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第138話:真・ナイキ会談

 自らの才覚を測り損ね、分不相応な謀り事を起こしたシーマ家臣の暴走は、数名の犠牲者まで出して失敗に終わった。

 何か起こすことは読めておきながら、民に犠牲が出ることを食い止めることができなかった事をシーマ領主は恥じ

 同時に殆どが破落戸の集団であったとはいえ、わずか二人の年若い女性が数に勝る男達を無傷で捕らえたことは、シーマの男達を大いに驚かせた。


 またその際に客人達が披露した幾つかの道具や、男達の剣幕にも動じない胆力は、全うなシーマ家臣達に彼らが真実異国の王公貴族であることを信じさせるに十分な衝撃を与えた。


 一先ず、家臣達の前での会談は無事に終わり・・・。

------

(アイラ視点)


 ナイキ城の中にあるリューベル様の趣味の部屋に通された。

 シーマ側はリューベル氏、ファイバー様、ボクたちの方はボクとユーリ、それにフィサリスとが室内にいて、エッラはヒロ姫が離れるのを嫌がったため、仕方なくヒロ姫、マナ姫と共にマナ姫の部屋に向かった。

 まぁエッラも小さい?子の相手をするのは好きだし、いい気分転換になるのではと思う。


「アイラ姫様、ユークリッド閣下、多分の迷惑をお掛けしてしまいました」

 それが部屋に入って最初のリューベル様の言葉。

 日ノ本と同じ土下座スタイルで、ボクとユーリとに頭を下げる。


「リューベル様、頭をあげて下さい、僕たちの方こそ心苦しく思うところがあるのです。僕たちが来たせいで、連中が焦って民に犠牲を出す様な手段を取ってしまいました」

 ユーリは、カジトで出たという犠牲に胸を痛めていた。


 ボクたちに罪をなすりつけるために、連中は罪のない町人を六人も斬殺していて、その中には襲撃された質屋のまだ4才の男の子と、2才の女の子を含んでいたらしい。

 それがボクたちがきたせいで死んだと考えるとボクもやるせない気持ちになる。


「いや、連中は既に何度も通商路を土砂崩れさせたり、他の家臣に任せている国境沿いの村を、シコクやダティヤナの仕業に見せかけて襲ったりして民に犠牲を出していた。が、やつらの仕業と断定するに足る証拠もなかったので処罰できずにいたんだ。虚栄心と声ばかり大きい連中でな・・・とにかく、長い目で見れば連中による犠牲は大きく減ったと言って良い・・・なぁ兄貴」

 とファイバー氏も気にしないで欲しいと、ボクたちに気を遣う。


「感謝しております。我々シーマは現在周辺との協調に舵を切っているのに、なかなか理解しないものたちや、手柄のために戦争をしたがるものが残っているのです。多くの民は既に安寧を得てそれを喜んでいるのに、我々為政者側にいる者がそれを踏みにじっては意味がないというのに・・・ところで」

 リューベルは悲しそうに語りながら、内密の用とは?と話題の転換を促した。


「はい、こちらを見ていただけますか?」

 収納から幾つかの物品を取り出して見せる。

 1つはペイルゼンを混乱させることになったアインス・リーンベルのホロ鎧の兜と肩パーツ

 1つは例の箱に象られていた8つのエンブレムの写し

 そして武器の形をした小物を置いた。


「これは、畏れ多くもミカドの紋章を模したものと思われる。

 それから現在の6ダイミョウ家の紋章と、二つのバサラシュゴ家のモノだ」

 と、すぐにナタリィと同じ結論に至る。


 すなわち蝦夷地で言う渡島半島に当たるヒヨウ地方のニコ家、内浦湾東岸から苫小牧の辺りを押さえるファントリー地方のサンキ家、留萌に当たるアシクラ地方のエイゼン家そして・・・大雪山に当たるコウヨウ地方ティーダ家、北見山地以北に当たるビテン地方チョウビ家、釧路にあたるカント地方のイセイ家、そして最後に


「このバサラシュゴの紋章は、一昨年トガチのダイミョウコンセンの進軍を防ぎ、ダイミョウ鎧カイドウをも打ち破ったウィロウ地方のヴォーダ家のものですな」

 こちらが用意したセントールの概略図の、蝦夷地で言う札幌から十勝の間の位置を示しながら、リューベル様はその名前を告げた。

 それはつまり・・・


「そのダイミョウ鎧というのは、いまはヴォーダが持っているということですか?」

 ユーリの問いかけに無言で首肯くリューベル様。

 それはつまり、そのダイミョウ鎧こそが鍵に関係ある可能性がある?それともただの偶然?


「ダイミョウ鎧を持っていることがダイミョウの条件ならばヴォーダ家はダイミョウではないのですか?」

 再び問いかけるユーリの言葉にリューベル様は神妙な顔をして答える。

「今でこそ本拠であるウィロウを中心にジアイ、ニカワなどのシュゴ家同盟の盟主となっているヴォーダだが・・・」


 リューベル様によるとヴォーダ家は二代前までは弱小シュゴ家の分家に過ぎなかった。

 領主と一部の家臣だけが肥太り、領民の生活は苦しかったと言う。それを先代が隣接するナガイ家との同盟により打破、幾つかの衰退したシュゴ家を併呑し、ミカドへの献金も再開、荒れていた領地も少しは回復したが、ミカドから正式なシュゴには任命されずバサラシュゴのままだった。


 現在までに婚姻同盟であったナガイと合併、ヘクセン、ノースフィールドを武力により併合、ヘクセンに苦しめられていたジアイ、コンセンにいい様に扱われていたニカワと同盟、コンセンを破った今ではダイミョウ家であるイセイ、チョウビ、ティーダとも交易同盟を結ぶに至っておりその影響力を高めている。

 しかしながら未だサンキの勢力圏に囲まれているミカドとの謁見が叶わず正式なシュゴにもなることができず。

 またダイミョウ鎧もミカド家への返納を申し出ているが、サンキ家が二つ目のダイミョウ鎧を獲ようと狙っており実現には至っていないとか


「ダイミョウ鎧をヴォーダ家が使うわけにはいかないのですか?」

「ダイミョウ鎧を使っただけでは民は従わんな、ミカドから正式な任命を受けない限り、それはバサラシュゴとかわらない、しょせんバサラ者だと見くびられる。」

 バサラ者、その言葉に思うことがあるのだろう。

 既にリューベル様はシュゴとしての立場を固めたが、そのために戦争で獲得した領地の大半を返納したと聞いている。


「我々シーマとしては、中央との音信を妨害してくるサンキよりは商売上の付き合いのあるヴォーダ家の方が信頼できるので、早くにミカドとの謁見が出来ると良いとは思うがな、ヴォーダ家がダイミョウとして認められれば中央南東部の海側を掌握できるだろう」

 と、リューベル様は憎々しげな表情を浮かべる。


「サンキ家はシーマからミカドへの献金や進物の船を幾度も拿捕し積荷を奪っているからな、南セントールをミカドと繋げてくださるニコ様経由で抗議もしているが、『停船命令に従わない船をやむなく沈めたことはあるが、シュゴ家の船を我々が沈めた事実はない』の一点ばりだな、そもそも我らの事をシュゴ家とも認めていないだろうが・・・仕方なく我々南のシュゴがミカドに物を贈るときは二家以上の旗を掲げて向かうことにしている」

 それってつまり、湾の大半を支配しているサンキが海賊行為をしているってこと?

 もしそれが本当ならば許しては置けない。


 ん・・・?

「つまり、シーマ単体で船を出すことは難しいと?」

「シーマがミカドに謁見を果たした時は、ミカドからの招聘を受けて42隻からなるうちの水軍の主力を出してファイバーに向かってもらった。アレでかなり財政を圧迫したな」


 確かに贈り物を贈るのに必要以上に護衛をつけるのは辛かろう、だけど

「サンキに負けない戦力があるなら我々が中央に行くことは可能と言うことでしょうか?」

 武力をちらつかせることをほのめかすと、ファイバー氏が

「いや戦力そのものよりは威圧だな、実際その時は連中仕掛けてこなかったしな、まぁ仕掛けてきたら沈めるつもりだったが、さすがに毎回過剰な護衛をつける訳にはいかねえからなぁ」

 その結果が複数の家での連合輸送船団というのは、結局それなりに費用が嵩んでいそうだ。


 ミカドには会う必要がある尋ねてみよう。

「例えばサンキの船に仕掛けられて、それを反撃で沈めるのは問題になりますか?」

 リトルプリンセス一隻なら、カジト港から一日もかからずに中央までたどり着けるはずだが、道中サンキに絡まれた結果ミカドとも敵対ということは避けたい。


「サンキには目の敵にされるかもしれない、が・・・それだけだろうな。」

 ミカドからダイミョウとして認められているのに、そこと敵対することはミカドの意思に反することにならないのだろうか?

 顔に出したつもりはなかったけれど、ファイバー氏はさらに続ける。

「サンキ家はミカドに対する献金や朝貢品を横取りしてる訳だからな、いくらか本人たちが違うと言っても、海賊行為を取り締まれていない時点で既にミカドはサンキを疎ましく思っている。故にニコ家にもサンキへの圧力をかける様に依頼しているが、ニコ家は未だ完全な協調に至らぬ我々南セントールにも睨みを効かせねばならない上、西ヒヨウも少し前は別のシュゴ家が治めていたこともあってまだ落ち着かないからな、サンキだけに注力することが出来ない、だからこそ新興のヴォーダ家に期待が集まっているんだ」


 一口にミカドから認められたダイミョウ、シュゴと言っても年数を重ねれば腐敗や、軋轢があるのだろう。

 そして、別に反撃しても構わないと言うならミカドに近付く名目だけあれば

 中央に向かうのに問題はないだろう。


---

「それで、この鎧の方のシュゴ家というのは?」

ミカドへの道についての相談がある程度終わった上で、アインスの鎧のエンブレムの方の心当たりの話も聞くことにする。


「コレは北方のバサラシュゴ、ダーテ家の紋章だと思う。バサラシュゴと言ってもうちの様に分家が主家と立場を入れ換えたとかではないのだが・・・何故この様な物をお持ちなので?」

 首をひねりながらリューベル氏は尋ねた。

 マナ姫の話では千年単位でサテュロスとの関わりはなかったらしいから、不思議に思われるのは当然か。


「これは、サテュロス大陸北部のペイルゼン地方の港町マハというところで、サテュロスでは違法となる奴隷貿易を斡旋していたアインス・リーンベルという自称傭兵の男が着けていた巨大な鎧の一部です。彼は既に戦死しましたが、輸出された奴隷の捜索もいつかしたいと思っていまして、何か手掛りになればと持ってきたのです」

 ユーリがアインスの悪行の話をするとリューベル様はわずかに眉を潜めた。

「なるほど、それは確かにダーテ家の仕業の可能性がある。ダーテ家は敵地を制圧するに当たりかなりの人数を殺しているが、人口の戻りが少し早いのだ、他大陸や近隣の島にすむ人間を連れてきているのだとしたら、それも辻褄が合うかもしれない、外海を行く高度な航海術が必要になるが・・・とりあえずセントールで私が知るかぎり人身売買を良しとしているのはサンキ、ティーダ、ダーテ位だと思う。状況から考えればダーテでほぼ間違いないだろう。こちらの武器の模型については申し訳ないがわからないな」

 頭を深々と下げるリューベル様


「そうですか、ありがとうございます」

「こちらこそ先程は家臣たちの前で頭を下げさせて、申し訳ありませんでした」

 ボクとユーリも小さく頭を下げながらお礼を言う。

 相手は序列がハッキリとしない外国の年上の方なので、立場はこちらが上だと相手側から表明されても中々距離感がつかめない。

 なにしろこちらは貴族本人や国王本人ではなく、孫なので・・・


 どうもやりにくいね。

 と苦笑いしていると、リューベル様が急に恥ずかしそうな顔になった。

「ところで、アイラ姫様のお付きのエレノア殿と申されたか、あの方は・・・メイドという身分だそうだが、それはユークリッド殿の寵愛を受ける可能性もある方なのだろうか?」

 と、まるで思春期男児の様な顔で尋ねてきた。


 コレは、もしかして嫁に貰えないかとかそういう話をしたいのだろうか?

 もしもエッラの意志に関係なく命令してくる様なタイプだったらお断りするところだけれど、これまでの会話やボクたちへの態度からそうではないことは分かる。


「えっと、そうですね今すぐどうこうということはありませんが、たしかにうちの国では、正室や側室のメイドが、後々側室に加わるということはたまにありますね」

 と、エッラを妹の様に可愛がるフィサリスの手前、少し答えにくそうにユーリが回答すると、リューベル様は僅かに残念そうな表情を浮かべた。


「可能なら彼女をヒロの母としたい位だが、メイドの自由意思は尊重されるという話でしたな?」

 と、納得している様で未練たっぷりな言い方。

「そうですね、うちの国のメイドはほとんどの場合そちらの側女なんかとは違い、雇用契約に基づく関係ですので、主人が命令したから好きでもない男に嫁ぐとかではないですからね、その上エッラはうちの領軍の最精鋭でもありますから」

 と、ユーリは笑いながら答える。

 確かにエッラは現在軍には所属していないけれど、既にメロウドさんすら相手にならない域に達している。

 間違いなくホーリーウッドでは一番強い平民だ。


「でも逆に言えば、わたくしが行かないで欲しいと思っても、リューベル様がご自身の言葉でお口説きになって、エッラが残ると決めたら、それを無理やり引き留めることも出来ないと言うことです」

 エッラはボクのこと大好きだからそう易々と口説けるとは思わないけどね!


「口説いてみても良い・・・と?」

 リューベル様は意外そうにボクの顔色を見る。

 文化が違うからね、

「はい、ただ脅したりとか、口では優しいこと言っておいてひどい扱いとかはダメですから」

 ボクのお姉ちゃんの一人なんだから、幸せになることが前提条件だよ?


「では、誓いを立てる意味で姫君の前で口説いてみよう」

「あ、兄貴、マジか?」

 あの剛胆なファイバー氏が焦るほどの即断即決に、ボクも少し驚くけれど、ならばと、フィサリスがエッラに呼び掛けてくれる。

 エッラの契約竜のフィサリスは、エッラと簡単な念話が可能なので、もう難しい話は終わったので3人でこちらに来ても良いと、呼び出してもらった。

 そして・・・三人も同じ部屋にやって来て


「すまなかったなエレノア殿、主人について居たかったろうに娘の遊び相手をさせてしまった」

 第一声、リューベル様はエッラに謝った。

 女性に頭を下げるなんてあの家臣団がいればさぞや煩かっただろうが、ここにいるのはそういう人間ではない。


「いいえ、ヒロ姫様はとてもたのしいお話を沢山聴かせてくださいましたから」

 と、心からの笑顔で答えるエッラ、さっきも思ったけれどヒロ姫のことはかなり気に入っている。

「そうか、娘に優しくしてくれてありがとう、貴女はこの子の亡くなった母によく似ているのだ。ほとんど覚えていないのだろうが、母を求めてしまうのだろう」

 エッラの母性はかなりのものだからね、うちのピオニーやユディ、エイラやシシィ、ソフィといった王族の血を引く者すら虜にしてきた弾力は伊達ではない。

 その上亡母と似ているとなれば、まだ幼いヒロ姫をダメにするくらい訳ないだろう。


「もーぅ、とと様!エレノアちゃんはかか様というほどの年上ではありません!まだヒロとは十しか変わらないのですから!」

 まぁ今10年度離れてるならいつまでもそうだとは思うけれど、ヒロ姫の言う通りエッラがいかに早熟だったとはいえヒロ姫ほど大きな娘がいる歳ではない。

 でも、床に座ったエッラの膝に半身で座って胸にしがみつきながらでは全く説得力がないね。

 ちょっと見ない間にますますなついてしまったらしい。


 そんな姫のなつきぶりを見ながら、リューベル様は佇まいを直した。

 早速口説くらしい、ボクならこんな人前で口説いたりとか無理だけれど、これも文化の違いだろうか?

「エレノア殿」

「はい、いかがなさいましたか?」

 ヒロ姫の頭をしっかりと抱きよせながらエッラもリューベル様の方に向き直る。


「ヒロはもう10歳で、後2年もすれば結婚してもおかしくない歳なのだが母の無い反動か、この様にまだまだ幼子の様に甘えたがりでな・・・」

 ヒロ姫の頭に手を伸ばそうとしたが、そこがエッラの胸元だと思い出してか思い留まるリューベル様、それに気づいたエッラはヒロ姫の腋の下に手を入れると持ち上げてリューベル様に差し出す。

「やーん、エレノアちゃーん♪」

 とヒロ姫はエッラの方に手を伸ばすけれど、後ろからリューベル様の手が伸びヒロ姫は父親の腕の中に収まる。

 父親の腕の中も落ち着くものではあるのか、リューベル様の膝の上に乗せられるとくったりとして背中で甘えている。


「父親よりも母親の方がこの子には必要だったのかも知れない」

 ヒロ姫の髪をくしゃくしゃと掻き撫でる。

 リューベル様の目は先程話し合った時とも、会見の時の目とも異なる穏やかな光を湛えている。

 ヒロ姫のことがすごく大切だと分かる。

 だからこそ、初対面ながらもヒロ姫のなついたエッラを口説こうと言うのだろう。


「エレノア殿、私とて不躾な申し出だとは思うのだが・・・ヒロの母になって頂けないだろうか?」

 リューベル様はエッラを真っ直ぐに見つめて、ストレートな言葉を告げた。

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