第130話:親睦
シーマ領の領都ナイキに最寄りのカジト港に留め置かれたアイラ達は、二時間程待たされた後でようやく使者を迎えた。
その使者はなんと、シーマ領主の異母妹であるマナ・シーマであった。
予想外に大物の使者の到着にもアイラたちは慌てることなく対応した。
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(アイラ視点)
シーマ家から派遣されてきた使者を迎えるためにユーリとエッラが船着き場に降りた。
一団の中には馬車が一台含まれていて、その中に恐らく使者が乗っているのだと推察された。
また馬車の周囲に配置されている者に、妙に女性、それも非武装と思われるものが多いことから、使者は女性が起用されたのだと判る。
意外と女性の社会侵出が進んでいるのだろうか?
かつて前周で侵略してきたダーテの要求を思えば予想出来ないことだ。
女性性奴隷の供出を、武力を嵩に要求してくる様な文化レベルで、女性が社会進出しているわけがない。
しかし予想通り、馬車から出てきたのは女性、しかもユーリと同い年くらいか、推定14~6程度の女の子、青い髪は長くて腰元まで延びている。
座ると床に着くだろう。
そして先程の船着き場で対応した水夫達をみたときにも思ったけれど、装束が少し旧い日ノ本的で懐かしさを覚える。
ユーリたちが挨拶しているのを少し覗き見して、ついでの様に鑑定をしてみると
マナ・シーマ F15ヒト/
生命1027魔法48意思570筋力42器用49敏捷37反応66把握78抵抗67
適性職業/勇者 不死の鬼姫
と表示された。
勇者と、勇者相当と思われる固有の適性を持っている。
不死のとあるからにはさぞ耐久か再生関連の能力が高いに違いない。
生命力がかなり高く、他も軍官学校生水準でみてもかなり高めだ。
ボクやユーリ、エッラやシリル先輩は比較対象として間違っているので指標として考えない。
これがセントール人の基準だというなら、サテュロス人よりも強いと言うことになる。
先程の水夫はサテュロスの一般男性並だったので、彼女が特殊な個体だと思いたいところだ。
少し話した後で、エッラがマナ姫に手を差し出し胸元に抱き寄せた。
それから彼女を抱き抱えると一息に飛び上がった。
「わひゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
突然のことにマナ姫がはしたなく悲鳴をあげる。
これは聞かなかったことにしよう。
甲板にたどり着いたエッラはマナ姫をゆっくりと甲板に降ろし、気遣う。
でもそもそも港に据え付けられている階段に昇ってから跳べばもう少し低刺激だったと思うよ?
エッラがマナ姫と話している間に、ユーリも飛び上がってきて、自然とボクとマナ姫の間くらいの場所に立つ、夫人として隣に立つべきだろう。
ボクがマナ姫の正面に歩いていくとユーリが隣に達
「マナ姫様紹介します、正妻のアイラです。」
と、ボクを紹介する。
他大陸の貴族や王族、それに準ずるものに会うにあたって、幾つかジークたちから許可されたものがある。
その一つが名乗りだ。
「初めましてマナ姫様、わたくしはアイラ・イシュタルト・フォン・ホーリーウッド、イシュタルト王の孫で、彼の正室です」
本来イシュタルトという家名は存在しない。
イシュタルトとは国の名前であり、名乗ることが許されるのは準王族までの王家に名を連ねる者だけである。
公爵になる時や降嫁する際には、母方の姓を名乗ることが基本となる。
但し母親も王家出身の場合には例外的に家名としてイシュタルトを使う場合もあるが、それも一代限りのことである。
そのためボクもホーリーウッドに嫁するにあたって、再びウェリントンを家名として名乗ったのだけれど、この航海中には王族として振る舞うために、再びイシュタルトの名をフルネームの中に戻すことになったのだ。
マナ姫は何かしらの逡巡を見せたが、たおやかな笑みを浮かべて答える。
「シーマ領主の妹のマナ・シーマです、皆様の歓迎と親睦のためにやって参りました」
可愛い。
年齢は15歳とわかっているけれど、サテュロスの15歳と比べると少しだけ幼い容姿をしている。
髪は青いけれど日ノ本人的な顔立ちをしているからか、なんというか親近感が沸くというか・・・、格好も袴状と言えなくもないプリーツのスカートに薄い服、そして千早っぽく見えなくもない、裾の長い上着を着ていて、その裾は甲板にまで引き摺られている。
それがますます日ノ本の大名家のお姫様みたいで、神楽も頬を赤らめている。
小さい頃に遊んだお姫様人形でも思い出しているのかもしれない。
ソルが気をきかせてマナ姫に触れる許可を願い出て裾を持ち上げる。
和洋折衷な感じがたまらない、こんな風にサテュロスとセントールが上手く付き合える様になればよいのだけれど・・・。
「ここでは日に焼けてしまいますし、艦内にご案内致しますね、こちらへどうぞ」
さすがに、単独でやって来て下さったお客人を集団で取り囲むのも憚られるので、こちらはユーリとボク、それに世話役としてエッラ、ソル、ナディアがつくことにしたのだけれど
マナ姫は途中で見かけたベアトリカに大いに興味を惹かれた様で
「あのあの、あのクマはいったいなんですか?なんで船にクマが乗ってるんですか?服を着てますしあれで亜人の一種なのでしょうか!?」
と食いついた。
確かに、なんでクマを船旅に同行させるのかなんてわからないだろう。
ボクだってメイドエプロンをつけたクマなんてベアトリカ以外にみたことはない。
「いえ、紹介しますね、当家のベアメイド、ベアトリカです。見ての通りのクマですが、賢い娘なので危険はありません、下手な兵士よりも強いので、当艦の白兵戦要員として搭乗しています。ベアトリカ、こちらはお客様だから失礼の無い様にね?」
「わふぅ」
ぺこりと頭を下げるベアトリカ、ふわりと空気孕むエプロンが大きな腕で押さえつけられる。
船旅でもベアトリカは大人しく、アイリスやアイビスの遊び相手をよくつとめてくれている。
ボクもベアトリカのブラッシングを楽しませてもらうことがある。
ボクたちのマスコットで、戦力で、精神安定剤な妹分、それがベアトリカだ。
小さくなっても尚厳めしい外見だが、ヒトと比べるとたどたどしくみえる動きが可愛いのだ。
「まぁ、かわいらしいクマも、いるものなのですね、慣らすのは大変だったでしょう?」
と、マナ姫にも可愛く見えた様で笑顔でベアの耳に手を伸ばしている。
「いえ、この子は出会った頃から穏やかで、故郷では妹たちの世話もしてくれて居たんですよ」
へぇ、と頷きながら今度はベアの顎に手を回して、ベアも気持ちいいのかゴロゴロと喉をならしている。
先程までの笑顔は作っていたのだと判るくらい自然な笑顔を浮かべてマナ姫は楽しそうにしている。
なのでそのままベアトリカも隣につけることにした。
艦内でも普段は使うことのない応接間の初めての出番だ。
本来は艦長室として用意された部屋なのだけれど、現在この艦には艦長と呼べる人間がいないため応接室となっている。
隣に本当の応接室もあるけれどこちらの方が内装も豪華なので、折角だからとこちらを使っている。
部屋について早速とばかり、ナディアがお茶を用意し始める。
セントールにもお茶はある様で、行儀作法の一種として嗜まれているらしく、男型作法と女型作法とで別れているそうだが、緑茶と抹茶のみで紅茶は飲んだことがないとのことで紅茶をごちそうすることになった。
「これ、本当に同じお茶なのですよね・・・すごく香りが強くて・・・その割りに甘くはないのですね?」
と、マナ姫は少し紅茶が苦手な様子で、でもお茶うけにとソフトビスケットでバタークリームをサンドしたものを出すと、その少しくどいくらいの甘さを、さっと中和してくれる紅茶の組み合わせを気に入って下さった。
姪にも食べさせてやりたいという彼女のためにバターサンドと、抹茶クリームのビスケットをお土産に持たせることになった。
多少なり打ち解けた後で、幾つかの文化の違い等を教えてもらう段になり、シーマ領主との会談についての意見合わせを行った。
シーマ領では余り女性の社会的地位は高くなく、会談ではユーリが主に対応する方が家臣団を刺激しないということになった。
ただし、ボクたちの代表は実際的にも便宜上でも姫であるボクなのでボクも同席する。
必要以上に女性を連れていくのも甘くみられる原因になりうるということで、ボクの侍女としてエッラとフィサリスをつれていく他は留守番ということになった。
明日昼頃に迎えの馬車が来ることになり、進物の類もマナ姫と相談して決めた。
とりあえず昼も過ぎているため、謁見は明日にすることになり、今日のところはマナ姫との親睦をさらに深めた。
マナ姫は二時間程リトルプリンセス級に滞在し、特にベアトリカとの別れれを惜しみながら、船着き場の倉庫で待たされていた護衛や侍女達とともに帰っていった。
本当にちょっとマナ姫がお茶を飲んでクマを撫で回しただけですね。
次回はちょっとは動きがあるはずです。です。
※18/2/14 マナのステータスが低かったので上方修正、一部表現を変更しました。




