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第154話:南々セントール婚姻同盟

 南セントール亜大陸の南東部、シコク領の領都トラウの城館。

 その中で訓練場に程近い、東の館の客間に、多くの人間が集まっていた。

 シコク領主にして、トラウの城主でもあるシュゴ、ワコ・シコク、その妹であるシャインとナナ。

 西隣のシーマ領のシュゴ、リューベル・シーマの妹であるマナ、娘であるヒロ、外交官であるカネル。

 それから、他大陸からの来訪者達・・・。


 今のセントール大陸に新しい風を吹き込むかもしれない話し合いが始まろうとしていた。


------

(アイラ視点)

 座布団や麦茶を用意してくれた女中さんたちが部屋を出ていくと、部屋の中にいる人数は、本来当事者ではないはずのボクたちが一番多くなった。

 ヒロちゃんをシーマ枠で数えたとしても、シコク家関係者3名、シーマ家関係者3名に対し、イシュタルト関係者がユーリ、ボク、神楽、アイリス、エッラ、ナディア、エイラ、ソル、ベア、8名と1頭という大人数だ。


 すでに手紙は二人にも渡してある。

「あ、そうだ。リューベル様からマナちゃんへと、お父様の愛用の短剣だそうです。渡し忘れてました」

 恐らくは両家にとって自身の存在が厄介になったときに自決するための短剣、逆に言えば、結婚を許したという意味を持つモノだ。

 手紙と一緒に収納していたのに渡し忘れるだなんてうっかりだ。


「わ、本当にとと様の懐剣ですね、久しぶりに見ました」

 マナ姫はボクから受けとると、嬉しそうに鞘から半分引き抜いてから戻して、服の中にしまう。

「本当にこの短い時間で、行って戻ってこられたのですね」

 可愛らしい柔和な笑みを浮かべているワコ様もマナ姫が受け取った短剣をチラリと見てから、一瞬見えたであろうマナ姫の肌に頬を赤らめながら感心した風に言う。


 二人の距離は近く、先程と比べると緊張感も減った。

 短時間の散歩や交流で距離感も近づいたみたいだ。

 というか、少しばかり色っぽい雰囲気が漂ってる気がするんだけど、まさかリューベル様の許可を取りに行っている間にすでに男女の中になってたりしないよね・・・?出会ってその日になんて、凡そ淑女のすることではないよ?


「あの、ワコ様?お二人は中庭等で寄り添って散歩などされていたとうかがっていますが・・・なにかありましたか?」

 かまをかけた訳でもないけれど、ボクが素直にそう訪ねたら、あからさまに二人の雰囲気がおかしくなった。


「ななななにかって、出会ってほんの数時間ですよ、普通なにもあるわけないじゃないですか?普通に散歩していただけです!マナ姫の体に触ったりなんてまだ早いじゃないですか!普通に考えて」

「そ、そうですよアイラちゃん、私たちは普通に親睦を深めあっていただけで、躓いてこけそうになったりなんてしてませんから、支えようとしたワコ様に胸をさわられたり、あまつさえ胸とわかってもらえなかったりなんてことはありません!あり得ませんよ!」

 なんだろう語るに落ちたというか、マナ姫はもう少し賢い子だったはずだし、ワコ様にしても一領主として不足しているのは外見の事くらいで、それも魅力的という意味では十分満たしていたはずなのに・・・。


 恋という字は変と似ているけれど、初めての恋の影響でおかしくなっているのかもしれないし、あまりつっこんでやるのは野暮というか、ちょっと可哀相なので放っておこう。

「さて、リューベル様からのお返事は目を通して頂けましたか?」


「アイラちゃんのその生温かい視線は非常に不本意ですが・・・大事を優先させます。はい、私もワコ様も内容は確認させていただきました」

 不服そうな表情は浮かべたもののさすがは姫、優先するべきことはわきまえている。

「アイラ姫様は手紙の内容はご存知なのでしょうか?」

 こちらもわきまえているワコ様も手紙の話に移行する。


「いいえ、受け取ってすぐに来たので・・・マナちゃんとワコ様の婚姻は認めてくださるとは伺いましたが、手紙の中身までは存じあげません、わざわざ2つに文をわけたのです。それ以外にもなにか、書かれていたのですね?」

 ボクの問いに、ワコ様とマナ姫は見つめあうと、小さく頷きあった。

「私の方には、慣習として懐剣を持たせるがシーマのことよりも自分の幸せを優先してほしいと」

「私の方にはマナ姫のことを頼むということと、シーマ、シコク間での同盟について話し合いを持ちたいとありました」

 婚姻を機として、現在の協調姿勢をより強固なものにしようというのはまぁわかる話だ。


「マナちゃんの幸せのために今後ともシーマシコク間の平穏が保たれる様にしたいのでしょうね」

 家族思いのリューベル様だもの、もとより協調姿勢をとっていた相手と同盟、合従くらいは簡単にできるだろう。

 シコク相手ならあまり反発する家臣もいないだろうし、始めに組む相手としてもよい選択、これを機に他の2家との同盟も視野に入れられるだろう。


「あに様はシュゴですから、いざとなれば私のことなど斬って捨てることもできる人ですが、きっと私のためにそうならない様善処してくださるのでしょう・・・」

 頬を少し赤くして、笑みを浮かべるマナ姫は年相応の可愛らしさと色っぽさを醸している。

 この婚姻でマナ姫が幸せになれるというなら、ボクも協力した甲斐があるというものだ。

「シコクとしても、南セントール勢力との明確な協力関係は望ましいものです。無論前向きに検討していきます」

 ワコ様も、年不相応に可愛らしい表情で真面目な話題を語る。

 背伸びしているみたいで可愛らしい。


「では、予定通り私は明日アイラちゃん達と一緒に中央へ向かいます。ミカドへの報告は私から奏上いたしますね」

「マナ姫、申し訳ない、シコクが安定していれば共にミカドにご挨拶もできたのですが・・・」

 俄に二人の世界を作り始めるマナ姫とワコ様、手を繋ぎあって見つめあっている。

 ワコ様は照れてるくらいだけれど、マナ姫の方はかなりギリギリの精神状態だね、真っ赤になっている。

 お兄さんたちと一部の家臣しか今までまともに話したこともないのに、いきなり求婚、それもあの可愛いワコ様から・・・うん、照れるよね。


 二人に今残された時間は明日の出航まで、となるとあまりお邪魔するのも悪いかな?

 と、ユーリとアイコンタクトすると、ユーリも小さく頷きで応える。

「それでは基本的な情報共有は終わりましたし、僕たちは船に戻ります。マナ姫は置いていくのでワコ様と一緒にミカドへの挨拶を考えていて、明日は昼過ぎに出航するから1時には船に戻ってね」


 と、ユーリが告げると、二人は現実に引き戻される。

「ひゃい!?」

「いえ、皆様をもてなしたいのですが、帰られてしまうのですか?」

 マナ姫はみんなの前でいちゃついていた恥ずかしさに縮こまり、ヒロちゃんにニマニマされている。

 一方でワコ様はシュゴ家当主として来賓の持て成しをしたいのだと告げる。


「ありがたい申し出ですが、マナ姫との時間を大事にしてあげてください。僕たちがいると、当主としてもてなす必要があるでしょう?幸いこちらは妻が体調をくずしていたことになっていますから、大事をとったことにしましょう。僕たち新婚旅行がてらの外遊なので、妻が体調を急に崩したとなると・・・アレの可能性がありますから、酒や贅沢な食事は避けるんですよ」

 と、ユーリはボクの後ろに周り、頭を抱きながらワコ様に告げる。


「新婚旅行という風習はよく存じませぬが、新婚でご夫人が急な体調不良となると・・・、それは確かに大事をとって船に戻られても不自然ではありませんね・・・・お言葉に甘えさせていただきます」

 と、ワコ様は照れながら礼を良い、その場にいるものではベアとヒロちゃん以外は得心いった様子を見せる。

 初心なマナ姫は真っ赤だ

 なにこの無用の辱しめ、別にいいけど、夫婦でやることもやってるわけだし、妊娠を避ける風習も基本ない世界なので可能性は常に最大値あるけれどさ・・・

 妙に頬が熱くなるよ。


---

 熊車で港まで戻ったボクたちは、留守番組と情報を共有した。

 一晩泊まって来ると思っていたボクたちが帰ってきたので、少し驚いた様だったけれど、マナ姫のことを伝えるとすぐに納得してくれた。

「それにしても、マナ姫様も可愛い妹でしたのに、もうお嫁に行ってしまうのですね残念、可愛がりたかったです」

「ちょっ、アリー、一応他国のお姫様よ?まさかとはおもうけど、手、出すつもりじゃなかったでしょうね?」

 と、アリーマリーがおちゃらけている、なおアリーの場合手を出すと言っても、妹扱いして無茶苦茶世話を焼くだけで実害はない、多分。

 彼女は「妹」が大好きなだけだ。


「しかし、やはりアイラが居るだけで、周りになにかが引き起こされますね」

 ナタリィはなぜかいつもと違い髪型がすごく編み込みされている。

 そして、フィサリスとユナ先輩もかなり弄られた痕跡がある。

 どうやら退屈をもて余したアリエスお姉ちゃん、ハマリエルお姉ちゃんの相手をしてくれていたのだろう。

 アイビスもいつも以上に手の込んだ髪型になっている。


「ボクのせいなのかな?二人の結婚は二人が出会ったからじゃないの?」

「それはそうだけれど、アイラは願ったのでしょう?マナ姫の幸せを」

 穏やかに微笑むナタリィは言い聞かせる様にボクを撫でた。

「願ったけど、それだけだよ、二人の出会いにボクは立ちあわなかったし・・・マナちゃんは元々ワコ様に目をつけられていたみたいだしね、それがたまたま政略結婚から恋愛結婚と同じくらいまで想い合える様になったんだから、ボクは関係ないよ」


 元々南セントールには一部の蟠りを残した者を除いては、全般に厭戦的ムードがあったのだ。

 その成就のために4つのシュゴ家が親戚になっていくことは大きな意味を持つはずで、それはボクが居ようと居るまいと変わらなかったはず、なににせよ

「この結婚がマナ姫にとって幸せなことだと信じましょう?」


 ボクを子ども扱いする様なナタリィのハグに、ボクは抵抗しなかった。

 


一晩泊まる予定を切り上げて船に戻りました。

早めにミカドかだれかダイミョウに会って、魔剣回収をはじめさせたいです。

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