表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/220

第152話:南々セントールの午後

(アイラ視点)

 新たに捕虜にしたサンキの間諜たちと小舟をハルトマン氏とその部下たちに引き渡して、再度の宴会の誘いを、ミカドの威光を蔑ろにするものを討伐することはセントールの大地を踏みしめる者として当然なのでと辞した。


 ミカドの威光は今のところボクにはわからないモノだけれど、長い間本格的な軍事力らしいものを持たなくても権威と影響力を保てていることからかなり信仰されているとは判断できているので、今後も意識しておくべきだろう。


 何度もお礼を伝えられ、せめて受け取ってほしいと言われて結構な額の金子を手渡された。

 なんでもボクが無力化した連中のアシガルグソクを売却、または鋳溶かすことで得られる獲られる魔鉄類の売却で獲られる利益だけでもそこそこの金額になるそうで、捕虜や間諜のこともあり100%持っていってかまわないと言われたが辞退し、でも最後には断りきれず試算の15%程度を貰い受けた。


 それが終わってようやくボクは帰途へと就いたのだけれど・・・

 ボクは東から現れたのでノイセの東側から出た所、何者かがボクをつけてきている。

 さすがに、あんな風に目立っては居合わせた各勢力の間者、間諜達が放って置かないらしい。

 ・・・流石にハルトマン氏の配下ではないよね?

 ナイトウルフの頭部は動かさないでちらりと背後を確認すると、やはり二人ついてきている。


 流石に見られている状態からでは隠形術で隠れきれないし、どうしようかな?

 ナイトウルフが空を飛べることは、イシュタルトでは明かしているけれど、こちらではまだ空を飛べる人を確認していないから空を飛ぶイコールボクたちイシュタルトの関係者だと気取られるかもしれない。


 ならば・・・右手、南側には海がある。

 そちらに逃げてみるかな・・・

 幸いナイトウルフは全領域型、気密性も高いので水の中も潜ることができるし、水上歩行で水面を走ることもできる。

 セントール大陸の間者が水上移動できるなら厄介だけれど・・・


 ボクはおもむろに街道を外れると海岸沿いに移動を開始する。

 追跡者も・・・うん、ついてきているね。

 遮蔽物の少ないところに移動してるくらいに思っているんだろう。

 でも残念、ボクはこのまま海に出て、追跡を振り切ったら跳躍して帰るんだよね。

 せっかくだからちょっと怪奇物っぽく霧でもかけてみようか?


 あまり得意ではないけれど、演出も大事だよね?

 ノイセを襲おうとした不埒な軍勢を、謎の鎧が現れ討伐を手伝い、役目を終えるとソレは霧と共に海に消えた・・・。

 いかにもありがちな守り神の様で良いよね。


 というわけで、風属性と光弾を使ったオリジナル魔法、ウルトラソニックレゾナンスを詠唱する。

 ウルトラソニックレゾナンスは名前こそ仰々しいけれど、実のところ下級相当の魔法だ。


 本来霧や蒸気を発生させる魔法には水風複合魔法のサージミスト、水土複合のアーススチーム、水火風複合のスチームガストなど多くの魔法が存在し、軍官学校でも習うのだけれど、ボクは水魔法の扱いがなぜか少し苦手で、適性は高いのに繊細なコントロールがうまくいかないことがある。

 それでも水単属性ならそれなりには使える。

 複合魔法のミスト系もスチーム系も使えないこともないけれど大規模になりすぎたり、温度が高くなってしまったりする。


 その点ウルトラソニックレゾナンスは光弾に超音波を発生させて液体を霧化させる術で、液体がないところでも水魔法や結露の柄杓で水を用意してやれば複合魔法ではなく通常の属性魔法2つ使う感覚で霧が発生させられるので便利だ。

 今の場合は海があるので風魔法ひとつで霧が出せる。


 海面に霧を出して、水上歩行で水面に立つ、そしてそのまま沖に向かって歩みを進めると、追跡者達が狼狽したのが気配でよくわかる。

 放出系の術が未発達のセントールでは単純に火を飛ばしたり、水を出したり、風を吹かせたり、あるいはごく一部の術者が攻撃魔法を使うことはあるそうだけれど、それに対する防御として障壁系の魔法を研究するのではなく、アシガルに魔法防御力を持たせる程度には魔法が一般的ではない。

 わざわざ霧を出す魔法なんてものは常識の埒外だろうから、この霧はナイトウルフが海に近づいたら急に立ち込めてきた様に見えるだろう。


 追跡者達はそれまではまがりなりにも忍んでいたのに、今はすっかり姿を隠すのも忘れて浜辺に出てきている。

 片方はそのまま海にも入ってきたけれど、水上歩行やその他の水中用移動魔法も発動はしていないね。

 後はこのまま引き離してお別れかな、霧はボクの後ろについてくる様に光弾を追尾させればいいだろう。

 これでこの間諜達の主にとってナイトウルフは、ファンタジーの類になるはず。


 そろそろいいか、水に入ってきていた追跡者もすでに諦めて浜辺に戻った。

 ボクはトラウの上空に跳躍した。


------

(神楽視点)

 アイラさんと通信を終えてから1時間半ほどたった。

 寂しい。


 いつも、例えばアイラさんがユーリさんとデートをするのを見送った時なんかもちょっとした寂しさを感じることは多い。

 でもデネボラを使った通信の後の寂しさはそれとは少し趣の違うもの。

 なんて言えばいいのか、多分私にとってデネボラが、お姉様達や十家のお兄様方との連絡手段としてのイメージが強いものだからなのかな。


 7年半か・・・。

 私の中に残る御姉様の姿と、今の私のそれはほとんど変わらない年頃になっている。

 そっか、私もう17歳だものね。

 昨年誕生日を祝いしてもらった時、天音お姉様や黒乃お姉様と同い年になってしまったと、少し不思議な感覚になったのを覚えている。


 私は私の姉妹達が今どうなっているのかを知らない。

 だから、私の中では天音お姉様と黒乃お姉様は今も17歳だし、

 普段は意識をしない様にしている部分もある。

 私にとっては姉妹よりも暁さんの方が大切だから、だからあの夜だってお姉様達の助けを待たずに、私は暁さんを追いかけた。

 結局暁さんは亡くなっていて、その死に目に立ち会うこともできなくて、暁さんの生まれ変わりのアイラさんに、私のことを背負わせている。


 アイラさんは暁さん、それは間違いないと分かっている。

 暁天が認めたことや、アイラさんが全部覚えているのもあるけれど、何よりも私の心と体が認めている。

 アイラさんに手を握られるとときめく、アイラさんとお風呂に入るとそのカラダに触りたくなる。

 アイラさんとベッドに入るとよく眠れる。

 アイラさんと朝起きると悪戯したくなる。


 でもアイラさんは、私より4つ下の小柄な女の子だ。

 細い肩も、私より低い身長も、暁さんとは似つかないけれど

 でも困った様な笑い方や私の髪を梳る指の優しさは暁さんそのものだ。

 私がいなければなんの気兼ねもなく、というわけにはいかなかったかも知れないけれど、少なくとも今よりはユーリさんと、普通の女の子としての幸せを追いかけられていたに違いない。

 私はアイラさんの重荷になっているのかも知れない、時々そう感じてしまう。

 特にこんな風にお姉様達のことを思い出した時には・・・


「カグラ様、カグラ様?」

 いつの間にか、考えに耽ってしまっていたみたいで、頬に何か触れたのを感じて我にかえると、目の前にソルちゃんとベアちゃんがいて、ベアちゃんが私の頬を舐めていた。


「わぁ、驚いた。どうしたの?」

 私たちはトラウの練兵場で野外訓練を見学している。

 と、言うのも今現在あまり動ける状況にないから。

 今マナちゃんとワコ様がお見合い中というか、なんというか、アイラさんから先に教えて頂いた話だと、リューベル様からのご許可も頂けたので、二人はすでに婚約者、本人同士も出会ったばかりの割りには相思相愛で、現在は親睦を深めるためにデート中。

 間が持たなくなったら訓練場に戻ってくる約束で、まだ戻って来てないということはきっと話も弾んでいるんだよね?


「・・・ということなのですが、えっと、カグラ様?」

 とといけない、また考え込んじゃった。

「ごめんねソルちゃん、ちょっとぼんやりしてて・・・」

「はい、いいえ、それではもう一度ご説明させていただきますね、ユーリ様もエッラも消化不良でこれから手合わせをされるのでカグラ様も防具をつけるか、あちら側まで退避をお願いします」

 なるほど、周囲を見ると少し離れたところの観覧席に移動するか、残っている人はアシガル系のグソクを装備している。

 あのお二人の手合わせとなると、それは確かに離れるか防具をつけるか必要がある。


「そうなんだ?ソルちゃんとベアちゃんはどうするの?」

「私どもはカグラ様に付いていることにします、ぼんやりされている様です、何かあっては私がアイラ様に叱られてしまいますから」

 優しい笑顔、以前と違い本当に自然に笑う様になったと思う。

 アイラちゃんより一回り大きいだけの小さな女の子。

 それが私を心配してくれている。


「じゃあ一緒に見学しようか?ベアちゃんはそのままで大丈夫なの?」

「ワッフ!」

 元気に手を挙げてお返事をするベアちゃん、可愛い。

 なんていうかクマなのに、驚くほど人間臭い反応をするんだよね。

「では、失礼して、私も胸鎧をつけますね」

 と、ソルちゃんは魔導籠手の収納から小さな胸当てを出すとメイド服の上から装着する。


 私も装備をしないと、砂利とか風圧から体を守れる様に鎧装を起動する。

 選択したのはもっとも使いなれている鎧装のひとつ『慧眼』、北欧の神オーディンを再現したモノで、本体は黒い鎧型。

 それを鎧衣モードで起動する。

『予知』を初めとする多数の『権能』を持っていて、こと防御とカウンターに関してはかなりの性能を誇る。


「カグラ様の用意も宜しい様ですね、それでは隣失礼致しますね」

「ガーウ」

 ソルちゃんベアちゃんが私を挟み込む様に、私が借りていた長い腰掛けに座る。


 30メートルほど離れた所にいるユーリさんは、盾の剣スヴェルグラムを構えている。

 エッラさんも突撃槍ランス凧型盾カイトシールドを装備している。

 どれくらい本気の模擬戦をするのか知らないけれど、ある程度力を見せるならば、使いなれない模造剣なんかだとかえって危ない。

 ユーリさんはどんな武器も上手に使うだろうけれど、慣れた武器の方が安全だ。


 とはいえ、あれを初めて見る人たちにはどう映るかな?

 アイリスちゃんやヒロちゃんもエイラちゃんナディアちゃんに連れられて離れている観覧席の方に退避をしている。

 その周囲にいるシコク家の人達は緊張した面持ちでユーリさんたちを見ている。

 二人の武器はとても大きくて重たい。

 普通の人では抱えるのがやっとの武器を二人は軽々と扱うのだ。


 やがて、二人は3秒見つめ合いエッラさんの突撃から、模擬戦は始まった。

風邪はなんとか治りそろそろ花粉症もなおると思うので、ペースを戻したいと思っていますが、なかなか時間もとれないでいます。

4月中はこの状態が続くかも知れません。

申し訳ありません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ