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第134話:カジト燃ゆ1

「カジトの港にて何者かが火を放ち、盗みを働きました!」

 その報告を受けて場の空気は一瞬で悪くなった。

「どういう事だ!」

「詳しく説明せよ!!」

 この場での発言権をもたなかった筈の家臣数名が声を荒らげて続きを促すと、彼は主君であるリューベル・シーマの許可を得ることなく話し始めた。

「一時間程前、カジトの質屋『七草屋』に、この辺りでは見ない風体の男が火を着け、混乱に乗じて槍、金拵えの装身具など奪い、閉鎖中の七番埠頭の方へ逃げたとのこと、現在捜索中ですが、取り急ぎ状況の説明の為に伝令を命じられました」


 伝令の男は、すらすらと言葉をのべる。

 伝令らしいと言えばらしい、伝える様に言われた言葉を伝えるのに詰まりながら答えるものはそうそういない。

 そして受け手側も状況を整理し、声をあげた。


「リューベル様!これは由々しき事態にございます、友好の為の語らいの最中に斯様な狼藉、許すわけには参りませぬ」

「然様にございます!何とぞ我らに捕縛と、尋問の許可をお与えください、なにがなんでも黒幕を自白させてお見せしましょうぞ」

 シーマ家臣のうちの二人が大きな声をあげ、さらに3名ほどが協調の声をあげる。


「まぁ待て、聞くが、下手人が七番埠頭に入るのを見たのはソナタか?」

「い、いいえそれがしではございませぬ、しかし隊の者が確認しております。」

 領主であるシュゴ、リューベルの問いかけに、伝令の男は少し緊張した面持ちであったが頷いた。


「そうか、それはつまり、五番埠頭の奥から徒歩で七番に抜けるところを見たわけだな?」

 伝令の言葉に頷きながら、リューベルはさらに問いかける。

 伝令の男は頭に少し疑問符を浮かべながらも答える。

「は、はい・・・恐らくそうかと」

「伝令ならば主観を交えず正確に答えぬか!」

 しかしその答え方はリューベルの怒りを誘うものであった。

「は、はい、その通りでございます」


 伝令は、主君の勢いに圧され答えを変えた。

 普段で有ればそれは更に勘気を誘うものであったが、今この時だけ、彼はニヤリと笑みを浮かべた。


「そうか、よろしい、犯人の捕縛と尋問は可及的速やかに行わねばな、アイラ姫様、この様な次第となりましたが?」

 リューベルは、今まで話し合いをしていた姫君の方を見た。

「リューベル様!もはやこの様な小娘に敬意を払う必要などございませぬ!」

「そうです、所詮は女、少し責め苦を与えれば、どこの者かすぐさま口を割りましょうや!」

 家臣のうち数名は更に声をあげる。

 しかし、姫君も、その従者達もさして慌てる様子もなく姫君は穏やかに笑みを湛えたままであった。


------

(ユスティーナ視点)

 シーマ領主との交渉の為アイラ様達が出掛けられて一時間半程経った。


 アイラ様が出掛けられた直後、私達はナディアさんたちに呼び集められて、秘密の連絡方法をお持ちのカグラ様を通じて私たちにアイラ様から情報と指示が伝えられて、私たちは現在それを実行中である。


 まだなにも起きていないので単に甲板上から周囲を警戒すること位だけれど、誰も艦から離れず。

 また、何者かが艦に押し入ろうとしても主人の不在を理由に取り合わずに、挑発されてもこちらから武器は抜かず相手が武器を抜いたときは取り押さえること、もしこちらに一人でも怪我人が出そうな事態になれば、全力での鎮圧を許可するというものだった。


 あのアイラ様がわざわざその様に伝えるのだから何か起こりうる兆候があるのだろう。

 聴けばシーマは今の国の形になって日が浅いというから、独断専行を善しとする気風があるか、そういう者を排除仕切れていないのだろう。


「(何千年国の歴史を重ねると、今度は腐敗するものがでるんだけれど)」

 家の家柄的にそういった腐敗貴族や官吏を排除するための下調べなんかも修行の一環でやらされたなぁ。

 父であるハンゾウ・ハトリことユークリッド・フォン・ハーフセラ(たまたまだユークリッド様と同じ名前)の厳しい手解きを思い出す。

 女に産まれたからにはその武器も使いこなせとハニートラップ用の閨の技や、男性への甘え方なんかも指導されたけれど、現在のところ実演の機会はない。


 今は同僚扱いになっているホーリーウッド家の、というよりアイラ様のメイドの一人であるソルちゃんと甲板での物見中、私とアリエス先輩、マリー先輩は本来の身分は違うけれど、三人ともに、王族に復籍した扱いの「アイラ姫様」の為に付けられた近衛メイドとほぼ同様の扱いである。


 そもそもエレノアちゃんやエイラちゃんがついてる時点で護衛とか要らないし、アイラ様自身認定勇者の中でも埒外の存在になっているので、護衛とか要らないと思うけれど、西シュバリエールに所属した者ならば誰でも憧れるあのアイラ様のお側に置いて貰えるのだから否やはない。


 その上、アイラ様のメイドには若く可愛らしい娘が多く、更にどの娘もある程度以上の強さを持っており、自分を高める上でも良い職場だ。

 前述の通りアイラ様には護衛なんて間に合っているので、私の役割は隠密としての技と、アイリス様やアイビス様の護衛で、今はその任務中真面目にやらないといけないんだけれど、現在はすぐ間近には気配がなく、少し離れた所にシーマから付けられた護衛役だという5人が、こちらを探っているくらいだ。

 艦の中のことは気にしなくても良いだろう。

 それよりも目の前で甲板から身を乗り出さんばかりに町の方を見守っているソルちゃんの方が危険なくらい、主に操舵室から甲板を見ているアリエス先輩の視線が危ないということだけれど。


 ソルちゃんは会った頃から年の割りに落ち着いている子で、だけども笑顔や笑い声に無理をしている感じのする子だった。

 ただ一年生の夏頃から自然体の笑顔がよく見られる様になって、西シュバリエールの男子の中には彼女を狙っている者も何名もいたくらいには可愛い子。

 アイラ様と同じ13歳で身長はもう160に迫るけれど、落ち着いた物腰と裏腹にまだ少しあどけない顔立ちをしている。

 その為ちょっぴり背伸びした感があり、それがコルベレ少尉の琴線に触れるらしくて今彼女を射ている視線は好意的なものとはいえども犯罪者のそれに近い。


 しかし、自身への好意には少し疎いソルちゃんは艦の縁に体を預けて、アイラ様たちの去った方角の町を、ジッと見ている。

 ただソルちゃんはメイド術もしっかり習得しているので、敵意や訝しむ様な視線には敏感だ。

「ユナ先輩、どうかされましたか?」

 私がアリエス先輩とソルちゃんとの間に視線をさ迷わせていたからか、ソルちゃんに気付かれて、怪しまれてしまった。

 隠密なのに何をしているのか、こんなんじゃお父様に起こられてしまう。


「なんでもないの、ちょっと逢わなかった間にソルちゃんが可愛くなったなあって見てただけよ」

 と私が、言うとソルちゃんは少し照れた様に笑う。

「ありがとうございます先輩、でもユナ先輩も相変わらず素敵です、私は食べるとすぐにぽっこりしちゃうので、先輩みたいにすらりとしているの、羨ましいと思います」

 それはソルちゃんが元々細いのと、あんまり筋肉がついていないからだ。


 それと私も食べた後はぽっこりするし、ソルちゃんは私より小さいのに食べる量も私より多いし。

 むしろあれだけ食べるのに、普段はこんなに細くて柔らかで可愛いのがすごい。

 ずるいくらい。

「ユナ先輩?」

 余りじろじろ見たからか、ソルちゃんはキョトンとして私の方を見る。

 その後ろに、煙が見えた。


「ソルちゃん、あれ」

 私が指指すと、その方向を見るソルちゃん、嫌な予感がする。

「アイラ様達が向かった方角、2キロメートルくらいでしょうか?」

 私の読みでもそれくらい、いい目をしているね。

「ソルちゃんは中に戻って、手筈通りに呼んできて」

 もしも荒事になりそうなら私とアリエス先輩とマリー先輩、それにエイラちゃんが、まずは様子を見ることになっている。

 理由は近接戦闘力の高さとその対応力、アリエス先輩は本来は砲戦を得意とする方だけれど、近接戦闘力もかなり高い


 想定される敵は最初は交渉(に見せかけた協力要請)を持ちかけてくる見込み。

 その中で急に攻撃を仕掛けてきたとしても、私達なら遅れをとらないだろうとアイラ様は仰ったという。

 それらしいのが来たら私たちは下に降りて応対、甲板にナディアさんを残し周辺警戒をしてもらう。


 やがて、ソルちゃんの代わりにマリー先輩とエイラちゃんとが甲板に上がって来て、さらに1分後にはアリエス先輩とナディアさん、それにダリアさんとが甲板に上がってくる。

「おまたせユナちゃん!エイラちゃん!このアリエスお姉さんが来たからにはもう安心よ!」

 第一声がこれか・・・。

 アリエス先輩には正直在学中もお世話になったけれど、この悪癖?だけはどうにか成らないものか・・・。


 そんなだから卒業時戦闘系クラスの総合成績でトップ10に入る実力者でありながら、思想、嗜好に難ありとして異例の軍曹待遇での入隊となってしまうのだ。

 頼れる優しい美人の先輩なのに惜しい事だわ。


「アリエス先輩は器用ですからね、まぁ頼りにはしてます」

 エイラさんが若干冷たく言い放つと、アリエス先輩は

「お姉ちゃんと呼んでくれてもいいのよ?あぁでもそのクールな振る舞いもお人形さんみたいで可愛いわ」

 等といって身を捩っている。

 実際にアリエス先輩は、砲戦メインの魔砲使いでありながら近接系の能力でも上位に食い込む実力者で、なおかつその思想に偏りは有るものの、そのさがは善性が強い。

 年下の少女の為にならその細い腕でゴロツキ五、六人相手にも臆することなく挑み、結果として外クラウディア北側にたむろしていた三十余人の不良少年のグループを解散させ更生させた時は彼女はまだ12歳だったという。


「あぁ、エイラさんもそうですけれど、姫様号の乗組員はみんな可愛いですよね」

 と、マリー先輩もナディアさんの隣に行き肩に触りながら言うと、アリエス先輩もさらに

「ダリアさん位よね、私達よりお姉さんなの。そのダリアさんも何となく構いたくなるというか、可愛い感じの美人さんだし」

 とダリアさんに声をかけると、ダリアさんは「別に・・・」とつれない返事。


 マリー先輩に肩を触られたナディアさんは嫌がる素振りはなく、さりとて特に反応もせず。

 ダリアさんと並ぶ様に立った。

「それでは皆様、ユーリ様、アイラ様から託された作戦を開始します。不肖私ナディアめが指揮をとらせていただきます。何よりも優先するのは全員が無事にユーリ様、アイラ様のお帰りを待つことです。くれぐれもお二人のご期待を裏切ることの無い様、皆様の奮闘をお祈り致します」


 ナディアさんはホーリーウッド家に仕えていることを示す家紋の入った魔導籠手を自分の胸元に寄せながら作戦開始を高らかに宣言した。

少し遅くなってます。

花粉症が始まってしまい、今後も少し遅れ気味になる見込みです。

申し訳ありません。

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