表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/220

第144話:それぞれのシコク訪問3

(ユークリッド視点)

 アイラ達と離れての会見は穏便に進んだ。

 ただ最後にワコ殿が仕掛けてきた鎌に、僕はなんとか平静に答えたつもりだったけれど、あの様子だとカネルさんかマナ姫の表情から何か読み取られたね。

 頭の回転は早い方みたいだ。


 マナ姫も賢いし、振る舞いから恐らくはある程度以上の武芸も修めているとはわかるけれど、人付き合いの能力は低いみたいだ。

 それはそうか、今までは姫として城の中からほとんど出てこない生活だったみたいだしね。

 人付き合い事態限られたものだったはずだ。

 かつてのリリーの様に。


 もう一度ユークリッドに生まれ直してからはとんと思い出すことのなくなった苦い過去を思い出す。

 あの時誓った復讐も、呪った相手も、前の自分と現在の東征侯代理が、そして愛しいアイラが討ち果たしてくれた

 今の僕は魔剣回収という大きな事業を果たさんとするアイラの守りのひとつとして同行しているつもりだけれど・・・。


 とりあえずマナ姫のことはセントールにいる間しばらくは行動をともにするのだから、僕が守らないといけないだろう。

 後ろにいるナディアとエイラも強いし、信頼しているけれど、勇者相当の相手が来たときにはやはり、アイラやエッラがいないと怖い。


 僕はアイラの様な常識外の加速能力は持たないけれど、クイックと超反応リアクトそれに奪魔法インターセプトを発動させていればとりあえず直接的な攻撃は回避できるだろう。

 アイラに付いてくれているエッラやヒロ姫のためにもマナ姫は責任もって僕が守らないと。


 ワコ殿に促されたナナ姫に通されたのは落ちついた雰囲気を感じる板張りの部屋で、何か甘い匂いのする木片が焚かれている。

 毒とかではないよね、ナナ姫もいるわけだし。

 他愛のない話とやらをするためにワコ殿は人払いをしたのであるけれど、家臣に聞かせられない話なのか、聞かれたくない話なのか・・・


 3分ばかり経つと、ワコ殿が明るい青系統の服に着替えて現れた。

「お待たせして申し訳ありません、あぁどうかそのまま、楽になさってください」

「ワコ様・・・」

 現れたワコ殿を迎えるため立ち上がろうとしたマナ姫だったが、手で制止されて座らされた。


「ユークリッド殿には先程は失礼なことを言ってしまいました。先に謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。」

 ワコ殿はそういって頭を下げる。

 ワコ殿の外見は2~3年前の自分をみているみたい。

 男の子なのにまるで女の子みたいに華奢で、可愛いげのある顔立ち。

 それでいて領主・・・シュゴ家の当主だというのだから、気苦労も耐えないだろう。


「実のところ、目的は別に有りました。別にと言いますか、マナ姫様のことが私の真の目的です」

 先程のくだり、僕がヒロ姫を嫁にするために引き取って・・・と、その前の僕とワコ殿が兄弟にという話題。

 その2つから導き出されるものはひとつだ。

 その関係は厳密には兄弟ではないが、縁戚になることは確かでもある。

 しかしそちらが目的ではなかったという。

 それならばその課程こそに目的が隠れていたと、判断できる。

 でもわかったからと、僕が言ってしまって良い言葉でもないね。



「マナ姫様、私の正妻となってくださらないだろうか?」

 あ、以外とストレートに言った。

 先程までの語り口から、もう少し婉曲的な表現をすると思ったのだけれど。

「私がワk・・・」

「え、ええええええええ!?」

 そして驚きの声をあげたのはマナ姫ではなくカネル氏、今のところ良いところがないね、

「くぁ、し、失礼いたしました!」

 すぐアイラたちの言うドゲザ状態になり、黙る。


 少しの間気まずい時間が流れるけれど、マナ姫が、気を取り直して

「私が、ワコ様の妻にですか?私がシーマの先代、エーシュ・シーマの娘と知ってのことですか?」

 と、尋ね返す。

 すると、ワコ殿はマナ姫だけを正面に見据えて姿勢を正した。

「もちろんのことです。元々未婚で婚約者も居ないマナ姫様がこちらまで来ると聞いたとき、良い機会だと思いました。」

 その表情は笑顔を浮かべている。

 顔立ちによっては爽やかな笑顔だったのだろうけれど、ワコ殿の顔立ちが幼げに見え、頬に血色が浮かぶせいで、はにかむ少女に見えるのが残念な所だ。


「私はシュゴ家の姫でありながら、もう15にもなるのに婚約者も居ない嫁き遅れですよ?仮にもシュゴ家の当主がそんな・・・」

 マナ姫は自ら嫁ぎ遅れていることを嘲笑して、ワコ殿にやんわりと断りの言葉を述べようとしたけれど

「そんななどと!・・・失礼、ですが、その様にご自身を低く評価するのはお止め頂きたい、私はその貴方に求婚しているのですから」

 手を床にドンとついて、とても男らしく言い切った。


 僕に残るリリーの部分が少しときめいてしまう。

 ただあんなことを言って欲しいというよりは、アイラに言ってみたいという感情かな?

 とはいえ今のアイラはあまり自己批判をすることもないから機会は無さそう、残念。

 マナ姫は怯み、カネル氏も先程の失態のためか大人しい。

 数秒待ってから、ワコ殿は続ける。


「私はシュゴとなりましたが、生まれは焦土島の御料地を預かる代官の家に過ぎませんでした。それが父祖の代からの努力が認められ、混迷・・・いや失礼ミカドや我々が横入りしてこなければ今頃シーマ家が南セントールを統一していたでしょう、シーマ家がそれを望まなくとも」

 ワコ殿はシーマ家が、少なくとも現当主リューベル・シーマが、南セントールを統一するつもりはなかったことを理解している。

 やはり繊細で、敏感な方だ。


「南セントールに割り入ったシコクが今後も南セントールのシュゴ家として、永く繁栄していくには、いや、今の4シュゴ家がともに支えあって行くに私は、旧ザカラ、アソ、イチジョウといった旧勢力の影響を受けにくい家と縁を結ぶ必要があると考えていました」

 それがシーマ家?


「まぁ実のところ幾つかの家に軽く打診を試みたのですが、だいたい最初の顔合わせの時点で相手側が乗り気で無くなってしまいましてね、甘いと言われるかも知れませんが私は、正室になる方にも、お家の為というだけでなく、幸せになってほしいと思っていますから」

 自嘲気味な声色、顔合わせからというところで少し心当たりができる。


 僕にも経験があった。

 まだアイラと再会する前、何人もの女の子が僕に引き合わされたけれど、顔に自信がない子というのだろうか?

 僕の顔を見て『私より可愛い男の子の隣で平気な顔で微笑んだりできない』と、腰が引けてしまう子が少なからずいた。

 そうじゃなくても、アイラに会って『僕のアイラ』か確かめる迄特定の女の子を選ぶつもりはなかったけれど、あれは申し訳ない気持ちになる。

 女の子の自信を折ってしまう訳だ。


 セントールはサテュロスよりもさらに、家のために女性が嫁ぐのは普通のことらしいけれど、元が地方役人だったワコ殿は、女性が自分の妻となってもワコ殿のほうが可愛いとか、どちらが妻だ?と言われる様な状況に置かれるのは嫌らしい。

 そもそも自分を女の子と見紛うほど可愛いと認識せざるをえないのは生まれついての男として生きる立場では辛かろう。


 僕はリリーの記憶も残っているから前の周では、アイラに出会うまでナディアを巻き込んで女装までやっていたけれど・・・。

 あの頃のナディアには、無理をさせてしまったよね、たった一人の共犯者として服を買ってきてもらったりもしたっけね、母たちが亡くなった後はよりエスカレートして、メイクや女装用に下着まで用意していた。


 今生でもナディアには女物を集めるのは少し協力してもらったけれど、前世の様に女装を主目的にしたものじゃあなくて、アイラに出会ったときに可愛い服を着せられる様に色々と取り揃えておいた物だ。

 前周とこの周ではなにもかも変わった。

 母や乳母が生き残った。

 アイラの故郷は失われなかった。

 あの大陸全土を巻き込む戦争は起きなかった。

 ヴェルガ様も死ななかった。

 ホーリーウッドも王国にはならず侯爵家のままだ。

 僕がこの周と前の周とが全く違っていることを最初に認識したのは、乳母のユイの乳を吸っているときに聞こえたイサミという男の子の名前を聞いたときだったけれど・・・。


 けれど何が変わっても、変わらなくても、僕が今は男であることは確かで、その僕が女の子の『可愛い』に対する自信を失わせてることがわかる時は元女の身としても申し訳なく感じたものだ。

 それでも家の思惑を受けたり、権力欲のためにすり寄ってくる女の子たちに恐怖を覚えた回数の方が多かったけれどね。


 純粋な男の子である(はずの)ワコ殿は、僕とも違う感性を持っているはずだけれど、どうしてマナ姫に対してはストレートな言葉をぶつけているのだろうか?

 マナ姫だって、ワコ殿の隣に居たら自信を失うかも知れない、マナ姫も可愛いとは思うけれど、ワコ殿のそれとは比較できないタイプの可愛さで、ワコ殿は少女(実際には少年どころか男性だけれど)の可愛さを持っているけれど、マナ姫はもう大人に近づきつつある可愛いと綺麗の中間。

 僕は疑問に思ってしまったけれど、ワコ殿が明かした答えはとても単純なことだった。


「私がマナ姫を妻にとお願いしているのは勿論条件に合っているということも確かにあります。しかし何よりも大切なのはこの一点に尽きます。貴方を好きになってしまったのです」

 と、ワコ殿はマナ姫の前に座って愛を囁いた。

 そうだよね、疑問に思うべきではなかった。

 彼ほどの男が、真っ直ぐに結婚を申し出たのだ。

 そこに気持ちが少しもないなんてことを考えるべきではなかった。

 ところで僕やカネル氏はいても平気?

 ワコ殿は人に囲まれてプロポーズできるなんて、なかなか心臓が強いね、僕が言えることじゃないかもだけれど。


「なぁ!?へ?あっ!冗談だ!冗談ですね!?もうワコ様ってばぁ・・・」

 マナ姫は顔を赤くして、両手で扇ぎながら平静を取り戻そうとする。

 しかし・・・

「では、私の本気を態度で示しましょうか」

 とワコ殿はマナ姫の手を取り、もう一度囁いた。

「マナ姫様、結婚を前提に私との時間をつくって欲しい」

 今度は少し顔を上気させながらのワコ殿、身長はほぼ同じ、外見はともに美少女と言える部類。

 それが二人とも顔を真っ赤にして、見つめあって数秒ようやくマナ姫が口を開いた。


「ワ、きゅぅ・・・」

 開いた口からうめき声の様なモノを漏らして、後ろ向きに倒れるマナ姫、そしてそれを支えようとするも気付くのに遅れて間に合わないワコ殿、マナ姫の頭をふうわりとスカートで受け止めるエイラ。


 家族以外の男の人になれていないマナ姫には、ワコ殿の告白は少し刺激が強かったらしい。


 でもね、僕は一目惚れって信じる方だし、マナ姫もワコ殿のこと悪しからず思っている様なそぶりを見せていたから、この二人はきっと上手く行く、家同士の思惑とは関係なしに・・・そう信じることが出来た。

本当はこの話にワコ視点も設ける予定だったのですが、20の男が15の男の子を自分の先達(美少女男子経験者)として崇め憧れる様になってしまい、見送りとなりました。

結果短めです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ