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第127話:上陸、シーマ領

 リトルプリンセス級一番艦アイラ号は、次なる目的地である南セントール亜大陸の沖へ到着した。

 亜大陸は、セントール本大陸の南西部ヒヨウ地方の先端にくっついた陸地でかなり大きな半島である。


 かつては13の小国に別れていたが、長い戦乱と中央による調停の果て、現在は北西部のニャベシマ家、北東部のダディヤナ家、南部のシーマ家、南東部のシコク家によって分割統治されている。


 アイラ号はそのうちシーマ領への上陸のため、昨夜のうちに沖合に到着、無人の小島近くに錨を下ろして停泊していた。


------

(アイラ視点)

 マイヒャンを離脱した翌日、つまり昨日の夜、リトルプリンセス級はシーマ領の沖合40キロほどの海域に到達した。

 南セントール亜大陸は本大陸がやや北東-南西に引き伸ばした蝦夷地の様な形をしているのに対して、九州の主に豊後、日向地方を中心に東に引き伸ばした様な形をしている。

 そしてそれが、本大陸の渡島半島状の地形の先端に豊前地方の辺りで接続した形だ。


 シーマ領はそのうち薩摩、大隅半島に当たる位置を納めているシュゴの家であるそうで、セントールの言葉ではさらに分けてバサラシュゴと呼ばれることがある家柄らしい。

 これは元々中央、ミカドの指名を受けずに家を興して、力を失ったシュゴ家を倒したり、シュゴ家から独立する形で領地を切り取り、後にその統治能力などを認められてミカドからシュゴ家に認められた家を指すという。


 そのバサラシュゴのシーマ家に対して、亜大陸側の残り3つの家は全てが新たにミカドから任命されたシュゴ家であるため、かつては亜大陸の半分を支配下に置き覇を唱えようとしたシーマ家も数年前からは中央を敵にしないために、他の3家と協調路線をとり、本大陸側の勢力とも積極的に交易し、ミカドにも献上品を多く出して地盤固めに勤しんでいたとか、他の3家がミカドから認められた領地も当時はシーマ家が実効支配していたが、シーマ家が正式なシュゴと認められることと引き換えに手放したとか・・・


 恐らく2、3年では状況は変わっていないだろう、今も手を繋ぐことのできる勢力があるならば繋ぎたいはずだ。

 それが例えば別の大陸の勢力だとしても、少なくともここまで単艦で航行してくる能力があるならば益のある交流相手と認めてくれるのではないか?

 その期待を基本として、ボクたちはシーマ家との接触を図ることにした。



「それにしても、いきなり乗り付けて本当に危険はないの?」

 他の皆は海が身近でない者ばかりで、不思議に思っていないけれど、普通港に見知らぬ船が突然現れたら警戒される。

 最悪有無を言わさずに攻撃されるかもしれない。

 海からやって来るのは悪辣な侵略者の可能性があるからだ。


 現に前周ではセントール大陸のダーテ帝国を名乗る勢力が、サテュロスの北の港に船団で現れ、武力を放棄しての隷属を要求してきた。

 アクアセイバーなどの戦力が配備されていたため事なきを得たが、こちらはそんな恫喝をする勢力を輩出した大陸だ。

 当然そういう文化にあるならば、怪しい船には容赦しないであろう。


 しかしナタリィの解答はボクの不安感をある程度解消するものだった。

「一応セントールの文化であれば、普通戦を仕掛ける場合は先に要求することから始めます。落としどころを先に伝えておかないと降伏も出来ませんから、無論最初から皆殺しにするつもりならば先制攻撃を仕掛けますが、街を侵略するのに全滅させては旨味が少ないですから普通は要求しますし、アイラ号はそれなりに大きい船ですが、港街を1つ滅ぼすには足りない外見ですから、いきなり襲われることはないはずです。それに奇襲ならば港ではなく、人気の少ない所から上陸します。」

 なるほど、と納得する。


「それなら、先ず接近して、入港させてもらう必要があるね・・・セントールの作法は信号旗かドラ、松明を使ってのパターンだと言っていたね」

「はい、その日の天候である程度使い分けます。今日は晴れていますが、風が少しあるので恐らくは旗ですね」

 ナタリィは通信用にあらかじめ用意してきた赤と黒の旗を示しながら首肯く。


 要は旗なら左右の色と上げ下ろし、ドラなら短音、長音、松明なら見せたり隠したりの長さがパターン化されていて、港と船との通信手段となっている。

 最低限の情報はナタリィ達からもたらされていたので何とか入港にはこぎつけそうだ。


 後は誠心誠意説明して、何とかシーマ家の当主や外交担当と接触を持たなければならない。


---

 ナタリィの予見した通り、リトルプリンセスは全く問題なく、シーマ領の根拠地ナイキに近い、港町カジトに入港した。

 地理的に言えば亜大陸南端のこの地域は、規模こそ10倍以上であるが、薩摩半島と大隅半島の間に桜島がない錦江湾の西側と考えるのが分かりやすい。

 カジト港からナイキまでは僅か5キロメートルほどで、ほとんど同じ街という認識だそうだ


「やはり艦にプリンセスとアイラの名前の両方が入っているのが効きましたね」

 と言いながら艦を見上げるナタリィ。


 これだけの艦に年若い者ばかりが乗り、尚且つ艦に掘られた文字にお姫様とあれば、ある程度の権威が察せられるらしい。

 港に着いた直後、担当の役人らしい者がやって来て用件を尋ねてきたため

 サテュロス大陸から航路の確認と親善にどのためにやって来た旨を伝えると、すぐに城に伺いを立てるのでお待ち頂きたいと、言われて待機することになった。


 少し退屈ではあるけれど、約束もなく突然現れた外国の船籍を名乗る艦の対応なんて町の役人には余る案件であろうから仕方ない。

 ボクたちだって無駄に波風立てたい訳ではないしね。


「そう考えると、サリィ姉様達の悪戯ではなく餞別だったと言えなくもないね、確かに艦にプリンセスとあるとないとでは説得力がちがう・・・・ってそれならやっぱり別にアイラ号の部分は要らないね、リトルプリンセス号で良かったはずだよ」

 一瞬ジークやサリィの悪戯顔を許してもいいかななんて考えたけれど、この件はやっぱり帰国したらグチグチ言ってやろうと思う。


 それはそれとして・・・

「5キロメートル位にしては遅いね?」

 もうかれこれ二時間近く経っている。

 とっくにナイキからの返信が来てもいい頃だけれど、港町に動きはなくて、ボクたちは甲板の上にテーブルを出して簡易お茶会中、とはいえさすがに飽きてきたね。


 ボクの意見を皆首肯しながら町に視線をやるけれど、町は相変わらず港町の活気はあるものの、リトルプリンセス級が入港した大型船用らしいこちら側の区域には誰も訪れない。

 最初に接触をしてきた役人以来放置されている。


「誰もがジークハルト陛下の様に、短い時間である程度考えられた決断を下せる訳ではありませんよ?」

 とナタリィがフォローする。

 確かにジークは判断力に長けたリーダーだ。

 あの判断力は目を見張るものがある。


 ボクたちは最初はシーマ家の対応に対する対応方法をいくつか考えていたけれど、その話し合いは30分ほどかかった。

 意見と認識の擦り合わせもだけれど、まだ見落としはないかとか本当にその対応でいいのかと確信が持てないところがあった。


 一応ボクとユーリは前の周回での経験もあると言うのに、中々ままならない。

 ジークなら恐らく10分ほどで判断するだろう。


 基本部分としては、代表者の登城を求められた場合は、現段階ではベアトリカを人目に晒したいとは考えていないし、大半を留守番に残してボクとユーリ、ナタリィ辺りが挨拶に行く予定。

 また、全員が城に行く様に求められた場合はボクの収納にリトルプリンセス級を収納して、ベアトリカの同行をお願いすることになる。

 リトルプリンセス級は機密の塊で、こちらからセントールに対する防御の要のひとつである。

 易々と無防備には出来ない。


 幸いにして、ボクの収納はかなりの容量があり、以前にプリンセス級でも収まることを確認しているので、リトルプリンセスも収まるだろう。



 さらに10分ほどたった。

 すでにアイリスとアイビスは飽きてしまって、ベアトリカの背中に乗って遊び始めた。

 いや13歳・・・


 とはいえボクも待ちくたびれてきて、手慰みにアリエスとハマリエル、少しなれてきたのでアリーとマリーと略す様になったけれど、二人のセイバー装備の調整を始めた。

 二人のものは個人用の微調整を受けていないモノなので、四肢の出力調整や対魔法障壁の反応範囲を絞ったりを本人の希望を聞いて弄る。

 分解整備する時間はないため、装甲と装甲の間の魔法陣は弄れないので、胴鎧の魔石回路の設定で無理の無い範囲で調整する。

 完全にはほど遠いだろうけれど少しはましになるはずだ。


「アイラ様、来た様です」

 そんな作業をしているボクにエイラが来客を告げる。

 二人にセイバーを籠手に収納してもらい、港につけている左舷側を確認すると確かに港町に動きがある。

 中央通りと呼ぶべきか、道幅の広い道を旗指し物を伴った一団がゆっくりとこちらに近づいてきている。

 規模は200人位か?


「迎えの行列かな、それともリトルプリンセスを抑える兵かな?」

 ユーリが呟く。

 前者なら問題ないが、後者なら残念だが逃亡させてもらう。

 妹達を守るためなら町の一つ潰すことになっても仕方ない。


 相手はそうは思っていないだろうけれど、このカジト港の命運が迫り来る一団の目的に委ねられ、足音が徐々に近づいてきていた。


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