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第165話:混乱と休息

 イシュタルト、シーマ、イセイの車列が中央に入り。

 宮城に程近い区画に用意された大規模な宿泊施設へと乗り入れた。

 通常ならば管理を担当する官吏が居り、すぐに家毎に空いている宿舎へと案内されるのだが、その時役人たちは混乱の真っ只中にあった。

------

(アイラ視点)

 ボクたちは人数が少ないのに、シーマとシコク、それにセントールでは未知のイシュタルトの旗を掲げる集団だった。

 リベル氏などから聴いたところ、中央の官吏は判断力に乏しい者が多く、家毎に施設を別けるという原則を崩してウチとマナ姫を同じ建物に・・・という様な柔軟な判断が期待できない。

 その上、イセイから馬車を回収しないといけなかったりとバラバラになる事にデメリットが多そうだったので、それならばとセントールでもっとも知名度の高いイセイの一団に混ぜてもらうことにしたのは、イセイが馬車の関係で全員つれてくることができず。

 イセイが中央に来ている大名家にしては人数が少ないことで侮られることを危惧してのことだった。


 結果としてこの選択はそれなりに良策だったと言える。


 ミカドへの謁見の申し込み予約を兼ねた施設への宿泊待ちの列は、とても長くなっていた。

 敷地に入ってから、部屋に入るまでは1時間ほどもかかった。

 ボクたちよりも先にノイセを発ったヴォーダと到着がほぼ同じになってしまったことが最大の原因だけれど、そのヴォーダ家の人数が多く、さらに同盟関係にあるシュゴ家の当主を伴っていた為に、官吏たちが混乱してより長くなってしまったのだ。


 さらに中央にはイセイの外交相手であるチョウビ家の一行が先に到着しており。

 例の襲撃の件で呼び出されたハルトマン氏・・・はミカドに仕える者なので宮城に寝泊まりしているが、話し合いが難航しているサンキ家の使者たちが長期に渡り施設の一角を占有している。


 さらにニコ家の当主の息子の一人シングウ・ニコが兄の死と、嫡男であった兄の娘である姪と自身の幼い息子の婚姻を報告の為に中央に登っており。

 なんと現存する6のダイミョウ家の内4家が集まる結果となっていたのだ。


 というわけで、ようやくダイミョウ家用の宿泊施設、その寝室に入ったところでボクたちはため息をついた。

「なんかどっと疲れたね」

 ユーリが、植物素材で編まれているイスに腰をかけながら呟く。

 この部屋の中にはボクとユーリ、それに世話役にナディアが居る。


 トリシア姫の好意で、イセイに割り振られた施設のうち、もっとも豪華な部屋を割り振ってもらったけれど、ここは通常であればダイミョウとその愛妾が泊まる様な部屋であるらしく、多人数で泊まる様な部屋ではなかった。

 豪華な部屋と言っても華美さはなく、とても落ち着いた雰囲気の、設備の品質が優れている部屋で、確認した寝間に用意された布団の柔らかさはサテュロス産の物に匹敵していた。


「まさか、敷地に入ったら数百人のアシガル隊が居るなんて思わないよね」

 主にヴォーダの引き連れてきたらしいアシガル隊、その目的はミカドに返還する名目で持ってきた旧コンセンのダイミョウ鎧カイドウ、その警備だ。

 実際ミカドの御料地にまで喧嘩を売るサンキ家が中央のすぐ近くを領域としているため、セントールでの最大級の戦力で、7つしかないそれをサンキが奪いに来ないと言い切ることは出来ない。


 また仮にサンキがそれを奪い、ふたつのダイミョウ鎧を所有する様な事になれば、この大陸の勢力図は大きく傾くことになる。

 現在サンキと直接接しているダイミョウ家はニコ家のみ、ニコ家の所有するダイミョウ鎧ガントダッシャーが強いとはいえ、もしもサンキがカイドウを修復し、サンキのダイミョウ鎧ダイサンキと共にヒヨウの侵略に投入すれば敗北は必至、ガントダッシャーまで奪われてしまえば何者もサンキを止めることは出来ない、正常な危機管理意識があれば警戒するのは当然と言えた。


「それに、ヴォーダと協力関係にあるシュゴ家も来ていたみたいだね」

 ユーリが言う通り、ヴォーダの一団が施設に入るのが遅れたのは、複数のシュゴ家のまたがるヴォーダの一団が同じ施設への宿泊を希望し、その規模がシュゴ家が宿泊するための30室程度の施設に入ることができず。

 数度のやり取りの末特例でダイミョウ家が宿泊する施設に入ることになった様だ。


「うん、聞いていた通り、中央の官吏はイレギュラーには弱いみたいだね、イセイの人たちに教えてもらってなければ、マナ姫とバラバラになったり、そもそも宿泊施設を割り振って貰えなかったかもね」

 マニュアルには大陸外からの来訪者の定義とか無さそうだ。

「そうかもね、そういう意味ではトリシア姫たちと関係ができたことに感謝しないとね、彼女がいなければ、リュウたちの事もすんなり引き取って、中央に入れなかったかも知れないしね」

 ユーリは、ナディアが用意してくれたお茶で口を潤しながら、服をゆるめ始めた。


 少し汗ばんだ首すじが見えて、男の匂いとでも呼ぶべきだろうか?

 ボクが暁の頃であっても不快とまでは感じなかっただろうが、今のボクにとっては落ち着く、あるいは好ましいとまで感じるユーリの匂いが部屋の中に広がる。

 ユーリの汗の匂いが好きだなんてと考えてしまうと、頬が熱を持つ。

 するとそれはボクの事に敏感なユーリに伝わってしまう。


「ふぅ、以前の馬車よりは随分と楽になったけれど、それでもやっぱり、長いこと移動してると疲れるし、汗もかくね・・・と、ごめん、汗くさいよね?」

 と、ユーリは収納から取り出した布切れをナディアに渡そうとしていた手を止めた。

「入浴できるってことだったから、そっちに行ってくるよ・・・ナディアはアイラについていて」

 と、立ち上がるユーリは入浴と聴いてついていこうとするナディアを手で制止する。

 そしてボクは

「あ、待って」

 とっさにそのユーリの手に手を伸ばして、届かなくて、言葉で彼を止めた。


「どうしたの?」

 ユーリは不思議そうにボクのことを見つめるけれど、ボクは羞恥で体温が上がる。

 何て言うのさ、『もっと嗅ぎたい』?言えるかそんなこと。

「いや、えっと・・・」

 なにか言ってごまかそうと考えるけれど、なかなか良案は浮かばない。


 そうこうしていると、ユーリはボクの手を取った。

 そして甘い微笑みを浮かべると、ボクの手に顔を近づける。

 チュッ・・・小さく音を立てて、その唇が触れた。

 それから

「うん、なんとなくわかった」

 と、ユーリはスンスンと鼻を動かして、呟いた。

 ボクは混乱してしまう。

「ユ、ユーリ、何を・・・」

 ユーリの汗の匂いがわかるんだから、ユーリだってボクの汗の匂いを感じ取れるだろう。

 それを思うと恥ずかしくなる。


「僕の感じてるものが、アイラの感じたものと同じだといいけど・・・」

 言いながらユーリは手を握ったままボクの方へ体を近づけてきて、体を重ねる様にしてボクの首筋に鼻を近づける。

「ユーリ!?」

 横方向を見ると、ナディアが部屋を出ていくのが見える。

 ある意味ボクよりもユーリの考えることを感じ取れるナディアのことなので、これはつまりナディアが退室する必要がある。

「そういう事」なのだろう。


 音もなくナディアは出ていったけれど、ボクの方を見ていてナディアを見ていなかったはずのユーリの顔がボクの目の前まで近づく。

「アイラたちもこのあとお風呂に入る約束をしてたよね?だから・・・」

 だからなに!?

 汚れていいとか?それとも、アイリスや神楽とのそれを反故にしてユーリと一緒にお風呂にするの?

 今そんなこと提案されたら、断る自信ないんだけど・・・。


 恥ずかしいとか、先約があるとか、理性に基づく理由付けは、思春期にあるアイラの体の本能と、前周から100年以上大好きなユーリの申し出の前には完全に無力だ。

 だけど、相対的に無力というだけで、羞恥心がかき消えたとか、神楽やアイリスとの約束を反故にすることに対する後ろめたさがない訳ではない。

「ユー・・・ん、ふぅ・・・」

 しかし抵抗むなしく、ユーリの唇はボクの唇に押し当てられ、舌が割り入ってくる。


 初めての頃と違い、今ではユーリとの男女関係にも精神的抵抗はほぼない。

 今生のアイラの肉体も結婚後、すでに幾度とユーリと重ねあっている。

 とは言え、TPOを弁えて欲しいことは確かだ。

 ユーリとイチャイチャするのが嫌だという訳じゃなくて、イセイ家の人たちも同じ施設内にいるというのに・・・だというのに、ボクの体の準備は勝手に進む。

 ところが・・・。


「ふふ、堪能しちゃった。ごめんね?でもアイラがいけないんだよ?僕の方だって、君に汗の匂いを嗅がれるの恥ずかしいのに、ボクも君の汗の匂いを嗅いでいたいけど恥ずかしいかな?って気を使ったのに引き留めるんだもの」

 と、ユーリは少し久しぶりに少女の様な表情で頬笑む。

 そうだね、ボクがアイラとしての感性で汗の匂いを嗅がれるのを恥ずかしく思う様に、彼がリリーの感性でそれを恥ずかしがる事も当然考えるべきだった。


 割合は薄まったとは言え、ボクアイラの中にボクが残っている様に、ユーリにも彼女リリーは残っているのだから。

「うぅ・・・ごめんね?」

 若干納得できない部分もあるけれど、ユーリを引き留めたのは確かにボクだ。

 素直に謝るボクの髪を手櫛で梳きながら、ユーリは更に笑う。

「いいよ、僕も意地悪したしね、さぁ、お風呂は男女で別れてるらしいから、バラバラになるけどそろそろ行こう?」

「うん」

 返事をすると、先程掴まれていたままの手をユーリが引っ張ってくれる。


 それからユーリと共に部屋を出ると、部屋を出て浴場の方に歩いていくと、廊下から中庭に降りられる様になっている縁側にうちのメイド達が数名居り、その中にはナディアも含まれていた。

 ナディアは接近するボクたちにすぐに気がつくとこちらを向き、ペコリと頭を下げ、残念そうな声を出した。

「ユーリ様、アイラ様、御入浴の支度は整っております・・・が、やはり混浴は認められないとのことで、わたくしナディアめもユーリ様のお世話をすることは出来ないそうです」


 シーマやシコクでは、こちらの文化に合わせてくれた部分。

 大浴場(といっても5人入れる程度の浴槽だったが)で、ユーリの世話をするためのメイドの混浴を条件付き(着衣の禁止、ベアトリカ禁止)で許してくれたシュゴ領と異なり。

 この中央の施設はミカドの持ち物で、ルール違反はダメだと言われてしまったらしい。


 そういうわけなので、ボクたちイシュタルト組ではユーリのみ男湯、ベアとリュウ、スノウ、ポーラは中庭での行水、他は女湯ということになる。

 無論世話用の着衣も禁止だ。


 ところでね?

「はぁ、ウー!」

 中庭で4頭のク魔物と可愛らしく跳ね回っているのがいるじゃないですか?

 何を縁側に集まって眺めているのかと思ったら、皆で元気に跳ねるエコーを眺めていた様だ。


 長く寝ていたエコーにとって、ボクたちはほぼ知らない人のはずだけれど、彼女はク魔物達と3ヶ月暮らしただけあってよくなついている。

 他には、食べ物を最初に与えた時に居たボクとナタリィ、あと見た目での区別がついていないのかアイリスにかなりなつき、狙い通り母性の象徴に食いついたので、エッラ、フィサリス、アリエスにそこそこ、そして黒髪+ある程度胸が張っていることが琴線に触れたのか、ナディアと神楽には非常に慣れている。


 そしてボクたちは大半が「下の子」持ちで、残りも妹がいないアリエスと「妹」狂いハマリエルや、妹が欲しかったナタリィと女の子ヒロの集まりで、その下の子に長く触れあえて居なかったからか、なついてくれる幼児に飢えていたためにか、エコーの無邪気な可愛さに溺れかけていた。


若い二人は少し怪しい雰囲気になりかけましたが、時間も早いので接吻だけで終わりました。

イセイ組と同じ施設に寝泊まりしてますが、ダイミョウ用の施設は部屋が一杯あるので大丈夫です。


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