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第162話:クマと幼女と転生者

 ウナから北に向かうやや蛇行した街道沿いから少し森の中に入った川沿いの地点、4頭のクマと、10台半ばに見える美少女二人、そして何か食べ物を一生懸命に頬張る裸の幼女が佇んでいた。

 幼女以外全員が静かに、ただ幼女が食べ終わるのを待っていた。


------

(アイラ視点)

 幼い女の子は、口元を汚しながら、グーで握りしめた匙を口に運ぶ。

 賢いとは言えども、クマが火を扱えるとは思えないし、温かい食べ物を食べるのは久しぶりの事だろう。

 あっという間に全部食べきった女の子は立ちあがり、川の方にヨタヨタと歩いていくと開いた手を水に浸けて、何度か口をペタペタと拭った。

 まだ少しべたべたしてそうだ。

 それから、パンダの方へ歩いていくとギュッ抱きついて、満足したのかそのまま動きを止めた。

 寝た訳では無さそうだけれど、もしかすると服がないから、夏とはいえ寒いのかもしれない。

 こんなに小さい子の服、それもセントール族用の服は持っていないけれど・・・


「エコー」

 鑑定で見えた彼女の名前を呼ぶと、エコーの馬耳はぴくぴくと兎のそれの様に動き、彼女はパンダから体を離してこちらを向く。

 しばらく呼ばれていなかっただろうに、名前を覚えていた様だ。

「にゃー?」

 と、エコーは小さく呟いてボクの顔を見つめる。

 幼い少女の見上げる視線、体は川で洗っているのだろう、髪も馬体部分の体毛も艶のある漆黒。

 ただ2才前にしては痩せた体が、まだ赤ちゃんぽい顔立ちと相まって、見ていられない切なさを感じさせる。


「おべべを着ようね」

 言いながら、収納の中からピオニー用のお土産に購入している子ども用のセントール服を取り出す。

 チュニックやワンピースドレス型ではなく前が合わせになっているヒトエというモノとその下に着ける襦袢タイプの肌着、本来は5才くらいの子ども用なのだけれど、エコーは幼いとは言えセントール族なので、裾は地面ではなく馬体に掛かる。

 また馬体の下半身もヒトのそれよりは大きいので・・・。


「はい肩をつかんで、後ろ脚をあげてね?」

 口でいいながら、脚をさするとちゃんと脚をあげてくれるので、その足にボクのドロワーズを穿かせ、お尻にの上まで被せる。

 クロッチを破かない様に気を付けながらドロワーズの一部に孔を空けて、尻尾を出してやる。

 後で孔周りを補強してあげないとね。

 前足側はヒトエの前側が少し垂れ下がって半分隠れているけれど、これも町でちゃんと服を用意するべきだろう。

 蹄もちゃんと手入れをして、靴を用意してやらないと長く歩けそうにない。


「どう?嫌じゃない?」

 エコーに尋ねると、彼女はフルフルと首を振った後で、パンダの方へ体を向けて嬉しそうに手を挙げた。

「あーて、ね?」

 聞き取れない何かが二者の間で通じて居るのかパンダもオフオフと声を出している。


 距離が近づいたことで3頭のステータスも分かっている。

 3頭はいずれも大人しく、エコーは勿論ボクたちを警戒する様子もない。

 パンダ以外の2頭はベアと何か話をしているみたいにも見える。


 パンダのステータスは

(名称なし)M3エクリプスベア/

 生命4677魔法18意思248筋力105器用21敏捷32反応28把握62抵抗64

 適性職業/獣戦士 獣将軍


 白熊が

(名称なし)F2ブライトベア/

 生命5284魔法11意思54筋力92器用13敏捷42反応50把握32抵抗31

 適性職業/騎獣 漁師


 そしてホワイトタイガー柄は

(名称なし)F3エクリプスベア/

 生命4017魔法28意思71筋力88器用13敏捷61反応55把握50抵抗70

 適性職業/狩人 騎獣

 となっている。


 ついでに現在のベアトリカは

 ベアトリカF11エクスターミネイトベア

 生命7802魔法36意思171筋力131器用48敏捷56反応69把握82抵抗33

 適性職業/メイド 騎獣 猛獣使い

 となっている。


 パンダ柄と虎柄が同じ魔物種族だというのにも驚いたけれど、パンダ型だけ意思力がベアトリカを超えている。

 これが意味するところは・・・パンダは何者かの転生である可能性がある。


 パンダは何を考えているのか、エコーを見つめていだけれどやがて満足したのか、歩き出した。

 エコーはその後ろをついていこうとするけれど・・・

「ガウ!!」

 パンダは牙をむき出しにしてエコーに吠えた。

 エコーはびくりとしてその場にへたりこむ。

 このまま置いていくつもり?


 やっぱりエコーのことを人里に返すために街道に出没していたのか?

 だとすればやはりこのパンダは、人としての記憶を持った転生者なのかもしれない。

 それならば、やはりこのままにしては置けない。

 このまま彼らをここに置いていけば、ヴォーダが主導するかもしれないティーダ、サンキ討伐の際に狩られてしまう可能性もある。

 それは寂しいことだ。


「待って!ボクたちと一緒に暮らさないですか?」

 ボクが、声をかけると、ベアが通訳してくれて、クマ魔物達はその歩みを止めた。

 彼らだって3ヶ月ほどもエコーと暮らして、情も移っているのだろう。

「エコーには家族がいません、可能ならボクたちが引き取ります。その時に、エコーが馴れている貴方達が一緒にいてくれると心強い」

 このクマ達に危険がないことは、生きていたエコーの存在があればそれが何よりの証明になるだろう。


「人を襲わないで居られるなら、クマさん達3頭共に十分な食べ物も用意します。だから、一緒にいてくれませんか?ボクが責任持ってクマさんたちを守りますから・・・」

 ベアが声あげ終わるとパンダの近くに他の2頭が寄って行き、鼻をすり付ける。

 エコーは3頭が立ち止まったのをみて、もう一度立ち上がると、3頭の元に歩み寄っていく。

 するとパンダは再度唸り声をあげて、エコーを突き放す。

 エコーは一瞬ビクリしたものの、今度はへたりこむことなく歩みを進めて、パンダの前肢と後肢の間に抱きついた。


 すると、パンダは「グゥ・・・」と小さくなくと、エコーを突き放したが、エコーの方に体を向け直してその場に座るとエコーの両脇の下に腕を入れて抱き抱えた。

 それから、脚の上にのせると、頭を撫でながら抱き締めた。

 動きが明らかに人間臭い。

 残りの2頭も、後ろからエコーを舐め嬉しそうな声をあげた。


 エコーのことを好いてくれていて、その上人間に対する衝動もおとなしい。

 お近づきの印に、最初と同じパンを出して差し出すと、虎柄と白熊は口に咥えほとんど一口で頬張った。

 すぐに食べきったけれど、味は気に入ってくれたのか2頭とも機嫌良さそうに声をあげた。

 パンダ型も、エコーが寝るまでだっこしていたけれど、エコーが眠ると脚の上に寝かせてパンを食べる。


 他の2頭と違って手で持って、口で食いちぎる。

 手のつかい方が上手だ。

 セントールでパンはそう一般的ではないけれど、臭いで食べ物だとはわかるんだろう。

 これはエコーにも言えることだ。


「どうかな?一緒に来てくれるかな?」

 ボクの問いかけに、パンダは少しの間エコーの頭を撫でながら沈黙したけれど、やがて顔をあげると頷いてくれた。

「ありがとう、君はボクの話してる言葉がわかるみたいだね?やっぱり生まれ代わりなの?」

 パンダと目線を合わせながら話しかけると彼はゆっくりとうなずいた。


「ひょっとして、字も書けるんじゃない?」

 そういって紙と羽ペン、それに書斎机を取り出して置くと、彼は持ちにくそうに羽ペンを掴む。

 しかし、膝の上のエコーがいるので机に体を近づけられない。

「ガーガウ」

 と彼がいうと、虎柄のクマがエコーを受けとるべくパンダの彼の前に座る。

 するとパンダの彼はエコーを持ち上げて虎柄のクマの脚の上に乗せる。

 エコーは身じろぎしたものの、虎柄の脚の毛を握りしめる様にして眠ったままだ。


「ぐぅ・・」

 と、パンダは唸ると書きにくそうにしながらセントール字を書く、基本はサテュロスの文字と同じだけれど、セントール字もいくつかの方言みたいなものがあると聞いている。

 そんな中で彼が書いた文字は汚くて判別は難しいけれど、文末の止め方は南セントールの文字に見えた。


「えっと・・・よろしくお願いする?」

 読んでみると彼は首肯く。

 そして気をよくしたのか色々書いて筆談が始まる。

 彼は実に楽しそうに字を書いている。

 ナタリィを交えての会話に、パンダの彼は人だった頃のことをよく思い出したらしい。

 虎柄はエコーを足に乗せたままいつのまにか仰向けになって寝てしまった。

 白熊はベアと一緒に滝壺のところでバシャバシャと水遊びしている。


 パンダの彼の教えてくれたことは、3か月前、ううん、それより前からのキマリスモロプスとの因縁からの事だった。

 彼らク魔物達は元々5クマ兄妹で、今ここにいる3頭と母クマ、それに末の弟妹が居たらしい。

 元々は彼以外は普通の魔物であり、末の弟妹も森にすむサイの様な魔物と母クマとの間に出来たものだったという。

 末の弟妹ができたことを機に3兄妹と母、末の弟妹は別の巣穴でくらしていたそうだけれど、まだ幼い弟妹の為に彼らは山の恵みを巣穴によく届けていたらしい。

 魔物にも親子の情愛関係は成立する様だ。


 魔物同士の繁殖の話はまぁ仕方ないことだ。

 そういう風にこの世界の魔物は出来ているのだから。

 とは言え、キマリスモロプスの大型個体の話は少し違う。

 大型個体はすでに他の魔物と生殖できない大きさまで進化が進んでいた。

 結果的にかの魔物は、山や森の中を徘徊しては出会った魔物すべてを殺す死神と化していた。

 彼らの母クマや、末の弟妹はその頃安全の為に山の上の方の水源で暮らしていたが、その巣穴が襲われて、彼らは死んでしまった。

 そこで、3匹のクマは、パンダを中心として大型個体を追っていたらしい。


 3ヶ月前の夕暮れ時、彼らは追いかけていた大型個体の鳴き声を聴いて、現場に走った。

 すると、大型個体が車を襲っていたという。

 しかし、セントール族も戦闘力に長けた種族だけあり、大型個体は、中肢の蹄が割れ、前肢の指も多数失っていたという。

 そこで彼らはもっとも追跡が得意な虎柄が後をつけて寝床を探すことにした。

 残りの2頭は車の中に生きているセントール族の娘、エコーを発見し、転生者であるパンダは懐かしくなり、彼女を妹の代わりとして3人で育てることを納得させたのだという。

 その後眠っている大型個体の喉を切り裂き復讐を成し遂げた3頭は、保護したエコーを交代で守りながら暮らしてきたのだという。


 そもそも魔物であればヒトや亜人を殺すか喰うか、生殖に使うことが多いが、このクマ達は、パンダによって少しずつ教育されていて、常習的に人を襲うと大規模な討伐が起きる可能性があることを教え込まれていた。

 そのためエコーを育てることにもそこまで抵抗感はなかったという。

 虎柄と白熊が♀で、エコーと性別が同じなのも良かったそうで、いまや2頭とも、エコーを大事な妹だと思っているそうだ。


 パンダにどこの誰だったのかをきいてみたけれど、彼は転生前のことは語らず。

 ただ自分のことはリュウと呼んで欲しいと答えた。

 虎柄と白熊に名前はあるのか尋ねると、特にないから好きにつけてくれたら、2頭にも教え込むと言ってくれた。

 3頭ともついてきてくれるらしい。


 名前は皆で考えた方が良い、そう考えたボクたちは、リュウの背中にエコーを乗せて、街道まで戻ることにした。

念願の幼女セントールをゲットしたぞ。

ても全裸はかわいそうだったので早めに服を着せました。


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