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第149話:サンキのやり方

 単独行動での偵察をしていたアイラは御料地の港町ノイセで、怪しげな黒い鎧の集団を発見した。

 ソレを噂に聞くサンキ家の暴走的侵略だと判断したアイラは、真っ先にサンキにちょっかいをかけられるべく、町の東側で彼らを待ち受けていた。

 そして彼女の目論見通り、黒の鎧武者達は町を強襲しようとしていた。


------

(アイラ視点)

「大変だ大変だ!」

 そう叫びながら13名の農夫が、町の中に駆け込んできた。

 その声に町民達は俄に騒ぎ出す。

「く、黒いグソクをつけた連中が迫ってるぞ!」

「ヴォーダが攻めてきたぞー!」

「代官様の城館へ逃げろー!」


「みんな、グソクが襲撃してきてるらしい、あんた!ウチらも逃げるよ!」

 お食事処(団子もあります)のお姉さんも、店内のお客さんや、旦那さんなのだろう男性に声をかけている。

 そしてそれから彼女はボクにも声をかける。

「お嬢ちゃんも、代官様の城に逃げるよ!」

 と、店から出てきて手を差し出しながら誘ってくれるけれど、すでにボクは店の屋根の上で気配を消していた。


「お嬢ちゃん・・・逃げたんだよね?」

 小さく呟いた彼女は最後に出てきた旦那さんと一緒に手を取り合って町の中心部に走っていく。

 好感の持てる人だったけれどもう会う機会はないだろう。

 それと、逃げる者の中に少し気になる人物がいたのでその人物に、マーキングの魔法をかけておく。

 マーキングの魔法は、王都にオルセーが暮らしていた頃、ちょくちょく迷子になるので開発した魔法で、直接手で触れた相手に魔法力を染み込ませ、相手が強い魔法を使ったり、染み込ませた魔法力が雲散するまでの間、居場所を特定しやすくする魔法だ。

 とりあえずこれで半日は追いかけられるので、一旦放置する。


「先にあいつらの相手をしないとね」

 黒いグソクの連中は、まだ町の中には入りきれていない。

 わざとなのか、ずいぶんゆっくりと歩みを進めている。

 アシガルの稼働時間を考えれば随分と悠長なことだ。

 やはり東に回った部隊は真面目に侵略する気がないと見える。


 ただそれでも、黒いグソク部隊はゆっくりとこの町に向かって来ており、やがて先頭の一人が手に持っていた剣を振り上げると、後続のグソク達は全員が剣を抜いて足を止めた。

 装備はある程度揃っている。


 全員がフルフェイスのフルメイル、セントール人は大きい人は多くないけれど、みんな2m位はある。

 黒い鎧に120センチはありそうな大きな剣を装備していて、とりあえず残党の装備ではない。

 そして・・・ひゅうとなにかの合図だろう赤い火のついた矢が空に向かって放たれると。

「「ウォォォォォォォォォ!!!」」

 グソク-、ううんアシガル姿の男達は全員が一斉に走り始める


 町の大通りからはすでに人影が失せている。

 彼らは恐らく侵略の痕跡としてこの東側の町を少し破壊することは確定している。

 問題点は代官の館まで攻め上がるつもりかどうかだけれど、みすみす町を壊させるつもりはない。


 ボクは町の最も東側に当たる場所に降り立つと、気迫を込めて叫ぶ!

「静まりなさい!ここを御料地と知っての行いですか!」

 風魔法との併用で声は全員に届いているはず。

 加えてボクの装いはそれなりに目立つ。

 偶然とはいえ団子を食べ終わるまで待ってくれたからね、なるべく穏便に引き下がってもらいたいものだけれど・・・


 ボクの声に反応して、先頭の一人が剣を上に掲げ、黒いアシガル達は走るのを止めた。

 意外と話がわかるのか、それとも年若い女だと侮ったか?

 そして一人、最初に剣を振り上げた兵が数歩前に歩み出る。

 彼我の距離は25メートル程だ。


「どけ!小娘に用はない、我々の主君をダイミョウと認めぬミカドが悪いのだ!このノイセの代官を討ち我々の力を示すのだ!」

 少し太い、そして渋みのあるカッコいい声、でもやろうとしていることは勢力を偽っての騙し討ちだ。

 やはりヴォーダ家の襲撃に見せかけるつもりだろう。

「あなた方の主君如きがダイミョウの器ですか!卑劣な策を弄して、近隣の民に脅威を与えるなら、近くあなた方の主君ごと滅びることでしょう」

 少なくともサンキ家に対しては不信感しかない。

 シーマの船の話や、ワコ様の妹のアイラさんの話を聞く限り、自分達の都合の良い様に好き勝手やっている印象しかないね。


「ふん!ミカドの威光など、すでに衰えておるわ!我らこそがセントール大陸を支配するのだ!!」

 野心を否定するつもりはない、所詮他所の大陸の話だし、でも前周ではどういう経緯からか最後にはダーテ帝国とやらがセントールからサテュロスへ侵略しに来たからね、ミカドじゃないとしても、サテュロスと友好的に付き合っていける家にセントールを統治してほしいところだ。

 こいつらは状況から十中八九サンキ家の兵だけれど、その野心はヴォーダ家のふりをしてるからか、それともサンキ家としての野心なのかね。


「あなたの言う我らって言うのがどこの家か知りませんが、旗も掲げずに無抵抗の町に攻めてくる様なダイミョウ家にはそんな資格はないと思いますよ!」

 連中の言った嘘、ミカドがダイミョウと認めない、に対してこちらは相手がダイミョウ家だと断じているけれど、相手はダイミョウ家であるサンキの兵という意識があるからか気付かない。

「黙れぃ!年若い町娘を殺すのは忍びぬと待ってやったが、我がヴォーダを愚弄するは許せぬ!押し潰す!!」

 語るに落ちたというか・・・やはりヴォーダに責任を擦り付けると言うか、ヴォーダがミカドの御威光を軽んじたという状況を作るための自演らしい。

 彼は突撃の合図をかけるために再度剣を天に向かって掲げた。 


「こちらはあなた方がサンキの兵であること、そして西側からあなた方の第ニ波が近づいていることも把握していますよ?あなた方がノイセを襲うというなら・・・」

 ことごとく討ち果たすと、伝えようとしたけれど、ボクがサンキの名前と西側の真打ちの存在を口にしたからか彼は剣を振り下ろしたため、ボクの警告は彼らに届かなかった。


「掛かれ掛かれい!!」

「「ウワァァァァァァァ!!」」

67人の男達が、剣を構えて突撃してくる。

 どうしようかな?恐らくアシガルは弱い魔法攻撃は通さないはずだ。

 もう少し距離があればアシガルの魔法耐性では防げないボクのオリジナル複合魔法熾天のプロメテウス光冠・コロナからの光条レイ紅炎プロミネンスで一網打尽にできるのだけれど・・・、仕方ないから一人一人無力化に努めてみようか?


 とりあえず加速を5倍で発動させる。

 腰に差していた払暁を抜き、切断用に薄く光弾を纏わせる。

 誰が1番近いか、誰が一番強いか・・・いや相手に最初に絡まれて町の被害を抑えることにはすでに成功した様な物だ。


 敵はバラバラにではなく一斉に大通りにいるボクに向かってきている。

 もうじき代官の兵も駆けつけるだろう。

 ならば町娘の姿で戦うよりももっと虚を突く様な戦いがボクにはできる。


光輝断江剣ピラーセイバー!」

 ボクは払暁に纏わせた光弾を切断から、打撃と衝撃に切り替えると正面に向かい振り下ろす。

 ボオン!

 射程は少し短く、目の前の路面を抉る様にして、実体のない剣が地面を叩くと、大量の砂ぼこりが巻き上げられ、その砂埃に紛れてボクは再び上空に跳躍した。

 同時にナイトウルフを呼び出し装着し、彼らの背後に落着する。


 ナイトウルフは、あれから何度かの補修を経ているものの、基本的な形状や性能に変更はない、その代わりというわけではないが、魔鉄類の本格的量産によりさらに製造技術の向上した五式巨大剣(セイバーの生産開始から5年目に正式にギガントセイバー用装備として採用された大剣)を装備している。


 五式大剣は、平均幅25センチ、刃渡170センチ程の刃自体に強化の魔法陣が施されていて切断力ではなく打撃力と頑健さを重視した構造になっている。

 一応剣の腹で城壁を叩き壊しても、魔力さえ通していれば折れないし曲がらない。

 ナイトウルフ自体がアシガルより大きい事もあってその脅威は不意を突かれた彼らをかかしにするのに十分なモノだった。


「ひ、ひぃぃぃい!?」

「ホログソクか!?」

「ノイセにはアシガル12領しかないんじゃなかったの、ギャアアア!」

 ナイトウルフの落下音に気付いて振り返った兵士達はナイトウルフの威容に怯え、動きを止めたので大剣の腹で脚を殴り付けていく。


 セントールのアシガルは構造的弱点として、ある程度の打撃や魔法をほぼ無効化する代わりに、内部構造まで響く打撃を受けると強化魔法陣が意味をなくし、ただの重たい鎧に成り果てる上、装着している兵士にも大きな衝撃が伝わってしまう。

 この場合は膝関節や太腿の粉砕骨折だ。

 地球の中世なら再起不能の致命傷だけれど、サテュロスなら治癒魔術師の腕次第で後遺症なく治ることも多い。

 アイリスやアイビスなら間違いなく治せるし、トリエラでも十中八九治せる。

 ボクやエイラ達の治癒魔法では3割位かな?


 後続の悲鳴に、見失った町娘の姿を探していたらしい前衛連中も振り返る。

「な、なんだ!?どこから現れた?」

「何故こんなところにホログソクが!?」

「御料地には魔物対策のアシガルしかないはずだろう!」

 兵達の口から漏れるのは、御料地には戦力があまり置かれていないことを前提にした侵略行為を画策したという自白。

 戦力が置かれていないのはミカドの権威に正面から弓引く者がいないことの証左だろう。

 いや、居なかったことと言うべきか


「貴様らは、ミカドの御威光に弓を引いた。どこの家の者かは死体になってもじっくり調べればわかる」

 少し芝居を打ってみる。

 今のナイトウルフには声を中性的なものにする拡声魔法道具もついているので同一人物とは思わないだろう。

 そしてやはり卑劣だ。

 ノイセの戦力がアシガル12しかいないなら約70のアシガルには勝ち目がない、そうでなくても後120近い後詰が西側にいるのだから、何人かアシガルがやられても、サンキが関わった証拠を隠す事も可能だったろう。

 そもそも恐らくはまともに戦うつもりもなかったはずだけれど、今すでにボクの手で12のアシガルが歩行不可能になっているし、すべてを運び出すことはもはや不可能、代官たちが尋問なり拷問なりすれば、サンキの関与を認めさせることは簡単だろう。

 勿論今の時点ではボクが死体を作る予定はない。


「ええい黙れ、女を囮にして背後から襲うとは武人の風上にも置けぬ輩よ!所詮は不意討ちしかできぬ小者、全員で囲め!」

 と、指揮官は指示を出すけれど。

 もう遅い、あまりにこちらを甘く見てくれている。


 比較的近くに居た3人が同時に斬りかかってくるけれど、近い者から順に剣を狙って五式大剣を打ち付けると、二人の剣は弾き飛び、一人の剣は半分に折れた。

 そして剣を手放した上に弾かれてバランスを崩した二人の足を剣の腹で打ち付けると、生置物が二つ増える。

 剣の折れた彼は戦意を喪失してヘタり込んでいるけれど、アシガルの無力化はしておきたいので踏みつけて脚部装甲を引き剥がしておく。


 そんなことをしている間にも、未だ敢闘精神を失わないアシガル達が斬りかかってくるのを、避けて殴るを繰り返す。

 そうして戦闘開始から僅か3分程で、ボクと指揮官らしい者以外誰も立っているものは居なくなった。

「な、なんだ、何者なんだ?ホログソクどころじゃない、これではシュゴクラスの・・・」

 何を言うかは少し気になるところだったけれど、彼の後ろから別の銀色のアシガル集団が現れて割って入る。


「これはどうしたことか・・・いや、何はともあれご助力感謝する。どこの部隊か知らぬが不敬にもミカドの御料地を襲った狼藉者である以上死罪は免れぬと思えい!」

 と、唯一残っていた男を三人掛かりで取り押さえる。

 サンキ兵はここには12領のアシガルしかないと言っていたけれど、全部で13人居るね。

 他の9人もその辺に転がっている黒いアシガルたちを取り押さえ始める。


 ボクは一応敵意がないと示すために五式大剣を収納して待機する。

 すると銀色のアシガルの中から、特に大きな剣を佩いている者が兜を外しながらこちらに近づいてくる。

 これまた渋いおじ様だ。

「どなたかは存じ上げませぬがこの短時間で70近いアシガルを無力化する武技、おみそれいたしました。それがしはノイセの代官をミカドより仰せつかっておりますハルトマン・ノースフィールドと申す者です」

 ノースフィールド?聞き覚えがあるような?

 首を傾げて居るのを見破られた様だ。

 ハルトマン氏は恥ずかしそうに笑いながら


「あぁ、そうですな、元ノースフィールドシュゴ家の当主です。ヴォーダ家に完敗を喫し生き恥を晒しましたが、ミカドの命によりこのノイセの代官となっております。この者達はどうやら私がヴォーダを憎んでいると考えて今回の謀りを企てた様ですな」

 と、ハルトマン氏は、この短い時間で彼らの正体を感づいている様だった。

 ステータスもすべてが高い水準にあり、魔法力もサテュロスの準勇者に匹敵する数値を示している。

 かなり優秀な人物なのだろう、その上。

「あなたを失脚させたヴォーダを恨んでは居ないのですか?」

 失礼とは思ったけれど尋ねずにはいられなかった。

 彼はヴォーダにシュゴの身分を奪われたというのに・・・


「あの時、私が治めていた領地は荒れておりました。サンキが台頭し好き放題に暴れまわり、ミカドを患わせていたというのに、私はサンキの暴威に晒される領地を守ることに腐心していた。それでもすべてを防ぎきることは出来ませんでした。それをみかねたヴォーダ家が、横槍をいれてきただけです。私は代々シュゴとして中央の南東を預かってきたという誇りから抵抗しましたが、あっさり敗北しましてな、そして私を打ち破ったヴォーダのシンチョウ殿は私に説いたのです。守るだけでは守りきれないモノもある。何故サンキの台頭を許したか?と・・・私はシンチョウ殿の言葉に感銘を受けせがれと若い配下をヴォーダ家に預け、私自身は老臣達とともにミカドを支えるために中央に仕えることにしたのです」

 と、悔しいであろうことをツラツラと述べる。


「初対面の私に、ずいぶんとあけすけに仰るのですね」

 と、聞き返すとハルトマン氏は笑いながら。

「あなたの様な敬意を抱くべき武芸者に、さらに領地までお守りいただいたのだ。隠し事は敬意を欠く。是非お礼がしたい、粗末ではあるが宴を仕度させよう」

 と、答えた。


 器の大きい人だ。

 もしかするとそのシンチョウ殿の言葉で変わった可能性もあるけれど・・・でも今はまだその段ではない。

「いえ、それよりもまだやるべき事があります」

 そう、西側に後120程のサンキ兵が居るのだ。


風邪を引いた様なので、体調を整えるため次回の更新は遅れる予定です。

両刀完結日でもある4月1日向けにネタ話の投稿も考えていたのですが花粉症と風邪のダブルパンチに断念しました。

申し訳ありません


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