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第176話:ダイミョウ鎧3

(アイラ視点)

 たくさんの禁軍(ミカドが言うには正確には禁軍ではなく工兵の様な働きをするワークマンらしい)が動き回る広い室内でミカドは、サイロ状のおそらくは危険物用の倉庫からその箱を取り出してきた。


 箱にはなにか、あるいは誰かをイメージしたのであろうエンブレムが彫り物されており

 その全体の造りは、『嵐の大洋』で回収した箱に収められていた7つの小箱と似通っていた。


 そしてその彫られたエンブレムは嵐の大洋で回収した大箱に彫られた盾に似ていた。

 つまり嵐の大洋でボクが回収してきた盾の魔剣とも瓜二つ。

「これを取りに来たのだ」

 そんなボクの思考とは関係なくミカドは箱をその場に置きながら言葉を続けた。


「姫達はこの箱について、尋ねたくて私に会いに来たのだろう?」

 本当に、どこまで知られているのだろうか?

 一体どうやって、中央に居ながらにして、ボクたちが海の上で相談したことまで知り得ているというのか


 そしてまたボクの表情から何かを読み取ったのか、ミカドは微笑を浮かべて続ける。

「アイラ姫、私は騎士王様を待って、この中央で10000年孤児を拾って育ててきた・・・言わば1万年母親をやっているのだ。子どもたちの考えてることなんて、手に取る様にわかるよ」

 そういって、彼女はボクの頭に手を伸ばした。

 普通ならば、ボクは初対面の人にそうそう頭を撫でさせたりしない、ボクはもう13歳も半ばで、この身はすでにユーリという未来の西安侯の伴侶となっているのだ。

 だというのに、彼女の掌はいともたやすくボクの髪を梳った。


「あ・・・」

 なんだか、よくわからないけど、ひんやりしていると理解しているはずの彼女の掌が温かく感じる。気持ちいい。

 貴族として、元王族としてプライドはそれなりに培ってきたボクが、抵抗する気にもならなかった。

 なんていうんだろうか?外見は年若い少女なのに、年上の性特有の包容力というか・・・なぜか安心する。

 どうして彼女はボクの頭を撫でたのか、そしてなんで穏やかな微笑を浮かべているのか、疑問は浮かんだけれど、すぐに話題の方に意識を持っていかれる。


「この箱は、ドラグーン達の言うところの、鍵や鍵の欠片を納めておくためのもの、アイラ姫の持っている盾・・・ここでは狭いな、もう一度隣に行こう」

 彼女は、ボクが嵐の大洋で手に入れた盾の大きさまで心得ている様だった。


---

 ミカドに導かれるまま隣の部屋に戻ってきた。

 そのまま鎧の佇む部屋の一角、鎧が途切れてそこそこの広さのスペースが確保された場所までやってきて、ミカドは箱を床に置いた。


「さて、気を取り直して、アイラ姫の持っている盾を出して貰えるかな?」

 箱の向こうのスペースは確かに盾を出すに十分に、そして広すぎる訳ではない程度に開いていて、ミカドが正しく盾の情報を持っているのだと理解させられる。

 もしかすると最初からこの時が来ると分かってこれだけのスペースを空けていたのではないかというくらい丁度良く、そして不自然に鎧の群は途切れている。


 隠す意味も無いね。

 僕はユーリと神楽と一瞬だけ目を合わせ、お互いの考えが違っていないことを確信すると、ミカドの示した通りの場所に盾を取り出した。

 約2週間ぶりに見る『嵐の大洋の盾』は、相変わらずの馬鹿みたいな大きさで、あの時と違い台座が無いので横たえられたそれは、それでも変わらない偉容を誇っている。


 大きさもさることながら、放っている雰囲気がただ事ではない。

 とはいえこの盾は、ヘルワールの魔剣や水晶谷の魔剣の様に周囲に暴威を振るうわけではなく。

 ただ静かに、ボクに横たえられたままにそこにある。

 秘められた魔法の力が強すぎて、このアイラの体が怯えているに過ぎない。

 これが正しく神話に類するモノであるならば、畏れを抱いているというのが正しいのだろうか?


 そして、そんな大盾を目にした彼女の反応は・・・

「おぉ♪何も変わってはいないな、何もかもがあの頃のままだ・・・」

 これだけの異物を前に目を細めて頬をすりよせる。

 懐かしそうに目を細めて、紅潮した肌は彼女のどんな感情を映しているのだろうか?

「ミカド・・・?」

 そんな彼女の姿にどんな感情を抱いたのか、神楽はただ名前を呼び、ミカドは彼女の声に顔を上げる。


「あぁ、すまない、つい懐かしくてな。この盾は聖王様や神王様方がご用意さなったモノだが、アハトバイン討伐の折りには騎士王様の身を守った物でもあるのでな、あの頃を思い出してしもうた」

 盾から離れる時その頬には光るものがあった。

 残された者の寂しさを、それでもいつかは帰るという彼の騎士王を信じて待つことしか出来ない乙女の愁いを、その幼く見えるミカドの姿に見た。

 しかしミカドはすぐに、為政者の顔を取り戻す。


「この盾は、箱と共に在ったからか割と落ち着いているな、もう少し暴れているかもと思ったがコレならば小箱に納めるだけで良かろうよ【戻れ】」

 そう言って、ミカドが箱を触ると、不思議なことに盾が吸い込まれる様にして消えた。

「え!?」

 と驚きの声を上げる神楽、表情に出さず抑えきれたけれどボクだって驚いた。

 最後に小さく呟かれたのは日ノ本語、いやナワーロウルドではアシハラ語と言うべきだろうか?

 突然に母国語と同じに聞こえる言葉が出てくれば驚くのは仕方ない。


「さて、今見て分かって貰えただろうが、この箱はあの盾の容れ物だ。同時に、管理や調整を施す為の道具でもある。まぁ、見てい給え・・・」

 彼女は箱に手をかざして。

「【カ~の契約者~カ~の名にお~~命ず~目覚めよ、~~~~~~】」

 ところどころ聞き取れなかったけれど、彼女は再び、確かに小さくアシハラ語で呟いた。

 聞き取りきれなかったその呪文の響きは、何となく、魔力偏向機マジカレイドシステム暁天を初回起動させた時の文言に似ている気がした。

 それから彼女は無言で何かを見つめ、操作し、ややあってため息をついた。


「ふぅ、それでは次だ。エレノア嬢の鎧を見せてもらえるか?」

 顔を上げながらそんなことを言う。

 エッラも鎧を持ち込んでいることがバレている!?なんて、もう驚きやしない。

 エッラの方を見ると、許可を確認する様にボクを見ているので、頷きで返す。

 するとエッラは一歩ミカドの方に寄ると、彼女のセイバー装備『嵐の槍騎士ストームナイト』を取り出した。


 ストームナイトは通常のセイバータイプの中では最重量級の鎧である。

 トーレスのプロトイエーガーの様に脚部にホバー機能があり、さらにエッラ本人と同様長いスカートアーマーが施されていて彼女が得意とする脚運びを隠した戦闘を補助する他、背面には噴射式推進機や補助翼が取り付けられて、彼女の風魔法による飛行をもサポートする。

 とはいえ重たい鎧が自由自在に飛び回るとは行かず爆発的なジャンプや滑空、突進を可能としたに過ぎない。

 それでも高い魔力と、戦闘センスを持つエッラだからこそ扱える特別な仕様のセイバー装備で、彼女以外でストームナイトと同様のセイバーを扱える者は恐らくいない。


「これは見事だな、グソク類とは一線を画した美しい造形だ。担い手が女性であると一目でわかり、織り込まれた魔法の力の緻密さもダイミョウ鎧に優るとも劣らないモノだ。少しさわっても?」

 とミカドはストームナイトの目の前まで歩くと、エッラに尋ねる。

 そしてエッラが頷き返すと、ミカドはストームナイトの胸と腰の間辺りを撫でた。

 単に背の高さ的に真っ直ぐ手を伸ばしたらその辺りというだけか?


 ストームナイトは小柄なエッラの専用鎧ではあるけれど、それでも10歳前後の少女のなりであるミカドの倍近い大きさがある。

 ミカドとエッラの身長差もほとんどないので、エッラがストームナイトを装着すると脚部の本当に上の方までしかエッラの脚は入らない。

 その分ホバーの魔石回路や増槽が収まっているので、脚部に空洞があるわけではない。


 ミカドは少しの間ストームナイトを撫でた後、次にエッラの装着している魔導籠手に触れた。

「コレも同じ様な魔法装具だな、うん、こちらにしようか?」

 と、一人何かを納得した様に首肯く。

「あ、あの、ミカド?何をお決めになられたのでしょうか?」

 と、流石に落ち着かない様子のエッラは珍しく自分からミカドの真意を尋ねた。


 するとミカドは無遠慮に年頃の娘の体を触れていた事に気がついたのか少しだけ慌てた様子を見せた。

「と、すまないなエレノア嬢、サテュロス製の魔法装具の完成度に夢中になってしまった。いやすまない、やはりサテュロス人はセントール人と比べて魔法的適性が高いのだな」

 言いながらミカドはもう一度箱の方へ戻る。

 そして、再度箱を触り少しすると

 カシャ、短く軽い音を立てて箱が開いた。

 ミカドはその中に手を差し入れると二つの小物を取り出した。


 ひとつは嵐の大洋でボクが習得した小箱に収まっていた小物と質感が似ている。

 先程吸い込まれて消えた盾に酷似した形状の盾の小物。

 まるであの盾がそのまま小さくなった様な造形だ。

 そしてもうひとつは、小さな宝石かガラス玉の様に見える、それでいて、それがただの石などではないことも見て取れるほど魔法力を帯び、周囲にそれを放っているガラス玉の様な何か・・・。

 ボクはあれに似たものを見たことがあったはずだけれど、それが何なのかは思い出せない。


「今アイラ姫に出して貰った大盾は、いやドラグーンが鍵の欠片と呼ぶモノは、鍵と呼ばれる魔法器の部品としての働きを持っている。それは、ドラグーンたちが伝えている様にいつか・・・アシハラを封印した。そしていつか・・・アシハラの封印を解くための祭器としての機能を持った魔法器だが、鍵の欠片自体もこの2つの小物を部品とした魔法の道具だ」

 ミカドはその二つ、盾の小物と宝石様の小物とを左右の掌の上で弄びながら、エッラの方へ再度近寄っていく。

 ドラグーンであるナタリィからすら聞いたことがなかった鍵の欠片の構成物。

 ミカドはドラグーンよりも神話の道具に精通しているのか、それともドラグーンがヒトへの影響を考えて伏せていたことを容易くばらしているだけなのか?


 ナタリィの表情を伺うけれど、その眼は驚きの色を映していると分かるだけで、秘密をばらされたことへの焦りなのか、自分も知らない話をしていることへの驚嘆なのか、はっきりとはしない。

 龍王よりも知っているということはなさそうだけれど、龍王がヒトと接触するナタリィには教えていない可能性もあるか?


 ミカドは、もう一度エッラのすぐ横までたどり着くと、宝石様の小物をエッラの眼前へ示した。

「魔法力と抵抗力に劣るセントール人が、グリーデザイアの魔力に対抗するには、この魔法道具が必要だったが、この道具の魔法力に耐えるには、分厚い装甲が必要だった。強い力を預けてもそれがケモノ化してこちらの敵になってしまえば意味がないどころか、苦労が増えるばかりだからな、だから、アレら鎧が必要だったのだ」

 と、おそらくはセントール大陸における大陸の獣の事件に関する重要なことを告げたミカド何気なくグリーデザイアのことも話している。

 ボクたちがすでに聞き及んでいることも想定済みか。

 そして彼女はそのままエッラの手の中にその宝石様の小物を置いた。

 

 その瞬間・・・


 フワリと音が視認できそうなほどエッラのスカートが風を孕んで捲れ膨らみすぐに戻った。

 風の魔法力だろうか?

 何が起きるかわからないので、ミカドとエッラの動向を注視する。

 しかし、聞こえたミカドの声は外見相応の少女の弾む様なソレだった。

「すごい♪グソクなしなのに一瞬で抑え込んだね、風の魔法力との相性が抜群に良いみたい」

 上機嫌で頬を染めてエッラの頭をなでなでしている。

 いつもの威厳が霧消してお姉さんぶってる女の子にしか見えない。


 エッラは困惑気味のまま、しかしミカドに対して抵抗することもできないでいる。

 ボクもいろいろ聞きたいことや、思うところはあるけれど、何から尋ねていいものか、むしろミカドが話したい様に話させた方が良いのではないか?と判断が鈍くなる。

 そして、案の定というべきか、ミカドはそのまま機嫌よさそうに、そしてやや照れながらいつもの様な喋り方に戻って話をつづけた。


「ん・・・この魔法道具は、今見ていてもらった通り、鍵の欠片をさらに細分化したものだ。鍵はいくつかの鍵の欠片を組み合わせた魔法器だが、鍵の欠片自体もいくつかの魔法道具から成り立っていることは今言ったとおりだが・・・」

 いくつか?確かさっきは『2つの小物を部品とした』と言っていなかっただろうか?

 本当は『幾つか』なのか?

「この盾の小物は、あの盾という武装としての形状と、遺跡を守る風の結界という権能を司る部分で、この宝石の様な物は、あの盾の振るう圧倒的な魔法力を司っている、そして、これこそが、ダイミョウ鎧を動かす心臓部だっ!そして・・・」

 言葉を重ねることにミカドの表情は興奮し、さらには陶酔と変化をしていく。

「ほとんど生身でこれを制御しきれるエレノア嬢は、今まさにダイミョウ鎧を纏っているといえるだろう、実戦に出すには調整と練習がいるだろうが、今このセントール大陸の者でエレノア嬢を害する事が出来るものは居ないだろう」

 と、ミカドはうっとりと満足した表情で語る。


 つまり先ほどの小物が、ダイミョウ鎧を動かすための動力、セイバーで言うところの魔石回路や魔法陣ではなく、装着者の魔法力(と蓄魔力槽に蓄えられた魔法力)の方の意味でダイミョウ鎧を動かす力ということだ。

 つまり先ほどの小物は単体で、魔法力を産出することができる?

 魔法力を司るというのはそういう意味か?


 それも、セントール大陸にはあれを生身で制御出来る者は皆無であるととれる発言をミカドはしている。

 つまりそれほど強力な魔法力をあの道具は秘めている。

 それもそのはずか、あの嵐の大洋を生み出していた大盾、その権能を維持するのに生半可な魔法力では足りるものではない。

 ということは・・・?

 ハッとする。


「アイラ姫、今度は少し気づくの遅かったね」

 いつの間にかミカドは大きな箱を一つ、足元に置いていた。

 それは、ボクが嵐の大洋で見つけてきた大きい方の箱よりも一回り小さいものの、その形状はほぼ似通っている。

 一番の違いはエンブレム部分、ボクの持つそれは、剣を裏面に隠した盾のエンブレム、おそらくはミカドを表すエンブレムだとリューベル様が言っていたものが象られている。


 それに対して今ミカドの傍らにあるそれは、おそらくは太陽を図式化したものに、女性と思われるものが一緒にデザインされている。

 神話的にそのモチーフを考えれば、聖母をイメージしたモノだと思える。


「アイラ姫、姫が持っているサテュロス大陸の鍵の欠片も、同じ成り立ちの物で、対応する箱は私が預かっている。私の様な者がいたセントールと違い、サテュロスには当時『目的』に沿える者が居らぬかったし、ただ破壊をもたらすだけだったネクレスコラプスを退治するのに、大仰な鎧は不要であったからな、御遣いが勇者を選び欠片を貸し与え討伐した」

 ボクが気付くのに遅れたその事実、サテュロスの魔剣もすべて同様の魔法道具であることを知らされて、ボクはどうするべきか迷った。

 サテュロスの神話でネクレスコラプスの血や角が変化したと伝わるそれらこそが、彼のケモノを討伐した得物であるという。

 アレらは正直ボクにも制御できないでいる。

 その魔剣を制御しうる箱が、今ミカドの足下に・・・?


「小箱が・・・」

 ボクの発し始めた言葉に反応して、神話の時代に関係する話を続けていたミカドは言葉を紡ぐのを止めた。

 ナディアがいたなら残念な顔をしたかもしれないけど、彼女は今頃エイラ、ユナ先輩と一緒にエコーを洗ってくれているはずだ。


「小箱が、鍵の欠片を制御するものならば、大箱は、鍵そのものを?」

「そうだ」

 ボクの、言葉足らずの問いかけに、ミカドは確りと断言する。

「中身の揃った小箱を大箱に納めることで鍵はその魔法器としての機能を果たす。ただし、箱は本来必ずしも必要な物でもない、アシハラや龍の島には鍵と欠片を制御するための設備も残っているはずだ」

 続けてそう断言した。

 ナタリィの表情を確認すると、彼女は小さく首肯く。

 そしてミカドは不敵に微笑み。

「一先ずエレノア嬢の鎧をダイミョウ鎧の代わりに、籠手を鎧と心臓部の制御装置として改造したいと思うが、二晩貸して貰えるか?」

 と、告げたのだった。

投稿ペースがさらに遅くなっており申し訳ありません

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