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第140話:サテュロス文化に親しもう

 カジト港を出航した2隻の船はカジト湾を迂回し、北東へと舵をとった。

 ヘキ号も足の速い船であるものの、余り外洋に出られるものでもないため海岸線に沿う様に蛇行して航行せざるを得ず。

 ナイキから直線距離にすれば僅か420㎞程しか離れていないトラウに向かうのに、実に5日半もの航海を必要とした。


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(ヒロ視点)

 昨日とと様とお別れしました。

 そこに至るまでとと様も迷ってたみたいですけれど、一度言葉に出してしまえばトントン拍子に話は進んで、ヒロはエレノアちゃんに引き取られることになりました。

 シーマの内患になるより外で幸せに暮らしてほしい、とと様に言われたら、「幸せになります」という他ありません。


 無論幸せなことだと思います。

 変に結婚相手を決められるより、今回の縁組はヒロの自由が大きい。

 シーマの家の為にという点では、多くの未知の技術を持つイシュタルト王国を名乗る国に敵意は無いと示すための人質になったという行動で果たしました。

 そしてシーマの影響を受けないサテュロス大陸に移る以上結婚は好きな人としてもよいとのこと(ただし子孫とシーマ家名は必ず残すことと言われましたが)いきなりそこまで好きにしていいと言われてもこれまでとと様任せだったのでヒロはその自由をもて余してしまうのです。


 とと様からは出立の前夜に、もしも上手く相手を見つけられなかった時はユークリッド様やアイラお姉ちゃんに縁談をお願いする様にと言われましたが、そちらの方がヒロには合っているかもしれません。

 用意して頂いた房の、布団代りの台の上で昨夜寝るまでずっと考えてみましたが、男の子との恋愛の仕方なんてわかりません。


 年の近い男の子自体、従弟のファイルズ君と、あとはとと様の周りにいるお兄さんたち以外話したこともないです。

 アイラお姉ちゃんのお船はまだしばらくは船旅をするのでサテュロス大陸に渡るのは今しばらく先のこと、猶予はあるとはいえヒロはちゃんと出来るのかな?


「そろそろ起きないと・・・」

 サテュロスの柔らかい布団は気持ちいい、きゃみそぅるという肌着もすぐに慣れました。

 だけどずろぅすやどろわぁずにはまだなれません、ヒラヒラがついて可愛いですし、運動してても●●●●にゃーんが見えないのはいいですが、寝るときは妙に嵩張るのが気になりますし、身動ぎするとお腹や太ももに擦れることがあり、少し寝苦しいと思います。


 それにトイレの時セントール服なら裾を持ち捲るだけで良かったのが、膝や足首のところまでずり下ろさないといけないのですが、それが妙に感覚が気になって上手くいかず。

 結局トイレの時は一度完全に脱いで、終わってから穿きなおす様にしました。

 あぁでも、トイレの時拭くのに紙やボロ衣が使われているのには驚きました。

 藁やヘラを使うよりずっと優しくて、うっかり痛くすることが無さそうです。


 驚いたと言えば、お風呂もそうです。

 アイラお姉ちゃんのお船にはお風呂もついていて、それも蒸風呂じゃなくて贅沢にお湯に浸かる形式で、エレノアちゃんがいなかったらすごく気持ち良くてそのままお風呂で溺れてしまっていたかもしれません。


 つくづく文化の違う国なのだと思います。

 それにとと様のいう通り技術の進んだ国。

 暴走した家臣の無礼に腹をたててシーマのことを敵だと考えていたら・・・恐ろしいです。


 そんなナイキが火の海になることを考えていると突然

 カンカンと扉が叩かれる音がしてびっくりしてしまい。

「ひうっ!」と情けない声を出して、昨夜寝苦しくて脱いだずろぅすを穿こうと思って手に持って居たのを落としてしまいました。

「ヒロ様、エレノアです」

 扉の向こうから聞こえたのはエレノアちゃんの声。

 私のかか様代りになってくれたキレイで可愛くて、お胸の大きな人、ヒロのかか様に雰囲気が似ていて、無性に甘えたくなってしまう人。

 慌てて佇まいを直して、背筋を伸ばして座る。

 この人には幻滅されたくない、誉めてほしいし、甘えさせてほしい。

「はい、どうぞ」


 返事をするとすぐにエレノアちゃんは扉を開けて入ってきます。

 身長は低いけれどすごくピシリとしていて、とても自然に歩いてヒロの前まで歩いてきました。

「おはようございますヒロ様、海の上で寝るのは初めてだと伺いましたが、よくお休みになれましたか?」

「えーと、あんまりでした」

 海の上が原因じゃなくて、床から離れて寝るのに落ちないかとか、とと様と次にお会いできるのはいつになるのかとか、なれないずろぅすの寝心地といった色んな不安が原因ですが


「左様でございますか、もしお嫌でなければ今夜お休みの時はお近くに侍らせて頂きますよ?」

 と、エレノアちゃんは魅力的な提案をしてくださいました。

 シーマにアイラお姉ちゃんたちが逗留していた間もよくアイラお姉ちゃんに使ってもらっていた房にエレノアちゃんたちが寝泊まりしているのを見て羨ましいと思っていました。

 セントール大陸では5歳を超えたら親子といえども異性であれば共寝しないし、親兄弟以外の者とは共寝しない。

 だからかか様がなくなってからヒロは誰かと共寝したことはない、ことになっている。

 実際にはどうしても寂しい気持ちになった時なんかにはあねさまと寝ていましたけれど・・・


「ご迷惑でなければ、御一緒してほしいです」

 少し恥ずかしいと思う気持ちもあります、けれどこれはサテュロス文化に親しむ機会でもあります。

 だから私はエレノアちゃんにお願いをしてみました。

 するとエレノアちゃんは優しい顔を浮かべて

「迷惑だなんておっしゃらないでください、リューベル様からヒロ様のことを娘としてお預かりしたのです。私の様な者が母代りを出来るかと不安もございますが、ヒロ様のお望み、出来ることなら何でもして差し上げたいと思っております」

 と、ヒロの前に屈んで手をとりました。

「じゃあ・・・お願いします」

 やっぱり少し恥ずかしいけど、この手の温もりが夜近くにあればきっと穏やかな気持ちで眠れるでしょう。



 朝食に小麦を挽いたものをこねて焼いたというぱんというふっくらとした柔らかい食べ物を頂きました。

 それが終わるとエレノアちゃんはヘキ号の方へ移ってしまいました。

 シーマの風魔法使いを10人集めてもエレノアちゃん一人に及ばないそうで、ヘキ号が同行するトラウまでの日程を短縮するため、日中はエレノアちゃんが風魔法帆走を代行してくれている。


 昨日はヒロがとと様やシーマから離れた寂しさで泣いていたので、アイラお姉ちゃんも他の皆さまもヒロを一人にしてくださいましたが、今日はエレノアちゃんをお見送りした後、めいどのソルちゃんが声をかけにきました。

「ヒロ様、本日はこのまま夕暮れまで航行致します。もしお暇な様でしたら、サテュロス式のお茶会に参加されてみませんか?」

 ソルちゃんはアイラお姉ちゃんと同い年のめいどさんです。

 身長はアイラお姉ちゃんよりも高くとと様たちに近い赤っぽい髪色をしています。


「サテュロス式のお茶会ですか?ヒロは作法がわからないのですが大丈夫でしょうか?」

 式、会とあるからには、きっと決まり事みたいなことがあるはずで、初体験のヒロにはその作法はわかりません、エレノアちゃんに教わってからでないと失敗してしまうかも・・・そう考えたのですが、ソルちゃんの答えは予想外のものでした。


「はい、むしろサテュロスに戻った後のための練習ですから、アイラ様・・・ははじめからほぼ完璧だったそうですが、一般的にお茶会の作法は家族内のお茶会で実践練習するものです。アイリス様やアイビス様も5~6歳の頃から幾度となく実践なさって作法を身につけられました。ヒロ様はシーマ家からお預かりした大事なお客様であると同時に、エッラの「娘」です。エッラは私どもの戦友で家族ですから、家族のお茶会で作法の練習を致しましょう」

 と、ソルちゃんは言いました。

 とと様から私を押し付けられたのはエレノアちゃん一人なのに、ソルちゃんも私の家族なのだと言います。


 他家の姫のお守りなどセントールでは厄介事です。

 世話を焼きすぎれば、家間の関係が悪くなったときには内通を疑われ、人質から変に気に入られれば嫁入りなどで人質が出ていくときに一緒についていかないといけなくなることもあるといいます。

 ヒロは覚えがありませんが、あね様が幼い頃にはクマビゼンやオトゥムからシーマに寝返った方たちの人質の姫や嫡男が沢山いて、そのうち何人かは父親が再度寝返った事で処分されたといいます。


 これも文化の違いなのでしょう。

 サテュロスのめいどさんは純粋な契約関係を基本にするので、主人の悪事に連座するのは悪事に加担していた時位で、それは父親が悪事をなした時の子どもの扱いも同じであるそうです。

 基本的に悪事に関わったり、後ろ暗いことをしている可能性に気付いていたのにも関わらず対処しなかった場合を除いて、父親の累が及ぶことはないとか、だからこそこんなにも優しく接して下さるのでしょう。


「わかりました。それではお姉ちゃんたちの胸をお借り致します」

 ヒロはとと様たちと離れることにはなったけれど、すごく幸せになれるって信じられる。

---


 お茶会はすごく楽しいものでした。

 今日は初めてということで、お茶会の基本はもてなすことと楽しむことだと、心構えを教えられました。

 本番の時には、情報の探り合いや貴族同士の派閥争いなんかも内包する殺伐とした戦いの場になることもあるそうですが・・・

 そのための作法はおいおい教えてくださるといってアイラお姉ちゃんは、自慢のお茶や菓子を沢山振る舞ってくれました。


 その後クマのベアトリカちゃんと一緒に甲板で日なたぼっこしたり、アイリスお姉ちゃんやアイビスお姉ちゃんにおべべを召し替えて遊んだりしていると、あっという間に時間はすぎました。

 そして夕方になるとエレノアちゃんも帰ってきて、今日もお風呂の世話をしてもらって、それから約束の通り一緒の房で寝ることになりました。

---

「ヒロ様、今日はアイラ様たちとお茶会やサテュロス服の着方などお勉強されていたそうですね?」

 寝間着姿のエレノアちゃんは、布団に横たわるヒロの手を握ってくれて、優しく笑っています。

 お勉強?確かに作法を教えていただいたり、サテュロス服の組合わせなんかを教えていただいた気もしますが、すごく楽しくて

、遊びの様にしか思えませんでした。


「その様子だと、楽しくお勉強が出来たようですね」

 頭に置かれる手が優しい、エレノアちゃん(と、フィサリスちゃん)は他の女の人と比べると大人なのに小柄で、その手もヒロとそんなに変わらない大きさだけれど、その温度がすごく気持ち良くて、もう少し誉めてほしくなりました。

 そうしたらまた何か感じ取られたみたいで、エレノアちゃんはヒロのおでこを撫で付けると

「お勉強を頑張ったヒロ様に何かご褒美を差上げねばなりませんね」

 と、微笑んでくださいます。


 どうしましょう、照れてしまいます。

 ぎゅっと抱っこしてほしいです。

 この間、まだエレノアちゃんがヒロのかか様代りになる前はむしろご迷惑を省みずにこちらから抱き締めてしまったというのに、何をいまさらと思われてしまうかもしれませんが、ヒロはエレノアちゃんに抱っこでよしよしして欲しいと、そう考えてしまうのです。


 するとまた、エレノアちゃんは易々とヒロの心を読み取ってしまいました。

「ヒロ様、お隣失礼しますね」

「え?」

 ヒロが考える間も置かずに、エレノアちゃんはヒロの隣に体を横たえました。

 それから肩に腕を回すと、ぎゅっと抱き寄せてくれました。

 もう片方の手は枕側の頬にぴとりと触れます。


「え、エレノアちゃん!?」

 混乱します。嬉しいです。照れます。柔らかいです。甘い匂いがします。温かいです。

「よくよく考えてみれば、アイラ様やアイリス様にも昔はよく添い寝して差し上げたものです。『娘のヒロ』に添い寝したことがないというのは『母親』としては失格よね?」

 そういってエレノアちゃんはヒロの背中を抱き寄せたまま、手首を使ってトントンと叩きます。

 それはやがてエレノアちゃんの心臓と同じ鼓動を刻んで、次に気が付いた時にはもう朝でした。


 その時にはもうエレノアちゃんは房から居なくなっていて

 一瞬寂しさが溢れてきたけれど、すぐに扉をノックする音がして、昨日と同じやり取りの後部屋に入ってきたエレノアちゃんは

「おはようございますヒロ様、昨夜はよくお休みになれましたか?」

 シャンとした立ち姿が、とても綺麗で

「はい、お陰さまで」

 私もこんな綺麗な人になりたい、心からそう思えたのです。

一人称が名前のキャラを書き慣れていなかったので何度も心の声を私、にしてしまいかなり時間がかかってしまいました。

最後の『私』はミスではありません。


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