ち込むエッラの近くに集まって彼女を落ち着かせようと、或いは慰めようとしていた。
ボクもメイドたちと共にある者として、まずはエッラに寄り添うべきだったと反省する。
「エッラ・・・」
珍しく涙を流す彼女になんと声をかけて良いか、迷ったボクはただ名前を呟くことしかできなかった。
それでもエッラは、やや俯いた姿勢からもボクの声を聴き分けたのか、ボクが名前を呟くと再び顔を上げた。
「アイラ様・・・」
その少し赤くなった頬を涙が伝う。
多くの場合頬や顎から落ちた雫は地面に吸い込まれるか、スカート穿きの女性であれば裾に吸い込まれていくが、彼女の場合はそこまで到達する前に別の場所に吸い込まれていく。
彼女はやや疲れた様な声音をして、ぼんやりとしていたけれど、すぐに本来の意志の強さを宿した瞳を取り戻した。
「アイラ様、取り乱してしまい申し訳ございません」
そういって謝罪すると彼女は立ち上がり、砂を払いその佇まいを直した。
普段ならば、彼女がそうやって体裁を整えるのを見咎めたりはしない、彼女はいつだって自分の事よりもボクの事を優先させようとしてくれている。
でも今の様に涙まで流しても同様に振る舞う彼女を放置することはできない。
「エッラ、何があったの?エッラが涙を流すなんてただ事ではないよ」
詰問する様な語調にならない様気を付けて、優しく質す。
エッラはすでにボクよりわずかに目線が低いから、外見だけで見ればボクの方がお姉ちゃん、姉が妹を諭す様に見える・・・訳がないね、幼げな顔立ちとは言えそこは20歳の乙女、ボクよりずっと大人びている。
何よりも同じくらいの身長だとキスすることもままならない様な物理的隔たりを演出する部分が、彼女が年上だと視覚的に思い知らせる。
それでもボクには近衛暁としての15年弱と、1周目のアイラとしての102年があるから、今のアイラの13歳の体に心や感情が馴染みきっていても、エッラはお姉ちゃんであると同時に可愛い女の子だと思える。
そんな可愛いエッラが涙を湛えた瞳というのは、ボクの心にグっと混み上げるものがある。
ボクにとって彼女の泣いている姿で最も印象深いのが、前周のあの悲劇にサークラの胸で声をあげて泣いた彼女だからだろう。
とはいえ、今の彼女と、あの彼女とは別の存在だ。
重ねて考えることはきっとどっちのエッラに対しても失礼になる。
何を告げられてもボクは今のエッラを全肯定するつもりだ。
「アイラ様、なんでもないのです」
でもそうやって胸に秘めてしまうことは肯定できないね、それ以上蓄えて大きくなったらどうするつもりさ。
「なんでもないことはないでしょう?エッラが泣いているところなんて、ウェリントンを出てからは、軍官学校の卒業の時くらいしか覚えがないよ?」
人前だけれども仕方がない、彼女を逃がさない様に、そして落ち着く様に抱き寄せ体をくっつける。
妹扱いされていた頃にはよくあった距離感だ。
あの頃とは4段階分、いやボクの方も合わせれば6段階分ほど物理的には遠くなっているけれど、身長が近くなった分で距離感はカバーできているハズ。
小さい頃はこの距離で見上げたら顔が見えなかったもの
目の前に、潤んだエッラの瞳がある。
そうとも、お姉ちゃんの涙を見せられているのになんでもありませんと言われたくらいで、はいそうですか、と引き下がれるほど、ボクの中の暁は風化していない。
そして一周目のアイラだって、もちろん今のボクだって、彼女の涙を見て感情が揺さぶられないはずはない。
エッラはボクの抱擁に初めは目を見開いて驚いていたものの、ボクと(強制的に)目を合わせているうちに、強情を張るのを諦めた。
それが彼女の瞳から伝わってきたので、ボクは彼女に再び問いかける。
「涙の訳を話してくれるね?」
「はい、恥ずかしいので黙って居たかったですが・・・」
と、本当に恥ずかしそうに赤くなった彼女は身じろぎもせずボクに抱かれたままで答える。
やはり辱めを受けたのか!?と気が逸りそうになるけれど、なんとか動揺を抑え込む。
代わりに少しだけ腕に力が入って、彼女との距離が0.5段階分ほど近づいた様に思う。
「イルタマを転がす様な話(※手前味噌を並べる、の様な意味。イルタマは丸に近いほど品質が良いとされるため、ただしむやみに転がすことで痛むのが早くなることを含めて皮肉る意味もあるので、自分で言う場合手前味噌よりも自虐的)になりますが、私の知っている範囲で、私に勝てる男性が居なくなってしまって・・・」
ん??何か話の流れがおかしいね?
「私は父から、父よりも強い男としか結婚は許さないと言われておりましたが、ウェリントンを出るにあたって、父は一緒に居られなくなったため、最低でも私よりも強い男性を連れてこないと、婿とは認めない・・・そう言いつけられているのです」
「あ、うん・・・そういう話もあったね?」
覚えているけれど、もうずいぶんと前に、エッラと1対1で戦って勝てる人間自体、ボクとユーリ、それにおそらくは本気を出した神楽くらいしかいなくなってると思うんだ。
神楽は今周では本気を出して戦ったことがないから、ボクとユーリ、それに神楽だけの秘密だけれど。
「先ほど、訓練に参加させて頂くことになり、しばらくケイコ様と打ち合っておりましたが、ケイコ様がご自身の奥義の一つを教えて下さることになりまして、それを体得したところ、もうボレアス様やジェリド様、アクタイオン様相手にも決着がつかない可能性が皆無になってしまいました。
あの方々で無理ならもう私は結婚できないんだなって・・・いえもちろん一生アイラ様にお仕えするつもりでしたので、すごく結婚したいと思っていたわけではないのです、・・・ないのですが、いざもう結婚できる見込みが皆無なのだと思うと女として情けないやら、両親に孫を抱かせてやれずに申し訳ないやらで、感極まってしまいまして」
そこまで言うと彼女はさらに恥ずかしそうに茹蛸がごとく真っ赤になる。
うん、思ってたのと大分違った!
そういえば、エイベルの誕生&命名の為の里帰り以降なにやらちょっとばかり幼子を見る視線が変わった様に思っていたけれど、彼女が表に出さないか自覚がなかっただけで、結婚や出産への願望が強くなっていたのかもしれない。
ていうか、その3人との訓練ってそもそももう3体1とかでやってた気がするけれど・・・?
それで3人側は武器が刃を引いたものとはいえ、最大の技でもエッラの防御を抜けないし、エッラも3人の連携相手には溜める時間が用意できないせいで決めの技が放てずエッラのだいたいいつも優性勝ちではあるものの、
セントール人最強の女性ダイミョウの奥義とやらを教わってエッラの強さにさらに隙がなくなったってこと?
それってボクやユーリが勝てなくなったかもしれないってことじゃないかな?
本当にエッラの成長は底知れない。
「えっと、それじゃあこの惨状も・・・その教わった奥義を使ったのが原因ってこと?」
「え・・・?ひゃっ!?」
ボクが胸元に視線をやりながら尋ねると同時彼女は先ほど直し忘れた自分の着衣の乱れに気づいて直そうとするけれど、ボクと密着しているのでできないし、ボクをはねのけることもできない。
彼女はその部分が大きいのでちょっと襟元が緩んだだけでも白い柔らなモノが深い溝をあらわにする。
ボクが体を離すと、彼女はそそくさと服装を直す。
さっき砂を払ったり、エプロンのひっくり返った所は直していたけれど、タイが緩んでること迄は気付いてなかったんだね、むしろ一番に目に入りそうな部位なのに。
燈台下暗しというやつだろうか?いやそれならむしろその陰になっているスカートの方が見えなさそうな・・・?
まぁいいか。
「重ね重ね申し訳ございません、見苦しいモノをお見せしました」
エッラらしい恥ずかしそうな表情、残っている涙の粒がちょっぴり嗜虐心を誘う。
ただ逆にエッラは平常心を大いに取り戻した様で、涙目以外は声の調子も優しい表情も戻ってきた。 恥ずかしがっているエッラも可愛いけれど、やっぱり頼りになる可愛いお姉ちゃんなエッラが好きだ。
「気にしないで、むしろ恥ずかしがる珍しいエッラが見えて得した気分だよ」
ボクの言葉に、また少し頬を赤らめるエッラ、でも彼女がショックを受けたことをまだ解決していない。
だから少しでも彼女の気持ちが軽くなる様に、むしろ前周と同様ボクが彼女とずっと一緒に、アドバイスを与えてみることにする。
できれば彼女自身にも伴侶を選び取る機会を持って欲しいと考えていたけれど、事ここに至ってしまえば、ボクの願望を推しても良いだろう。
結婚願望があって、そして今その希望を(エッラの強さを正確には把握していない)父親の自身より強い男と結婚することという言いつけの為に失いかけて傷ついているのだから、その可能性を繋げるためだと思えば、ボクの(エッラやメイド達の未来の可能性を狭める)罪悪感を打ち消せる。
「エッラ、君を守れる強さというのは、何も戦いの強さだけじゃあないよ?」
前周では優秀な勇者であり、なおかつ平民で可愛らしい彼女を与しやすいと考えて無理やり嫡男の妾に・・・なんて考えを起こす者が現れない様に、と言い訳してユーリの側室に迎えたけれど、実際にはボクがウェリントンの生き残りであり、その後もずっと傍にいてくれたエッラを手放したくなかったからというのも理由の大きな部分を占めている。
「アイラ様、それはどういった意味でしょうか?」
きょとんとするエッラも可愛いね、子どもの頃の彼女を思い出す。
当時のボクは赤ちゃんだったけれど・・・。
今周のエッラは、ウェリントンの悲劇を経験せずに、幼い頃に故郷を離れホーリーウッド(後にクラウディア)で暮らすことになったボクたちに近侍するために強くなってくれた。
そんな彼女のことを愛おしいと思わないはずはない。
前周と同様に、可能ならばずっと傍に置きたいと思っている。
だからこれはエッラに結婚できる可能性を提案すると見せかけたボクの利己的な囁き。
「例えばエッラは平民だから、どこかの貴族家、それもホーリーウッドや王家と経済や政治の関係が強い所から『息子の妾に』だなんて請われたら、たとえボク達が受けなくていいよと言っても気にするでしょう?ボク達はエッラが大切だからもちろん先方に断りを入れるけれど、エッラは責任感が強いから、きっとなんでもないって言っても気にすると思うんだ」
ボクはもう一度エッラに近づくと、少し考えこんでいる様子の彼女のその手に自分の手を重ねた。
「エッラが意味のないことで悩んだりするのは嫌だし、ボクはエッラを遠くにやりたくない、だからエッラが先んじて誰かの妻になってしまえば、それは他家の誘いからエッラを守っていると言えると思うんだけれど、でも結局結婚することで会えなくなると寂しいからボクに仕えられなくなる様な人には嫁がないで欲しいな?」
ユーリの側室に入れば、ずっと一緒に居られるよ?と含めたつもりだけれど、エッラには伝わったかな?
エッラは私が妻・・・なんて呟いて再度赤くなり、それからなにか話そうとしたけれど
そこへ、ようやく立ち直ったらしいケイコ女史が、破れた部分の露出を隠す様にエイラに適当な服を出して貰い羽織って近づいてきた。
あれは多分彼女の私服の、やや丈の長いカーディガンだけれど、エイラはボクと同様小柄なのでケイコ女史とは15cm~20cmほども身長差がある。
結果としてカーディガンの裾はあまり下半身を隠すことはできず。
鍛えているからだろうかその細身の割りにはむっちりとして肉感の強い太ももが、カーディガンの裾と破れたケイコ女史のセントール服の間に広く露わになっていて、反って煽情的に見えてしまう。
体格からキツかったらしくカーディガンのボタンを下の方しか留めていないので、シャ族系獣人らしく大きさはないけれど形の良い乳房が半分見えてしまっている。
日ノ本であれば、目撃者の2割程度は痴女として通報するだろうけれど、ここはセントールの最高権威であるミカドの宮城の内部、通報する者は居ない。
「これほどの力をお持ちとは驚きました。受け流せるつもりであったのですが、立っていることもままならず。服がほとんど弾け飛んでしまいました。この様な格好で申し訳ありません、アイラ姫様」
そして彼女はロック・ベーコンにも宣言して見せた通り、ボクに対して丁寧な態度で頭をさげた。




