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第132話:マナとヒロ

 サテュロスとシーマ、ひいてはセントールとの未来を左右するアイラとユークリッドとを乗せたシーマ家の馬車がナイキ城に到着した。

 シーマ家の家臣団は主君の命により、使者を歓待するために門前から本丸までの順路を掃き清め、佇まいも整えたが、一部の者は密かに謀り事をしていた。


 主君の命に抗う内容のそれは、すでに一部主君と使者にも漏れていたが、彼らはそれに気付くことなく巡らせた策の成功を信じていた。


------

(アイラ視点)

 まったくどこに行っても、権力や手柄に固執して策を弄する者が居たり、外交するためのバランス感覚や、内政手腕に欠けるのに変に権限や領地を欲しがる連中が居るのはなんなのか・・・。


 昨日のお茶のお返しに、と会見までの間マナ姫の私室にボクは通され、ユーリはすぐ近くの部屋でファイバー氏のもてなしを受けることになった。


 マナ姫の私室は板張の12畳程の広さで寝る為のスペースにだけ簾の様な物で目隠しされている。

 そのすぐ前に文机と文書の類があり、彼女が日頃から私室で勉学に勤しんでいることがわかる。

 部屋は南側が中庭になって居るがその庭に面しているのはこの部屋と両隣の部屋だけで、片方は領主リューベルの息女であるヒロ姫の部屋、もう片方は現在は空き部屋であるらしい。

 中庭の、部屋と逆側には低めの壁があり、日中はそれなりに明るく、壁の向こうは池があるらしい。


「ここ、マナ姫様の私室ですよね?ほとんど初対面のわたくしを通して大丈夫なのでしょうか?城の奥ですよね?」

 わざわざ姫達の部屋から以外入れない中庭に片面を割いているということはよほど大事に隠されているのだろうに、殆ど見ず知らずのボクを部屋にいれてしまうのはいかがなものか?


「大丈夫です。アイラ姫様はもう私の一番のお友達だと思っておりますから!」

 やや興奮気味に、マナ姫は体を乗り出して来た。


 今ボクたちは板張りの床の上に綿の入った二畳程の薄いクッションを引いて、二人でその上に座っている。

 ボクはずいぶんと懐かしいけれど、スカートを巻き込まない様に調整しての正座、マナ姫は脚を横に崩して座っている。

 着ている服は昨日と同様の輪郭の色違いで、上着の裾は長いものの袴はそうでもないので日焼けしていない真っ白なふくらはぎがちらりとはみ出して、日焼けしていないということは、人目にも触れてないということで、何かいけないものを見ている様な気分になる。

 実際色の白さならアイラの肌の方が白いけれど、暁の頃なら土下座ものであろう。


 エッラとフィサリスは板張の場所で初め立っていたけれど、マナ姫が見下ろされるのを嫌がった為、今は部屋の隅で小さな椅子に座っている。

 二人とも身長が低く、小さな椅子に座っているとデフォルメした人形の様に見えて、これはこれでかわいい。

 胸がいささか大きすぎるのでバランスが悪いか?


 て、クッションに両手をついてボクの方に身を乗り出した結果千早モドキとその下に重ね着したものの襟元がたわんでこれまた色の白い、薄い谷間が僅かに顔を覗かせている。

 これはさすがに良くない、申し訳ない気持ちになる。


「あ、ありがとうございます。そう言って頂けて光栄です」

 胸元から逃れるために目を反らしながら答えると、マナ姫は良い意味で誤解してくれた様で・・・

「アイラ姫様ってば、照れていらっしゃるのですか?真っ赤になって可愛らしいです」

 と、コロコロと笑った。


 その声に誘われたのかどうかペタペタと足音が聞こえて・・・

 ガラリと木戸が開けられ、一人の童女が部屋に現れた。

「あねさまお一人で楽しそうにしてズルいです、ヒロもご一緒させてくださいませ」

 儚げな響きなのに元気の良い声だ。

 マナ姫と良く似た髪色髪質、顔立ちも目元以外はそっくりで、成る程先程のファイバー氏よりもよほど血の繋がりを感じる

 しかしマナ姫は末っ子だと言っていたので、これがリューベル氏の一人娘のヒロ姫なのだろう。


「ヒロ、お客様を入れるからお部屋には来ない様に言ったでしょう?」

 と、マナ姫が言うので間違いない。

「マナ姫様、わたくしは構いませんよ?」

 むしろもう1週間会えていないアニスを思い出して撫で回したくなる。

 抱っこさせてもらえないかな?


 ボクの言葉にヒロ姫は笑顔を浮かべ、でもすぐにすがる様な瞳をしてマナ姫を見つめた。

 マナ姫はうーん、と何か葛藤を見せたが、まぁいいわ、と許可を出した。

「やった。初めましてお客様、ヒロはヒロです。ととさまの長女で、あねさまの妹です」

 と、矛盾していない様で矛盾していることを言う。

 小さい頃から当たり前に姉として接していて、マナ姫が叔母という感覚がないのだろう。


「ヒロ、人様の前では叔母上と呼ぶ様にいってるじゃない」

「お部屋は良いって・・・、あねさまこそ、お部屋の言葉ではないですか」

 どうやら人前とそれ以外とで言葉を使い分けているらしい。

 立場があるって小さい子には大変そうだ。

「わたくしも妹が居る身ですから構いませんよ、メイドたちもここでの事は口外致しません、どうぞ普段の様になさってください」

 と、提案するとマナ姫は苦笑、ヒロ姫は笑顔を浮かべてボクの前に屈み込んだ。

 和式トイレを利用するあの座り方だ。

「ありがとうございます、えっと・・・」

 と、そういえばまだ名乗っていなかった。


「お初にお目に掛かります、イシュタルト王国から参りましたアイラ・イシュタルト・フォン・ホーリーウッドと申します。一応ヒロ姫様と同じく姫と呼ばれる立場です」

 改めて自己紹介するとヒロ姫はとても嬉しそうに懐いてくる。


「わぁ、ヒロはあねさま以外のお姫さまって初めてお会いしました!アイラお姉ちゃんと及びしてもよろしいですか?」

 と、顔を赤くして興奮しながら懐いてくる日ノ本人的顔立ちの10の女の子、髪は青いけれどちょっぴり神楽に似てないこともないのがまたボクの心に直撃する。


「えぇ好きに呼んで頂いて構いませんよ?えっと・・・」

「ヒロのことはヒロって呼んでください!」

 と、元気良く答えるヒロ姫だけれど、さすがに呼び捨てはシーマ家臣に見られるとヤバそうだ。

「では、ヒロちゃんとお呼びしますね」

 と答えるとヒロ姫は嬉しそうにその場で立ちあがり直してアイラお姉ちゃんと叫びながらボクの肩にしがみつく。

「(今何か見えてはいけないものが見えた様な、見えなくてはいけないものが見えなかった様な気がする?)」

 少し違和感があったのだけれどそれがなにかわからない。


「ブー、アイラ姫様、私のことはよそよそしくマナ姫様とお呼びになるのに、ヒロのことはそんな可愛く呼んで下さるなんて・・・なんか納得出来ません、私の方が先にお友達になりましたのに」

 深く考えずに呼び名を変えたのは失敗だったか?

 いやむしろこれもマナ姫との距離を縮めるチャンスだと思おう。

「マナ姫様はなんと呼ばれたいのですか?」

 と尋ねると、マナ姫は急に照れ臭そうにしはじめた。


「え?いや、なんていうか、べつにこれだっていうのはないんですよ?でもなんていうのか、もっと親しい呼び方をして欲しいなって・・・」

 若干尻すぼみになりながらマナ姫は恥じらいの色を見せる。

 この叔母姪可愛いなぁと内心ほっこりとしつつ尚も促すと、マナ姫は絞り出す様に言った。

「じゃ、じゃあマナちゃんで・・・」

 と真っ赤になって、結局ヒロ姫と同じだけれど、余程羨ましく思えたみたいだ。


「じゃあわたくし・・・いいえ、ボクの事もアイラって呼んでも良いですよ?ボクの方が年下ですし」

 と、友人の前で猫を被るのを止めると、マナ姫は希望を見たと言わんばかりの表情を浮かべ

「はい、アイラちゃん」

 と、ヒロ姫ごと抱きしめに掛かり

 同時に混乱したヒロ姫が

「えっ!?アイラお姉ちゃん、ヒロよりも年下なの!?」

 と声をあげていた。


 しばらくしてヒロ姫の誤解も解き、マナ姫も落ち着いて来た所で、ヒロ姫が入口付近に座っている二人のメイドに気付く。

 さっきメイドたちもここでのことは秘密にするって言ったのに、存在に気付いてなかったらしい。


「わぁ、可愛い、お二人とも可愛いですね!?」

 と、二人の目の前に歩いて行きまた屈む。

 瞬間エッラの顔色が少し変わる。

 何か言いたいことがあるのに言い倦む、そんな表情。

 しかし彼女もプロフェッショナル、すぐに顔色を戻して回答する。


「お褒め頂きありがとうございますヒロ姫様、ですが私達はただのメイドですのでお気になさらず、アイラ様とご親睦を深められて下さいませ」

 と、頭を下げる。

 しかし逆にヒロ姫は二人のメイドを巻き込むことに決めた様だった。


「あねさまー、アイラお姉ちゃんもだけど、この二人にも似合うおべべを探しましょう、今のおべべも素敵ですけれど入城の時ととさまも見ておられましたし、みんなをあっと驚かせましょう!」

 と全身を使ってジェスチャーする。

 それはつまり、和装に見えなくもないセントールの服に着替えるということだよね?

 それならそれでこちらも持ってきたサテュロス風の服をマナ姫に着てもらうというのもありかもしれない。


 ボクも多少乗り気になっているとマナ姫はより一層の乗り気で

「いいねそれ、アイラちゃんのこと着せかえしたいなって昨日から思ってたの!」

 とボクの手を握りながら訴えてくる。

「まぁ、良いですよ?ボクが笑われない様、可愛くしてくださいね?」

 と、微笑みかけて許可をするとマナ姫は鼻息荒く立ちあがり室内の箪笥を漁り始め。

 ヒロ姫もペタペタと足を鳴らしながら部屋を出ていった。


 少ししてマナ姫はいくつかの服を並べてうんうんと頷くと、ボクの方を向いた。

 そしてふたたびボクの前にやって来ると片膝立ちになって、ボクの肩に手を置いて

「それではアイラちゃん、服を脱いで貰えますか?」

 と、切り出した。

 それはいいが、ボクの方は今もっと重大なことに、先程ヒロ姫にしがみつかれたときに感じた違和感の正体に気がついていた。


「ちょ、マママママ、マナちゃん?なんで穿いてない・・・の?」

 マナ姫が片膝を立てたことで袴状のその裾が捲れて、その内側が露になっており、本来見えなければならない布ではなく、もっと別の生物由来の生きた繊維と生身とがチラリと顔を覗かせている。

 日ノ本的に分かりやすく表現するならば、ノーパン・・・


 しかしボクの穿いてないという言葉では彼女はピンと来ていない様で、首をかしげて不思議そうにするばかりであった。

 


 その後話し合って理解ができたけれど、セントールの女性には特別に下腹部を隠す下着は存在せず。

 旧日ノ本の襦袢の様な半ば透ける様な質感の綿の肌着が用いられていて、先程の様に屈んだり勢いよく走ったりすると、その、見えてしまうそうで、彼女も普段は気にしているものの、ここは私室なのでつい意識が緩くなってしまったとのことだった。


 別に彼女に露出癖があるとか、見られても恥ずかしくないということでもなくて、文化の違いというものだ。

 だから入城の時、エッラとフィサリスのスカートをガン見してる人たちが居たわけだね、こちらの袴よりも短いスカートだから、何とか中身が見えないかと見つめていた訳だ。

 エロオヤジどもめ・・・、つまりマナ姫がエッラたちに座る様に勧めたのも目のやりどころに困ったからで、ヒロ姫が着替えを勧めたのもエロオヤジどもの視線から二人のことを守ろうとしてのこと・・・あ、単に着せかえたかっただけ?


 まぁ良いよ、ボクだけ通常のドレスの為少し長いスカートでメイドが外での作業も視野に入れてのやや短めのスカートなのが、外出先でユーリが催した場合に情(察して下さい)を授けられ易い様に短いのだと考えて居たと聴かされれば格好を改め様という気にもなる。

 メイド=侍女+側女の役割だと思われていたらしい。


 昨日顔を合わせたメイド達が皆年若く、見目麗しい女の子たちであったことも、その誤認の元になった様だ。

 えっ、待って?ベアトリカの事もメイドだって伝えたよね?

 と尋ねると

「えぇてっきりクマ獣人の子を儲ける為の側女だと思っていました」

 とのことで、どうやらセントールの一部では、魔物との間にわざと子供を作って、教育できそうであれば剛力無双の兵としてダメならば敵の領地に放ったり、殺処分したりする風習もあるらしく、メスの魔物を捕まえて四肢を落としたモノを用意して交わるモノがいたり、牙と爪を折ったオスの魔物に醜女を宛がったりということも稀にあるそうで、昨日珍しげであったのは、五体無事でよく懐いた様子だったからだとか・・・

 つまりユーリが少しでもそそる様に可愛いエプロンを着けさせていたのだという見解。

 ベアトリカは勿論可愛いけれど、その発想は理解できない。


 逆にドレスを脱がせたボクのドロワーズを見たマナ姫は

「ハカマを、重ね着しているのですね、これなら確かに大事な所が見えないので動いても安心ですね」

 と、ドロワーズを下着ではなくパンツの一種として捉えた。


「でもハカマと一緒に穿くには少し嵩があるので輪郭がまとまりません、脱がしますね?」

 と言って躊躇することなく引き下げようとしてきた。

 加速状態でなければ即丸出しにさせられるところだった。


「マナちゃん、それは余り簡単に脱がされては困ります」

 右手でドロワーズを抑え左手でマナ姫の手を掴む。

 マナ姫は少し不服そうに口を尖らせる。

「女同士なのですから別に良いではないですかー、私も良くヒロで着せかえしますが、ヒロは恥ずかしがりませんよ?」

 と、彼女は同性相手ならば肌を晒すことに些かも忌避感がない様で、もしかするといままで侍女たちとの接触ばかりで、同じ年頃のお友達との触れ合いが少なかったのかもしれない。


 後ろではヒロ姫がエッラとフィサリスにセントール服を着せるのにお手伝いはままならなかったのかすっぽんぽんになって、肌着から着るところを二人に見せている。

 エッラとフィサリスも男性の目がないからか惜しげもなくズロースとキャミソールだけの姿となって、ヒロ姫に追従していたが、肌着を持ち上げて透けて見える胸にヒロ姫が興味津々になっていて何度も中断している。


 どこの子どもも大きな胸には惹かれるものがあるらしく、特にヒロ姫は幼い頃に母を亡くしているのと、髪色が少し紫が強いとは言え同じ青系統のエッラに母性を感じたのかかなり懐いている。

 エッラは自覚しているのかどうかわからないけれど、小さい子がおっぱいに触れるととても優しい空気を纏う。

 十歳のヒロ姫が小さい子かどうかは議論の分かれる所だろうけれど、可愛らしい方なので懐かれて嫌ということはないだろう。


 実際今も、お尻を床にぺたんと付けてご機嫌にハカマに脚を通してバタつかせながら腰紐を結んでいるヒロ姫を優しい目で見ている。


 ボク達は50分ほどマナ姫の部屋で待たされたけれど、退屈はついぞ感じなかった。


アイラは妹分扱いが多く、あまり名前+ちゃん付けで人を呼ぶことはなかった様に思います。

アイラを着せかえ人形にするマナ姫の目的は達成されていますが限られた時間でなにが行われたかは妄想にて補完をお願い致します。

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