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第160話:目撃情報

 セントール大陸の地理的中央からみれば南西側に当たる『中央』と呼ばれる地域は、セントール大陸に於ける文化的、精神的な源泉であり、支柱でもある。


 『ミカド』のおはす『チョウテイ』と呼ばれる政治機関と、『宮城』と呼ばれる施設が遥か昔から存在しているとされている。

(中略)

 歴史上様々な家が興り、セントール大陸に覇を唱えようとしたが、今のところミカドを討ち滅ぼした家はない。

 神話の時代より騎士王の末裔とされるミカドがセントールの最高権威であり、ダイミョウ、シュゴの任命権を持っているためだと勘違いしているものも多いが実際には違う。


 ダイミョウとシュゴの根拠となるダイミョウ鎧とシュゴ鎧は、ミカド以外に用意することが出来ず。

 シュゴ鎧の劣化複製品に過ぎないグソクシステムではそれらを人々に与えたミカドが有するであろう全戦力に勝てる見込みがなかったからだ。

 つまり権威ではなく、得体の知れない戦力と、全容の分からない底知れない恐怖とが、そのミカドという存在を守ってきたのだ。


 約300年前のものとされる著者不明の歴史書『セントール史観』冒頭より

------

(アイラ視点)

 1日目の馬車旅がつい先程終わった。

 サテュロスの馬車は通常より遥かに乗り心地が良いとイセイの人々にも評判で、普段の馬車旅より2倍程の速さで進んだらしく。

 明日早めに出立すれば昼下がりには中央に至る見込みだという。


 二つ前の町と一つ前の町との間でノイセの町に帰る2台の馬車とすれ違ったが、残念ながらヴォーダやハルトマン氏のものではなかった。


 あとは別段目立つこともなかった。

 普段であれば魔物の襲撃もたまにあるらしいけれど、こちらには上位の魔物であるエクスターミネイトベアが居るため、まともな危機察知能力を持つ魔物は逃げてしまう。

 勇者やエッラ相手に反応しない魔物達がベアの何に反応しているかは不明だが、何にせようちのクマメイドは凄く高スペックなのだ。


 とりあえず暗くなる前にウナという町に宿泊することに決めたボクたちは、イセイの一団と共に町の中央にある城館にお世話になることにした。

 馬車には見張りがつくが、ボクたちの連結熊車はエッラが収納したため、残りの馬車のうち一台に6名の交代要員達が寝泊まりし、2名が馬車の見張りにつく。

 残った騎馬兵7名は常時二人が起きている状態で半分ずつ入れ替わりながら、宿舎にした離れの見張りをしてくれる。


 見張りはともかくとして、町に入ったボクたちはまず町の代官に挨拶することになった。


「これはこれはウナにようこそおいで下さいました。ミカドよりウナの代官を拝命しておりますオルテア・デバスティターでございます」

 と、挨拶したのは、外見20前後、実年62歳の金毛の狐獣人の女性であった。

 獣人は成長が早く、若い時期が長いとはよく言うけれど、それにしたって若く見える美人さんだ。


「代官殿自らのお出迎え感謝する。儂はシコウ・イセイが娘、トリシア・イセイじゃ!途上の宿を借り受けたいが、空きはござろうか?」

 と、トリシア姫自ら代官と交渉をしている。

 どういうことかマナ姫に尋ねると、代官はミカドから直接任用されているので、通常ミカドの直轄領で代官と交渉をするときはミカドに失礼がないよう一行の代表が最低でも冒頭は務めるそうだ。


 ここではボクたちの事情は伏せてもらうことにしたけれど、魔物であるベアの事は説明をお願いしている。

 なので、トリシア姫からベアをオルテア女史に紹介してもらう。

「・・・というわけで、このベアトリカちゃんはのぅ、強く、かわゆい上に賢い、最高のクマちゃんなのだ!」

 とかなり興奮気味にベアの事を紹介するトリシア姫だったけれど、オルテア女史の反応は微妙だった。


「ベアトリカちゃんの優秀さ、安全さは理解しました。勿論滞在も許可いたしますが、あまり町人には姿を晒さない様にお願い致します」

 と、ベアの鼻先を優しく撫でてはくれたものの、複雑な表情を浮かべた。

 その表情が気になったボクは指示に従う事にしてエッラを伴って間に入っていく。


「ベア、代官様のいう通り服を着てクマだとわかりにくい様にするよ」

 エッラは収納からベアトリカ用のローブのうち、セントールにきてからしつらえたセントール柄のモノを選び取り出すとベアに渡す。

 するとベアは練習していたこともあり、少しエッラに手伝って貰いながらもほとんど全部ひとりで着替えを終える。

 今まで熊車を引いていたのでエプロンも着けていないので、ただ袖を通す位だが、クマの体格でソレを容易くこなすのは圧巻だ。


「本当に賢い子なのですね、失礼な事を言ってごめんなさいね?」

 と、オルテア女史はベアの事を誉め、謝罪する。

「なにか、クマに特別な事情があるのですか?」

 失礼になりかねないのを承知でボクが尋ねると、オルテア女史は微笑を浮かべながら答えてくれる。


「えぇ、実は・・・この所街道沿いに3頭のクマの魔物が目撃されておりまして、今のところ人の被害は少ないのですが、多くの兵士を伴わない荷馬車ばかり襲われているのです。今は町にも入ってこないのでまだ良いですがそのうち町娘に被害が出るのではないかと皆不安に思っておるのです」

「そんな情勢の中でベアの入城を認めていただきありがとうございます。町の人達に不安な思いをさせない様に、気を付けます。・・・?」

 ボクはなにか、おかしい事を言っただろうか? 

 オルテア女史はなぜかボクたちをじっと見つめると、口許を歪めた。


「見た目は11~2歳位なのに、ずいぶんとよく鍛えられているのですね?」

 そういいながら、オルテア女史はこちらに近づいてきて・・・。

「ひゃん!?」

 エッラの胸を揉みしだいた。


 あまりこういう声を出すことの少ないエッラの、可愛らしい悲鳴にドキリとさせられる。

「な、何をなさるのですか!女同士とは申せ、こういうお触りは困ります!」

 エッラも敵意や明確な意思を感じたなら反応出来たのだろうけれど、オルテア女史からはそういった狙いや、意思が感じられなかった。

 ただ目についた部分をさわったという感じ・・・。


「あぁ、ごめんなさいね、私の孫と近い年頃に見えるのに凄く大きいモノだから・・・つい」

 ついでうら若い娘の乳房を無断で揉むのかこの狐獣人・・・。

 なんだか田舎の初老のおばちゃんみたいだね(偏見)。

 そういえば母ハンナも、ボクのウェディング用のドレスの準備してた頃に『アイラ位の年頃の時にサークラの胸はもう少し大きかったけど、ドレスの採寸した後でいきなり大きくなったりしないでよ?』と突然触って来たことがあったか?

 母ハンナも田舎のおば・・・いやいや、母娘の間のことだしノーカウントだよね?


「コン!失礼いたしました。イセイのご一行様の宿泊は歓迎させていただきます。どうぞ城館の西側の離れをお使いください。夕餉朝餉は通例通りとなりますが?」

 と、独特の咳払いをしつつオルテア女史はトリシア姫の方へ向き直った。

「お願いする。儂は先に少し休む故、代官殿との交渉は渉外役のリベルと護衛担当のスティアに委託したいと思うがよろしいじゃろうか?」

 トリシア姫も、普段より楽とはいえ、長く馬車に乗っていたので少し草臥れた様子で、挨拶を済ませたのでもう問題なしとばかり、随行の武官と文官の代表を人身御供にした。


 二人がオルテア女史と共に母屋の方に消えていく。

「それでは休もうかのう・・・恐らく1時間ほどで夕餉が届くじゃろう」

 と、トリシア姫は徒歩で指示された西の離れに向かう。

 ボクたちもご一緒する。

---

「のうのうベアちゃーん、機嫌を直してたもれ?儂が悪かったと反省しておるんじゃあ・・・」

 ソルの隣に座っている服を着たベアトリカの隣にやって来て、平謝りするトリシア姫、日中も休憩の後で出発前に謝っていたけれど、ベアはまだトリシア姫を許してはいない。


 トリシア姫はベアをクマちゃんではなく名前で呼ぶ様にして、距離を詰めようとしたけれど、先の無断での口吸いが尾を引いているのかベアは頑なにトリシアの方を見ようとしない。


 トリシア姫はベアが男の子ならばとあんなことをしでかしておきながら、女の子でも仲良くしたかったらしくて、先程の自らの蛮行を深く反省している。

 ダイミョウ家の姫が頭を下げる光景と言うのはそう見られるものではないので、これも貴重な経験かな?


 おっと、とうとうベアはその場から立上がり、エッラの方へ逃げてしまった。

 エッラは現在ヒロちゃんのお世話、隣にマナ姫も座っている。

 そのためベアを追いかけていくと自然彼女はマナ姫と対面することになり、その状況で頭を下げることはダイミョウ家の姫としては大変に憚られることのはずだ。


 ベアはトリシア姫を試しているのか?それともただ大好きなエッラを頼りに行ったのか・・・?

 とはいえ二人の姫君は近くで話をする機会を得た。

「これはトリシア姫様、ベアちゃんが連れてきてくれたの?ありがとう、少しお話をしてみたいと思っていたんです」


「ぬ、これはマナ姫殿、確かに同道しておるのに、中々話す機会がなかったのう」

 ベアしかみていなかったトリシア姫は気がついたらすぐ隣に居た事に少し驚いた様子だけれど、なんとか不自然な姿を晒さずに応対する。

 そしてベアはエッラとヒロちゃんに手を振ると、そのまま今度はトリエラの居るボクたちの所に歩いてきた。


「あっ・・・ぐぬぅ」

 トリシア姫は少しベアを追いかけようとしたけれど、話始めたばかりのマナ姫を置いていくのは失礼になるので、動くに動けず。

 諦めて、そこに腰を落ち着けた。

 ベアは賢いね、自然にマナ姫にトリシア姫を擦り付けてきた。


「まったく、私にあんなことしてきておいて、今はベアに御執心なんですね」

 トリエラは、よってきたベアに抱きついて愚痴をこぼしているが、恐らくベアはトリエラを慰めるためではなく、また寄ってきたら今度はトリエラに擦り付けるつもりなんだろう。

 ベアトリカってば抜け目がない。

 それもやはり、よっぽどトリシア姫の口吸いが嫌だったのだろう。


 ボクたちサテュロス組は床に座る食事に慣れない者が多くて、アイリスやハマリエルは特に食べるのに苦労している。

 意外とトリエラは食べるのに苦労せず。

 すでに食事を終えていたのも幸いして、ベアの一時避難所として機能したが、結局この日トリシア姫が再びベアを襲うことはなかった。


 それというのも途中で代官のオルテア女史との交渉を終えたらしいリベルとスティアが戻って来たのだが、彼らは妙にやつれていて、ご飯をたくさん食べた。

 そして一緒にやって来たオルテア女史は妙に艶々していて、そんな彼女はマナ姫と歓談中のトリシア姫を見つけると決まった内容を報告、確定するために最後の話し合いと、その後は明日の出立の手順の確認等をしたため、それが終わる頃にはサテュロス組は全員食事も入浴も終えて、寝支度に入っていたのだ。


---

 翌朝、早めに旅立つ為車に馬やベアを繋いで居たところ、代官のオルテア女史は見送りにも出てきてくれた。

 妙に色っぽい仕草で

「トリシア姫様はもうこちらは通らないとの事ですが、部下の皆様は是非お帰りの時もお立ち寄りくださいませ」

 と、リベル、スティア両氏に流し目していたのが気になる所だが・・・。


「見送りもしてくださるとは、まことに世話になってしもうたのう」

「いえいえ、町を預かる代官として、当然の勤めですから、所で昨日お伝えしたクマの魔物には十分にお気をつけくださいませ、賢い連中なので例え兵を隠していても大勢で行くと姿を見せませんし、少人数では太刀打ちできないほどの強さを持っています」

 と、オルテア女史はトリシア姫に注意を促した。


「ご忠告痛み入る。まぁこちらには無敵可愛いベアちゃんが居る故な、連中も接触は避けるじゃろう」

 その言葉に対して、トリシア姫は楽観視なのか、それともベアに対するおべっかなのか、気楽な言葉を返す。

 ベアは我関せず。

 ソルから、干し肉を貰っていた。


 出没中のクマ魔物の情報を纏めると、3ヶ月ほど前までは獰猛ではあるが草食の魔物であるキマリスモロプスの超大型個体がこのあたりの最大の魔物であったのが時々人里を襲うことがあったが、いつの間にか姿を消し、代わりに目撃される様になったのが、件のクマ魔物たち、3頭確認されていて、いずれも毛色は異なるという。


 巨大なキマリスモロプスが姿を消し、最初にクマ魔物が目撃され始めた頃にセントール族の両親と幼い娘の行商人が何かに襲われて、両親の遺体と、粉々になった荷車が発見されるという獣害事件らしいものがあり。

 その頃を境に、クマ魔物が度々街道沿いに表れて馬車を襲う様になったという。

 彼らは賢く、街道に現れる際は2頭であることが多い。

 抵抗を見せれば逃げてしまうし、逆に人間側が逃げようとすると2頭目が先回りして馬車を止めてしまう。

 馬車をおいて逃げると、逃げた者は追わず。

 しばらくして戻ると馬車の扉が壊された状態で荷物が漁られていると言う。

 馬は無事であることが多いらしい。


 色々と引っ掛かる所もあるけれど、確かに賢い魔物であることは確かだ。

 高い判断力で獲物の優先順を決めている。

 馬を滅多に襲ってないのが不可解だし、最初以外人間を襲ってないのも気になるところだけれどね。


 そして相手はクマの魔物・・・何か不思議な縁を感じる。


「アイラ様、ベアが何か近づいてきていると言ってます」

 ウナを発って15分ほど経った頃、ベアが何かの気配を感じとったらしいと馭者台からソルが伝えた。

 勿論ベアは言葉を発したわけではない。

 とはいえ、ボク達もベアと暮らしはじめて長い、ある程度知性の高い魔物の言葉が通じるナタリィ達や、手をかけた馬の気持ちが分かると言ったこともあるエッラは勿論のこと、家族としての付き合いの長いベアやオーティスの所のトロワ、ファン、シアンの喜怒哀楽は皆それなり以上に分かる。


 ソルとベアはどちらも結果的にボクに拾われた者同士だからなのかどうかは分からないが何となくウマが合う(クマだけど)らしくて、特にエッラがヒロちゃんの世話を焼く様になってからは、ベアの相手をさらによく勤めてくれている。

 そんなソルが伝えた以上それは確かなことだろう。


 今ボクたちの馬車は単独行動をしている。

 それというのもオルテア女史の言うには、護衛が多いとク魔物は襲撃してこないからだ。

 地方は違えど為政者の一族の者として、民草を困らせるク魔物の討伐をしたいとトリシア姫が主張したのだけれど、彼女の護衛達は彼女を危険に晒すわけにはいかない、そこでボクたちが名乗りをあげた。


 子どものテンションで礼儀を忘れたり、ベアトリカの唇を奪ったり、被虐体質を抑えきれなかったりと残念なところが目立つトリシア姫だけれど、その民草の為になにかをしたいという想いに答えてやりたいというのもあったし、ベアトリカ以外のク魔物に興味があったというのも、偽らざる本音。


 だからボクたちは連結熊車の連結を解除、イセイの護衛役が使っていた馬の2頭を借りて、アイリスとアイビス、トリエラ、マナ姫とヒロちゃん、その護衛役としてエッラとユナ先輩、アリエス、ハマリエル、ダリアについてもらって、イセイの一行に預けてきた。


 現在こちらはベアトリカとソルが馬車の外に、馬車の中にはボク、ユーリ、ナタリィ、ナディアが居り、そして空の上に神楽、フィサリス、エイラが別行動をしている。

 姿を消した大型のキマリスモロプスとやらがどこかに居るかもしれないし、クマの逃げ足が想定外に速かった場合に追跡しやすくするためだ。


 それにしても聞いていた通り、ぴったり最初のセントール親子の現場付近だ。


 そして・・・さらに数分後


「出ました!大きなツートンカラーのクマ魔物です!」

 ソルは緊張した声でク魔物の襲撃を告げた。

 


本当はク魔物の話を最後まで進めたかったのですが、登場した!?

で終わってしまいました。


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