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第173話:ミカドのお話と新ダイミョウ

 今より遥かに昔、世界に秩序はなく、方向性を持たない泥濘の様なモノが海と混ざりあった状態で存在していた。

 そしていつしかそこから黒い獣たちが発生した。


 約二万年前、泥濘の中から生まれたのか、それともどこかから唐突に現れたのかはわからないが、神王が出現、泥濘から大地アシハラを作り出し、またその後聖母が神王の元に現れた。

 聖母は多種多様な子どもたちを世界に産み出し、世界には徐々に命が溢れ始めた。


------

(アイラ視点)

 ミカドの口から語られたセントール大陸に伝わる創世神話は、イシュタルトのモノとさほど変わらない。

 神王、聖母、龍王、聖王が出てくる。

 文化的に隔絶していても同じ六聖神話が残っているのは非常に興味深い。


 それから、話は大陸の獣の話に移る。

 これも流れはやはりほぼ同様。

 違うのは獣が地平灼く千頭山羊ネクレスコラプスでは無く疾く死を運ぶ八脚馬アハトバインであることと、当事者であると言うミカドの口から語られていることだ。


「・・・不幸なことに、たまたま・・・・病気に成りにくい体質だった数名の者が、行く先々でただ一人の生き残りとなってしまった。彼らは最後には病気を振り撒いた死神扱いされ、焼き殺されてしまった。それだけで済めばただの悲劇だったのだが・・・」

 アハトバインについてミカドが語る内容には、人々を蝕んだ病の様子や、それから起こった醜い人同士の争い、怨嗟の声、とても小さな子どもに聴かせられないことが多分に含まれている。


 幸いにして、先ほどはしゃいだことで体力を使ったのか、ミカドが淡々と語る創世神話が子守唄となったのか、現在エコーは神楽の正面に座ったまま、神楽の胸に顔を埋めて少し前から寝息をたてている。

 変な体勢なので反って疲れそうだけれど、先程ウトウトし始めた彼女に神楽が『エコちゃん、そんな姿勢だと疲れちゃうよ?お膝ねんねしたら?』と声をかけたところ

『ヤー!ブゥ・・・』と言いながらなついている神楽の手を払いのける程だったので仕方がない。

 それに神楽の胸を歪ませる幸せそうな寝顔を見ていると頬が緩む。


 ミカドの語る神話の中にはグリーデザイアやアンヘルの事は含まれていなかったが、大陸に蔓延した病のことや、抗体を持った者が人々の疫病への恨みを受けて殺害されたこと、そしてその時に人々の心からアハトバインが発生したと語られ、ナタリィ達の話と符合する部分が多く確認できた。


 そして本題の彼女自身については

「騎士王様はアハトバイン討伐の為の力を得るために、聖王様に二つの誓いを立てた。それはアハトバイン討伐の後は聖王様や神王様の目指すモノの為に力を振るうこと、そしてもうひとつはすべてが片づいた暁には、私と添い遂げること、その誓いを果たすために、私は死ねない存在と成ったのだ」

 ともすればある種の呪いともとられかねない騎士王と聖王との契約の為に彼女は不死の存在となったのだと言う。

 とはいってもそれは不老不死とは異なるもので・・・。


「私はある程度の肉体年齢まで老化が進むと、自動的に誓いを立てた頃の10歳前後の姿に巻き戻る。そう、今くらいの姿だな。今は巻き戻ってから半年位なのだ。」

 と、ミカドは胸を反らせながら自慢げにする。

 彼女の人形の様に整った容姿と大人びた口調、子どもっぽいジェスチャーはひどくアンバランスだ。


「私が騎士王様と将来を誓いあっているのは、当時の中央の生存者達には知れ渡っていてな、といってもセントール全土で生存者は3000人程、中央には大多数の2200人余りが暮らしていたのだけれど、彼らは私のことを、身寄りを全て失い、今生で騎士王様と添い遂げることを諦めざるを得なかった娘だとして憐れみ、しかし聖王様たちから頂いた加護のこともあり、私をうっかり死なせない様に中央の領主として祭り上げたのが、今の宮城とチョウテイの始まりだ」

 少し寂しそうな表情は当時を懐かしんでいるのだろうか?


「聖王様、騎士王様に頂いた加護はいくつかあるが、特に大事なのは、悪意を持って騎士王様のものである私の肉体を汚すこと、傷付けることは、死を意味するというものだな、幼子が癇癪をぶつける程度ならなんのこともないが、実際私に手を出そうとして当時文官達をまとめあげていた男が、骨も残さず蒸発したこともある」

 つまりミカドが、騎士王に嫁ぐ事を阻害することは命に関わる応報があるということかな。


「まぁ、私をどうこうしようとしなければ実害はない、そして私と同格だと教えたアイラ姫、カグラ姫、ナタリィ姫にも恐らく同様の何らかの神話的加護が宿っている故、くれぐれも刺激しないでくれ、存外『殺すと世界が滅びる』とか、そういう破滅的な加護持ちの可能性もあるのだ」

 と、彼女は僕達の事を語った。

 一体どれくらいの事を知っているのか。

 僕は聖母の適性や数多くの加護をもっているけれど、それにもその様な応報の呪いの様な効果が付随しているのだろうか?

 そして確かにナタリィは龍王の娘を名乗っているし、実際ドラグーンをまとめる立場には在るけれど、それはミカドが言う様に、ミカドが持つ加護や、ボクの加護と同列に語れるものなのだろうか?

 神楽の受けている加護が一体なんなのかも気になるけれど、今は尋ね返す場面ではないだろう。


 不思議な沈黙が室内を支配する。

 ミカドの話をすぐさま全て信じる訳にもいかないが、彼女が嘘をつく理由は弱いだろう。

 すでにミカドの権威が確立しているのに、不用意な嘘でそれを貶める愚を犯す様な人物ではないはずだ。

「以上が私の身の上と、同格である姫君たちについての注意だ。姫君たちが今このセントールに訪れたのは、恐らくは神王様達の事業に関わることだ。姫君たちに自覚はないかもしれないが、私はそう確信している」


 誰も声を発っさない中、ミカドの声だけが、時間が止まったわけではないことを知らしめる。

「さて、肝心の話だ。先ほど告げた様に、ダイミョウ鎧の回収がなった後はチョウビ、イセイ、ニコ、ヴォーダの4家に、現在のダイミョウ相当かそれ以上の権威と責任を預ける事になる。その際には北のチョウビ、南のヴォーダ、東のイセイ、西のニコと言った具合に各地方のシュゴや豪族たちの取りまとめをしてもらうが、あくまで先の話だ。今しばらくはダイミョウとして仕事をしてもらう」

 肝心の話と言いつつ、ほぼ現状の維持を表している。

 と、言うことは本題はこのあと・・・か?


「先ほどマディンが述べた、ファントリー地方を領土とする臨時のダイミョウ家の話だが・・・」

 ほらきた。

 流れからすればボクにその役目を負わせて、ダイミョウ鎧の回収を依頼するのだろうけれど、こちらはまだ魔剣の話を聴いていない。

 ダイミョウたちが帰った後に、ミカドから魔剣関連の話を聴くことができれば良いのだけれど・・・。


「・・・の予定だが、アイラ姫、アイラ姫?ご協力頂けるだろうか?」

 ミカドが不思議そうにこちらを見つめている?

 しまったね、どうも考え事に意識が逸れ過ぎていた様だ。

 加速していることもあって、聞き逃してしまった。

 でも流れからすればボクに臨時のダイミョウにって事だよね?

「はい、協力できることであれば喜んで、ミカドと友好関係を築くことは、我が王国の国益にもなるはずですから」


「ありがとう、アイラ姫ならばそう言ってくれると信じていた。それではそちらの信頼できる家臣を一名を選出してくれ」

 ?

 なんだろう、信頼できる家臣?

 頼りになる側近的な者がいないと安心してダイミョウを任せられないとか、そういうことだろうか?


 まぁいい、何はともあれボクの家臣で最も信頼できる者を挙げるならば、まずはエッラだろう。

 付き合いの長さもあるけれど、彼女の実力はとうに王国軍でも最上位の戦力であるジェリド、ボレアス、アクタイオンら相手であっても、正攻法の立合いであれば圧倒する。

 信頼できるという点では他の皆も満たしているけれど、ボクの家臣でとなれば、一番手はエッラで間違いない。

 ナディアやトリエラは厳密にはホーリーウッド家の家臣と考えるべきだし、フィサリス、ダリア、アリー、マリー、ユナ先輩は借り物、ボクの個人のメイドと言えるのはエッラ、エイラ、ソルくらいだ。(一応ベアトリカもボクのベアメイドだけれど、今回は外して考えるべきだろう)


 3人ともボクは同じくらいの信頼を寄せているけれど、であれば戦力的に最も頼りになるエッラを選ぶことは極めて自然だ。

 ボクは自分のメイドたちに『一番信頼している』と順位をつけることに抵抗を感じて、除外、選出の理由を念押しの様に何度も言い聞かせた。

「それでは、エレノア、こちらに・・・」

 こういう場なので、ボクが彼女の正式なファーストネームで声をかけると、マナ姫の近くに居たエッラはこちらに歩いてくる。

 小柄なエッラはその矮躯に不釣り合いなモノを揺らし視線を集めながらボクの隣までやって来ると跪いた。


 エッラが跪いたのを見たミカドは小さく首肯くと

「済まないが私の前に来て皆にも聞こえる様、自己紹介を頼めるか?」

 と、エッラに促した。

 エッラがボクの方をちらりと見たので、良いよと頷く

 エッラは立ち上がると、ミカドの前に行きメイドとしての外向きの微笑を浮かべ、サテュロス式のカーテシー様の礼をする。

 何気無くボクたちよりは僅かに部屋の入り口側に陣取っている。

「エレノア・ラベンダー・ノアと申します。畏れ多くもアイラ姫様の一番メイドを仰せつかっております。」

 一番メイドと言うと、イシュタルトの貴族女子中の文化では暗に愛人関係のあるメイドをさすことが多いけれど、ボクたちの間に現在愛人関係はない。


「ありがとうエレノア嬢。彼女は聞いての通り、アイラ姫の側近なので、名目上私の臣下であるダイミョウとして任命するが実際には私の配下とはならない。これはあくまで同格であるアイラ姫たちをダイミョウに任命することはできないための致し方ない処置だ」

 言いながらミカドは何かをマディンの方へ手で合図する。

 するとマディンは近くの机から何かを取り出して、ミカドに差し出し、ミカドは受け取った。


「この任命によって私から彼女に命令するであるとか、他のダイミョウから依頼されての調停などは私は行うことは発生しない、彼女に何か依頼があるならば、その主であるアイラ姫を介して依頼せねばならない。とはいえそれは失礼にあたる可能性があるので、すでに友好関係を築いているらしいトリシア嬢やマナ嬢、あるいは大陸全土に関わる様な事案であれば中央を経由すること、エレノア嬢これを受け取ってくれ」

 ミカドはボクたち以外の者達に言い含めながら、マディンから渡された書面と、何か金属ぽい質感の板を確認すると、エッラに差し出した。


「拝領致します」

 短く答えて、エッラはミカドから差し出されたものを受けとる。

 ボクにも見えたけれど書面は恐らくダイミョウへの任命の書状

、板の方はなんだろう・・・カード?


「これは先程シンチョウに取らせたものと同様のダイミョウへの任命を示す書状と、ソナタに引き渡すダイミョウ鎧を保管している場所の鍵だ。後程案内するので、アイラ姫達も残ってほしい」

 ダイミョウ鎧という言葉に空気がざわつく、7領だけでは無かったのか!?というセントール人達の動揺が感じられた。

 エコーはまだ2才前なので、普通に座りあうと神楽の胸に届かない様に思えますが馬体分座高が高いのでいけるかなと考えてそんな姿勢にさせてみました。

 深く考えてないので本当は身長差的にいけないかもしれませんが、おっぱいの大好き幼児の姿が好きなので見逃してください。

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