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第167話:中央・御前

(アイラ視点)

 朝から旅の疲れをエコーのあどけない仕草に癒されていたボクたち。

 1日ソレだけで過ごせれば言うことはないのだけれど、そうもいかないのは初めから分かっていた事だ。


 朝食を終えてしばらく、神楽にくっついて離れないエコーを眺めながら過ごしていたけれど、ついにミカドの元にボクたちを誘う使者のカシュウと言う男がやって来た。


「お迎えに上がりました。ミカドにお仕えしておりますカシュウ・インベスターと申します」

 その男は狐獣人、なのだが、オルテア女史と比べて明らかに身長が高い。

 オルテア女史が160㎝台前半ほどであったのに、カシュウの身長は2メートルに届きそうだ。

 そして、狐獣人であることを強調するかの様にキツネのお面をつけている。

 顔を隠している訳ではなく、まるで顔の右側の前髪を隠す様に斜めに被っている。


「あぁ、これですか?単に寝癖が治らなかっただけです。ハイ」

 ボクたちの視線から読み取ったのかヘラヘラと笑って答える。

 なかなか先鋭的な人物の様だ。

 寝癖を隠すのにお面って・・・。

 ヘラヘラと笑う顔は絵に描いた様なキツネ顔、開いているんだかいないんだかわからない双眸は、お面の件もあって彼の「何を考えているのか分からない」感を強くしている。


「お迎えご苦労なのじゃ、昨日の御使者はただ待つ様に言われたので、詳しい時間の案内は聴いておらんが、儂らは全員一緒に向かうのか?」

 と、朝食後一緒に過ごしていたトリシア姫が、尋ねるとカシュウは鷹揚に頷いた。

「はい、仰有る通りにございます。別ける意味もそうございませんしね」

 軽い調子のカシュウには、こちらが不安になるほどだけれど、正式な使者らしいので信じる他ない。


「ソレならば早速向かうのじゃ、ユークリッド様方も仕度はよろしいかのう?」

「えぇ、大丈夫ですよ?」

 室内には、リベル氏以外は揃っている。

 リベル氏は現在ミカドへの献上品を再確認して、中央に借りた馬車に積み込んでいるはずだ。


「エコちゃん、クマさん達とお留守番、お願いね?」

 膝にじゃれついて居たエコーに、神楽はお留守番を言い渡す。

 さすがにこんなちびっ子をミカドの御前に連れ出す訳にもいかないし、仕方ないことだ。


 でも、小さなエコーには、今一緒に居たいと思っている相手と離れるのはとても辛く寂しい事みたいで

「やーぁ、たーたーぁ」

 と、神楽が立ち上がれないくらい膝の上に体を乗せていく。

 お留守番という言葉の意味もだいたい理解しているみたい。

 半べそで、神楽にすがりつく。


「おや?その娘が報告にあった保護した娘ですか?随分となつかれておりますなぁ?昨日、初めて・・・会ったのですよね?」

 と、カシュウはただでさえ細い眼をさらに細めて、神楽とエコーとの間に視線を往復させる。

「はい、すっかり仲良しですよ?ねーエコちゃん?」

 神楽はすがりついて居たエコーの両手を掴むと、一緒に立ち上がれる様にその腕を引っ張りあげる。


 すると、エコーは危なげなくすくりと立ちあがり、そしてそのまままた神楽の膝に抱きつく。

 先程トリシア姫に聴くまで勘違いをしていたのだけれど、セントール族は、というよりキ族系獣人は、脚が4本あるためか、生後1両日以内で歩き出す者が殆どで、無論なれないうちはヨタつくこともあるものの、エコーの歩き方は別によたついているわけではないらしい。

 単にセントール族は体の構造の都合でお尻が左右に振れる様になっていて、よたついて見えるだけらしい。


 同じ年頃のヒト族と比べると体格は大きく見えるけれど、立ち上がってしまえば身長はまだ91センチ、夕べ入浴の時に測ったところ、体重は44キログラム、馬体の部分が重たいみたいだね。

「らっこ」

 そんな彼女にすがりつかれれば、並みのヒトなら押し倒されてしまうけれど、伸ばされた腕の下に手を入れた神楽はそのまま上に持ち上げる。


 ただ体格の都合上、普通に抱き上げても、馬体の後ろ脚は地面すれすれになり歩きにくい、なので抱っこではなく高い高いに近い状態になる。

 そこから神楽はエコーを抱き寄せて首に腕を回させて、エコーを横抱きにする。

「たーた、たーたー」

 エコーは神楽に甘えたり抱っこされたりすると、決まってたーたと呼び甘える。


「どうやらその娘は、彼女を母親の様に思っている様だ。雰囲気や見目が似ていたんですかねぇ、だとしたら亡くなったその娘の母親はさぞ美人だったのでしょう、勿体ないことです」

 と、カシュウはやはり何を考えているのか分からない顔をだけれど、言っていることは理解できた。

「なるほど、エコーはカグラを見てお母さんを思い出しているのですね」

 そういうことならあの懐き具合も納得だ。


 エコーのお母さんは、すでに故人。

 でも、当時1歳半だったことを考えれば母親との愛着形成も出来ていただろうし、神楽と母親とが別の人だとは幼くともわかっていそうだ。

 だから、エコーのこの懐き方は、お母さんだと思って懐いているのではなく、お母さんを懐かしんでいるのかもしれない。


 まだ700日も生きていない彼女が、100日以上も前の母親の死をどれくらい認識しているかも分からないけれど、エコーの穏やかな生活を考えるなら、このまま母のことを忘れて、神楽かナディアを母の代わりに育った方が良いのでは?と考えるのは、前世、前周とで2度も母の殺された姿を見たボクの、勝手な感傷なのかもしれない。

 望もうと望むまいと、なるようにしかならないことだから、考えても詮なきことか。


「ミカドは慈悲深い方ですから、その様に不幸な身の上の娘の多少のワガママはお許しになります。私から口添えいたしますので、そのままお連れになって構いませんよ?流石にミカドの御前には連れていけませんから、仕度部屋で待って貰うことになりますが、カグラ様は早めに退出させていただける様にお願いしてみましょう」

 何を考えているのか分からないカシュウだけれど、どうやら中央の官吏にしては柔軟な思考ができる人物の様で、そんな寛容なことを言い出した。


 実際、甘えたがる幼女を置いて行くのは心が痛むので、言葉に甘えることにして、ボクたちはカシュウの馬に先導されて宮城に参内することとなった。

---


「この先はミカドの御前です。皆様お気持ちを楽にされてください。緊張なさる必要はございませんよ」

 カシュウに導かれるまま、一度仕度部屋に入ったボクたちは、そこにナディアとユナ先輩、エコーを残して、ミカドの御前だという広間の前までやって来た。

 扉は開け放たれている様で、あと10メートル足らず歩けば中からボクたちの姿も見えるだろう。

 しかしここでボクたちは違和感に気が付いた。

 ボクはユーリ、エッラと顔を見合わせるけれど、マナ姫は声に出して尋ねた。


「カシュウ様、どうしてミカドの御前にこんなにも沢山の人の気配があるのですか?」

 広間の中に多くの人の気配がある。

 左右に並んでいるのはミカドの家臣たちだろうから良いと思うのだけれど、問題は部屋の中心にも何人もの人の気配がある。

 ボクたちの前に謁見者がいる?


 彼らと入れ替りで、ミカドの前に出るのだろうか?

 それにしても人数が多い。

 すると、カシュウはまた読めない表情をこちらに向ける。

 多分笑ってる?


「あー、説明していませんでしたか?ミカドは少々無駄を嫌うところもございまして、本日会談予定の皆さん、すでにご入場されております。全員で腹を割って話そうとの事です」

「な?全員!?」

「にゃんと!?」

「むむむ!?」

 ボクたちはなんとか声を出さずにこらえたけれど、マナ姫と、トリシア姫、リベル氏は思わずと言ったところか、声を出した。


 こちらではよくあることなのかとも思ったけれど、彼女らの態度を見ればそうでないのは分かる。

 ミカドの気まぐれ?それとも何か目的があってのことなのだろうか?

 何にせよ、ミカドへ謁見、イセイの関係でチョウビ家、対談の結果次第ではヴォーダと顔を合わせるかもしれない、程度に考えていたのが、突然複数の家に接触しないといけなくなった。


 心構えは不十分だけれどなんとかなるだろうか?

「本当に緊張する必要はございませんよ?皆様で最後になる様にミカドはお命じ遊ばせました、これが意味するところ、皆様のいずれかが本日のミカドにとって最大の関心事ということです。決して悪い様にはなさりません、それでは参りましょうか?」

 カシュウは、ボクたち全員を見渡し、一応体裁は保てる程度に落ちついたと判断したのか、歩み始める。

 ボクたちは否応なしにその後ろに着いていかざるを得なかった。


---

 広間の中に入ると、まず目に飛び込んできたのは御簾の垂れ下がった向こうにいる誰か・・・あれがミカドだろう。

 ミカドはこちら側よりも一段落高い床に座っている様だ。

 御簾の前にもそれなりの範囲が、その高い床になっているけれど、その上にいるのはミカドだけの様だ。


 それ以外の者はすべて、ミカドの家臣であるだろう左右に別れて座っている人たちも、客人というべきか、使者と言うべきか、ミカドの正面にあたる位置にいくつかのグループに別れて座っている人々も、全員がミカドより1段低い床に座り、頭を下げている。


 見た覚えのある人物もいる。

「(あれはハルトマン氏か、と言うことは妙にハルトマン氏に対して殺気だっている隣のあの男がサンキの使者か・・・。ステータスは遠くて見えないね)」


「ミカド、本日最後のお客人をお連れしました」

 カシュウがそういって頭を下げると、ミカドは御簾の向こうからカシュウを労った。

 そして、ボクたちを案内する様に指示する。

 座る位置なんかははじめから決めているらしい。

 カシュウが再度頭を下げながら、ボクたちを先導する。


 それがどうもどういうわけか、前へ前へと歩いていく。

 最後に到着する様にしておいて、なぜか前の方?

 お陰で座っている人たちを鑑定できるけど・・・

 途中マナ姫は、エロイース・フラットパインと言うヒト族の少女と、シンク・ジアイ、と言う少女との間に座る様に指示された。

 エッラが一瞬どうするか迷いを見せたのでマナ姫を守る様にと目くばせすると、エッラはマナ姫を守れる様にマナ姫の後ろについていく。


 さらにトリシア姫とリベル氏は、今回のメインの取り引き相手であるチョウビ家の隣に座る様に案内される。

 チョウビ家の使者はどうやら3名、ボクたちとは少し距離があり、鑑定はできなかったけれど、質素な格好をした猫獣人族系統の女の子と、セントール大陸では始めてみるグ族系らしく見える筋骨隆々の益荒男子、そして眼光の鋭い初老くらいの男。


 そしてボクたちはさらに前に進まされ、最前列へ・・・そしてあろうことかカシュウは、ボクたちをミカドと同じ段の上、御簾を挟んで座る様にと案内した。

 一応ミカドと他の人との視線を遮らない様に横にずれた位置だけれども・・・


 なにこれ!?すごい後ろから視線を感じるし、つるし上げでも始まるの?

 身構えるボクだけど、不安そうな神楽の前で弱気な態度は見せられない。

 震えている神楽の手をそっと包み込む様にして落ち着かせる。

 すると同じ様に、ボクも震えていたのかもしれない、ユーリがボクの手を握りしめた。

 多分ミカド以外には、ボクたちの手は見えていないはずだ。


「全員揃ったな、それでは皆のもの、務めを果たそうぞ、マディン!」

「は!それでは本日はミカドに代わり、マディン・エンフォーサーが、進行をさせていただきます」

 御簾の向こうから聞こえる声には、ボクたちの手繋ぎを気にした様子はない。

 ミカドに名前を呼ばれたマディンと言う男は立ち上がると、段上、ボクたちの逆サイド側に陣取った。


 一体どうしてこんな、沢山の家がまみえる形式の話し合いにしたのか、とくと見せてもらおうじゃないか。



夕べ投稿したつもりが投稿確認の画面で寝てしまいました。

ごめんなさい。

エロイースをタヌキ獣人にするか迷いましたが、ヒト族にしました。

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