第155話:ノイセ沖海戦1
シーマ家先代当主エーシュの姫君マナと、シコク家当主ワコとの間の婚約が、シーマ家当主リューベルにも密かに認可され、その旨を綴った文がアイラによってトラウに持ち込まれてから数日が経った。
翌日にはヘキ号はカジト港へ、リトルプリンセス級アイラ号はノイセ港に向けて出港することとなり、トラウ城から港に戻ってきたマナ姫は、すでに留守番組が荷物を移していたこともあり直接アイラ号へと乗り込んだ。
優れた航行能力を持つアイラ号と言えど、未知の航路の航行、特に岩礁や深浅の複雑に入り組んだ場所が多い沿岸部は危険が大きいため、リトルプリンセスは少し距離は長くなっても沖を航行することを選ぶ。
トラウから東側の沖に出て、ヒヨウや焦土島と面した湾は通らず。
直接、湾より東側のトコトコやノイセ等が分布する海岸線を目指しての航路を採った。
そして、トラウを出港して3日目の夕方、アイラ号はノイセの沖50キロ程の沖に停泊、翌朝に上陸することを決めた。
そして翌朝、アイラ号はノイセに向かうのだが・・・。
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(アイラ視点)
トラウを出港して四日目。
夕べのうちにノイセ沖に停泊し、警戒されにくい様に上陸は朝にすることを選んだ。
快速のスクリュー艦で三日弱かかったことになる。
航行力が低く、沿岸部を航行せざるを得ないヘキ号が一緒だったなら果たして何日かかっただろうか?
セントールにおいて南北の距離はとても遠いのだと実感する。
ボクたちの場合、最悪は飛べる人だけで移動するか、神楽の飛行盾を使えばかなり短縮できるけれど、ミカドに拝謁を果たすまでは国の使者としての体を守った方がやり易いはずだ。
「じゃあ予定通り、今日はもう少し明るくなったらノイセの港に向かって出発するよ?」
彼は誰時、遥かに東の方の海が段々と白んできていてもう半月も船の旅をしていると言うのに、いまだに海に感動を隠しきれないアイリスとソルとベアとが、甲板から乗りだしそうになりながら薄明の水平線を指差し感嘆している。
早起きで感心だ。
そしてそんなに彼女たちを後ろからこっそりと視姦・・・もとい見守っているアリーとマリー、操舵室からはユナ先輩も前甲板に視線を配っている。
ボクの隣にはヒロちゃんが朝の体操をしていて、エッラと妙にソワソワしているトリエラとがそれを見守っている。
ヒロちゃんは朝一番は下着を着けていないからね・・・。
夕べはアイビスがユーリの寵愛を受けていたのでボクは神楽とヒロちゃん、エッラを部屋に連れ込んで寝ていた。
ユーリはナディアを世話役に朝からシャワー中。
マナ姫やアイビスはまだ起きていなくて、神楽はアイビスの朝の世話をするからと、甲板には上がってきていない。
目的地であるノイセの方角はまだ暗くぼんやりとしているし、距離も4~50キロ在るため、明るくても水平線しか見えないが、遠く朝もやと水平線の向こう、目には見えない海上に何かありそうだと感じる。
つい先日、ノイセはサンキの襲撃を受けたため、警戒体制を強化している可能性がある。
もしかすると港を警戒するための哨戒艇の様なものかもしれない。
「アイラ様、一つ気になることがあるのですが、よろしいでしょうか?」
と、ダリアが手を挙げる。
ダリアは風属性のドラゴニュートで、ボクやエッラ以上に広範囲の風向きや気配を感じ取れるので、航海中の警戒や索敵を一手に引き受けてくれている。
そのダリアから具申があると言うのだから、それは確かにこちらの安全に関わりうる気掛りなのだろう。
「どうしたの?」
「進路上に、多くの船舶がたむろしています。漁業に従事しているにしてはやや大きい船が多いです」
セントールの大きい船となると。
人を多く乗せるために大型化した軍船か、荷物を多く運ぶために大型化した輸送船だろう。
輸送船ならばこんな彼は誰時を選んで接岸する必要はないだろうから・・・。
「ノイセを守る船か、攻める船、どちらにせよこちらに対して制止を呼び掛けてくるかな?数は?」
「ヘキ号くらいの物が4、その3分の2ほどの大きさの船が10、手漕ぎボートの様な小さな物が30艘ですね」
考えられそうなのは軍船、それもこんな時間からわざわざ沖でたむろしているとなると、ノイセの船ではないだろう。
となるとだ。
「サンキ率7割って所かな・・・」
他にも現在サンキとこの辺りの勢力圏を競っているヴォーダ家や、本大陸南部側の航路からミカドに何かの挨拶に来たニカワ家イセイ家等の可能性もないわけではないけれど、本命はサンキ家だろう。
まだかなり距離がある。
あちらもまだしばらくはこちらの船影を確認することもできないはずだ。
通常であればこんな距離で事前に相手の配置や奥側の船の所属まではわからないけれど、こちらにはいくつもの手段がある。
手っ取り早いのは自分自身の目で確かめること。
「少し見てくるから、一応このまま前進してて、ボクが戻るまではゆっくり目でいいから」
本来なら主人の単独行動は諌めるのが一般的なメイドの対応だろうけれど、うちのメイド達は既にボクに慣らされているので、否とは言わない。
本当は全く思うところがない訳でもないだろうけれど、すんなりと送り出される。
ボクはすぐに黒霞の娼婦に変身する。
そして、そのままいったん跳躍、目標は正体不明の船団の真っ只中。
目視できる場所への跳躍を12回繰り返して、まずは船団の南の端へと到達した。
リトルプリンセス級が停泊していた場所と比べると、東側に陸地があるためか薄明の水平線も見えずさらに少し薄暗いと感じる。
このノイセから離れた位置となる南側にはダリアが言っていたヘキ号と同等の大きめの船が集まっている様だ。
船の上には弓を装備した普通の軽装鎧姿の男達が見える。
その船首や甲板上には先日も見たばかりのサンキ家の家紋が掲げられている。
さらにそこからノイセの方向に向かって中小の船と、アシガルグソクをつけた兵士が3名ずつと、こぎ手が6名乗った小型のボートが編隊を組んでノイセのほうへ移動しつつあった。
武装して海上からノイセを包囲しているのか?
そしてそこから4~5kmほどでノイセの港なわけだが、サンキのボート部隊より先にそちらに向かうとすでに船が停泊していた。
いや、もともと漁港も兼ねているので、船が多く停泊していることは問題ないのだけれどその船の中に大型の船が3隻含まれていて、それはカント地方のダイミョウ家イセイ家のものであるのが確認できた。
ほかにももしかしたら中型小型の船もあるのかもしれないけれど、それぞれ埠頭が離れているので全部は確認していられない。
港に上陸する。
暁時代に身に着けた技術としての隠形術、先天異能としての『隠形』、黒霞の娼婦のステルス性能をフルに生かして様子を探ると、そこにはイセイ家の兵とノイセの守備兵らしい者たちが大慌てで港や船の上を駆け回っていた。
「沖の船団がアシガルの上陸部隊を展開しています!」
「夕べわれわれがノイセに入港した時には影も形もなかったではないか、これではまるではじめからわれわれを狙っていた様な・・・」
「先日ノイセはサンキの部隊に襲われています。そのため抗議を行いましたが、サンキは防衛部隊がどこかの軍勢の襲撃を受けて壊滅していたと報告してきました。無論サンキのデマカセですが、彼らはノイセが奪われたサンキのアシガル装備を持っている以上ノイセがサンキの防衛隊を襲ったのだと言いがかりをつけて来ていました。恐らくはその建前に対する報復行動ということなのでしょう、それもよりによって、ミカドへの告発状まで提出したからとハルトマン様を中央へ呼び出した上でこの様な侵略をしてくるとは・・・巻き込む様な形になり、申し訳ありませぬ」
入港したというのだから、彼らはイセイ家の水夫か水軍達なのだろう。
そして、それに対して先日のノイセ襲撃の後始末について語っているのはノイセの武官なのだろう。
「港はこうだが、他の状況はどうなのか?」
イセイの兵の指揮をとっているらしい男性が訪ねると、ノイセの官吏は
「はい、前回の襲撃とサンキの言いがかりを受けてミカド直轄のアシガル部隊がノイセと隣接する各街道の一時封鎖をしています」
と、淡々と答える。
「ならば、その部隊に!」
イセイの指揮官は希望を見たと言わんばかりの表情で官吏に詰め寄るが・・・
「いえ、それは無理でしょう。配置されているのはミカドの禁軍です。あの悪名高い・・・今はサンキのアシガル装備が着脱は問わず街道を通った場合に活動する仕様だそうです」
「そ、そうか禁軍か・・・それではこちらのことには関与するまいな」
ノイセの官吏は諦めた様な顔で首を振り、イセイの指揮官も頭を垂れる。
悪名高い禁軍?仕様だなんて機械みたいな表現だけれど、イセイの指揮官も納得せざるを得ない内容であるらしい。
「ならば現状の戦力で対応するしかないが、あの数のボートだ。バラバラに上陸されれば、対応は難しい。こちらは式典用のアシガルがほとんどだ。数はそこそこあるが、うちの姫様の供の女たちが使うものだ性能は低い、戦闘に耐えるのは私のものを含む30弱だ」
「こちらも町の防備用のアシガルはありますが数は全く足りませんね、あとは鹵獲したサンキのアシガルがあるくらいです」
「装備を替える時間もならす時間もないな」
彼らは対応を考えているけれど刻一刻と時間は差し迫っている。
サンキには良い印象もないし、こちらにとっても邪魔なので助け舟を出すことにしよう。
変身を解き、今朝着替えたセントール服姿になるけれど、誰にも気付かれた様子はない。
人がたくさんいるから元々気配が多いからかな?
それにしてもボクみたいな女の子が突然現れたらだれか気付きそうなものだけれどね。
「もし、そこのお役人様」
時間がないから手短にいこう。
ボクはその、イセイの指揮官と話をしていたノイセの官吏に声をかけた。
ハルトマン氏もノイセにいないのなら、ナイトウルフよりもシーマからの使者一行の斥候として話しかけようかな、と考えている。
「こらこら、君の様な若い娘さんがこんな早朝から港に来てはいかん、きれいな手だ作業員ではないのだろう。港には荒くれも多いのだから、こんな人目のない時間帯に港を歩いていては、襲ってくださいといっている様なものだ。さぁここは危ないから町に戻りなさい」
と、官吏の人はなんとも言えない半端な注意をしてくれる。
ボクの身を思ってのことなのだろうけれど、人目はいっぱいあるし、町に戻っても安全ではないだろう。
「いえ、私はお役人様に用があって参ったのです」
言いながらリューベル様から預かっている書状のひとつ、封筒にシーマの紋章の入っているものをちらりと見せる。
紋章はいくらか偽造もできるものだけれど、ボクの様な少女の外見をしているものがわざわざ最南端の勢力の者を騙るのは不自然すぎて、かえって信憑性が増すだろうと思う。
「これは確かにシーマ家の家紋、しかし、どこから?」
「実はこの度シーマの先代、エーシュ様の姫君、マナ・シーマ様の婚姻が定まり、シーマがシュゴ家としての認可を受けてから初めての慶事であるため、マナ姫の成人と、婚姻の挨拶をさせていただきたいと南航路にてやって参ったのでございます」
ボクが告げると、官吏は少しだけ考えた様子を見せてそれから尋ねてくる。
「南航路からといったな、それではあの船団はシーマのものなのか?」
「いいえ、私どもの船は沖合いにございます。ノイセへの入港のため近づいておりましたら、前方をあの船たちが塞いで居りまして、これはどうしたことかと確認しに参った次第です」
まずはそれくらいの情報開示が妥当なところだろう、うそは言っていないのだから。
「つまり、あの船団をかわしてボートで迂回してここまできたということか?」
官吏の男は、ボクの言葉に素直な反応を示す。
敵とは考えないでくれるらしい、こういう時若い娘の姿であることは便利だ。
「いいえ、私は隠れたり気配を消したりといったことが得手ですので、あの船団の間を縫う様にしてこちらまで参りましたよ?」
と告げるとノイセの官吏も、イセイの指揮官も目を見開いた。
「それは本当か!?ではあの船団の所属はわからないか?」
「シーマの姫を運んだ船ということは護衛戦力もあるだろう、もう一度船まで戻って、われわれと挟撃できないだろうか?」
うん、すばやい、実にいいね。
シーマを最近までバサラシュゴの家だったからと侮る様子もないし好感が持てる。
「あの船団はサンキのものでした、大型船4中型船10、小型のボートにはアシガル装備の兵が3名と漕ぎ手が6名程度搭乗していて、それが30艘ほどこちらに向かっていました。中型と大型の船のグソクの配備数は不明ですが、弓手が多数搭乗しているのは確認しています。われわれの船に挟撃を要請されるのでしたら、応じる容易はありますが、中規模とはいえ船団相手ではこちらも手加減はできませんから、いくつか沈めることになりますが、よろしいのでしょうか?」
ボクの強気な言葉に、二人も、その場にいた兵たちも明るい顔をする。
「おぉ、それほどの戦力を伴っていらっしゃるのか、さすがは短い期間に南セントールの半分を版図にしてミカドに返納しただけはある。たいした軍備だ。」
と、シーマに対してある種認めている節さえ感じる言葉で、イセイの指揮官は言うけれど、残念ながらそれは違うんだ。
「いえ、こちらも大戦力を伴っているわけではありません、戦闘員の数は20人に届きませんから」
リトルプリンセス級の乗組員は現在ユーリ、ボク、神楽、アイリス、アイビス、ナディア、エッラ、エイラ、トリエラ、ソル、ナタリィ、フィサリス、ダリー、アリー、マリー、ユナ先輩、ベアが正規の乗組員、非正規となるのがヒロちゃんとマナ姫の2名、あわせて18人と1頭也。
戦力ではあるけれど、軍備というものでもない。
その上扱い的にはユーリ、ボク、神楽、アイリス、アイビス、ナタリィ、ヒロちゃん、マナ姫は貴人扱いなので本来なら戦闘員ではないし、ヒロちゃんは実際戦う力を持っていない。
そしてナディア、エッラ、エイラ、トリエラ、ソル、ベア、フィサリス、ダリーは一応メイド、従者という枠で乗っているので正規の戦闘員ではない。
つまるところ、リトルプリンセス級の正規の戦闘員はアリエス、ハマリエル、ユスティーナの3名ということになる。
まぁその3名だけでも、あのアシガル部隊がすべてただアシガルを装備しただけの雑兵ならば十分に殲滅させることができるだけの戦闘能力を有しているのだけれどね。
「な、20人・・・?しかし、シーマの姫君をミカドの元までお連れするのだろう?そんな少人数で大丈夫なのか?先触れ要員とはいえ君の様な非戦闘員もいるのだろう?そんな戦力では・・・」
「く、やはりわれわれはここでだまし討ちされ、しかもサンキの連中に都合の良い様に事実を捻じ曲げられて、悪し様に言われるのだろうよ・・・。娘よ、シーマの姫君にはヴォーダ家の港か、北航路のダンセクラネ港から上陸する様に伝えて欲しい、ノイセは暫くサンキに制圧されるだろう」
おや、こちらが寡兵と知って落ち込ませてしまったか。
ならば少しは希望を見せてやらないと、リトルプリンセス級が奮戦しても町のほうが落ちていたら意味がない。
「安心してください、ただの20名ではありません、お役人様は私のことをか弱い乙女であるとお思いになって逃がそうとしてくださったのでしょうが、私とて戦う力を持っております。その一端をお見せしましょう。」
そう言いながら、ボクはひとつ覚悟を決めた。
どちらにせよリトルプリンセス級が入港するときは、シーマの船ではなくイシュタルトの船として入港するのだから、イシュタルトの魔法を少しは見せてもかまわないだろう。
「あのボートの群れが厄介なのは、どこから上陸してくるかこの夜明け前の暗さのために判然としないからでありましょう?それならばこの一帯を照らしてやればよいのです。お役人様たちは魔法はご存知ですよね?」
港町に住んでいるんだもの、知らないとは言わないだろう。
風魔法帆走が主な船の動力源のセントール大陸だもの。
「あ、あぁ、もちろん魔法くらいは知っている。風や水、火を起こすことのできる術法だ。ごく稀に城攻めや対人戦闘でも使える様な魔法を使うものもいるが、まさか?」
残念ながら、殺す様な魔法を使う予定は今はない、ただ今はノイセの町を守れる様に、敵に躊躇させ、守る側が対応しやすくするのだ。
そうすることでこちらの防衛は本職であるノイセと居合わせたために自衛する必要のあるイセイの者たちに担ってもらう。
理由は、ボクたちだけでサンキを片付けた時に、サンキからボクたちだけが憎まれる可能性があるからという、少し情けない理由だけれど、ここで共闘しておくことで、イセイ家ともつながりができれば万々歳といったところ、それも確か姫君がどうのこうの言っていたからね。
「私が、光の魔法で1時間ほど海岸線を照らします。上陸順が判別できればボートの対応は皆様でも可能でしょうか?」
ボクは要点を伝える。
「あ、あぁあれにはアシガルが3体ずつ搭乗しているのだろう?それならば、一度に大量の相手をせずにすむなら距離が近いものから漕ぎ手を弓で射殺していけば、相手の動きを止められる。押さえられるはずだ」
官吏の男も、イセイの指揮官もうなずいてくれる。
「それならば、その間にこちらで敵の船をどうにかします、1分後に海が照らされますが、ノイセに危険はありません、その様に対応お願いします。それでは後ほどまた私たちの船が上陸しますからそのときは攻撃せずに向かえてくださいましね」
最後にそれだけ告げるとボクは跳躍を使い暗い空に移動する。
そして、隠形術で姿を隠しながら、魔法を用意する。
これを使うのはずいぶんと久しぶりな気がするけれどね・・・。
加速状態になったボクは中級雷魔法「サンダークラウン」と中級火魔法「ブレイジングホイール」を詠唱する。
術の制御に『光弾』も使い、術同士が離れていかない様にする。
さらに魔力利用ではない『火燕魔法』をくべてやることでこの術は熱と光を蓄えていく。
熾天の光冠、前周でボクが編み出したオリジナル魔法。
複合魔法と名づけたそれは、この世界の魔法とは異なる力を魔法と組み合わせることで単純な魔法防御だけでも、物理的防御だけでも防げない性質の悪い魔法だ。
相性がよくないのはそれこそアシガルやセイバーの様な、魔法的防御と物理防御を両立させた装備類だけれど、それも相手が初見で対応をできればの話だ。
ボクにとって制御しやすい力である『光弾』を仲介することによって、離れても精密な操作の可能なこれら複合魔法は、とても便利な力だ。
その中でもこの熾天の光冠は、魔法力と異能の力を光と熱のエネルギーに変換するシステムで、いくつかの派生魔法を開発している。
今回は爆発的な攻撃の為の力は不要で、ただただ残り十数分の光の少ない港と海岸を照らしてやるだけだ。
「白き揺光」
この術の作りは光弾に熱を誘導させて鎧を着込んだ兵を体内から焼き殺したりする『紅炎』とほぼ同様。
誘導用の光弾に、熾天の光冠のエネルギーを運ばせる。
光のエネルギーを平たく長く、まるで発光塗料をこぼしたみたいに、うっすらと広げていくと、港や海岸線から3kmほどまでの洋上までがぼんやりと照らされていく。
十分かな?
これで本当は2時間くらいは明るいはずだけれど、あまり長時間だと町の人たちをおびえさせてしまうかもしれない。
作戦が終わればボクが消してやる方が良いだろう。
下に残してきた官吏や指揮官があわただしく命令をだしているのが見える。
「とりあえずこっちはこれでいいかな、急いでみんなのところに戻ろう」
さっきの場所とは移動しているはずだからこういう時は、妹をGPS代わりに使うのだ。
目を閉じてアイリスの反応を探り、ボクは再び跳躍した。
熾天の光冠の出番はとても久しぶりだった様に思いますが、実戦で使う機会がないだけで、決してアイラは練習していないとか、今生では使ったことがないというわけではありません。
サンキ家はこりもせずノイセを狙って攻勢を仕掛けてきた模様です。




