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第141話:シコク領上陸

(アイラ視点)

 昨夜、とうとうトラウ湾に着いた。

 シーマの時と同じで、夜になってしまったので入港は翌日に回して湾内で一晩過ごし、今朝になって港に入った。

湾内の海底の深さや、岩礁の位置が不明瞭なため大事をとった。


 カジトからの航海でヒロちゃんもすっかりリトルプリンセス級での暮らしになれ、サテュロス文化にも大分親しんでくれている。


 なにか心情の変化があったらしく、一昨日からは一人称が『ヒロ』から『私』に換わっていて、お茶会でも挨拶の仕方やホステス側になったときの菓子の選び方なんかを懸命に尋ねてくる。

 昨夜は寝室ではない、一番広いリビング代りの部屋で変則のパジャマパーティーを催したのだけれど、それにも参加して、ヘキ号からつれてきたマナ姫とともに十分に楽しんでいた様に思う。


 結局マナ姫もヒロちゃん同様エッラに甘える様に眠ってしまって、少し不安を覚えることになったけれど、まぁ親睦は深まったのでよしとする。

 エッラと亡くなったファラさんはそんなに似てたのかな?

 とはいえ、今日からはまた数日かけてシコクとの外交をしないといけない、二人にもしゃんとしてもらわないとね。


 シコクにもすでに先触れがシーマから早馬でいっており、リトルプリンセス級とヘキ号が寄港することは伝わっていたらしくトントン拍子にことは進んだ。

 明け方には港に50名ほどの一団が辿り着いていた。

 それから2隻で入港したのだけれど、リトルプリンセス級と高さの合う階段櫓はもちろんなくて、カジトのものよりもさらに低いものしかない。


 なのでまたも櫓は使わずに甲板から直接船着場に降りた。

 今回はシーマの時とは違い初めからシーマの姫であるマナ姫とヒロちゃんがいるのである程度友好的に話ができるだろう。

「またしばらくマナちゃんて呼んでもらえないー」

 と、マナ姫の方は不服そうだったけれど


 今回の初回上陸メンバーはヘキ号からはマナ姫とカネル氏、それに護衛が3名、うちからはユーリ、ボク、アイリス、神楽、ヒロちゃん、エッラ、ナディア、エイラ、ソルが降りる。


 シコク側の出迎えのメインは二人の女の子だった。

「よ、よよようこそおいでくださいま゛っした!シコクシュゴ家ワコ・シコクが妹シャイン・シコクです」

「同じく、ナナ・シコクであります!」

「「皆さまのご寄港、心より歓迎いたします」」

 二人の女の子は、どうやらマナ姫と同じく姫の身分らしいけれど、大丈夫かな?シャイン姫の方はかなりひどく舌噛んだみたいだけど?

 二人ともキスカと同じくらいの少しくすんだ金髪、年齢は鑑定によれば17と16、年子なのか下のナナ姫のほうだけが誕生日を過ぎているのかかな?


「出迎えありがとうございます。シーマシュゴ家リューベル・シーマが妹、マナ・シーマと申します。ナナ様とは一文字違いですね、シュゴの妹同士これから仲良くしていただけるとうれしいです。失礼しましたこちらがサテュロスからのお客人たちです」

 あっマナ姫ってば緊張してかカネル氏の自己紹介を飛ばさせた。

 哀れカネル氏、涙目でションボリしてる。

 なんていうか、哀れだ・・・うん。


「サテュロス大陸のイシュタルト王国から参りました。ユークリッド・フォン・ホーリーウッドです」

「ユークリッドの妻アイラ・イシュタルト・フォン・ホーリーウッドです」

「同じくアイリス・ウェリントン・フォン・ホーリーウッドです」

 とにかくこちらもメイン所から自己紹介をする。

 ヒロちゃんは外交は見学するだけなので今は黙っていることにした。


 なのでいったんここまでで自己紹介は終わりなのだけれど

「あ、あぅあぅあ・・・」

 シャイン姫の様子がおかしい、明らかに狼狽している。

 緊張しぃなのかな?さっきもメタメタに噛んでたしこちらが姫君外交なので無理に出てきたのかもしれない、だとしたら気の毒なことをしたかな?


「ねーさん、ねーさん、落ちついてくださいませ、とにかく案内するであります!」

 ナナ姫の言葉に、シャイン姫はなんとか背筋を伸ばして体裁を取り繕うと

「し、しちゅ!失礼致しました。皆さまこちらへどうぞ。護衛の方も馬車に同乗される文化だと伺いましたので、兵員輸送用の馬車を改装したモノを用意させて頂きました。乗り心地が悪いので恐縮ですが」

 と、お尻を気にしながら言う。

 きっと悪いというレベルではないのだろう。

 シーマの要人用馬車でもボクの臀部へのダメージはそれなりに大きかった。

 あれより悪いと想定すると、荒事になれているボクは良いにしてもおしりの肉が薄いアイリス、ヒロちゃんは悲惨なことになりそうだ。


「お気遣い頂きありがとうございます。ですがせっかくなので、 我が国の車体も見ていただこうかと思うのですがいかがでしょうか?」

 一応馬車の改装までしてくれたホステス側の心遣いを無にしてしまうことなので尋ねる。

 あちらとしてもこちらの技術力を測る機会なので断らないはずだ。

「まぁ、馬車までお持ち込みになっているのですね、異国の馬車は是非拝見したいです。技術の交換などできれば尚良いのですが」

 と、シャイン姫は先ほどまでより明らかに興奮して馬車に食いついた。

 目が合うと挙動不審になるのが気になるけれど

 もしかすると設備や技術の開発に興味のある人なのかもしれない。

 まぁ、馬車ではないのだけどね。


「それでは失礼して、ベアトリカ!」

 と、恐らく艦内で退屈をもて余しているであろう愛熊に声をかける。

 すると、甲板の扉が開く音がして、直後。

「キャアアアア!」

「はーぁ」

 シャイン姫は悲鳴をナナ姫はタメ息を吐き、落下してきた熊を見上げる。

 シコクの兵士たちも一端は警戒を見せたものの、ボクの前に伏せ頭を差し出す所を見て警戒を解いた。


「報告にはきいておりましたが、本当にクマ魔物を手懐けていらっしゃるのでありますなぁ」

 うんうんとうなずくナナ姫の余裕に対して

「ワコ兄様、シャインはここまででございます。シェイド様、どうかルートを・・・」

 と、シャイン姫はなにかを祈る様に膝を折っている。

 姉妹なんだよね?性格違い過ぎない?


 その後なんとかシャイン姫も立ち直ったけれど、収納から熊車を取り出す際にもシャイン姫が腰を抜かしてしまいまた少し宥めるのに時間がかかった。

 熊車に乗ったら乗ったで振動の少ないことに驚いたり、車内で茶が供されたことに驚いたり、御者なしで護衛の兵士たちの速度に合わせて動くベアトリカに驚いたりして、緊張からかシャイン姫が尿意を訴え一度停車して欲しいと言ったため、車両後部にあるトイレの使い方をソルが教えた所さらに大興奮で、大変扱いに困った。


 落ち着いた所で話を聴くとすでにシャイン姫もナナ姫も結婚しているそうで勢力の基盤が整っていないシコク家の強化のため、有力な豪族から婿養子をとりシコク分家を建てたと言う。

 本家との区別のため彼女たちの子の代からはシャイン家、ナナ家と名乗りを代えて婿養子の家と合流するのだとか。

 そして・・・


「不躾な質問をして申し訳ないのですけれど、アイラ様とアイリス様は中の名乗りが違いますが、ご姉妹なのですよね?」

 と、ボクとアイリスの中の名前を気にするシャイン姫。

「はいわたくしとアイリスとは双子の姉妹でホーリーウッド侯爵領の出身なのですが、わたくしは国王陛下に才を見出だされて太子である養父の養子となりましたので、王家の姓を頂戴しております」

 本当は嫁降すると王家の姓は名乗れないけどね、この旅の間は特別に許可していただいていて、書類も整えられている。


 しかし、どうして彼女たちがそんなことを気にしたかと言えば

「実は私たちにはもう一人妹が居たのです。今も生きているなら14才、次の秋で15歳になるのですが、アイラ様とアイリス様に良く似た髪色、私たちと比べると綺麗な色の金髪で、名前はアイラ・ハタサト、ハタサトというのは父がまだ焦土島の御料地を預かっていた頃の家名なのですが、お二人がなんとなく妹に似ていた上にアイラ様は名前まで同じだったもので・・・先ほど港では取り乱して失礼な態度をとってしまいました。申し訳ございませんでした」

 と、恐らくはこれがシャイン姫の本来の性質なのだろう、落ち着いた様子でボクとアイリスのことを見つめる。


「私どもにとって妹は死んだ訳ではなく行方不明なのであります。ですからアイラ様とアイリス様がお二人でいらっしゃらなければ、私も取り乱していたであります。」

 と、ナナ姫も姉と同様にボクたちの、ボクのことを妹のアイラ姫と見紛う程ボクとアイラ姫は似ていたらしい。


「あの、妹君がもう一人いたという話初耳なのですが、どうして行方不明になってしまわれたのか、伺っても宜しいでしょうか?」

 マナ姫も、アイラ様の件は知らなかった様で、気の毒そうな顔で、こちらのマナー的に聴いていいか分からず聞きあぐねていたボクたちのとは違いズバリと尋ねる。


「はい、皆さまはミカドに拝謁しに行かれるそうですし、もしかしたらうちのアイラの手がかりを見つけてくださるかも知れませんしね・・・あっ、このお茶美味しい」

 と、シャイン姫はお茶すすり、気持ちを落ち着けたのかゆっくりと語り始めた。


「あれはまだ私たちが焦土島で暮らしていた頃です。例年はワコ兄様がミカドへのオリーブの献上に向かっていたのですが、あの年は父様が病を得ていて、兄様が島の政務を取り仕切っておりました。そして私はあの頃すでに家業に従事しており、ナナは父と同じ病にかかっていた為療養中だったのです」


 彼女の説明によれば、御料地を預かる家のルールとして、一族の者がミカドへの使者とならなければならない、しかし当時当主である父親が療養中であったため家中で手が足りなかった。

 そして議論の末、当時7歳だったアイラ姫を使者団に帯同させることでハタサト家の旗を掲げた船を出したのだと言う。


「船は無事ミカドのもとへたどり着いたそうです。しかし焦土島には帰って来ませんでした」

 なんでも、帰りの船が出港した日の翌日から急に海が時化て、近くの海岸に座礁、さらに・・・

「近くの砦の守将が、敵襲と勘違いして船を襲撃してきたのだそうです。結局漕ぎ手と水夫は32名が死亡21名が行方不明、ミカドへの通信使を任せた家臣2名は死亡、乗っていた女性のうちアイラを含む4名が行方不明で3名が死亡、焦土島に戻って来たのは、敵襲にいち早く気付いて甲板から海に飛び込んだうちの4名が、中央の港に戻っていて、アイラたちの捜索の為に出した船に合流することができたから座礁などの話も発覚して、その後砦の守将と領主であるサンキ家から僅かな見舞金と遺品、その日の子細を取り調べた調書と謝罪文が送られてきましたけれど、港以外のところに座礁したのはこちらなので守将や砦の兵の処分はしないということになりました」


 セントールの常識、港以外への接岸は船の規模にもよるが侵略の意思ありと見なされる場合があると言う話のことだろう。

 しかし聞いている感じ、そんなに大きな船であったとは思えない


 ファントリーのサンキ家といえばリューベル様が、ミカドへの通信使の船が拿捕されたり襲撃を受けたりすることもあると言っていた要注意勢力だ。

 当時のハタサト家との関係性はどの程度だったかはわからないけれど、どうにも疑ってしまう。

 わざと襲って積み荷を奪おうとしたのではないか?なんて


「なので、アイラ様に会うときっとワコ兄様も取り乱すと思いますが、頼りない領主と思わないで欲しいのです」

「私からもお願いするのであります。兄は外見で侮られ、出自でも侮られますが、領地経営も武芸もかなりのものであります。自慢の兄であります。ただアイラのことをずっと気に病んでおります故、アイラ様と会うと取り乱すでしょう」

 二人の姫は、ワコ・シコク様がボクと会うと取り乱し、情けない姿を見せると予言する。

 生き別れた、あるいは死に別れかもしれない妹に関することなら取り乱すのも致し方ないことかと思う、特に彼らは少し前まではシュゴ家ですらない役人の家柄だったというし、二人の年齢から考えてもリューベル様よりも5つ以上は若いだろう。


 余所者であるボクたちは、それでもいいけれど、家臣たちの前でそれを見せるのは良くないだろう。

 何せシコクの家臣の半分は、もとは南セントールのシュゴやバサラシュゴの家臣だった者たちで、シコクに従うようになって日が浅い。

 その上旧オトゥムに対しての蟠りが強い者がいるため、その地盤を引き継いでいるダティヤナとはなんとなく問題が起こりやすいらしい。

 情けない所を見せればバランスが悪くなるかもしれない。


「ワコ様と最初に体面するのは、ユーリとマナ姫様に任せて、わたくしとアイリスは後から家臣たちのいない場所で、の方が良いでしょうか?家臣の前で取り乱すのは当主としては良くないでしょう?」

 ボクの提案に二人は少し考え込んでから頷き合い。

「そうですね。先に私の屋敷に寄って頂いて、この熊車とアイラ様、アイリス様には我が家でお待ち頂き、後で兄様を我が家に招く様にしましょうか」

 と、シャイン姫が同意した。


 こうして、ボクとアイリスはシコク家当主ワコ・シコクとの会見は体調不良・・・・の為に欠席、看病と付き添いのため神楽とヒロちゃん、エッラ、ソル、ベアトリカがシャイン姫の屋敷に残り、シャイン姫もボク達に不便をかけない様に残る。

 ユーリとナディア、エイラ、マナ姫とカネル氏がナナ姫とともに会見に向かうことになった。


 まぁ屋敷といってもトラウ城の敷地内、ホーリーウッド家のクラウディア屋敷の様なもので、シャイン姫の夫君が預かっている城はトラウからは200キロ程北西であり、普段からいったり来たりしているそうだ。

 なおお父君のノコ・シコク様も隠居しているものの存命らしく、トラウ城の一角で奥方とともに静かに暮らしているそうだ。


 シャイン姫とナナ姫は一昨日今回のシーマからの報せが来た際にたまたま揃ってトラウ城に入っており、ボクたちへの対応を引き受けたという。

 その揃ってトラウにいた理由と言うのが・・・

「なるほど、シャイン様には半年のお子様がいらっしゃるのですね、今回はその子をワコ様やノコ様に顔見せするための里帰りだったと・・・それは夫君に悪いことをしましたね、息子とシャイン様の帰りを待っている事でしょう、ナナ様も本当は今頃夫君の元に帰っていたはずなのに」

 特にナナ様はまだ結婚して一年以内だと言うのに本当に申し訳ない。

 しかしながら

「良いのでありますよ、お陰でこんなにも美味しいお茶や珍しい道具にも会えましたし、何より皆様にお会いすることが出来たのであります」

「そうですよ、それに面倒な会見はナナに押し付けられたので、そうだルートにもアイラ様たちのことを紹介させてくださいませね?」

 と、二人の姫君は実に人懐っこい笑顔で、トラウ城までの道中、ボクたちとの親睦を深めたのだった。 

セントール編二つ目のシュゴ家シコク家へ訪問開始です。

余り長くならない予定です。

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