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第16話:前世の記憶はあてにならない?1

※人によっては苦手かもしれないリアルファーや家畜の間引きに関する言及が少しあります。ファンタジー世界なので繊維植物の大量生産や、化繊、家畜の飼料もあふれているわけではないため、魔物でも動物でも毛皮やその肉、骨に至るまで重要な資源です。

 その日ウェリントンにもたらされた報せは、突然の別れを告げるものであった。

 村人はその内容に一時は混乱したものの、自分たちの村長の栄達につながること、また村に不利益がないようにホーリーウッド侯爵家から取り計らうこと、村人の中からも希望があれば若者をホーリーウッド家で預かり教育を請け負うことを条件にほとんどのものが納得した。

 また村長であるエドガー・ウェリントンが、すぐに村を離れることを良しとせず、次の次の農閑期までは次期村長であるトーティス・ギュスターの教育のために残ることも、村人の反発を大きく抑える一因となった。


---


 そして話は現在、今後のウェリントンについての話へと移っている。


 話に後ろめたいところはないとばかりに、村の広場に円卓を出して、村の各事業の責任者たちだけではなく、一般の村人にも、話し合いに横入りしないことを条件に傍聴を許している。


「・・・ですので、ウェリントンでは今後ブリス・ノア氏が実用にこぎつけたダンプリングラビットの毛を特産品の一つと据えて頂くことで毎月の現金収入にすることができると思います。試料に送って頂いたモノはよい毛質を持っておりました。貴族や豪商を中心に、かなりの高値で取引されることでしょう。まぁ最初の2年ほどはホーリーウッド家で優先して買い上げさせていただければと考えています。国王陛下にも献上させていただきます。」

 と、この場の主導権を握る貴族の男性が、告げると、周囲の民衆からはどよめきが起こった。


「わしらの村のものが国王陛下の口に入るのか!」

「ばか!毛を使うって言っただろう?防寒着に使うってことだよ」

「あとは外套の飾りとかじゃないかね。」

 などなど・・・。


「ゆくゆくは、毛織物の職人なんかもこの村の者で賄える様にするといいな。」

「なら若い娘を何人か勉強のために送り出すのもいいかもな。」

「ついでに、適当な次男三男でも引っ張ってきてくれるといいの。」

 円卓についている村の各事業の管理者や責任者が口々にウサギ事業について語り合う。


「そこで村の利益を守るためにも、このウサギは一般の商人や、他領のものに盗まれぬ様にせねばならぬ。それと念のためにブリス氏に尋ねたいが、すでにこのウサギは固定化に成功しているというのは間違いないのだな?」

 とギリアムは採らぬ狸の・・・とならない様に、ブリスにたずねる。


「そうですね、今は6匹生まれたら1匹程度の割合で毛を取るのに使えないものが混じっていますが、形質がちゃんと出てない個体は隔離して、冬場の保存食代わりに利用する予定です。また昨年のものですがこういったマフラーなどにも利用していますね。」

 と、ブリスはウサギの毛皮で作ったマフラーを1本テーブルの上に提示した。


「ほぅこれはなかなか質が良い品だな、においも・・・うんあまり獣くささは残っていないな。妻への土産にしたいが、いただけないだろうか?」

 と、ギリアムは再びブリスにたずねたが、この時2人の人間が驚いて声を上げた。


「だ、ダメです!」

「え!?}

 一人はエレノア・ラベンダーノア、胸の大きな娘で、前髪を長くしているため目立たないが、本当は目のパッチリしたおとなしく恥ずかしがり屋の美少女である。

 彼女はブリスの一人娘で、村の家畜の世話を手伝ったり、隔日毎に朝南側の子どものいる家に卵や牛乳を届けてくれている。

 そんな彼女が珍しく声を出したので、村人たちは驚いた。


「娘が驚かせて申し訳ございませんギリアム閣下、そちらのマフラーはすでに娘が使用しているものなので、奥方様へのお土産物に差し上げるには不適当かと思われます。」

 とブリスが娘の非礼を詫び、その理由を告げる。

 するとギリアムはそんな、父娘に驚いた様子も、気分を害した様子もなく微笑んだままで答えた。


「それは失礼した。そうとは知らず匂いを嗅いだりしてしまった。ブリス殿も気が気ではなかったでしょう。」

「どういった意味でしょうか?」

 ブリスは首をかしげる。


「いや、嫁入り前の娘の身につけていたものを、私の様な貴族が無遠慮に嗅いでしまったことだ。知らぬこととはいえ失礼した。ちゃんと昨年のものだと言っておったのにな。私も娘を持つ父親、同じ状況ならきっと平常心ではいられないとわかる。」

「え!?」

 また先ほどと同じ声が聞こえた。


「アイリス、静かにできないなら教会に行ってなさい」

 円卓についていた村長、エドガーは二度娘の声が聞こえたことで少し苛立ち振り返った。

 するとそこには気まずそうな顔をしている次女と、不服そうな顔の三女の姿がある。


「おとーさん!アイリスじゃなくってアイラが声だしたんだよ?アイリスちゃんとおててで口ふさいでたから声出してないよ!」

 そういって幼女は先ほどまでと同様に口を両手でふさぐ。


「アイラ・・・なのか?珍しいな、アイラが静かにできないなんて」

「あぁいえ・・・すみませんでした。」

 と、次女はしょんぼりとうなだれる、彼女はある利用で驚いていたが、それをこの場で言うわけには行かなかった・・・。


「アイラは、たぶん、その・・・」

 と、エレノアは思い当たる理由があったのかオズオズと手を挙げる。

「話してみなさい」

 それに対して、ギリアムは続ける様に促した。


「去年これを作ったとき、アイラが、うらやましそうにしていたので、次作ることがあったらアイラに作ってあげるねって私が、約束してて・・・その、今年は間引きがでなかったから・・・。」

「なるほど、そこに私が土産物に欲しがったので順番待ちに割り込みが発生して、あまつさえ妻だけなく娘の分も必要そうになったから・・・か、すまないな、アイラ私の土産は君の後で良い。」

 とギリアムは幼女に順序を譲ろうとしたが


「いいえ!どうぞギリアム様がお先に!あぁいや、えっと・・・」

 とアイラはしどろもどろになってしまった。

 ギリアムはそんな彼女の元へ自ら歩み寄ると抱きかかえ、席まで連れて行くと膝にのせて座りなおした。

 ざわつく民衆


「いや、少し膝が寒かったのでな、アイラに膝を温めてもらおうとおもってな。」

 といってその頭をなで始めた。


「私にも幼い娘がいるのだが、アイラの様に賢く育ってくれないものか・・・。」

 とギリアムは膝の上に縮こまっているアイラの緊張をほぐす様に頭やら背中やらお腹を撫で始めた。


------

(アイラ視点)

(ぅゃー!?何でそんなにボクへの好感度高いの?確かにボクはギリアム様の従妹だし、前世ではお義父様とかギリアム義父様とか呼ばせていただいたけれども、今生ではまだ知り合って1日もない筈なのに・・・。)

 子どもだから許されてるけれど、普通女性を急に抱き上げて膝の上に乗せるとか、女好きのやることですからね?貴族相手だから誰も断れないし、サークラにやったら完全に悪徳貴族だよ?

(しかも・・・頭と背中はまだ良いとして、お腹はちょっと・・・こんな人前で・・・・)


 抱き上げられたときはがちがちに萎縮していたのに、人前で体をまさぐられて気持ちいいなんて・・・とんだ変態みたいじゃないか!?

(勘違いしないでよね!単に温かくて気持ちいだけなんだからね!?)


 ギリアム様は、ボクの夫だったユーリとは外見は髪質以外はそんなに似ていないけれど、まとった雰囲気や匂いが、前世である程度年をとったときのユーリと似ているから、抱かれているとなんていうか、照れる。

(いや今はそんなことよりも・・・。)


 今妻って言った。

 そして、幼い娘って言った!?

(どういうこと!?前世ではギリアム様の正室エミリア・カミオン・フォン・ホーリーウッドは今からだと1年ちょっと前くらいに亡くなっていたはず。それが生きてて、娘も産んでいる?)

 前世での情報を思い出そうとするが、いいタイミングでお腹を撫でられるため集中できない、また再開された大人たちの話合いも大半は耳に入ってこなくなってしまった。


---


 それからさらに2時間後、途中で休憩も挟みつつ話し合い、決まった内容は。

 主に以下のとおり。

・村長エドガーは村の運営実績が優秀であったため、ホーリーウッドの運営に携わらせたいこと(前侯爵の落胤ということは無論伏せた。)

・次期村長は婚約中のトーティスとアンナ夫婦。カルロスが補助役になる。

・もののついでではあるが、トーティスとアンナ、サルボウとキスカが夫婦であることの証明書をギリアム様自らが作成する。

・村長としての教育はあと2年かけてエドガーから教え込む。

・現状の最前線であるウェリントンに永住希望の兵士を派遣予定、駐屯所として常時8名の正規兵を駐屯させる。

・治癒魔術師の派遣と医院の開設。(可能ならば永住希望者を募るとのこと)

・エドガーの家族は1年以内に、エドガーは2年後の農閑期にホーリーウッドに移り住むこと。

・ウサギの毛は3ヶ月毎に刈ることが可能だが、生育具合の個体差もあるため毎月納品する。向こう2年はホーリーウッド家に全量直接納入する。

・ブリス・ノアは引き続きウェリントンで家畜の品種改良に携わるが、成果に対してホーリーウッド家から報奨金がでることと、毎月小額であるが補助金が出されるので家畜の研究に役立てること。

・今後希望者を取りまとめてホーリーウッド家の責任の元で試験し、優秀者があれば取り立てること

・同じく適正があるものには、ふさわしい教育をホーリーウッド家持ちで行うことで、今後のウェリントンの発展を促すこと。


 ウェリントンという村はそもそもホーリーウッド家を領主とする村で、その発展は自助努力で、法の守りや最低限の警護や保障をホーリーウッドが請け負ってきたが、周囲の村よりも発展が早かったので、将来の地方の有力都市候補として、開拓を全面バックアップしますよ、という内容であった。


 どうしよう、ウェリントンの襲撃まで村にいられなくなった。

 ていうか、今後駐屯所が整備されるならウェリントンの襲撃起きないんじゃ?

 2回目のアイラ生、自重せずに前世の記憶をフルで利用して幸せに生きようと思っていたら、5歳になる前に前世とまったく違う展開なんだけれど、これってボクは記憶を持って生まれたから発生した変化なの?


 蝶の羽ばたき効果的なものなのか、ボクの人生の先行きは早くも予測不可能な道筋をたどっている。

思ったよりも、1回目の投稿が遅くなったので2回目はちょっと日付変更に間に合わないかもしれません、その場合は何とか明日の日付で2回投稿できる様に間に合わせたいと思います。

※作中でウサギを匹で数えていますが、羽の数え間違えではありません。

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