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第147話:海岸線

 シーマ家当主、リューベル・シーマに手紙を届け、その返書を預かったアイラは、上空3000メートルほどの高さを高速で北東に向かって飛行していた。

 その姿は日ノ本の言葉にすれば和装メイドと言うべき独特なもので、その格好のものが空を飛んでいる姿は客観的に見て違和感しかないものだが、現実なのだから仕方がない。


 いかにも大きな空気抵抗を受けそうな外見とは裏腹に高度な風防と加速性に特化した魔法の衣装であるその和装メイド服「星の献身サーヴァント」は、アイラ本人の能力の高さも相まって、全く本気を出さずとも優に時速500キロメートルを越えるスピードでの飛行を可能としていた。

 そしてアイラは加速の能力を用いることでさらにスピードを上げることができる。


 ナイキからヒヨウとの境界まででもおよそ480キロメートルほどあるものの、僅か10数分で海側からヒヨウの中ほどに到達したアイラは、眼下の大地を見下ろしていた。


------

(アイラ視点)

 南セントール亜大陸と呼ばれるこの大地は南北約510㎞、東西約460㎞あると聴いている。

 無論最端での話ではあるけれど、この辺りまで500㎞近くあったはずだけれど、あっという間にたどり着いてしまった。

 思いの外星の献身の加速性が高かったみたいだ。


 ヒヨウ地方は平均幅約100㎞程度の弧を描いた大地が900㎞ほどに渡ってセントール大陸から伸びている。

 複雑な海岸線を持ち、途中に山地もあるヒヨウの統治はダイミョウ家であるニコ家を頂点にして、一部を傘下のシュゴ家が地方分権的に采配している。

 その権威は南セントールにも及んでおり、南セントールの四守護家は傘下にこそ入っていないものの、ニコ家を通してミカドとの連絡を密にしているので親密な関係にある。


 今ボクの眼下にあるのは、リューベル様から頂いた情報によれば、ウキ家かモーリー家と言うシュゴ格の家柄が統治する地域の境目のはずだ。

 シュゴ格ではあるけれど、その領域はどちらもシーマ家の3分の1程、そう大きな領域ではないけれど、眼下では恐らく練兵をかねているらしい魔物狩りが行われている。


 距離があるのでわかりにくいけれど80~100人前後の人間が、おそらくアシガルらしい装備を着けて、森の中に入り大柄な魔物を狩っているのが見える。

 恐らくはセラファントやアスタリ湖のヘラジカなんかに匹敵する大きさだね。


「まぁ兵隊のやることだし関係ないか」

 イシュタルトでも魔物狩を練兵を兼ねて行っていた。

 練兵、魔物素材の回収、間引きを兼ねていて、イシュタルトの軍事力の根幹を担っていたね。

「・・・そろそろカグラに一度連絡をいれておこうかな」

 神楽とは声を出さずとも魔力偏向機マジカレイドシステム暁天を使えば思念通話ができる。

 一応友好的とはいえシコクの状況を確認しておくのはとても大事なことだ。


「(カグラ、聴こえる?)」

 進路はもとの通りに、でもスピードはゆっくりにして進みながら、神楽に通信を送ると、すぐに可愛い声がボクの頭の中返ってくる。


「(聴こえますよ、アイラさん、今はどちらに?)」

「(空を飛んでる。少しだけ時間をかけた方が、不自然じゃあないかなって、だからみんなには通信は内緒ね?)」

「(二人の秘密ですか?)」

 声を弾ませて、神楽は尋ね返してくる。

 いくつになっても神楽は可愛い。

 前周でカナリアと名乗っていた時と比べると、少し子どもっぽいのは、ボクと過ごしたことで甘える相手が居たからだと思いたいけれど。


「(そうだね、二人の秘密、3時間位かけた方が自然かなって、そっちはどう?まだ話し合い中?)」

「(いいえ、ひとまずマナちゃんとワコ様の親睦を深めて頂こうと言う話になりまして、お二人は庭園を散歩しに行きました。私たちは魔法の性能を見せる為に、訓練場で負傷者の治療をしてますね)」

 なるほど、婚約と順序は逆になったけれど、若い二人に任せてというやつだね。

治癒魔法は程度の差はあるけれど、アイラ号のクルーだとベアトリカとヒロちゃん以外は初級以上の治癒魔法を習得している。

 セントールではサテュロス以上に魔法使いは貴重らしいし、治癒魔法という、効果を実感しやすい物を見せつけられれば、兵たちにも魔法技術の差が伝わり易いだろう。


「(いい案だね、カグラの案?)」

「(いいえ、ユーリさんです。シャイン姫のお屋敷でお話してたら、ナナ姫の義理の弟さんが訓練中に落馬してケガをしたと報せが入りまして、治癒魔法をかけることを提案されました)」

 神楽の報告によると、ナナ姫の義理の弟君はまだ9歳であるが、ナナ姫の人質代りとしてトラウで一年の半分ほどを過ごしいちている。

 今日は練兵場での訓練中彼の馬の顔に、前を走っていた馬が蹴りあげた石が当たって棹立ちになってしまい。

 乗馬を始めて日が浅く踏ん張ることができなかった彼は、落馬し、頭を強く打ってしまった上、叩く、揺するなどの未熟な応急処置を受けてしまい、一時は危険な状態に陥っていたが、アイリスが居たことが幸いして、なんとか後遺症を残すことなく意識を取り戻したらしい。


 そのまま流れで、練兵場の視察と、怪我人が出たときにはエイラやナディアがヒールを担当し、アイリスは治療魔法以外にも出来る、応急処置や救護の方法、衛生に関する知識を落とし込みしているそうだ。

 逆にエッラはヒロちゃんに格好いいところを見せたくなったらしくて、練兵に参加、現在12人抜き中らしい。


「(そっか、弟さんが無事で何より、ボクはしばらく時間を潰して帰るよ、また帰る前に連絡するから)」

「(はい、わかりました。あの、内緒にしておきますから結果を伺っても良いですか?)」

 神楽は17歳、年頃の女の子なので結婚とか恋愛の話はもちろん好きだ。

 そして、出会って間もなくてもマナ姫とワコ様の間に気持ちが通じていることも感じ取っているから、二人の婚姻を応援したいと思っている。


「(うん、リューベル様は許可してくださったよ、あとはミカドに挨拶して、マナ姫がシーマに戻った後でお嫁入りかな)」

「(そうですか、良かったです。あぁ、早くアイラさんが帰ってきて喜ぶマナちゃんが見たいです)」

 弾む気持ちがボクにも伝わってくるよ。

「(ユーリには、ボクはヒヨウとファントリーの地形を見に行ったって伝えておいて、流石に跳躍で数百キロを一瞬とか漏らすのは、ボクが危険人物過ぎるしね)」

「(そうですね、私の知ってる限り、アイラさん以外にはアマネお姉様とクロノお姉様位しか出来ないですから、あぁでもカンナお姉ちゃんも似たようなことはできるかもです)」

 実に嬉しそうに神楽は笑う様な声で、朱鷺見台の最大戦力3人の名前を告げる。


 膨大な魔力と時間によって、暁の時より遥かに力を増した今のボクでも、恐らくは2秒と持たず狩られる。

 そんな桁外れの強者の名前・・・ていうかだ。

「(アマネ義姉さんやクロノ義姉さんも、跳躍できるんだ?)」

 凡そ出来ないことはないと言われる方たちだったけれど、ボク固有の異能だと思ってたよ、恥ずかしいな。


「(はい、何せお姉様たちですから!)」

 本当に嬉しそう。

 普段も仲の良い家族と過ごすみたいに楽しそうにしていることが多いけれど、やっぱり朱鷺見台の家族を恋しく思っているんだろうと思う。

 やっぱりボクは、彼女を家族の元に帰したい、そう思う。


「(カグラももう、あの頃のアマネ義姉さんクロノ義姉さんと同じ年頃になったんだね)」

「(は、はい、まだまだお姉様達には及びませんが、いつかお姉様達みたいな立派な女性になりますから、アイラさんの赤ちゃんを抱かせてくださいませね)」

 今でも十分に神楽は魅力的だし、料理などの家事もできる。

 趣味の領域を越えているさまざまな技能も、ときどき甘えてくる可愛さも、ボクにとっては最良の女性なのだけれど・・・。

 それを伝えても神楽のお姉様信仰は多分納得してくれないだろう。


「(うん、生まれたらね、それじゃまた後で)」

「(はい、また後で)」

 通信を切ると、声は聞こえなくなり、よくわからない罪悪感が込み上げてくる。

「いや、今は一人だし、考え事は危ないよね」

 下を見下ろすとあれからまたかなり進んでいる。

 ナタリィから貰っている地図で確認すると、すでにヒヨウの根本に近い。

 内浦湾に似た5分の4円ほどの囲まれ具合の湾を形作っているヒヨウ地方の、根本から少し北東を見ると幅広くなっていて、そこがファントリー地方だ。

 そして今ボクの右手側に見えている楕円形っぽい島がシコク家が以前預かっていたという御料地、焦土島なのだろう。


 シコク家、というより元名乗っていたハタサト家が預かるまではほぼ全域が荒れ地だったらしいけれど、現在は島の6割程が、濃淡は有るものの緑に覆われている。

 地形は概ね平坦であるが、中央が少し高い丘になっていて、湾の出口に近い方角の海近くに島の中で最も大きな町がある。

 湾内からならファントリー地方側、湾の外から他の地方へも進出できる作り。


 ボクたちが通る予定の航路はその湾の外側。

 湾を抜けてしばらくは比較的穏やかな海岸線が続くけれど、ほとんどがサンキ家の勢力圏らしく、本来ミカドの御料地だったという中央直南の地域も一部実効支配されている。

 この海岸線はまたしばらく弧を描いて進むけれど、現在弧の5割程がサンキ家の勢力圏、1割弱がミカド、残りがヴォーダとニカワの勢力圏。


 ある程度安全に上陸するならばミカドか、ヴォーダの勢力圏で上陸し、リトルプリンセス級も2つの手段のどちらかで海岸線から離すことになるだろう。

 すなわち、ボクか無理矢理収納するか、一部のメンバーを残して、沖に出てもらうか。


 沖に出てもらう場合、神楽かアイリスにリトルプリンセスに残ってもらうか、簡易通信機が利用可能な7㎞内の沖に留まってもらわないと合流が難しい、そしてそんな距離では艦が視認される可能性があるので、ボクたちがいない間にサンキに見つかってちょっかいをかけられると怖い。

 神楽かアイリスをお留守番というのも、さすがに何日も彼女たちと離れるのはボクも嫌なので、多分全員で船を降りて収納することを選ぶかな?


 だったらちょっと、上陸する港や、中央に向かう道もある程度見ておきたいよね。

 湾を出てしばらく、弧を描く海岸線の中央辺りまで来る。

 小さな漁村は別としてここまでに大小4つの港町があったけれど、残念ながら中央まで届きそうな大きな河川も、リトルプリンセスが停泊出来そうな港もなかった。

 河川があれば遡上できるところまでは遡上する選択肢もあり得たのだけれど・・・。


「ここら辺までは、サンキ家の領域なんだよね・・・」

 話を聞くかぎりサンキ家はやることが自分勝手で暴力的な印象を受ける。

 正直関わらない方が良いだろう。


 現在ほぼ真下にあるのはトコトコ港という港町のはずだけれど、パッと見た感じカジトやトラウの様な活気はない。

 これもサンキの脅威にさらされているからだとしたら・・・確かめる意味でもう少し海岸線を東に向かおうかな?

 とりあえず中央に向かう方向は暁天で撮影したし、山と深そうな森を避ければ大丈夫だろう。


 再度東の方へ進路をとるとトコトコから40キロメートル程かな?さっきも見えてはいた町だけれど改めて真上から見ると、リトルプリンセスも入れそうな港が整備されているし、活気もそこそこある。

 けれど・・・


「どうも怪しいねアレは」

 その町の僅かに南西側に黒い集団がある。

 アシガル装備の様に見える鎧をつけて、港町から僅か2キロメートル程のところに、120名?程の小集団、それにもう少し北、町から北西3キロほどの地点にも70程の黒い集団が見える。


 明らかに怪しい彼らを見つけたボクは、少し様子を伺うことにした。

前の周である「両刀」の外伝、「平等」を更新、完結しました。

元々単体ではストーリーの流れがないものだったので更新が不定期でしたがこれでひとまず○か月以上更新がありません~の罪悪感を減らすことができました。


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