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第174話:ダイミョウ鎧1

 セントール大陸に7領しかなかったはずのダイミョウ鎧、それが新たに臨時のダイミョウとなったエレノア・ラベンダー・ノアに与えられるというミカドの言葉に、室内のセントールの者達は驚きを隠しきることができなかった。


 予備の鎧があるならば何故これまで出し惜しみしていたのか?

 それをもっと早く出していれば現在のサンキの増長も無かったのではないか?

 そう考えずにはいられなかったのだ。

 それを見越したかの様にミカドは更に言葉を紡いだ。


「皆の疑問はわかるが、理由の一端は先ほど述べた事の中にある。新たなダイミョウ鎧を稼働させるには、私と同格の存在である姫君達の力を借りなければならない。鎧は用意出来ても私一人の力では7領までしか動かせないというわけだ」

 と、説明するミカドに、セントール人たちから何となく納得した雰囲気が漏れる。


 しかしながらダイミョウ鎧の実物も見たことがなく、ミカドと同格であるらしいことにも疑念を抱いているアイラは、余裕のある態度を崩さないものの、内心では焦っていた。

 一体自分や神楽、ナタリィの何がダイミョウ鎧を起動させるに足るのか、その部分に全く心あたりがないのだ。

 そんな彼女の焦りを知ってか知らずか、ミカドは締めの言葉に移る。


「さて皆聞きたいこともあろうが、今日のところはここまでだ。また明後日日程をとっておるのでな、アイラ姫たち大陸外の使者殿達とシンチョウ・ヴォーダ、ケイコ・チョウビ以外は宿舎に戻って良いぞ、その他で聞きたいことの在る者は明後日の同じ時間に登城するがよい、今日は小者の相手が煩わしかったからか疲れたな」

 そういうとミカドは、普通の少女の様に伸びをして、長い息を吐いた。

 人形の様に整った非現実的容姿の少女が、常の人のする様な行動をするだけでギャップを感じさせ、その場にいた人間たちに意見や反応する余裕を失わせた。


------

(アイラ視点)

 ミカドが会議の終了を宣言すると、おそらくボクたちにカシュウがそうしてきた様に、仕度部屋から彼らを連れてきたのであろう奏者達が、順に客人たち、セントール人たちの元に行き案内を始めた。

 また来る時はボクたちと一緒だったマナ姫やトリシア姫の元にも、それぞれ人が行き、彼らは部屋の外へと連れ出されていった。


 それから、少しして、部屋の中にはミカドとマディン、カシュウとダイミョウ2名、ボク、ユーリ、神楽、ナタリィ、エッラ、ナディア、エイラ、フィサリス、ユナ先輩、そして眠る幼女エコーとが残された。

 最初は断固たる意志で神楽の胸に顔を埋めていたエコーも、しばらくすると体が崩れて、今は右手だけが神楽の乳房にもたれかかり、頭と上体は神楽の膝の上に乗っかっている。

 ミカドは神楽に『そのままでいい』と告げると自ら神楽の隣まで歩いてきて、今はエコーの馬体の背中のあたりを優しくさすっている。


 エコーは少し気道が詰まっているのか、口を開けて眠っていた。

 その寝息は不自然な体制も相まってか少し大きく、苦しそうに聞こえる。

 でも何度か神楽が体勢を整えさせ様としても、エコーが大きく身じろぎして嫌がるのでそのまま放置になってしまった。

 それがミカドがさすっていると多少でも穏やかになっているのだから、ミカドはセントール族の幼子の扱いも心得ているのだろう。

「おぅよしよし、今楽にしてやるからな」

 言葉だけ聞くと暗殺でもしようとしているみたいだけれど・・・。


 ミカドは何か頃合でも見計らっていたのか、しばらく馬体の背中をさすっていた手をすっと、馬体の脇腹の方へ移動させるともう片方の手をエコーの上体の胸のあたりに差しいれる。

 そして、そのまま引き寄せると、エコーの右手は神楽の膝の上に落ち、神楽の膝の上にはエコーの右手と頭だけが乗り、上体は床に寝そべった状態になった。

 エコーは嫌がる様子を見せずになすがままになり、その寝息も穏やかな鼻呼吸になった。

「これで落ち着いて話ができるな」


 結果に満足したらしいミカドはエコーの頭を撫でたままでボクとシンチョウ氏、ケイコ女史の双方と対面する様に体の向きを整える。

「ケイコ・チョウビ」

「はっ!」


 ミカドが声をかけると、すぐに応答するケイコ女史はミカドへの忠誠と信仰を如実に表すかの様に使命感を感じさせる凛とした声と真剣な眼差しをしている。

 彼女からすればミカドが自分よりも年若い、ともすれば幼いと言っても過言ではない少女の姿であることに対して何の不審も抱いていない様だ。

 ミカドはそんな彼女の態度に微笑を浮かべると命令を下す。


「そなたにはこれからシンチョウ・ヴォーダ用のダイミョウ鎧の改修が終わるまで、中央にてシンチョウ・ヴォーダへ鎧の扱いの手ほどきを頼みたいが、頼まれてくれるだろうか?」

「ミカド御自らのご下命、断るものなどいようはずが在りませぬ。このケイコ、身命を賭してお心に沿う様に努めさせていただきまする。非才の身で有りますが忠誠だけは誰にも劣ることはないと、証明して見せましょう」

 ミカドが何を言っても即断即決、これがセントール大陸での正しい信仰なのかと若干考えさせられる部分もあるけれど、今のところこれでこの大陸は回っているわけだし問題ないのだろう。


「そなたが非才などと・・・いや忠誠、ありがたく頼らせてもらおう。マディン、二人を工房へ」

 ミカドは満足そうに頷くとマディンに指示を出す。

 マディンはケイコ女史、シンチョウ氏に声をかけると先導して部屋を出て行った。


 部屋の中から3人が居なくなると、さらにミカドは続ける。

「さてここからはいろいろ込み入った話になる。まずは臨時とはいえダイミョウとして組み込んでしまい申し訳ないなエレノア嬢、とはいえ私から何かを命令することはないのでそこは安心して欲しい。そなたは先ほどのケイコ・チョウビの様にアイラ姫を信奉する忠臣、それを無碍にはせぬし、そうせねば我々の協力関係は盤石とはならないだろう」

「いいえ、わざわざのお気遣いありがとうございます。私はアイラ様にお仕えする身ではありますが、アイラ様と協力関係になるのであれば、ミカドの申し出にも可能な範囲でご協力させていただきたいと思っております」

 ミカドの謝罪に対して、エッラはボクへの忠誠を優先するが友好関係にあるミカドの意向も自分に判断できる範囲では協力すると返答する。

 たぶんボクの隣を離れなくて良いことならば聞くし、そうでなければボクに訊くのだろう。


「それでは皆私についてきてくれ、カシュウはここで人払いを頼む」

 そう言うとミカドは立ち上がる。

 カシュウは小さく頭を下げて、命令に従うことを表明し、ボクたちも立ち上がろうとするけれど・・・。

「・・・と、そういえば寝かせたばかりだったな」

 神楽の膝の上には、つい今しがた楽な体勢にさせたばかりの幼女が眠っている。

 彼女を起こさずに神楽が移動することは難しいだろう。

 どうするのかと思いボクたちは行動をせずに待っていると、ミカドはなにか逡巡する様子を見せてからすぐに明るい表情を浮かべた。


「まぁ良いか、そのままじっとしていてくれ?」

 そう彼女がつぶやくと、どうやって呼び寄せたのか部屋の入口から禁軍が4名現れる。

 名というか体というか、相変わらず彼らは鑑定できず。

 中身がヒトとするならば鎧に見えるそれが全身タイツとかでもなければ、体の大きさというか厚みが不自然極まりないが、装着しているそれは明らかに金属の鎧だ。

 彼らはボクたちを取り囲む様に移動すると立ち止まった。

 少し警戒を強める。

 彼らは武装した戦力、それがなぜボクたちを取り囲むのか、その意味を測り違えてはならない。


「あぁ、カグラ姫以外は少し離れてくれ」

 とミカドはボクたちに伝えるので、言う通りにボクたちは立ち上がって離れる。

 すると・・・


 ジジジ・・・

 と音がし始める。

 見れば禁軍のうちの1名(体)が手にナイフの様な短い刃物を握っており、それが赤熱している。

 もう明らかにおかしい、さらに警戒していると禁軍はその刃物を床に突き立てて、切り始めた。

 赤熱しているのになぜ床の木材が燃えないのかとか、なぜ唐突に床を切り始めたのかとか、疑問は多いけれど、とりあえずその刃物が神楽やエコーに向けられなかったことにほっと胸をなでおろす。

 40秒もすると神楽の周りの床は完全に四角く切り取られた。

 そこに禁軍たちは長い金属の棒を突き刺すと、完全に統制のとれた動きでそれを持ち上げた。


「え?ええっ?」

 どれだけ力加減が完璧なのか、床は全く平行のままで持ち上げられた。

 混乱する神楽をヨソに、エコーは眠り続けていて、寝心地も悪くない様だ。


「それではついてきてくれ」

 と、ミカドが歩き始める。

 行先は、御簾の向こう側、奥の通路の様だ。

 現状取りうる選択肢はないので、ボクたちも後を追うと、禁軍たちは最後に入ってくる。

 むろん彼らが輿の様に持ち上げた床も当然の様にその広くはない通路に入るくらいに調整されている様で、全く人間味のない正確な動きで彼らは神楽とエコーを運搬する。


 通路は木造で、いくつかの場所に覗き穴の様な小さな窓や、どこかに続く扉と思しき構造物があったけれどミカドはそれらには用がない様子で、どんどん前に進んでいく。

 そして2分ほど歩いたところで通路は行き止まりになった。

「少し待ってくれ」

 しかしミカドは特に気にした様子もなく通路の右側の壁にその掌をかざす。

 そこには特に何もある様には見えなかったが、なにかがカチリと音を立てて行き止まりになっていた壁が扉の様に開き、その先にまだ通路と上りの階段が続いていた。


 ミカドは再び歩き出しボクたちもそれを追う。

 と、ここで少し気になる。

「(階段ってことは禁軍と神楽は?)」

 ちらりと後ろを確認するとまたしても人間離れした器用さで禁軍は輿にした床を平行に保ったままで階段を上ってついてきている。

 前の二人と後ろの二人が合図もなく、高さを合わせている。

 神楽は少しビクビクしているものの、揺れがほとんどないらしくエコーは穏やかな寝顔のままだ。

 安心して前に向き直ると、前を歩いていたユーリと目が合った。

 どうやら彼も神楽のことを気にしてくれたらしい。


 階段はそう長くなく、ほんの4m分ほど上がるとそこには一人暮らしのアパートくらいの広さの薄暗い部屋があった。

 寝具と保存食らしいものが棚に収められており、あたかもここが最後の砦の避難場所であるかの様に見える。

 しかしミカドは足を止めることなく、棚の上に畳まれ置かれた布団をずらすと、そこの奥の壁にまた手をかざした。

 すると棚のあった部屋に入って左側の壁ではなく、右側の壁の一部が窪み、そこに扉があることがわかる様になった。

 ミカドはそちらに向かうと扉を開けてさらに歩み続ける。


 そこからほんの数メートル進むと、元進んできた道と同じ方角に再び階段が現れた。

 しかし今度のそれは、階段の上からは照明の関係はあるだろうけれど、一番下が見えないほど長い階段の様だった。

 別にボクたちは長い階段を苦にすることはないけれど、これだけ厳重に隠されている場所というのはただ事ではないとわかる。

 ただでさえ警備のある宮城のミカドが利用する様な重要区画の奥の奥、さらにこの外部からもしトラックで突っ込んだとしても見つかることのなさそうな地下まで降りて行くのだから、それは重要な箇所があるのだろう。


 やがて80mほどは下ったのだろうか?

 唐突に下り階段が終わった。

 そこには、『暁』の感覚で近未来的な印象を受ける工業的に整えられた均質な床材の部屋が広がっていた。

 壁や天井は木造であるのに対して、床だけが不自然に人工的な素材、それも表面に傷一つないほど滑らかで、柔らかさと頑丈さの両方を兼ね備えている様だ。


「こちらへ」

 ミカドは、呆然と立ち尽くしているボクたちに声をかけると部屋の中央にあるモニュメントに近づいていく。

「(いやこれはモニュメントではなくて・・・)」


 そこにあったのは入口だった。

 1辺2m程度の四角い箱型の構造物でその中央には機械的に見える扉と思しき物がついている。

 ひどくSF的で、このナワーロウルドの世界観にはそぐわない、どこか見覚えのあるそれは、アスタリ湖の遺跡のそれとよく似ていた。

 ということはこの床は、屋根かなにかなわけだ。

 この床の下にある構造物は一体何なのかわからないけれど、おそらくはアスタリ湖の遺跡の様に古くから存在するのだろう。

 つまり宮城はその古代の、それでいて未来的な構造物の上に、それを隠す様にして建てられたということだ。

 ミカドが1万年以上生きているならばそれも不可能ではないだろう。

 そういえば途中の隠し扉を開ける技術もカラクリの類かとも思ったけれど、もしかするとなにか科学技術、例えば掌紋なんかの生体認証だったのかもしれない。


「ここからさらに下に向かうが、疲れている者はいるか・・・?居ないか、ならばこのまま行くぞ」

 ボクたちを一瞥すると、そう言ってミカドは扉の一部に再び手をかざす。

 するとやはり自動扉で、扉が音もたてずに開く。

 ボクたちもアスタリ湖遺跡やらで、自動扉やせりあがる台座、勝手に動く壁やらを見ていなければもう少し驚いただろう。

 実際ナディアとエイラは目を見開き、ユナ先輩は口をあんぐりとさせている。

 君たちはこういったモノ未経験だものね、初めてだとびっくりするよね。



 さて扉が開くとそこにはまた下りの階段、しかし扉が自動であったのでそうだろうとは思ったけれど、当然の様に上り下り2本のエスカレーターが、オレンジの光源に照らされていた。

 それにしてもドアを開けてすぐにエスカレーター、またはエスカレーターが終わってすぐに扉って、危ない構造だよね。

 駅のエスカレーターがそうだったら絶対事故が起きる。

 ということは、ここは駅やら商業施設やらの人通りの多いところではなく、何か特定の少人数だけ、それもふざけて暴れることがない様な者たちが利用する施設だったと予想できる。

 学校や病院も外していいだろうね、学生はふざけるものも絶対いるし、病院でけが人を作ることを助長する様な設備を容認はしないだろう。


 そんなことを考えながらミカドの後を追うけれど、後ろが少しついてこられていないことに気づく。

 振り返ってみればユナ先輩がエスカレーターに足を踏み出すことができずに、二の足を踏んでいた。

 ついでに、角度がついた上に彼女が足を広げたことでスカートの内側のぴっちりめのズロースが覗いている。

 着替えや入浴の世話で当然のように見えるそれはもうほとんど気にならないのに、こうやって不意に見えると少し悪い気がしてしまうのはなんでなんだろうね?


 さて、ミカドは先に下って行っているし、エスカレーターを逆走なんていうのはマナー的にもなしなので、先輩のことは彼女より後ろのナディアたちに任せる他ない。

 まぁ、ナディアやエイラも初めてだという不安もあるけれども、優秀な彼女ならどんな初めての経験にもなんとかついていけるだろう。

 後ろには輿に乗ったままの神楽もいるしね。

 そのままエスカレーターを20mほど下ると、また自動扉、ここは認証なんかもないらしく勝手に開く。

 その扉をくぐると・・・。


「暗いので、そのまま待って居て欲しい、明かりをつけてくる」

 そう言ってミカドはどこか奥の方へ向かって行ってしまう。

 彼女は暗いの関係ないのだろうか?

 ボクもある意味関係ないけどね、手から魔法や光弾で光を出せる訳なので。

 でもせっかくミカドが明かりをつけてくれるというのだから、後ろの子たちが来るのを待ちつつ、ミカドが明かりをつけてくれるのも待つことにする。


「足音が複雑に反響してる。広い部屋の中みたいだけど、何か置いてあるね」

 と、ユーリがボクの手を握ってくる。

 暗がりの中ユーリと手をつなぐのも乙なものだ。

 近くにナタリィやフィサリス、エッラが居なければちょっと雰囲気出ちゃってたかもしれない。



 やがてボクたちに遅れること30秒ほどで後発組もやってきた。

 自動扉のところはまだエスカレーターのところにあった非常用っぽいオレンジの光が少し漏れているので、恥ずかしそうなユナ先輩の表情が見える。

 そして。



『【ピリリリリリリリ!動力が入ります。動力が入ります。ピリリリリリリリ!!】』

 と遠くで、日ノ本語かアシハラ語の音声アナウンスが聞こえた。

 そして・・・・。


 カッ!と擬音が聞こえそうなほど、一斉に室内が明るくなる。

 そしてボクたちの目の前、と言ってもミカドが向かった方向に30mほども先だけれども、そこには全高10m程はあろうか?

 巨大な人型の何かが棒立ちになっていた。

 おそらくは整備するための足場が周囲にはあるけれど、そこに作業者はいない。

「(なんだあの大きさは、鎧ではなくてアニメの巨大ロボットにしか見えないね?どうやって動かすんだろうか?)」


 そして、そんな鉄の巨人達は一体だけではなく、いくつも立ち並んでいた。

 


今日は久しぶりにゆっくりできる休みなので、もう少し頑張って書き進めたいと思います(更新は多分できませんが)


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