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第159話:旅の恥はかきすて・・・とは申せ

(アイラ視点)

 ノイセの官吏たちに見送られ、北上を開始して2時間程経った。

 結局馬車4台と連結熊車1台、それからイセイ家の護衛の騎馬兵が15名着いた。

 馬車のうち2台は完全に荷車になっていて、トリシア姫の私物の中でも先行して持ち込む事にした着替えやチョウビやミカドへの贈り物なんかが多く積み込まれているらしい。

 人が乗る馬車の1台にはトリシア姫と、話し相手の女中が乗り、もう一台は外交担当の方や文官達が乗り込んだ。


 車の並びは荷車、文官、ボクたち、姫、荷車の並びになっていてボクたちの事もついでに護衛してくれている。

 そして今外はら、休憩を告げる声が聴こえてきていた。



「ンー!やっぱり座りっぱなしは結構堪えるよねぇ」

 と、移動開始直後から眠っていたアイリスが、馬車から降りながら伸びをする。

「ベアごめんね、大きな車を引かせて、いつも助かってるよー」

 ボクは馬車を降りてからすぐに車をずっと引いてくれているベアの所に向かい労いの言葉をかける。

 馭者代わりにベアについていたソルがその装具を外すのを手伝っている。


「がーぅ」

 と、ベアはそっけなく応えて、どうやら大したことではないと言っている。

 海の上で過ごしているのより、車を引いている方が楽しいらしい。

 それでもお世話になってるし、補助動力があるとは言え連結熊車を牽くのは重労働だ。

 労いは必要だろう。

「今日のお夕飯は、ハチミツもベーコンも付けるからね」

 と、伝えるとベアは嬉しそうに声をあげて、ボクの頬を舐めた。

 するとそこに、トリシア姫がやって来て


「あぁーやっぱりクマちゃんはかわゆいのぅ、儂ともちょっと遊んでたもれ?」

 とベアの首に抱きついた。

 一応さっき一度挨拶もしているので、ベアは嫌がる様子もなくトリシア姫の顔を舐める。

 するとトリシア姫はクフフ、と笑いベアと正面で向き合うと頬に伸ばされていたベアの舌をパクリと咥えてしまった。


「ちょ、トリシア姫様!?」

 驚くボクとソルを尻目に、トリシア姫はそのまま若干嫌がって逃げようとするベアと唇を合わせてしまった。

「プハー、クマちゃんは舌も大きいのぅ、儂の口の中に収まりきらずパンパンになってしまったぞ、しかしこの味は、残念ながらどうやらクマちゃんは女の子じゃの!」

 ベアから唇を離したトリシア姫は、口許を袖で拭いながら

 謎の論理でベアの性別まで当ててしまった。


「キューン・・・」

 突然襲われたベアは可哀相に、怯えた様子で、ボクとならんで頼りにしているエッラの方へ走り去っていく。

「トリシア姫様、一体何をなさってるんですか、ベアが怯えてしまいました」

「いやほれ、クマちゃんはクマの魔物であろ?アレだけの賢いクマ魔物との子を身籠れば、良い子が産まれると思ったんじゃが・・・」

 と、恐ろしいことを言い出す。

 そういえばセントールには、手足を落とすなどして無力化した魔物との間に子どもを作り精強な戦士を作るという文化もあるのだったか?

 だけどそれは姫が自らする様なものではないだろう。

 ボクの訝しむ視線に気付いたのか、トリシア姫は手と首を振る。


「いやいや勘違いはしないで欲しい、クマちゃんを連れていきたいわけではなくてな、連れてきておる女中の2、3人も試しに胤をつけてくれぬかと考えておったのじゃ、クマちゃんが女の子だったから無理じゃがのう」

 と、まったく見当違いの、しかし恐ろしい計画を話してくれる。

 セントール大陸は本当に恐ろしいところだね。


「そ、それは残念でしたね」

 ソレ以上深入りするのが怖くて、適当に返事をして話を終わらせるボク。

 ベアトリカには後で多目に好物をあげよう。


「あぁそうじゃ、ソレとな、アイラ姫様にお伺いしたいことがあるのじゃが」

 と、先程の大胆さとはうって変わって、恥ずかしそうに頬を赤らめながらトリシア姫は奥ゆかしくボクの顔を窺う。

 ようやく年相応の可愛らしい顔つきになったね。

 ボクの方が年上とわかって、ちゃんと様と呼ぶ様になったのは一応進歩かな?

「どうしましたか?トリシア姫様」


「あの馬車、一台譲って頂けないじゃろうか?いつも乗る馬車じゃとな、そのーなんじゃ、(しり・・・が)痛めつけられるモノなんじゃが・・・」

 どうもお尻というのが恥ずかしかったらしい、恥ずかしげもなく胤がどうとか言ったり、クマと舌を入れる様な口吸いはできるのにお尻というのが恥ずかしくて口ごもるだなんて、不思議な生き物だ。


 トリシア姫は尻尾は服のなかに隠れているけれど、トリエラと比べると少し丸ッこい耳をピクピクさせながらサテュロス産の馬車に感動した旨を伝えてくる。

 うん、ウチのモノを気に入ってくれたのは凄く嬉しいのだけどね・・・。

「申し訳ないのですが、軍事転用出来そうなものの輸出や技術提供はしないことになっていてですね、馬車も輜重や兵員輸送に使われる可能性があるので、差し上げる訳にはいかないのですよ」

 と断りを入れると彼女は残念そうに耳を折りションボリと聞こえてきそうな悲しい顔になった。

 トリエラもそうだけど、耳や尻尾から感情が駄々漏れで、正直交渉事なんかには使い物にならないね。


「確かにソレもそうじゃな、無理をいってしまった。忘れてたもれ」

「いいえ、確かにこちらの馬車はお尻が大変なことになりますからね」

 と、応えると彼女は嬉しそうにボクの手をつかんでくる。

「分かって頂けるのか!」

「えぇまぁ・・・」

 尻の痛さを共感できるとこたえたつもりだったけれど、ボクは異文化交流の難しさを直後思い知ることになる。


「そうかそうか、やはり儂だけではないのだな!」

 トリシア姫は興奮気味に大きな声を出して、喜色をあらわにする。

「アイラ姫様も馬車の揺れに興奮してしまう性癖をお持ちとは、ずっと兄上達にお前はおかしい!と言われ続けたものじゃが、ようやくこの想いを分かち合える方と出会えたのじゃな!」

と、彼女はとんでもなく、とんでもない発言をした。

 幸いベアも逃げ去った為、この場には、ベアの装具を外すのを手伝っていたソルとボクだけ、傷は浅いハズだ。


「トリシア姫様、残念ですがボクは馬車の揺れが尻に与えるダメージについては同意ですが、その、興奮するとかそういうのはちょっとわかりかねます」

 と、思わずボクも引き気味になる。

 どうやらトリシア姫は12才にして被虐趣味の性質がある様だ。

「そ、そんなぁ、7年目にしてようやく同じ苦悩を知る人間に会えたと思うたのに・・・ハラ・・・ハラ・・・」

 あからさまに落ち込み膝を折るトリシア姫、きれいなおべべが砂に汚れる。

 毛並の良い、真っ白でかわいい猫ちゃんだと思ったらとんでもないモノを隠していたトリシア姫、けれどその被虐趣味も5歳から誰にも理解されずとあれば、なかなかに孤独であったのだろう。


「ところで、それならばどうして、痛みの少ない馬車を所望されたのですか?その・・・気持ち良い人なんですよね?」

 何がとは言いにくいし言いたくない。

「それはの・・・儂はその体が興奮してしまうだけなんじゃ、心から悦んでいるのでは無いのじゃよ、剣の稽古や乗馬位なら平気なのじゃが、馬車に乗るとその、興奮してしまってな?馬車で移動する場合は、停まってから10分は休憩を挟まんと人前に出られないのじゃ」

 と、赤裸々な告白をする。


「初めて儂がこの体質に気付いたのは、兄上の元服祝いの時、ちょっと悪戯が過ぎてな、父上に尻を叩かれたのじゃ、その時にな?お漏らしをしてしまったんじゃ、その時は恥ずかしい思いをした。そう思っておったんじゃが・・・」

 父親に尻を叩かれて被虐趣味に目覚めたって、なかなかにひどい告白だね。

 しかもお兄さんたちにも性癖がバレている。

 彼女の被虐趣味に目覚めてからの苦労は大変なモノだった。

 何より喜んで痛めつけられている訳ではなく、生活における仕方がない痛みや折檻の痛みに心とは裏腹に体が興奮してしまうという点が余りに不幸だ。


「この馬車があれば、もう移動の度にまたですか姫様!と女中の油虫を見る様な目を見ずにすむと思うたんじゃ・・・・」

 ションボリとする姫と耳、非常に可哀相に思えてくる。

 とはいえここで馬車を与えてしまうのはシーマやシコクに対しての裏切りと言えるだろう。

 可哀想なトリシア姫にボクがしてやれることは・・・?

 まぁクッションをあげるくらいかなぁ?


「ソル、今朝部屋から引き上げたモノの中にゴムクッションはある?」

 隣にいる我が家の同い年のメイドにたずねると、彼女は頷いてから赤と黄のクッションカバーを被せた二つのクッションを魔導籠手から取り出した。

 ボクもゴム性のクッションは持ち込んでるんだけれど、リトルプリンセス級の部屋の中に置いてるので、取り出すには一度リトルプリンセス級をどこか水の上に出さないといけない。


「どちらかをトリシア姫に差し上げてくれない?代わりのものはリトルプリンセス級に戻った後で渡すから」

 とお願いすると、彼女は珍しく少し嫌がる空気が感じさせた。

 その姿に、そういえばソルの使ってるクッションカバーは彼女がよく懐いているソニアとマガレ先輩とが縫ったモノだったと思い出す。


「クッションカバーははずしていいから中身だけ」

 と言葉を付け足すと、彼女は両方のクッションカバーを外して、差し出した。

「そういうことでしたら両方どうぞ」

 という言葉とともに。


「ありがとうソル、ごめんね、埋め合わせはするから」

 と、謝るボクに

「いいえ、私のすべてはアイラ様が下さったモノですから、例え何をされても埋め合わせなどお考えになる必要はございません」

 と、力強く宣言した。

「と言うことでトリシア姫様、このクッションを試してください。とても弾力があるので、馬車のダメージも大分緩和できるハズです。と言っても暫くは試せないでしょうが」

 といいながらソルのクッションを手渡すと彼女は興味深そうに、クッションを揉んだ。


「確かに凄く弾むのぅ、これはなんでできておるのじゃ?」

「ごめんなさいこれも秘密です。色々使い道が広いもので・・・」

 興味を持ったトリシア姫には申し訳ないけれど、ゴムも利用範囲が広いもので、セントール人達が自分達で気付くまでは放っておきたいモノだ。

 サテュロスでも最近利用が始まったばかりで緩衝材としての利用が主だけどね。


「ふむぅん、いや気に病まれるな、このくっしょんとやらだけでも非常に助かる。ケイコ様の養女となる以上儂の恥はイセイの恥になる上、チョウビの恥ともなり、両家の火種になりかねぬからのぅ、いや助かったのじゃ」

 と、トリシア姫はとても嬉しそうに笑った。


のじゃ以外にも何か特徴をつけようと思っただけのハズだったんですが、難儀な姫君になってしまいました。


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