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第177.3話:ミカドの眼

(ナタリィ視点)

 鍵の欠片の話に区切りがつき、明るさを取り戻した部屋の中で、私たちはつかの間誰一人言葉を放つことなく、私はアイラになんて声をかけようかと逡巡していた。


 鍵の欠片の機能、魔導変速機マギアギアという名前の機構私の聴かされていないモノが次から次にミカドの口から紡がれた。

 私自身混乱しているけれど、もしもアイラに『知っていたの?』と尋ねられて、素直に『知らなかった』と答えたとしても、意図的にアイラに知らせなかった可能性がアイラの中に疑念、しこり、わだかまり、何らかの形で残ってしまうだろう。

 父が知らなかったはずはない。

 父はどうして私にソレらを伝えなかったのか、その疑問は少なくとも私の中に根付いた。


「(私もこちら(・・・)側ということ?)」

 私は初めからアイラ達とともに行動することを前提として知識を制限されている。

 そう考えてやれば多少の納得はできる。

「(違う・・・もっと前からだ。多分私がアシハラでみんな・・・と出会ったことも、最初から計画に含まれているんだ)」

 だとしたら、私か、アイラか、他の誰かにこういうすれ違いをさせることが、いつか目的の一部として必要になるの?


 でも今回の事でアイラは確信しただろう。

 神話側に属しているはずの私が、神々の目論みに従ってアイラに真実を隠す可能性が常にあるということを、私は嘘を吐いても、吐かなくても、もう本当の意味でアイラに無条件に信用されることはない。

 アイラはこれからいつだって最初に、私の言葉に隠された意図は無いのか?と勘ぐることになる。

「(辛いな・・・)」


 少し暗い気持ちになりながら、それでも今まで通りに振る舞うしかないと、心を決める。

 私は何も知らなかったのだから。


「さて鍵の話は終わったが、あとはいくつか報告と提案がある」

 静に荒れている私の心の内を知ってか知らずか、沈黙を破ったのは再びミカドだ。

 そしてその内容もまた非常に刺激の強いモノだ。


「エコーのことだが、彼女には死んでもらわねばならない」

 穏やかな声色であまりに惨い言葉、先ほどまでの子ども好きで優しい少女と同じ人物が放ったとは思えない。

 私とカグラさんはひどく動揺した。

「ミカド、それはあんまりです!」

「エ、エコちゃんを、まさか今!?」

 そう、守ろうとしても今エコーちゃんは目の前に居ないのである。

 先ほどなにげなく別れたあれが、エコーちゃんを助ける最後の機会だっただなんてことになれば、やりきれない。

 私たちにとっては、ほんの2日の付き合いの彼女ではあるけれど、彼女の経験してきた過酷な運命を思えば、絶対に幸せにしてあげたいと私たち皆が感じていた。

 だからその過激な言葉に動揺してしまった。


「落ち着いて二人とも、多分言葉通りの意味じゃない」

 ミカドに向かって拳を構えかけた私と、ミカドに殴りかかる寸前だったカグラさんをアイラは手で制した。

「でも!アイラさん!ミカドがエコちゃんをっ!!」

 いつのまにか、その両手に銀色に輝く籠手を装着しているカグラさん、その放出する魔法力の質と量に私は驚嘆した。

「(これがカグラさんの本気なの・・・?なんて魔法力、エッラさん以上の出力だわ)」

 でも、アイラは驚いた様子もなくカグラさんを抑え、ミカドはアイラが正しかったと証明する様に謝罪しながらその言葉の真意を告げる。


「すまない、言葉を選び間違えた様だ。エコーの命を奪うわけではない、世間的に『エコー』という幼女を死んだことにしたいのだ。これはほかの誰でもなくエコーの為だと、説明させてほしい」

 世間的にエコーちゃんを亡き者にする。

 つまりそれはエコーちゃんの出自になにか問題があるということだろうか?

「(でも確か行商人の娘だと言っていた様な・・・?)」


「2年と少し前、トガチ地方を本拠地としていたとあるダイミョウ家が、この中央を目指して軍を進め、道中のバサラシュゴ家に敗れ去った」

 何を語り始めるかと思えば、コンセン家とヴォーダ家の話?

 今更なにが関係あるというのだろうか?

 ここにはその関係者もいないというのに・・・?


「そのダイミョウ家が何を目指してこの中央を目指していたのかは今となっては不明だ。口では私の力となるためにと言っていたが、サンキと違ったのか同じだったのか、それともハルトマンやケイコの様な者だったのかはわからない。しかし彼らも本拠地を守る必要があった。後顧の憂いを断つため事前に3つのダイミョウ家で婚姻による同盟を組んでいました」

 コンセン、イセイ、ティーダの3ダイミョウ非戦同盟、コンセンの敗北と、ティーダの身勝手によって反故となったと言っていたものだ。

 確かコンセンが敗北した後少ししてティーダが一方的に破棄してコンセンを攻め、怒ったイセイがティーダからもらっていた嫁を帰してコンセンの守りに入ったものの、コンセンは崩壊したという。

 私が聞いているセントール情勢と照らし合わせながら聞いていると、話は初耳の情報へと進む。


「・・・そして同盟が破棄された後、ティーダの嫡男と、彼の嫁に来ていたコンセンの娘とが行方不明となっていた。ティーダの嫡男、ギシン殿はやや苛烈な面もあるが基本的には義理堅い人物であったため、コンセンが敗れたとて嫁の実家であり、同盟相手でもあるコンセンを攻めることに反対してセイシン・ティーダによって廃嫡、殺害されたと思われていたが、実際には違った。彼は父親の性質をよく理解していたんだろうな、反抗すれば息子であっても殺されると・・・、彼は妻を連れて行商人へと身をやつしていた」

「え!?それじゃあ・・・」

 カグラさんはアイラの手を握り締めながら驚きの表情を浮かべる。

 私も、ようやく意味が分かり驚いた。


「そう、エコーはティーダ家とコンセン家の間に生まれた娘なのだ」

------

(神楽視点)

 エコちゃんを死なせるといったミカドの表情はよく見れば穏やかなもので、アイラさんが抑えてくれなければ私は『銀腕』で殴り掛かっていたかもしれないというのに、そうなっても構わないという表情で・・・あぁそういえばミカドに危害を加えようとすれば命を失うって・・・。

「(アイラさんが守ってくれなければ私は死んじゃうところだったんだ。それに・・・)」

 初めて人に力を振るおうとしてしまいました。

 自分でも気付かないうちにそれほどまでに、エコちゃんのことを守りたいと思っていたことを嬉しいと思う反面、暴力に訴えてしまったことを恥ずかしく思った。


 そしてさらにエコちゃんの為だというミカドの真意を聞いて、愕然とします。

 ギシンという方の失踪から1年半、ティーダ家は現在コンセンから簒奪した領地の統治に苦労していて、正当な理由・・・大義名分を欲しがっている。

 そして、廃嫡したはずの長男とその嫁、そして失踪時生まれて間もなかった娘を探しているのだという。

 そして・・・

「それが、本当にエコちゃんなんですか?」


「あぁ、ほぼ確実に・・・、全身黒毛のセントール族はとても貴重なうえ、その二人の娘の名前もエコーだったというからな、相手は領地を増やすためならば平気で親類すら殺す家だ。どういう手で奪いにくるかわからない、それなら一度エコーには死んでもらおうと思ったわけだ。具体的には、私たちと話し合いをしている最中にエコーが寝てしまい、動かすのもかわいそうだからと宮城に泊めたがエコーは長い野生生活によって失調しており、今夜容体が急変して亡くなる。失意のカグラのためにうちの孤児院にたまたま居た顔かたちの似た別のセントール族の幼児を養子に取らせたことにする。エコーにはかわいそうだとは思うが、名前を変えて生きて欲しい。」

 今ここにはいない幼い女の子の、まだ男の子とも女の子とも判断の付かない笑顔を思い胸が痛む。

 この世界にも神様がいるらしいのに、一体どうしてあんな小さい子にこんなにもいくつもの過酷な運命を背負わせるのか。

 両親の遺した名前すら奪わなくてはいけないなんて

「もっと簡単に幸せにしてくれてもいいじゃないですか・・・」

「そうだな・・・私もそう思うよ」

 小さく、小さく呟いたはずだったけれど、ミカドは私の声に、温度のある答えをくれます。

 アイラさんの小さな手が私の頭の後ろを撫でました。


 そういえばミカドもいつか幸せになるために、片翼を1万年以上も待っている方です。

 この世界の神様もどうやら多くの人に試練を与えている様です。

「なので、明日までに名前を決めて来て欲しい、それとしばらく退屈だろうが、エコーが新しい名前になれるまでは彼女を連れての街中の散歩は控えてくれ」

 エコちゃんの為と言われたら、それはもちろん受け入れる。

 ミカドだって嫌がらせで言っている訳ではないのだから。


「次はミカドの眼について話そうか、龍の島出身のナタリィ姫はおそらくすでに知っているであろうし、アイラ姫もおそらくうすうす感づいておろうが、ミカドの眼は龍の島と同じ・・・・・・軌道兵器だ」

「え!?」

「な・・・ミカド!」

 アイラさんとナタリィさんは驚いた顔でミカドを見ています。

 私も驚いたけれど、私にとってはそんなものよりもエコちゃんのことの方が大事だったので、少し反応が遅れてしまいました。

 二人の驚き方は似ているけれど少し違う様に見えます。

 アイラさんの方は、龍の島が兵器だなんて思ってなかったというところで、ナタリィさんはそれをここで明かされると思っていなかったという顔?


「アハトバインごと焦土島を焦土にしたミカドの火も、このミカドの眼から放たれたものだ。

 このミカドの眼、元の名前・・・・をディバインシャフトシステムは元々大陸の獣より以前の時代に神王様が用意なさった対起源獣用兵器で、この世界全体に3つ用意されていたという。

 一つが龍の島、一つがセントール大陸の上空、もう一つについては私も知らないが、大陸の獣の頃にはすでに管理者不在であったらしいのでおそらく現存はしていないのではないかと思う。

 とにかく現在は私が利用することができる状態で、空の遥か高い所からこのセントール大陸を見下ろすのがミカドの眼だ。

 ある程度規模の大きい行軍や災害を感知でき、必要とあれば上空から攻撃することができるが、焦土島の例をみて分かるとおり規模が大きいので極力使用は避けたい」


 焦土島はおよそ一万年も前の大陸の獣の頃にミカドの火によってアハトバインごと焦土となった土地、ほんの一世代前、ワコさんのお父様の頃までまともに作物を育てることすら出来なかったと聴いている。

 一万年ほども不毛の地にしてしまう様な兵器、想像もつかないほど恐ろしい。


「現在は眼としての利用のみしていて、一日の大半はその確認のために使っている」

 火が危険なら眼としての利用のみにることは違和感のないこと、ですけれど、わざわざその様な言い方では、火と眼以外の使い方もあるのではないかと疑ってしまう。

 それに・・・

「(ディバインシャフト・・・・・・・・・システムって偶然でしょうか?)」

 その名前は『神性を持つ軸』を意味し、かつて六聖神話の神王が大いなる大陸アシハラを作った神話の解釈のひとつとして、世界蟹アシハラを混沌の海に固定して作ったというものがあり、その際3本の槍を突き立てた。

 というものがルクス帝国版の創世神話の一節として残っている。

 この3本の槍がディバインシャフト。


 この版では、その後のネクレスコラプスの討伐の折りに、この槍の突き抜けた穂先の所にネクレスコラプスの死体が引っ掛かって、そこがサテュロス大陸になったとかなんとか?

「(大陸の獣の死体がアシハラ以外の大陸になった系の神話は、ミカドがもともとセントール大陸人である話や、ナタリィさんたちから伺った話とは矛盾しますけど、何かしらの原型となる出来事はあったはずです)」

 その穂先のあった場所が今のディバインシャフト城のある辺りで、有史以来フィオナ族というがほんの500年くらい前まで定住していたとクレアリグル様がおっしゃっていました。

 古い町の名前が神話に由来している、それくらいなら別段珍しいことではないと気にもしていませんでしたが、流石にこんなに離れた土地で耳に入れば気になります。


アイラさんも名前に引っ掛かっているみたいです。

 それはもちろん、今の私たちの家とも言えるディバインシャフトの名前に引っ掛からないはずはありません。

 それに、これまでにたくさんの神話や伝説的なものに偶然に出会ってきましたから、これもまた運命的な偶然なのかもしれない。


 ここでようやくナタリィさんが自分から口を開きました。

「私は・・・、そのディバインシャフトシステムというものに関しては初めて名前を聞きました。ですがミカドのおっしゃる通り私共の龍の島には、いいえ龍の島そのものがかつて兵器としての特性を持っていたというのは父王から聞き及んでいます。ですがそれは、大陸の獣の折、地上世界の生物が死滅してしまった場合に備えて小さな世界を切り取って保存しておくために運用され、そのまま今も当時の環境を残しています。現在龍の島の持つ戦力も機能もすべては神々の愛した世界を維持するための物です」

 少しだけ、彼女らしくない動揺をしていると感じた。

 それが何なのか、人生経験の浅い私にはわかりませんが、ナタリィさんのことは信頼できるとアイラさんも言っていましたし、出会ってから7年ほどずっと顔を合わせていたわけではないですけれど、何となくナッちゃんみたいな、自分の願望を押し殺しても役目を果たそうとする責任感の強さや、ちょっとした瞬間に見える面倒見の良さを見て知っている。

 きっとナタリィさんは本当にディバインシャフトシステムという名前も知らなかったのでしょう。


「そうか、まぁディバインシャフトシステムという共通の名称はついていても、大きさも能力もずいぶん違うものだったらしいのでなぁ、名前を知らなければ同じ由来のものだとは思わなかったかもしれないな、私も龍の島やもうひとつのディバインシャフトシステムがどんな機能を持っていたかは詳しくは知らないのだ。ただこの名前と、3つ準備されたということだけ、ミカドの眼をお預かりする時に伺ったのだ」

「大陸の獣より前には・・・ミカドたちが普通に幸せに暮らしていた頃には、そんな高い空に何かを送り出せるだけの魔法や、技術が普通にあったということでしょうか?」

 アイラさんがややゆっくりと、言葉を選ぶ様にミカドに尋ねました。


 言われてみればこの部屋や途中の格納庫の様な空間といい、サテュロス大陸の一部の遺跡といい、まるでSF映画みたいな、地球の感覚でいっても近未来的な設備が、神話に関連する場所で時々見受けられる。

 あれらがこの世界の遺跡だということは、かつてのこの星にはそれらを造り出す技術があったということ、これまで神話的な方向にばかり意識が向いていましたけれど、思い返してみればどちらかというと魔法よりは科学的なエッセンスを感じるものです。

 どうして今まであまり気にしなかったのか、私はアスタリ湖の遺跡でこの世界と朱鷺見台とにつながりがあるかもしれないと疑ったことすらあるのに・・・。


 だけど、ミカドの答えは私の不安とは異なった。

「いや、今の民衆の暮らしと大きくは変わらないよ、当時の方が平和で豊かではあったかな、でも大陸の獣が起きるまで、私はディバインシャフトシステムや禁軍たちの様な存在も知らなかったよ」

「そう、ですか」

 アイラさんは腑に落ちないというか、わずかにがっかりした雰囲気を放った。

 アイラさんもなにか気付きかけたことがあったのかもしれない、でもミカドの回答がその結論との距離を再び遠ざけてしまったのか・・・。


 何にせよ、ミカドは現状私たちの敵ではないし、エコちゃんのために心を割いてくれている様でもあり、私はほっとしました。

 さっき一度は激高し殴りかかろうとしておきながら身勝手かとも思いますが、私はミカドの事が何となく好きです。

 なんとなく甘えたくなる様な雰囲気が彼女にはある。

 外見は年下の女の子なのに、その小さな背中には頼りたくなる存在感もある。

 なんだかアイラさんみたいです。


 そしてミカドへの警戒心を解けば、私の頭の中から雑念は消えて、たったひとつの想いだけが思考を支配していく。

「(エコちゃんの名前、どうしようかな?)」

 名前を変えなくてはいけないなら、せめてエコちゃんが気に入る可愛い名前をつけてあげたい。

 あのコはアイラさんと私が保護した娘なんだから!


 それから退室するまでの10数分のミカドたちの話を、私は一切合切聞き逃しました。


またずいぶんと空いてしまいました。

膝に矢を受けたわけではないのですが、現在長時間座ったり、立ったり、歩いたり、うつ伏せたりが困難な状態になっておりまして、ただでさえ遅れている執筆ペースがさらに遅れております。

ご迷惑をおかけしますが、体調を優先させていただいております。

もうしばらくお待ち下さい。

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