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第169話:御前会議2

 セントール大陸の最高権威ミカド、その居城である「中央」の「宮城」において、大陸南東部の領主シコウ・イセイの娘であるトリシア姫が発言を終えようとしていた。

 その内容は基本的に戦闘行為が憚られるミカドの御料地において停泊中に、サンキ家の船団がアシガル装備まで投入しての上陸戦を仕掛けてきたこと、そして、そんな危機を通りすがりの戦舟いくさぶねに救われたことであった。


------

(アイラ視点)

 トリシア姫の発言は、一応ほとんど邪魔されることなく終わろうとしていた。

 初めは逐一口を挟んで来ていたサンキ家家臣ロック・ベーコンも、毎度ミカドの家臣達に咎められ、『トリシア姫の話の腰をこれ以上折る様なら次は、決議まで閉め出しますよ?』と言われてからは黙った。


 流石に傍若無人なサンキの使者も、一切意見を差し挟むことができないまま、これだけの家の使者やダイミョウ本人を前に有罪判定や討伐令を出されるのは困るらしい。

 トリシア姫、途中からはマディンに促されたマナ姫の発言を含めて憎々しげな視線を送り続けながら、それでも大人しく聞き続けた。

 あくまで実利によって大人しくなったのであって、ミカドへの敬意や権威は微塵も感じて無い様だね。


「・・・というわけで、わs・・・たくしどもイセイの船団は、アイラ姫様達ご一行に命の恩があるのj・・・でごさいます」

 たぶんミカドへの拝謁に備えてそれなりに練習はしてきたのだろうけれど、部分的に素が出そうになりながら、マナ姫の発言の後で再度、ノイセでの出来事を簡潔に説明してトリシア姫は発言を締めくくった。


 マナ姫の発言は、客人扱いで戦闘は目撃していないが、数分間の戦闘の音は聞いたこと、そしてサンキのものとおぼしき船の残骸や捕虜がノイセに大量に残っていること、そして一部を(ボクたちが)持ち込んでいることを伝えただけだ。

 でも実際「ノイセ」に「サンキ」の戦船の残骸が沢山残っているだけでも十分に証拠になるんじゃないかな?

 御料地にそれ以外の大規模な

せんだん状況が普通ではない訳だしね。


「報告大義でした。ミカド、以上でトリシア姫、並びにマナ姫からの聴取を終えます」

 マディンは簾の向こうのミカドに向かって一礼すると、ミカドの影は手を一度小さく振った。

 カシュウを労った時と始めにマディンを指名した時以来、ミカドの少年や女性とも思える様な、若々しい声は恐らく発せられていない。

 基本的に手を振るか、何か音を立てることで、またマディン達にだけ聞こえる声を発している様にも見えるけれど確認はできない。

 とにかくボクたちにはわからない手段でマディンら家臣に何か意向を伝えている。

 今度もその手振りで、マディンはミカドの意向を汲み取った様であった。

 その必要以上に声を発しないことで、会議の重々しさが上がる効果がありそうではあったが、相手がロックではあまり意味はなかったかも知れない。


「御意・・・引き続きアイラ姫様とご一行様へ何点かお伺いさせていただきたいのですが、宜しいでしょうか?」

 マディンは、促す様にして発言をさせたトリシア姫やマナ姫へのそれと違い、こちらに許可を求める様な態度をとった。

 これも扱いの差だろうか?

 とはいえ、ノイセ襲撃についてはボクこそが当事者だ。

 なんならナイトウルフ(鎧)を呼び出して一人二役をしても良い。


「ええ構いませんよ?」

 とはいえサンキに対してどういう態度や、情報の出し方が有効かは、ボク達よりも彼らの方が知っているだろうから、まずは聴かれたら答える形式でいこう。


「ありがとうございます。それでは初めに・・・」

「待たれよ!もう我慢ならぬ!」

 ボクに対して質問をしようとしたマディンの言葉を、不機嫌そうなおっさんの声が阻んだ。

 言うまでもないことだが、サンキの使者、ロック・ベーコンだ。


「また貴方か、サンキの」

 こういうやり取りに飽きてきているのか、マディンの対応もどこかなおざりで、相変わらず表情は感情を汲み取りにくいが、ロックに対して大変にめんどくさいやつとか、聴くだけ無駄とか、そういう感情を持っている様にも見える。


「私は先程のイセイの姫君、並びにシーマの小娘の私見に口を差し挟むなと言われ一度は我慢しました。それは私にも反論をする機会が与えられると信じてのこと、だというのにあれだけの侮辱を受けて反論も許されず。さらにまたどこの馬の骨とも分からぬ小娘の話を黙ってきけと!?バカにしないでいただきたい、御前会議はおままごとではございませんぞ!?」

 ロックは声を荒らげて、不満を吐き出した。

 確かに、これだけの家柄の当主や使者が顔を会わせているのだから、これがおままごとのはずはない。

 だがそれをわかっていないのはむしろこの場ではロックの方だ。


 ほとんどの者はロックに呆れか嫌悪感を抱いたことだろう。

 ロックには背中しか見えていないだろうけれど、特に年若マナい娘トリシアさんシンクたちエロイースは分かりやすい。

 それを知ってか知らずか、ロックはなおも持論を展開した。


「そもそも、この様な会議の場に女子どもが出てくること自体バカにしているか、我々サンキをおとしめるために適当に仕込んだ者の様にも思えて参りますな、ミカドはいかがお考えか?無礼であるとはお思いになりませぬか?是非とも御身の口から直接ひと言頂きたいものです」

 開始の言葉の後にはミカドが徹底して口を開いていないところや、それに対して誰も疑問を差し挟まない所、それに開始の言葉の時にほとんどの者が頭を下げていた所を見ると、どうもミカドに言葉を賜るというのは特別なことの様なのに、ロックはミカドに口を開けと迫った形。


 それを機に、それまで表情を変えていなかったチョウビ家の3人や、シンチョウ氏、ハルトマン氏も明らかに顔が強張った。

 シングウ氏は元々顔をしかめていたけれど、今はもうすぐにでも振り返って殴りかかりそうな表情だ。

 ニコ家とサンキ家は元々隣接している領地だし、わだかまりもあることだろう。


「ロック・ベーコン、ミカドは今、貴様の時代遅れで下劣な言葉に大変に心を痛めている。何千年経とうとも一部の我欲に駆られた者のために、秩序や平穏が破られると・・・、ミカドに代わってマディン・エンフォーサーが尋ねる。今の言葉はサンキの公式な見解か?それとも矮小で愚かな貴様の戯言か!」

 これまでとらえどころがないとはいえ慇懃な態度をとっていたマディンが明らかに苛立ち、ロックを詰るように威圧した。

 言葉遣いが大きく乱れている。


 そして矮小で愚かなロックはマディンの質問に答えることなく、さらに噛みつくことを選択した。

「貴様!たかが奏者の分際で!ダイミョウ家の使者にその態度はなんだ!!」

 ロックは叫び立ちあがった。

 次の瞬間マディンは大変な速さで手に持っていたしゃくを剣を握る様にして握ると、シンチョウ氏やチョウビ家、シングウ氏、マナ姫達の間をまっすぐに抜けてロックの首筋に笏を押し当てていた。


「な!?何をした!幻術か!?使者である私に、怪しげな術を使いおって!無礼であろう!!」

 ロックはマディンの動きが見えなかったのだろう。

 狼狽し尻餅をついた。

 そんなロックに背中を向けながらマディンはもう元の笑顔。

「勘違いをなさっている様ですが、中央での扱いでは我々ミカドに近侍する者と、ダイミョウやシュゴの扱いに違いはございません、その使者に過ぎないあなたは一体どうなのでしょうか?加えて申し上げますと御優しいミカドからすれば、無力な女子どもこそが守るべき者であり、ダイミョウやシュゴは彼らを守護するために、その統治を認められています。今のサンキにその価値がありますかな?」

 明らかに常人離れした動きだった。

 恐らくはジェリド氏に匹敵する、近接系勇者並みの速さだった。

 ・・・その動きの素人くささとは裏腹に。

 おそらくは何かクイック系の魔法によるものか。


 まぁそれ以上の速さになれているボクにはハッキリとその動きは見えているんだけれど、あれが怪しげな術に見えたなら、ロックは武人としても大したことは無さそうだね。

 そして言葉に嘘は無いけれど、あの表現はダイミョウやシュゴとミカドの家臣達が、特別な同格ということではなくて、多分セントール大陸の民はミカドからすれば大差ないということだろう。

 一体どうなのでしょうか?とロックの想像力に委ねて、明言しなかったあたりもさすがだね。


「ダイミョウであるサンキ家に価値がないと言うか!?まったくの慮外千万である!ミカドの奏者であるからと下手に出ておれば・・・!?」

 いつ下手に出たと言うのか、さらにわめき散らしていたロックはしかし、とうとうその言葉を止めた。

 部屋の中に、濃密な殺気が満ちていた。

 それはチョウビ家の家臣二人が放つもので、背中を向けていながら確実にロックを捉えている。


 流石のロックでも直接的な殺気には気付いたのだろう。

 言葉を紡ぐのを止めて息を詰まらせた。

 そして、それでも愚かしいその男はすぐに喚くことを再開する。

「貴様ら!そこの貴様らだ!この様な場でそれだけの殺気を放つとは、サンキとこと構えるつもりか!」

 と、ロックは自分が何をしたかも気づかないままで、不様に尻餅をついたままでチョウビの方を指さした。

 しかしチョウビの家臣たちはロックの方を見向きもせず堪えていた。

 彼らの主君がロックに対して何も言わないのに、配下である彼らが口を出すのは憚られたのだろう。


「先に無礼を働いたのは貴方ですよ、ロック・ベーコン、貴方はサンキ家の使者としてここにきました。そしてここには女性領主を頂くダイミョウ家やシュゴ家がいるというのに、女子どもとひとくくりにして愚弄した。それはつまり、サンキはチョウビ家、ジアイ家、フラットパイン家、ここには居ない女性当主を戴く家々そして『中央』を愚弄したことに他ならない・・・、捉え方によっては宣戦布告ともとれます」

 と、壇上に戻ってきたマディンは感情を読みとれない笑顔のままで、ロックに笏を向けて告げた。

 さすがにことの重大さに気付いたと思いたかったが、ロックは見苦しい言い訳を始める。


「いや、わ、私はあくまでミカドがご不快に思うのではないかとその心中をお尋ね申しあげたのであり・・・」

「もうよい、一昨日私が見た光景を告げてもまともに応じる様子を見せなかったからな、サンキの考えはわかった。もう話し合いは終わりだ。アイラ姫、貴方がお持ちの証拠品を、サンキの使者殿に見せてやって欲しい、サンキがどれだけ無謀なことをやったか見せ付けてやって欲しい」

 そして、ロックの声を遮る様に、とうとうミカドが声を出した。

 ミカドが声を発したとたんロックを含めマディン以外のセントール人全員が頭を下げた。

 さすがのロックもミカドの言葉を遮ることはできないらしい。

 表情からして敬意からではなさそうだけど。

 しかしボクたちはその文化を知らないため下げない。


 それは見咎められることはなく、マディンはゆっくりボクの方へよってきた。

 チャンスとばかり鑑定をしてみたけれど、そのステータスは一般的な勇者の数値には到達しておらず。

 うちの父エドガーエッラの父ブリスよりは高いくらい。

 やはり先程の動きは身体能力ではなく、魔法か特殊能力によるものらしいね。


「アイラ姫様、御協力いただけますでしょうか?」

「良いですよ?証言でも証拠品でも協力しましょう、あのサンキの攻め込み様を思えば、我々が通りかからねばトリシア姫やノイセの住民たちが殺されていた可能性もありますし、私たちも安心して船を港に残せませんでした」

 実際に船は港に残さずにきた。

 技術の塊であるリトルプリンセス級を港に置いている間に奪われたりしたら目も当てられないしね。


 ボクは立ち上がると、ロックの方に移動する。

 すでにマディンが話始めたときに皆顔をあげている。

 ロックは相変わらず「こんな小娘が」とか、「各々方よいのですか!こんなどこの馬の骨かもわからぬ小娘にダイミョウやシュゴが見下ろされているのですぞ!」とかわめいているけれど、ロック以外は誰もボクに対して何かを表には出さない・・・いやマナ姫はニコニコしてる。

 ミカドの前でもなければ手を振ってきていたかな。

 近くを通る時に各人のステータスを確認するけれど、チョウビの3人はいずれも勇者級のステータスで、特にケイコ・チョウビのステータスは魔法力を除いてはエッラに匹敵するほどの身体能力を持っている。

 虎獣人と表記されており、外見は頭髪は黒毛に二房だけ銀毛の混ざったシャ系獣人だけど肌色が非常に白く、目は青で、まるっこい耳は内側が銀毛外側が黒毛、尻尾は銀と黒の縞模様、どうやらホワイトタイガーぽい獣人らしい。


 細身な美人で年齢は23歳とまだ若い。

 また成長が早く若い時期が長い獣人故か、年齢より少し若く見える。

 16、7才位に見え、実際そのくらいの年齢のトリエラとも同じ年頃に見える。

 これで本大陸最強の一角に数えられるほどの武名を誇る彼女は何歳からどれだけの戦場を駆けたのだろうか?

 ボクと一瞬視線が合うと、妖艶な・・・というよりは悪戯好きな少女の様な微笑を浮かべた。


 配下の二人、角のあるものがヤタロー・キリルランド、野牛獣人で力のステータスが高い、もう一人の初老の男はシモン・パーカーというヒト族らしくステータスはヤタロー同様力が強いが、他のステータスもバランスよく備わっている。

 勇者相当職は持たないものの二人とも元帝国三騎士の槍使い、セメトリィ氏並みだね。


 ニコ家のシングウ氏も勇者相当ではないものの、軍官学校卒の武官並のステータスを持ち、うちだとエイラやナディアには及ばないものの、術士寄りのソルよりは近接戦闘に長けていそうだ。

 そして問題のロック、ステータスは軍官学校入学時の男子一般並と比べると、魔法力と把握のステータスが低い位。

 大したことは無さそうだね。


 証拠品ねぇ?この場で出すのは、多分ボクやエッラが持ち込めるサイズのサンキ家の紋章入りの小物とかを想像しているだろうけれど、何を出したらロックのおもしろい反応が見られるかな?

 ミカドやマディンのいい様からしてすでに収納魔法の存在やナイトウルフとの関係なんかもミカドにはばれているだろう。

 アレは収納から証拠を出して欲しいってことだよね。


 ボクは収納の中に納めているサンキにまつわる品物を物色する。

 その中でいくつかのアシガルグソクと手漕ぎの舟を出すことに決めたボクは、わざとロックの横ぎりぎりになる様にそれらを床に置くことにした。

 あぁでもその前に、念のため聞いておこう。

「床が傷つくかも知れませんが大丈夫ですか?」

 ここの床はミカドとの謁見や会議のための場所だけあって、とても綺麗に磨き上げられた板張り。

 綺麗なものに瑕疵を作るのは避けたいのが人の性だろう。

 つけるならせめて許可をもらってからだ。


「勿論構いません、今日の会議が終わればそのあたりの床材は張替える予定ですので、大きく重たいものを出していただいても構いません」

 となんとも黒さを感じる声色と笑顔でマディン氏が答えたので、予定通りに出すことにする。

 ていうか床の張替えってそれ、ロックが座ったからってことかな?

 って、ボクたちはミカドが身分を保証したお客様だっていってるだろう?何でいまだにそんな目でボクをにらめるのか・・・。


「えぇそれでは、まずはこれですね」

 ボクは右手側から空間魔法を発動させる。

 空間魔法は普段は収納として利用している勇者相当の者が扱うことのできる魔法だ。

 大体は体の表面やすぐに持てる様に手の平なんかに収納空間との境界を作り、収納してあるものを取り出す。

 大きいものの時は、少し離れた位置・・・といってもせいぜい1mくらいの位置に空間収納との境界を作り、そこから押し出す様にして、荷物を引き出す。

 その際に取り出される物体に前に進む力が発生することと、加速を併用して収納物を弾の様にはじき出すこともできるけれど、光弾のほうが便利なので実戦で使ったことはない。


 それはさておきボクが開いた空間収納の境界は、リトルプリンセスが入港する際に邪魔になっていたサンキの手漕ぎの小船をひとつと、それに乗っていた・・・かどうかは分からないけれど回収しておいたサンキのアシガルグソクとを上に載せてロックのすぐ隣に吐き出した。


遅くなって遅くなって、支度部屋で神楽の帰りを待っているエコーと拙作にお付き合いいただいている方に申し訳ないと思っています。

来月中には取り急ぎノートパソコンを購入する予定なので、それでスピードを少しでも取り戻したいです。

今しばらくは遅い更新が続く見込みとなります。

申し訳ありません

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