第14話:早すぎる再会7
10月8日夕方、この日ウェリントンを訪れた馬車と騎兵たちはその後のウェリントンの運命を大きく変える分岐点であった。
またここまでは小さな違和感程度だった前世との違いが、アイラにとっての今後の人生がまったく読みきれないものに変わっていく最初の大きな歪みでもあった。
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夕方のウェリントンに到着した馬車と騎兵たち一向は、村の入り口付近で材木を運んでいる男とその娘らしき少女に村長の家を訪ねたところ。
「偉い人を招く時は、村長自ら迎えるものなので。少しここでお待ちいただきたい」
と、呼び止められた。
男の言葉自体は客人たちを立てるものであったが、実際には名乗られた名前が天上人過ぎて判別できなかっただけである。
ひとまず娘のほうが、村長を呼びに行く様に男に言われて、あっという間に薄暗くなりつつある村の奥に消えてしまい、兵士たちは子どもの元気のよさに驚いたが、子どもの行方を追いかけた先に見えた骨にさらに驚いた。
「閣下、あれをご覧ください!」
馬車から降り、体を伸ばしていた閣下と呼ばれた男は、兵士の一人が指差した方向を見ると目を細めた。
(どうやら叔父上の言葉に嘘偽りはなかったようだ。)
それは少し前にこの村を襲ったばかりの平角イノシシの骨であった。
通常このあたりの森には出てこないもう少し北西の森の動物。
魔物にも負けない強靭な肉体を持ち、動物の中では大陸北東部の群れで現れるオオヘラジカ、大陸北西ヘルステップ砂漠に棲む三角コブラ、大陸南部に広く分布するミナミタイガーなどと並ぶ危険な動物。
それがウェリントンくんだりまで現れたということは西の帝国領でなにか動きがあったのだろうと、彼は考えた。
平角イノシシの襲撃についての話を村の男・・・テオロ・グランデに聞きながら待つこと5分ほどで、村の奥から男と年の近そうな男性が走ってくるのが見えた。
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(エドガー視点)
テオロがわざわざ村の入り口客人を留めたというから剣を持ったまま慌ててきたが、失敗だったな。
自分で手紙を出しておきながらこの可能性を考慮しないとは・・・。
いざ村の入り口までたどり着いてみると確かに客人がいる。
それも団体さんだ。
そしてその中で唯一自由に動き回っているのは・・・・甥だ・・・。
「これはこれは、次期侯爵様ではないですか!この様な辺境にまでお越しくださるとは・・・」
やや大げさに驚いて見せないといけない、村のものも見ている。
「やぁ村長殿、直接お会いするのは、春以来ですな」
と甥にして次期ホーリーウッド侯爵ギリアム・フォン・ホーリーウッドが先日アイラが倒した平角イノシシの骨を魔除け代わりにかけてある場所に立って、こちらに手を振った。
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(アイラ視点)
エッラの家もオルセーの家も村の中で言えば北寄りの場所で、そっちに向かっていこうとしたところ広場のあたりで父と客人たちと正面から出会った。
そしてボクは驚いた。
(ギリアム義父様!?)
客人は前世での義父、ボクの夫の父、ギリアム様だった。
「ようこそウェリントンへ」
トーレスとエッラは年長者らしくきっちりとギリアム様に挨拶した。
いったいなぜこのタイミングでギリアム様が?と考えてしまったため、ボクは少しタイミングをはずしてしまい、さらにスカートの裾を持ち上げて挨拶をしようとして、訓練直後のためスパッツになっていたことを思い出して、ペコリとお辞儀をした。
少し見苦しくなったかもしれない。
「夕方に村を騒がせてすまないね、そちらのお嬢さん方を家に送っていくところかね?」
そういってギリアム様は一番にトーレスに興味を持って、微笑みながら問いかけた。
「はい、ですので失礼ではございますが、これにて」
とトーレスが頭を下げると、ギリアム様は微笑ましそうにその腕につかまるオルセーをみてから。
「いや、足を止めさせて申し訳なかったね、数日滞在する予定故お嬢さん方もまた見かけたら声をかけさせてもらってもいいかい?」
とおっしゃり。
オルセーもはいと短く答えた。
どうやらオルセーは緊張したらしい。
「アイラとアイリスはこのまま父さんと一緒に戻ろう。エッラとオルセーのことはトーレスに任せなさい」
と父が言い渋々とボクとアイリスはそれぞれエッラとトーレスの腕を放す。
(ってアイリスは別に渋る必要ないよね?単に夕方のお出かけが楽しかっただけかな?)
「アイラまた明日ね?明日からもたくさん甘えていいんだからね?」
と、エッラはボクに甘えられることに喜びを見出してしまった様だ。
別に断る理由はないのでボクも「またね」とハグで返した。
父もギリアム様もお付の兵たちもボクたちの別れの挨拶を待っていてくれた。
(っておや?お付の兵たちの中にマチスさんがいるね?ついでにウェルズさんもいる。紅騎兵と黒騎兵の混成部隊なのかな?それに女性も、1、2、3・・・8名いるね)
マチスさんは前世でアンナに一目惚れした紅騎兵の男性で、その後ギリアム様に引き合わせはしてもらったものの実力でアンナを口説き落とした男だが、今すでにアンナはトーティスとの結婚が決まっている。
ちょっとかわいそうだけれど、今回は縁がなかったということの様だ。
ウェルズさんはボクの前世での親友の一人である高級旅館「春の狐亭」の娘コリーナ・フェブラリの婚約者だ。
コリーナと彼は12歳も年が離れていて、最初は彼が幼児性愛者なのではないかと疑ってしまったこともあったが、二人の間にあった愛は並みのものではなく、もっと言えばコリーナのほうが熱望したものであったので、彼には一切の咎はなかった。
そしてこの二人は縁があったためか度々ボクやアニスの護衛についてくれた人たちでもある。
なお紅騎兵というのはホーリーウッドにおける近衛騎兵団と呼ばれるエリート部隊の一つで、特に近接戦闘に強い男性からなる集団、全員が下級以上の身体強化魔法が使え、なおかつ強化なしでも並みの兵数人を同時に相手取れる猛者揃いの部隊である。
他に戦闘だけじゃなく参謀職もこなせる白騎兵、魔法を主に得意とする蒼騎兵、最精鋭部隊である黒騎兵、この頃はまだ計画だけのはずだけれど女性だけで構成された碧騎兵があり、ホーリーウッド家の周囲のことや、危険が伴う任務に従事してくれていた。
ただ年齢や今の時期を考えるともしかしたらまだ叩き上げられている最中なのかもしれない、前はこの時期には接触がなかったからちょっとわからないけれど。
アイリスは父の腕にしがみつくようにして歩いている。
見ていてもわかるくらい邪魔になっているけれど、父もギリアム様も気にした様子もない、けれどさすがにボクまで邪魔になるわけには行かないので、ギリアム様の少し斜め後ろにつく様に歩く、先日のイノシシの様に動物や魔物が森のほうから現れないとも限らないから念のために気配も探りながら・・・。
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その後教会に女性の護衛のうち6名を、うちにギリアム様と女性の護衛2名を、ウェリントン家前と広場と教会前にテントを張って男性の護衛たちが夜を明かすことになった。
うちの中では父とギリアム様が今後の話合いをするとかで普段は使われていない2階の小部屋にこもってしまった。
話を聴きたかったが、護衛の兵士すらついてこない様に命じていたためボクたちが追いかけるわけには行かなかった。
(体が睡眠を欲していたしね!)
そのため、父とギリアム様がいったい何を話しているかわからないままで、ボクは家の中に知らない人がいることに緊張したためかグズり続けるアニスを寝かしつけるのに苦労しつつ9時半には就寝した。
短いですが朝に間に合ったので




