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第156話:ノイセ沖海戦2

(アイラ視点)

 跳躍の暗転を抜けると海の上だった。

 船の上という意味ではなくて、文字通り海の上。

 目の前にはアイリスのちょっと驚いた顔がある。

 相変わらず甲板の上で海や水平線を眺めていたらしい。

 傍らには先程と同様ソルとベア、さらに体操を終えたらしいヒロちゃんと、起きてきたらしいマナ姫とがエッラにじゃれついていた。


「アイラ、おかえり」

 アイリスはふにゃふにゃした笑顔を浮かべると、後方に流れて行くボクに手を伸ばした。

 ボクはリトルプリンセス級と少し並んで飛んでから、アイリスの好意を汲んでその手を握り返す。

 もう以前の様に、ボクが単独行動をしても、帰ってくることを信じてくれているアイリスは、ただ穏やかな笑顔で迎えてくれる。

 たまに寂しがる日もあるけれど、一緒にお風呂やパジャマパーティーをすればご機嫌になる。

 この様子ならそういうご機嫌とりも要らなそうだ。

 今日は晴れそうだし、このまま一緒に過ごしていたいけれど、そうもいかなくなってしまった。


「ありがとうアイリス」

 アイリスの手を手繰る様にして、甲板に脚を下ろすとそのままアイリスを抱きしめた。

 アイリスはボクとくっつくのが大好きなので、それだけでにんまりと笑顔になる。


「ごめんねアイリス、今から少し騒がしくなるから、アイリスはマナちゃんヒロちゃんと一緒に船室で待っていて、ソルはアイビスとカグラを呼んで、そのままアイリスたちと一緒に居てあげてほしい。トリエラとベアもアイリスたちと一緒に居てあげて」

 矢継ぎ早に告げるとアイリスは少しだけ寂しそうな表情を浮かべて

「また戦いになるの?」

 と、尋ねる。


「たぶんね、どこの国にも無粋なことをする連中が居るみたいで、ボクたちが入港する予定のノイセが、サンキ家の襲撃を受けてる。敵の主力艦をけん制、最悪沈めることになるから、みんなは中で待機してて」

 できるだけ安心させられる様に、穏やかに告げると、マナ姫とヒロちゃんが不安な顔をした。

「アイラお姉ちゃんも戦うんですか?」

「アイラちゃん、アイラちゃん号にはほとんど兵が居ませんよね?私も白兵戦ならできます」

 ヒロちゃんは戦うことそのものへの不安、マナ姫は戦力に関する不安かな?


「ヒロちゃん心配しないで、マナちゃんもありがとう。でも大丈夫まともな戦いにはならないし、させないから」

 とヒロちゃんの頭を撫でると、エッラも後ろからヒロちゃんを抱きすくめる。

「安心してくださいヒロ様、エッラめが傍に居る限り、ヒロ様に一切の火の粉はかかりません」

 と、囁いている。

 ヒロちゃんの頭を半ば挟み込む様にエッラの大きな胸が押し当てられ形をゆがめていて、ヒロちゃんは少しうっとりした表情を浮かべている。

 あれすっごくいいにおいがするんだよね。


「あぁそういえばエレノアさんすごく強いんでしたっけ、でも相手はダイミョウ家のサンキなのでしょう?町ひとつ襲おうという軍勢なのですから、いくら強いといってもアイラちゃん号一隻では船団は押さえられないのでは・・・?」

 とマナ姫はこのセントールでの常識で考えれば当然の不安を口にする。

「大丈夫だよ、白兵戦には多分ならない、町の人たちの迷惑も顧みずに襲うんだから、死ぬ覚悟くらいはできてるはずだよね?不服従ならば船ごと沈めるよ」

 この間もあれだけの数を捕縛されたにもかかわらずまだノイセを襲うんだから、それは覚悟くらいできてるよね?


「船ごと沈める・・・?そんなことができるの?」

 マナ姫は少しまだ不安そうだけれど、そういえばまだ大規模な魔法や魔砲、リトルプリンセス級に搭載されている中型魔導砲なんて見せたことがなかったね。

 今回はボクの魔法攻撃ではなく艦砲の威力を見せるつもりだけれど、どうもまだこのセントール大陸では魔導砲の類もあまり認知度が高くないみたいだよね、前周でのダーテ帝国は何らかの大砲を使ってきたけれど、性能は微妙だったし、あれもまだだいぶ年数の経った後だから、まだ開発中の可能性がある。


「ボクやエッラの攻撃でも可能だけど、この船の武装でも木造船を沈める位ならできると思うよ?」

 いいながらすぐ真横に倒した状態になっている中型魔導砲の台座を立てる。

 きちんと組み立てないと魔導砲としての機能が果たせない様ヒロちゃんを乗せた時から細工してあるのだ。

 何ヵ所かの魔法陣と魔石回路が繋がる様に組み立てて、最後に今までベンチの座面の様になっていた2枚の矢避けの板を立てて完成。


「今までずっと変わったイスだと思ってました。これは?」

 マナ姫は魔導砲を軽く撫で、尋ねる。

「これは、一応リトルプリンセス級の搭載している主力兵装だね、中型魔導砲っていうの、ちょっとまってね・・・よし、マナちゃん、この握りを掴んで、で前の盾板の間に金属の縦棒とと赤い横向きの棒があるでしょう?」

 素直に言うことを聞いてくれるマナ姫、はグリップを掴んで照星代わりの盾板の隙間を覗き込む。

「ありますね、これは?」

「赤いのが大体届く距離、縦棒が大体の飛ぶ方向を表してるの、それではあそこの海面に向けてみて?」


「はい」

 マナ姫はしっかりと台座を動かして、大体ボクが言ったあたりを狙う。

「そうしたら、右手側にある銀色の横向きの握りを順手で握って、人差し指の位置に赤い突起がありますから、そこを押し込んでみてくだ・・・・」

 ズギュゥゥゥゥゥゥゥン!!

 言うが早いか、マナ姫は早速トリガーを引いた。

 魔法力はボクが組み立て中に1発分込めたので、マナ姫は魔法力の消費も感じなかっただろう。

 直射のビームの様な魔砲が放たれ海面に当たり、熱と衝撃で水蒸気爆発と水柱を起こす。


「ぇ・・・?」

「ふぁぁぁ、すごい・・・」

 呆気にとられるマナ姫は自分がやったことにまだ気がつけていない、そしてヒロちゃんは遠くで起きた爆発に驚きを隠せない様だ。

 イシュタルトでは携行武装や攻城兵器として知名度の高い魔導砲でもセントールにおいてはほとんど居ない攻撃魔砲使いの、下級から中級魔砲砲撃並みの火力である。

「これは、シーマ家やシコク家にも秘密にしている武装なので、マナちゃんとヒロちゃんの心の中にとどめておいてね」

 それを誰でも、魔法力さえ満たせば撃てるのだから、セントールの戦争の在り方を変えかねないのだ。


「さぁ、安心できたなら中に入っていて、エイラは魔導砲を組み立てながら待ってて、あぁユーリちょうど良いところに」

 アイリス達を艦の中に送り返そうとしているとユーリが甲板に上がってきた。

 もちろんナディアも一緒で、ユーリからは保湿ローションの匂いがしている。


「おはようアイラ・・・、アイリスも・・・騒がしいけれど何かあった?」

 名前を呼ぶと同時におはようのキス、普通に舌まで入れてきて上顎を軽くなぞられた。

 そして空気に敏感な彼は状況を問う。

「うん、前方あと30キロ位かな?サンキ家の水軍がノイセの港を襲ってる。ノイセの役人達と話はつけてきたからこのままサンキの後背を突くよ、あぁそうだ。ユナ先輩!少し速度をあげてください!」

 もうアイリスたちが中に入るし、急がないと・・・挟撃が出来ないと困る。


 操舵室のユナ先輩がわかったと手を挙げて、艦速がゆっくりと上昇する。

 龍の島トリオは操舵室に上がってもらおう。

 対人戦への参加はさせないけれど、リトルプリンセス級の魔力タンク代りをしてもらう。

「ナタリィ、ダリー、フィーは操舵室に、ユナ先輩一人じゃあ魔法力を使いすぎるかも知れないからチャージをお願い。それから、エッラはセイバー装備で待機、ナディアは艦首の魔導砲の操作をお願い、エイラは右側、アリーマリーは左側で待機、戦闘が始まったあとは狙えそうならサンキの船を撃っていいよ」

 順に支持を出していくと、みんな素直に従ってくれる。

「エッラは甲板で待機、後で手旗で敵に投降を呼びかけて、戦闘が始まった場合は、敵の矢が艦に当たりそうな時は防いで、ユーリは一旦ボクと操舵室に」

 最後に鉄壁の城壁にして、相手の城壁を崩すエッラをメインの守りに配置してボクたちは甲板から一度操舵室に上がる。


「ユナ先輩、進路はこのままで結構です。敵の船影が視認可能になりましたら徐々に減速して、旗で武装解除を呼びかけます」

 操舵室に6人も入るとさすがに少し狭いけれど、今は仕方ない。

 そのまましばらく進むと、すぐに船影が見え始めた。

 相手側からも気付かれそうな距離まで近づいたところ、まだサンキの大型、中型船はノイセとの戦闘領域に入っていない様だ。

 弓がメインだから、強化魔法によって射程が伸びているといっても限度がある。

 ただボートのほうはすでに何箇所かで上陸して戦いを繰り広げているのが見えた。

 とはいえ、「白き揺光」の効果があってのことか、バラバラに上陸したサンキのアシガル隊は上陸した先から各個撃破されている様だ。


 それに時間が少し経っているので、空自体もうずいぶんと明るいね。

 もうこちらに気付いても良さそうなのだけれど、上陸戦の顛末を眺めているのかこちらへの注意は疎かで、誰もこちらに気付いていない様だ。

 仕方がないのでもう少し接近することにする。

 かなり減速して、真後ろではなく少し迂回する様に進路を変更すると、ようやく数名の兵士から気付き、やがて指揮官らしき高台に立った者もこちらを認めた。

 そこでエッラに手旗を振る様に指示をだしたのだけれど・・・。


「・・・射ってきてるね、届いてないけれど」

 ユーリががっかりした顔で相手を見る。

 サンキの旗を掲げた4隻の船、そのうち2隻がこちらに向かって矢を射掛けている。

 しかしながらまだ距離は120mばかりあり、風のある海上ではこちらまで届いていない。

 多少の距離があるとはいえ・・・

「手旗見えてないってことはないよね?ついでにシーマの本家の旗と、シコクの旗も・・・。」

 ボクもややげんなりしながらみんなに尋ねる。

 尋ねずにはいられない。


 戦争にもルールというかマナーの様なものはあると思う。

 なるべく民衆への犠牲を減らすとか、決着のついた後の遺恨をなるべく残さない様にとか、理由はいろいろあるだろう。

 ノイセへの攻撃は奇襲だった。

 卑怯だとは思うけれど、戦争に置いては常道の範囲、つまり理解できる。

 でも今の遭遇はこちらから明らかに接近しているし、お互い視認したこともわかってるだろうに、こちらの手旗も、掲げている旗も一顧だにせず彼らは弓を射掛けてきている。

 それ故彼らは何を目指しているのだろうか?とわからなくなる。


 どちらかが相手との交信を受け付けないのであれば、戦争はどちらかが全滅するまで終結しない。

 いったいサンキは何を求めて戦争をしたいというのだろう?

 民衆の居なくなった土地を制圧しても、うまみなどほとんどないだろう。

 ・・・いや考えても理解なんてできないのかも、彼らはセントール人で、ボクが何とか理解できるサテュロス人とは別の文化の人間たち、その中でもサンキは異端だという。

 そしてボクは元はそのサテュロスの人間ですらないのだから理解するのに最低100年はかかるだろう。


「いいよ、相手から射ってきている訳だし、反撃しちゃおう・・・エッラはそのまま防御に集中、ナディア、エイラ、アリー、マリーは狙えそうな砲でサンキの船を砲撃」

 伝声管越しの指示はエッラにしかおそらく聞こえていないけれど、エッラが全体に指示を出して戦闘が始まった。


 敵はただ少し筋力強化があるないかくらいの弓でそれも前方であるノイセ側に射るために隊列を整えていたのだろう。

 攻撃は統率の取れていない散発的なもの・・・まさかもともとこの程度の練度しかないということはないよね?

 とにかく、まったく脅威とならない、距離はこちらの射程よりはだいぶ近いのに、敵の攻撃ときたら稀に届くかな?という程度で、それもエッラの風戟によって撃ち落とされる。

 逆にこちらの攻撃は・・・


 現在こちらは左側が敵船団の方向を向いているため、エイラも左側の砲座に移っている。

 そしてナディアは正面に敵がいないため、携行用の小型魔導砲を抱えている。

 小型砲も、元がカノン装備用の武装として開発したものなので、人が抱えるには少し重たい。

 そして、射程も十分に長く、野戦用の牽引砲や大型魔導砲、魔砲兵の仮想砲塔には遠く及ばないけれど、直射で500mは余裕だ。

 つまり、現在こちらは一方的に狙い撃ちが成功している状態で、敵の航行を妨害するために、船体下部を中心に狙わせている。

 ナディアたちにボクが命令して直接人間を撃たせるのがなんとなく嫌だったというのもあるけれどね。


 迂回したリトルプリンセス級が、敵船団の右側に抜けるころには、大型船はこちらに気付いていなかったのか仲間に任せていたのか、とにかくこちらに仕掛けてきていなかった2隻も含めすべてが手負い、中型船もようやく味方大型船の陰からボクたちが出てきたことに気付いたけれど、時すでに遅し・・・。

 ナディアは小型砲の転回性を活かして中型船の竜骨や、甲板上のマストを狙い撃ちにしていく。

 エイラとアリエス、ハマリエルの3名は、中型砲の射角が許す範囲で喫水線の辺りを狙っている。

 敵からすればあたってるのかどうかもわからない弓と、可視光線の形で飛んできて、当たると爆発するこちらの砲撃とでは見た目のインパクトも、受ける被害も桁違い過ぎたのだろう。

 やがて弓を射る者たちは水の中に飛び込み逃げ始めた。


 ここでようやくナディアのいる正面の中型砲の射程が、上陸を試みているボート部隊の後発組に届く角度になったらしい、ナディアは中型砲を調整すると射撃を始める。

 といっても、中型砲を小型船に直撃させると跡形も残らず木っ端微塵になるので至近距離の水面を爆発させ転覆を狙っているみたいだ。

 狙いが正確で、敵がかわいそうになるくらい。


 最初の敵の弓攻撃から10分くらい経っただろうか?

 こちらの目論見通り、こちらとは一度の白兵戦も発生することはないまま、すべての大型船は浸水沈没、中型船もマストの折れた3隻を残して沈むか、原型をとどめていない。

 小型船は一部は岸にたどり着けたものの、ノイセ側を守っていたノイセのアシガル隊とイセイ家の部隊とに捕縛され、残りは浅めのところで転覆し、乗っていたものたちは海に投げ出されてしまった。


 漕ぎ手は泳いで岸にたどり着いていたものの、アシガルを装備したものたちは泳ぐこともできずにそのまま沈んでいってしまった。

 また岸にたどり着いた者達も、抵抗しなければ捕縛されたが、抵抗した者は沿岸のノイセ、イセイの兵達に鎮圧されることになり、泳ぎきったばかりの疲弊した男達は大した抵抗も出来ずに斬り捨てられていった。


 こうして、リトルプリンセス級にとって初めての、そして恐らくは有史以来初めてのサテュロス、セントールの勢力がまみえる海戦は、戦いと呼ぶにはあまりに一方的に、駆け引きと呼べる様なものもなく終結した。


海戦をしようと思っていたのですが、戦力差が大きすぎて海戦になりませんでした。

後ろから接近、右側に距離を取りつつ迂回して抜けながら、左舷の三門の中型砲での砲撃であっさりと滅びました。

足の遅いサンキ船団は、ノイセにもアイラ号にも弓を射かける距離に届かないままで終わりました。

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