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第157話:イセイの姫君

(アイラ視点)

 あまりに呆気ない海戦の幕切れから、20分程、今もマストを折られ航行能力を失ったサンキの船と、港に停泊していたイセイ家の船の一部とが、海に投げ出されたり、沈み行く船から自ら身を投げたサンキの兵達を引き揚げている。

 サンキの兵たちはすでに闘志を失っており、ただ生き残ったことに感謝すらしていた。

 沈没を免れたサンキの船も手旗で降伏の意を示し、生存者の回収後はノイセの捕虜となることを宣言している。


 一方のボクたちは、一番大きな埠頭にリトルプリンセス級をつけて、ノイセ側からの上陸の許可を待っていた。


「すごい数の捕虜だねぇ?」

 甲板から港を見ていたマナ姫は、順次陸揚げされ捕縛されていくサンキの男たちを見ながらため息をついた。

「かなりの数が死んだけれど、それでもまだ500人位の捕虜は居るだろうね」

「人死が出るのが分かっていたから私やヒロには見せない様にしてくれたんですよね・・・」

 と、隣で連行されていく捕虜達を見ていたマナ姫は伏し目がちに呟く。


「そこまで考えた訳じゃ・・・、単に揺れるし危ないかなって思っただけだよ」 

 結局リトルプリンセス級には矢の一本もかすめなかったけれど、預かっている姫や可愛い妹はなるべく危険から遠ざけたいと思うのは自然なことだろう。


「それにしても、あっという間の事でしたね?」

 マナ姫の言う通り、あっという間の出来事だった。

 ヘキ号と同等の船も、中型魔導砲の一撃を受ければ船底だろうが、横腹だろうが一撃で穴があいた。

 携行用の小型砲でも、少し当てるだけで船は沈んだし、マストは一撃で折れた。

 違和感を感じる。


 アシガルグソクは中級魔法使いクラスの魔法に耐える性能を持っていた。

 だというのに、セントールには攻撃魔法をまともに使える術士がそもそも貴重だ。


 そして、グソクを作る技術がありながら、船の装甲に同様の仕掛けがないどころか、金属の装甲すら施していない。

 装甲は戦闘艦ではなく、屋形船の様な客船に金属の光沢を出し、貴人の暗殺などを防ぐ目的で施される。

 北の方の船ならば、大きな木材が貴重な為鉄船もあると言うけれど、逆を言えば大きな板が貴重で仕方ないから作れる部分を鉄で作る。

 その程度の発想をしているわけだ。

 高い技術力と発想が噛み合っていない様に思える。

 それが違和感の正体か?


 鉄船を作ることができる。

 グソクを作ることができる。

 グソクに対魔法防御が施されている。

 しかしながらその有効性を、彼ら自身が利用も理解も出来ていないと思える。


 つまり、グソクや魔法陣系技術を得るに至った経緯や目的が不明瞭・・・。


「アイラ様、ノイセから上陸の許可が出ました」

 その時、先に港に降りてノイセの役人と話してくれていたユナ先輩が甲板に飛び乗りながら伝えて来た。

 意外と早い。

 まだ残骸の撤去も、捕虜の捕縛もすべては終わっていないはずだし、ハルトマン氏も不在のはずなのに・・・。

「ありがとうございますユナ先輩規模は?」

「まずは挨拶と用向きを、責任者からお聴きになりたいとのことです。恐らくは先程の戦闘に関することも含まれるでしょう」


 戦いのことも含まれるなら、まずはボクとユーリ、それに戦闘を一番よく見ていたはずのナディア、怪我人がいるかもだしアイリスとアイビス、トリエラその護衛にエイラ、それにシーマの姫であるマナ姫とヒロちゃん、その護衛にエッラをつけて10人で行こうかな?


 と、ユナ先輩に相談してみると

「少し人数が多すぎるかと、ここは他国です。シコクではサービスが多かった様に思いますし、治癒術士はトリエラちゃんだけで良いのでは?それにヒロ様マナ様両方にもしものことがあっては困ります初めはマナ様だけお連れになった方がよろしいかと」

 と、進言された。


 確かに、シコクでは、ナナ姫の義弟の治療は良いとしても、訓練中のただの兵士の治癒は少しやり過ぎだったかと、後になってユーリと反省することになった。

 最初は条件の擦り合わせになるだろうし、それならボク、ユーリ、マナ姫、ナディア、トリエラのの5人で足りるだろうか?

 と、これもユナ先輩に尋ねてみると

「そのくらいでちょうどよろしいかと」

 と、賛意を得られたので、5人で降りることにした。


 階段櫓の高さは他の港のモノより高く、リトルプリンセス級の甲板には届いていないとは言え十分な高さがあり、ややどんくさいところのあるトリエラでもスカートをの中身を晒すことなく乗り移ることができた。


「ようこそノイセ港へ、大陸外からのお客様、そしてシーマの姫君」

「不埒者共の成敗に協力頂きありがとうございました」

 下まで降りると、武装していない官吏となぜかイセイの指揮官とがボクたちを迎えた。

 ボクの顔を見ても驚いた様子はないね、もうユナ先輩から聞いていたのかな?

 驚きを顔に出さない様にして一礼、マナ姫はセントール式、ボクたちはサテュロス式。

「お迎えありがとうございます。私はイシュタルト王国所属ホーリーウッド侯爵の孫ユークリッド・フォン・ホーリーウッドともうします」

「イシュタルト王国国王ジークハルト陛下の孫で、彼の正室のアイラ・イシュタルト・フォン・ホーリーウッドです。先程ははしたないところをお見せしましたわ」

 と、挨拶すると、官吏と指揮官は苦笑いを浮かべそうになるのを我慢した。


「いやはやまさか、姫君自ら単身乗り込んで来られていたとは、その胆力には感服致しました」

「その上姫君があれほど見事な魔法を扱われるとは、あの様な魔法があるのならば、姫君の居城へ夜討や朝駈けを仕掛けようというものはおりませんでしょうな」

 と、誉めてるのかどうか怪しい言葉を述べるけれど、二人の様子からするに真面目に誉めているつもりらしい。


「ところで、今回のご用向きはシーマのマナ姫がミカドへご挨拶されること、それからサテュロス大陸のアイラ姫とその夫君ユークリッド様がミカドにご挨拶されたいということでお間違いないでしょうか?」

 内容の確認に、ボクたちは首肯する。

 すると官吏の男は少し困った顔をした。


「実は現在、ノイセに準備されていた貴人用の馬車が出払っておりまして、乗り物を用意することができかねております。昨夜こちらにお着きになったイセイのご一行も御待ちなので、あと一両日はお待ちいただくことになるかと」

「うちも馬だけならあるのだが、まさか養子に出す姫様を乗馬させるわけにもいかなくてな、姫様だけなら駕籠に乗って頂いてもよいのだが、女衆がついてこられぬ」

 と、指揮官は俯いた。


「馬車が出払っているのは、先日もあったと言うサンキの襲撃に関連してのことですか?」

 と、とりあえず現状を確認すると、ノイセの官吏は少しだけ驚いた様子を見せた。

「船旅をされていたと言うのにお耳が早いですな?」

 ここは、ナイトウルフのことも仄めかしてしまって良いだろう。

 ボク=ナイトウルフだと、セントールの人たちにばれなければ良い。


「斥候に出した者がおりまして、その者が前回の襲撃に居合わせたのですよ、卑怯な挟み撃ちをする勢力がいるので、中央に着いた後は注意されたし・・・と伝えてきましてね」

 イセイの指揮官は怪訝な顔、そしてノイセの官吏はさらに驚いた顔をした。


「なるほど・・・しかしながら少し足りませぬ、それでしたら代官であるハルトマン様だけが呼び出されました。それに加えて現在、ヴォーダの当主様が、コンセンのダイミョウ鎧カイドウをミカドに返納するべく当ノイセよりの道を選び、そのお供に馬車を使用されております、それゆえに馬車が足りぬのです」

 ノイセの官吏は申し訳なさそうにしている。

「そう、それが為我々もここで足止めと言うわけです。馬だけ用意してこちらで馬車を借りる予定だったので、少し遅れることになりそうです」

 と、イセイの指揮官は困った顔。


「お急ぎの用なのですか?」

 と、ユーリが指揮官に訪ねる。

「はい、こちらは先方との約束がございますので、あまり遅れるのはダイミョウ家としての沽券に関わりまする。こちらの用向きに関しては機密にあたります故、ご容赦を・・・」

 と、彼は頭を下げた。

 まぁ姫君を連れているとなれば婚姻同盟に関してだろう。

 まだ本決まりではなく、外に漏らすわけにはいかないと言うことだ。


「なるほど、ところで私共は乗り物と用意して居るのですが、上陸の許可は得られますか?得られるならば勝手に中央まで行かせて頂きますが?」

 と、尋ねると彼らは二人とも驚いた顔をした。

 しかしすぐにボクの言葉を思い出したらしい。

「そういえばそちらは20名ほどという事でしたね、それならば確かに乗り物も多くは必要ないのでしょう、はい、それでしたらノイセと致しましては通常通り上陸していただいて構いません、一応事前に港の使用日数など予定を伺ってもよろしいでしょうか?」

 と官吏は笑顔を取り戻しつつ尋ねる。


 カジトやトラウでは、領主のご好意で、港の占有料は払わずにすんだけれど、ここはご料地、そういうわけには行かないだろう。

 一番大きな船着場を占有しているし、ボクたちはシーマやトラウからも謝礼としてそこそこの金子は受け取っているけれど、港の使用料となるとかなり高そうだ。

 ここは秘策を使うべきだろう。

「そうですね、今日の昼間では停泊させますが、その後は港は空けておきますよ」

 と、ボクは回答する。


「なるほど、あの船ならば海賊にも負けぬでしょうし沖に置いておいた方が良さそうですな」

 と、官吏は納得しているけれどそうじゃないんだ。

 まぁ今はいいや、ところでね

「ところで、イセイの指揮官殿はどうして私どもを出迎えていらっしゃるので?」


「あぁいえ、先程も申し上げたとおり、命拾いをさせて頂きましたから、そのお礼と、必要なかったようですが、少人数の様でしたから明日馬車の都合が着いたときにはご一緒しませぬか?と誘いに来たのですよ」

 と、またまた苦笑い。

「それはご好意を無にしてしまった様で・・・」

 イセイの指揮官も、どうやら割りと人が良いらしい。


「いえいえ、こちらのおっせかいだっただけです。不用の様ですので、私はこれで・・・」

 と、彼は立ち去ろうとする。

 イセイにもうひとつ貸しを作るのも良いだろう。

「お待ちください」

 ボクが声をかけると、彼は立ち止まり振り返った。

「はい、いかがなさいましたか?」

「馬は用意してあるのですよね?」

「はい、30頭ばかり連れてきております」

 うん、それなら馬車を10輌は引くつもりだったのだろう。

 嫁入り道具なんかも揃えているのかな?


「こちらには予備の車輌が少しあります。もしお急ぎなら最低限姫君と御使者殿らだけでも中央に送られてはいかがでしょうか?」

 と、ボクは提案する。

「な、なんと予備の馬車が?」

 光明を見たと言わんばかりに指揮官は表情を明るくする。

「大きな道具を運ぶ程のものではありませんが、人員を運ぶのには困らないでしょう」

 少しだけ、彼はなにかを考える。

 荷物だけ遅れた場合と、先方をただ待たせる場合とを頭のなかで天秤にかけているのだろう。

 そして


「私の判断には余りますので、一度姫様と使者殿とに相談させていただいてもよろしいでしょうか?」

 考えた末彼は自身では判断がつきかねると保留を願った。

「勿論です。が、4時間後にはこちらを発ちますので、お返事は2時間以内でお願いします」

 そう伝えると彼は元気の良い返事をして、イセイの船の方へ去っていった。


 さて、その間に港の使用料の交渉などはユーリたちが済ませてくれており、先程の戦闘に対するお礼として無料ということになっていた。

 とはいえ数日空けるのに、妹やメイドを一部だけ置いていくのも嫌なので、今回は奥の手を使うのは確定している。

 さっきは料金でいいわけしたけれど実際はボクの感傷だ。


---

「それじゃあ、皆下船の準備をしてね」

 官吏さんが帰ったあと、ボクたちは慌ただしく下船の用意をする。

 といっても、マナ姫とヒロちゃん以外は収納機能付きの籠手を持っていて、ユニットバス2つ分は荷物を手ぶらで運べるし、ユーリは25メートルプール2つ分位、エッラはその2倍は空間魔法の収納で納めておくことができる。

 ボクと神楽はすでに容量がわからないくらいだしね。


 神楽の方はデネボラの収納だから食べ物を入れてたりしたら傷むことがあるけれど、ボクの方は勇者の収納なのでそれもない。

 使用許可を得た埠頭に、ボクとエッラが収納していた熊車や補助動力付きの馬車を用意し、そのうちの2輌に分譲する。

 こちらには馬車を引くのはベアトリカしかいないけれど、補助動力付き馬車は連結もできるので、よほど細い曲がり道でなければ連結した状態で走れる。

 1輌目にユーリとボク、神楽、アイリス、アイビス、ナディア、エイラ、ユナ先輩が乗り、2輌目にナタリィ、マナ姫、ヒロちゃん、エッラ、トリエラ、フィー、ダリーが乗る。

 さらに馭者席にソルが、一輌目の屋根の上にアリー、二輌目の屋根にマリーが乗る。

 未知の土地なので警戒は必要だろう。


 そして、リトルプリンセス級を収納を試みると、艦ははじめからなかったみたいに消えた。

 色々出し入れして、容量を圧迫していたはずだけれど、使いなれるにつれて、容量が圧迫される感じもなくなってきている。

 初めての頃はバスタブ1杯分とかしか入らなかったのにね・・・。


 そのまましばらく待っていると、とうとう彼らはやって来た。

 あれから1時間位かな?


「お待たせして申し訳ございませんアイラ姫様ユークリッド様、お借りすることに決まりました。我々イセイに馬車をお貸しくださいませ」

 指揮官殿は背後に駕籠を伴って着ており、頭を下げた。

「では、お約束通り、あちらに馬車を4輌置いてあります。お使いになるものを決めてください、無論4輌ともお使いになって構いません、あぁ大きく見えますが一応2頭立てで動かせる馬車になっていますからご安心ください」

「おお、これだけ大きなものをすでに下ろされているとは・・・船もすでに出港された様でございますな、とと失礼致しました。トリシア姫が直接お礼を申し上げたいと仰いましてな、許して頂けますでしょうか?」


 と、彼は頭を下げる。

「勿論です。国は違えど同じく姫を名乗る身、誼を通じておくことになんの不都合がございましょうか?」

 会うと伝えると、彼は駕籠の方へ戻り、駕籠の扉が開かれると中から12歳の姫君が現れた。

「獅子獣人・・・」

 出てきた女の子は、エイラよりはハスターに近い毛色のシャ族系獣人、ただし種族名は獅子獣人となっている。

 ステータスは生命力と敏捷性が特に高くて、軍官学校生の一般的な女子学生相当のステータスをしている。


 知り合いで言えば、トリエラよりは僅かに強い位のステータスだ。

「左様!儂はイセイの当主、シコウ・イセイの娘じゃからな、見よ!!この父上譲りの美しい純白の毛並みを!ソナタらは儂らの命の恩人らしいからなぁ、特別にモフらせてやっても構わんのだぞ?」

 身長はマナ姫とほぼ同等、10歳頃までの成長度の高い獣人種らしくスマートな体形で、彼女が自慢する通りその毛並みは美しい。

 しかし、直後に彼女はピシリと固まった。

 そして

「な、なんと!黒毛の御姉様がおるではないかぁ!?」

 素っ頓狂な声をあげた彼女は、素早くトリエラの側へ走り寄るとその手を取り頬ずりし始めた。

 尻尾が荒ぶって、力強く裾を持ち上げており、白さ眩しい太ももが露になっている。


「え、えぇ!?な、なんですか?なんでございますか!?アイラ様ぁ~トリエラはどうすれば良いのですか~!?」

 そしてメイドにふさわしくないトリエラの悲鳴が船着き場に響き渡った。

体調をくずしているので、回復を優先させて頂きます。

次回以降の更新も暫く遅延する見込みです。

申し訳ありません。

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