第135話:カジト燃ゆ2
不快な視点を用意してしまいました。
読まなくても余り困らない様に次話以降で調整する予定なので、女性蔑視な思想や、女性を食い物にしようというクズ男が嫌いな方は、ゼス視点を飛ばす様にお願いします。
※17/02/26 ナディアからユスティーナ、ハマリエル、アリエスへの呼び方に誤りがあったため訂正しました。
(ナディア視点)
私がユーリ様にお仕えして既に十五年経ちました。
初めてお会いした頃のその手のお小ささも、私や母の顔を見つめて、口をパクパクさせて大きく目を見開いていらっしゃったのも、まるで昨日のことの様に鮮やかに思い出されます。
かつてはもう一人の弟だと勘違いしていたこともありますが、あの小さなユーリ様も今や14・・・いえ15歳になられて、見上げないといけないほど大きくなられました。
しかしながら両親譲りの美貌は益々の輝きを見せて、イシュタルトの社交界では知らない方はいないと讃えられるまでになりました。
その隣にお立ちになるアイラ様との身長差は25センチ程となり、ユーリ様も華奢な印象を受ける細身な方なのに、アイラ様はさらに折れそうに見える程の繊細な造形をして、それでいてお二人とも王国でも最強格の勇者として名声と信奉を集められていらっしゃいます。
以前であれば、ユーリ様のお側に居られないことを不安に感じることもよくあったものですが、今は留守を任せてくださったお二人からの信頼に応えたいと、心が燃え盛っています。
こんな情動に身を任せてしまうのは初めてのことで、少し恐い気もしますが、卒業後にユーリ様から頂いた魔導籠手、その甲に施されたホーリーウッド家に仕える証を見ると心が軽くなるのです。
私は、ユーリ様のお付きの者として、そしてユーリ様の留守を守るために故郷に置いてきたイサミの姉として、私自身の職務を果たしましょう。
私は指揮をとりますが、あくまで作戦はアイラ様から伝えられたものが基本となります。
即ち私の役割は広域監視と受け役となったユナさん、マリー先輩、アリー先輩の実力を超える敵勢力の存在を確認した場合に降伏を宣言し舞台を次の幕へ切替える役です。
私のこの手に皆様の命がかかっていると言っても過言ではありません、それでも私にとってそれは決して重圧などではなく。
役目を任せていただいたという喜びでした。
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(ハマリエル視点)
ナディアちゃんが作戦開始を宣言して約20分、アリーと私はイシュタルト王家から貸与されている近衛メイド用の魔導籠手と制式メイド鎧とを身に付けて、甲板で待機している。
私の任務は簡単に言えば、アリーの補佐。
階級こそ私のが上だけれど、実力も頭の回転もアリーの方が格上だから、私は後ろで援護する。
アリーから言わせれば一月半遅い生まれの私も、彼女の妹なので、まず矢面に立つのは自分だと言って譲らないのだ。
初めこそ厭わしく思った年下扱いも、彼女の実力を知るにつれて受け入れられる様になった。
私たちは年下の女の子を、妹たちを守りたいという同志でありながら、私もまた彼女の妹であることを受け入れて、今の関係を構築した。
彼女が私を守ってくれるから、私も実力を振り絞ることができる。
問題はたったひとつ彼女は近接戦闘もこなす魔砲使いで、私は生粋の前衛であったことだ。
私は、たまたま同じ由来の家名をもつレイナ先輩と同じ魔法剣士の道を選んだけれど、これは選択の余地のないことでもあった。
私の魔法力は総量に乏しく、瞬間的出力も軍官学校生の中では埋もれてしまうレベルで、どうにも頼りなかった。
放出系、つまり魔砲に代表される射撃に魔法力を割けば、あっという間に魔法力が尽きる。
精度は抜群に高いと評価されているので決して全く使えないわけではないけれど、私にとってそれは最期の手段。
セイバーも増槽がなければまともに扱えない。
だから、私が強化魔法重視の近接戦主体になるのは当然と言えば当然のことだった。
私とアリーはちぐはぐだけれど、軍官学校時代からルームメイトで息を合わせるのは得意、だから今日も私はアリーの一歩後ろについた。
少し後ろにもう一人、ユナちゃんがついている。
彼女もまた優秀な娘で、アイラ様号に同乗するのが決まってから、アリーと三人で数度訓練したけれど、アリーと私の五年来の連携の精度にほぼついてくる様になった。
その上私たちのことを先輩と呼び慕ってくれるので凄く可愛い。
この艦の乗員は本当に皆可愛くて、エレノアちゃんや、フィサリスちゃん、ナタリィちゃんも本当は年上なのだと聞いたけれど、とてもそうは思えない。
唯一の男の子であるユークリッド様も少し中性的な顔立ちだし、そんな可愛い子たちが私やアリーのことを先輩♪と、可愛らしく呼んでくれるのだから、この航海が終わる頃にはきっと一人か二人くらいはお姉ちゃんとかお姉様って呼んでくれるはずだから・・・
「マリー、ユナちゃん、来たわ」
アリーが言う通り港町の方からこちらに接近してくるものたちがいる。
私とユナちゃんは小さく頷き、後ろにいるナディアちゃんもコクリとうなずく。
想定では、いきなり仕掛けてくる可能性は低いけれど0ではないので私たちも船着場の根元付近に降りて、彼らとアイラ様号との距離を開けておく。
「それじゃ、いきましょうか」
アリーが号令をかけて、私たち三人は船着場に降りて、予定した位置に移動する。
さらに少しすると彼らは私たちの目の前までやって来て、船着場を囲む様に弧を描いて止まった。
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(ゼス視点)
このところのダティヤナとの融和政策は、我々元オトゥム家臣を重用しないという家中の雰囲気を作り始めていた。
それというのも、数年に渡りダティヤナが大人しくしているのが悪い。
我々はオトゥムの為にそれまでやっていたのに有る時オトゥムを追われることになった。
追っ手を差し向けられた俺たちは敵対していたシーマ家に逃げ込んだ。
その後我々を追い出したオトゥム当主が討たれ、めでたく取り返した故郷に帰れると思ったらミカドがしゃしゃり出てきて、あの戦の時、たまたま中央に顔をだしていたあのくそ生意気なチドリとシコク、ニャベシマを新たなシュゴとして任命し、シーマに旧オトゥム領をほぼ全て返還させた。
リューベルの腑抜け野郎は臆したのか、ミカドの要請を受け入れてダティヤナ、ニャベシマ、シコクにそれぞれ領地を返還してしまい、その中には俺たちの土地も含まれていた。
そこで俺たちはオトゥムを引き継いだダティヤナに、俺たちの土地は俺たちが治めた方が上手くいくから戻ってやるよと、こちらが下手に出てやってるのにあのクソ女、ただ一文
『不要、オトゥムに仇なした貴様らに帰る土地なし』
と書いて寄越しやがった。
なにがオトゥムに仇なしただ。
自分は戦にも参加せずにミカドに股を開いてオトゥム領を奪う大逆をした癖に、ちょっと美人だからとこちらをバカにして、しかも養女を取りさっさと隠居しやがって、魂胆はわかってるんだ。
ミカドに仲介されてシーマから土地を分けてもらった自分がシュゴではシーマと戦争するのに道理を通せないからさっさと交代したのだ。
やつらの目的はわかっているのだ。
それならばと、こちらは打つべき手を打つことにした。
同じく元オトゥム家臣で、シーマとの国境を持っていたが土地ごと寝返ったタジマ・ラーナ殿、その旧領地の3分の2ほどはシコクとダティヤナの領地となってしまい、回復を果たせなかった。
その土地を取り戻すため、タジマ殿は幾度となくあの腑抜け殿に開戦を主張したが、とうとう土地を没収されてしまった。
このままではダティヤナ側の思うつぼだと、我々は協力してダティヤナの危険性をあの腑抜け殿に伝えていくことにしたのだ。
すなわち土地勘のあるタジマ殿の手の者を案内として、関係のない、つまり警戒されていない我がヒガウリ家の手で工作する。
第一、第二段階は上手く行った。
我々の兵は旧タジマ家の土地に当たるシコクに向かう山路、現在はファイン様が管理している昨年普請しなおしたばかりの道を大雨にあわせて工作し、土砂崩れさせることに成功した。
シコクとの国境であるためあの腑抜け殿でもシコクの危険性を認識するはずだ。
先日からファイン様が救援の為に現地に入っているがあと数日は戻らないだろう。
そこにおあつらえ向きなことに、外大陸籍を騙る鉄船がカジトに入ってきた。
鉄船ということは、本大陸の湿地側の船を借りて偽装したダティヤナかニャベシマ、あとはヒヨウのニコ家辺りの謀り事の可能性が高いだろう。
あそこは謀略でヒヨウ地方を統一したと言うからな、そのまま南を狙うこともあり得るだろう。
それを証明することができれば我々の勝ちだ。
腑抜け殿と謁見している者の相手は我が兄ゼーナンと同志タジマ殿が必ずや成功させるだろう。
我々は腑抜け殿から許可を得た体でやつらの船を探る。
我々はこのところ質流れ品の他領への輸出で財を成している『七草屋』を北方風の装いをさせた刺客に襲撃させた。
我々が、民を守ってやっている武門の者が困窮しているというのに、守られるばかりの商人風情が、よりにもよって他領地との交易等という利敵行為をしているのに、なにゆえ腑抜け殿はお許しになるのか・・・あぁ、戦争中も怯えて城館に引きこもっていた腑抜け殿には、常識というものがないのだろう。
つまるところ腑抜け殿には、時勢を見る目がないのだろう。
いや、今は殿の事ではなく目の前の仕事に集中しなくては・・・
鉄船からはすでに女が3人降りてきて、生意気にもまっすぐにこちらを見ている。
いや、慌てて降りてきたのだと思えば、同じ様な騒ぎを起こすつもりだったに違いない。
船の中を探せば、火付けや物盗りに使う仕事道具がわんさか出てくるだろう。
それに、ダティヤナやニコ家との関わりを示す物品も見つかるだろう、なければ今七草屋から奪い取ってきた金張りの椀や前々から用意していたヒヨウの紋を彫った鞘と短剣を船の中で見つかったことにすればいいだけの話だ。
一度捕まえてしまえば女の一人二人、組み敷いて犯してやればばすぐに言うことをきくだろう。
女というのは浅ましく淫らな生き物で、男は一度放精すれば治まるものが、女は男が体力を使い果たしても足りない、もっともっとというのだから全く下劣である。
とはいえ、この女たちは謀略の為に用意したからだろう、余り見慣れない顔立ちだが、その肌は白く唇も瑞瑞しい艶をしている。
真ん中の女など、乳房も大きく張っていて、生意気な態度も焦らしてやって、もっともっとと哀願させるのが楽しみな位だ。
おっと、思いがけず●っちまった。
とりあえず、俺はこのサクラ色の髪の女、兄ゼーナンは大人しくて未成熟な女子を好むからな、後ろの辺りかなり好みだろうよ。
あの体つきならまだ生娘だろうしな、首をハネるまでは精々女の悦びってやつを楽しませてやろうじゃないか。
さて、始めるか・・・。
「我々はぁ!30分ばかり前に、七草屋に押し入り、居合わせた客と番頭を斬り殺し、物盗り、火付けを行った賊を追っている。この七番埠頭に逃げ込む所までは確認したが、停泊中の船はこの船だけだ。捜索にご協力頂こうか!!」
ふふ、断れまい。
我々の未来の礎となってもらうぞ!!
なお、良いところの全くないキャラクターについては設定モチーフはなしということになっています。
なのでゼスたちも特定の武将等をモデルにしたわけではなくただのザコ役です。




