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第163話:ファランクマ

 街道沿いの山林の中で3頭のクマ魔物と一人のセントール幼女とを拾ったアイラ達は、来たときとは違いベアトリカの背に乗り急いで元の街道へと走った。

 通信の手段を持ったアイラは街道で待つ男の子と、上空で待つ愛しい女の子とに通信し、クマ魔物に危険がなかった事と、セントール幼女の保護を伝え、街道で待つ様にと言った。

------

(ユークリッド視点)

 アイラ達から最初に連絡があったのは、彼女たちがクマ魔物達を追って姿を消した15分ほど後のことだった。

 森の中に争いの気配も感じなかったし、上空で見守っているはずのカグラたちからも何の反応もないので、恐らくは平穏無事であるのだろうと思ってはいたけれど、それでも連絡が入るまでは心配もあった。


 恐ろしい魔物だった。

 体格からベアトリカよりも大きなクマ魔物、それも恐ろしいことに、手足や耳だけが黒いという複雑な模様に進化した特殊個体。

 あれは恐らく視覚的な効果を多く狙っているもので、目の周りが黒いことで、視線を悟らせず。

なおかつ目が大きく見えることで威嚇の効果も有るだろう。

 そういう動物は多い、魔物では逆に余りいなかったのだけれど、それだけ高度な進化を成し遂げた個体だということだ。


 さらに頭からはみ出している耳は、本来弱点になりやすいのだけれど、黒くなっていることで森林の中の陰になった場所では狙われにくい。

 そして手足が黒いことで、白い胴体部との輪郭がぼやけるので、薄暗いところでは距離感が掴みにくい、恐ろしい魔物だ。

 完全に、この山林の環境に適応力している。

 それでもしもベアに匹敵する能力を持っているならばそれは警戒するべき存在だ。

 

 だからアイラからの連絡で、クマ魔物3頭の説得と、最初の犠牲者夫婦の娘と思われる幼女の保護を伝えられた時はすごく安心した。

 それから、すぐにカグラたちが戻ってきて、更にしばらくすると、後続の馬車5台が合流した。

 それからイセイの人たちにももうすぐ戻ってくると伝えて、愛しい人の帰りを僕は待ちわびていた。


------

(アイラ視点)

 ほとんど往路と同じ道を、ベアの背中に乗って走る。

 別に自分で走っても平気なんだけど、道悪なためリュウたちが気にしそうなので、ベアの背中に乗り、山林を駆け抜けた。

 ユーリ達を待たせていた街道が見えてくると、すでに後続の馬車隊も合流していて、気配で分かったのかこちらの方角を見ている。


「リュウさん、妹さんたちも側に寄ってください、ばらばらに行くと驚かせるかもしれません」

 3頭に、並走する様に伝えると、リュウさんが通訳してくれて虎柄と白熊がベアトリカを囲む様に両側に、正面にリュウさんがつく。

 さながらクマのファランクスだ。


 そのままベアと鳴き声でコンタクトをとって距離を保ちながら、徐々に速度を落として街道に出たところ、ユーリ達は歓声で迎えてくれた。

 しかしながら、イセイの面々は、少し警戒している様に見える。

「ただいま!ユーリ!カグラ!」

 他にも挨拶したい相手はたくさんいるけれどキリがないので、先頭に待っていた二人に声をかける。

 すると二人とも笑顔で迎えてくれた。


「おかえりアイラ、無事でなにより、それにしても壮観だね。いらっしゃいクマさんたち、歓迎するよ」

「おかえりなさいませアイラさん、ところでパンダさん・・・抱きついても構いませんか?」

 と、神楽はリュウさんに尋ねるけれど、リュウさんはパンダなんて言われてもわからないらしく頭の上に疑問符が見える様だ。

 そして彼は元人間、神楽はパンダにしか思えないみたいだけれど、彼が神楽に懸想するのではないか・・・そう思うとボクは少し警戒するけれど・・・。


「えい!」

 と、神楽は答えを待たないままでリュウさんに一度抱きついて、それから

「この子が例のセントールの女の子ですね、健康状態を確認したいので、こちらに連れてきて頂けますか?ベアちゃん仲介をお願いしますね」

 と、イセイの人たちにはリュウが言葉を理解できていることを伝えるべきでないと判断しているので、ベアに仲介にはいってもらっている体を取る。


「クーフ」

 と、リュウさんは眠っているエコーを背負ったままで神楽についていく。

 そこにはアイリスとアイビスが車両の、扉を開けて待っている。

 3ヶ月間、クマ達に守られていたとはいえ、とても健康で衛生的な生活ができていたとは思えないエコーの健康を確めるのだ。


 リュウさんとエコーがそちらに向かったので、残りの2頭も勿論そちらについていく。

 眠ったまま、折角着せた服をはだけさせられ、喉の粘膜や、耳、皮膚なんかは勿論、全身の炎症や汚れをチェックされる。

 その様子を2頭のクマ娘も不安そうに眺めている。

 アイリスが何度か浄毒や浄血の魔法を使ったものの、大きな問題は見つからず。

 エコーは、軽い栄養失調以外は概ね健康であるとされた。

 これにはボクたちもイセイの人たちも一安心、2頭のクマ娘もリュウさんから伝えられて喜びの声を上げた。

 今眠っているのも、久しぶりの温かい食事に体がリラックスしてのことみたい。


 車の中の横になれるスペースにエコーを寝かせて、母性的な安心感の有りそうなエッラ、フィサリス、アリエス、そして、まだ年齢の近いヒロちゃんを横につけて、ボクたちはお外で今後の相談。

---

「クマ魔物達はボク達とベアトリカが責任もって人間達との暮らしに適応させていきたいと思います。エコーちゃんもクマ達となれている様ですし一緒に引き取りたいと考えています」

 リュウさんが転生者であることを除いて、一通りの説明を終えたボクは、ベアトリカの存在を根拠として、彼らの引き取りを提案した。

 イセイのポリー氏やリベル氏も納得してくれたけれど、ただ一人納得してくれない人物がいた。


「儂は納得いかんのじゃ、どうしてアイラ姫様がクマちゃんたちを独り占めするのじゃー!?」

 と、白い獅子のお姫様は、リュウさんたちを引き取りたいと強硬に主張した。


「姫様、我々ではクマ魔物が何を伝えたいかわかりませんし、今回のこととて、イシュタルトの皆様がいらっしゃらなければ我々は、クマ達をを殺害してしまい、結果、セントール族の幼女を死なせる結果になっていた可能性があります。今回の保護はクマ魔物と対話が可能だったベアトリカというイレギュラーの存在した結果だと忘れてはいけませぬ」

 ポリー氏は、姫を説得としようとしていたけれど、トリシア姫は更にわがままを続ける。


「それならば、それならばせめて!儂の女中の何人かにクマちゃんの子種を着けて欲しいのじゃ!賢く優しいクマちゃんの子ならきっと優秀な獣人が産まれるじゃろ?それはきっとイセイの為になるのじゃ!」

 と、彼女はやはり、獣人の子を兵士の候補とするために欲しているらしい。

 しかしそれは個人の意思を尊重しているとは思えない。

 とても、民の為にクマ魔物の問題を解決しようとしていた姫の言葉とも思えないけれど、文化の違いからくる価値観の相違であれば仕方ない部分もあるけれど・・・。


「では、こうしましょうまずはトリシア姫様の方でリュウ・・・このクマ魔物に種をつけられても構わないと言う女中を選んでください、勿論、トリシア姫が強制してはいけません、婚約者や恋人、想い人がいる方は嫌がるでしょうし、魔物とまぐわうこと自体忌避する方もいるでしょうから、説得の様子はポリーさんに監督してもらいます」

「ぬ、イセイの為になるのじゃから拒否するものは少ないと思うがのぅ、まぁアイラ姫様がそういうのだから仕方ないのぅ、説得とやらをしてからだの?」

 と、一度譲り合う形で話し合いは終わった。


 ひとまず、次の町には寄らずに、直接中央に向かう迂回路を辿ることに決まった。

 近隣にはクマ魔物への警戒心があるため、いきなり訪れると警戒される可能性があるからだ。


 そして、トリシア姫との約束は中央についてから決着をつけると約束した。


 ボクたちの熊車は前側をベアトリカと白熊改めポーラ、元後部をリュウさんと虎柄改めスノウとが牽引してくれることになった。

 これは、裸熊で歩かせるよりも装具を着けた方が警戒心を懐かせないだろうという配慮の為だ。


 そして、一度も目覚めることなく眠るエコーが起きたとき、少しでも不安にさせない様にボクが隣に待機して、中央への旅を再開したのだった。


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