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第126話:箱

 嵐の大洋の盾を回収したアイラは、その直後台座の下から出てきた意味深な箱も回収した。

 箱には剣を隠した盾がデザインされており、さらに箱の中には、七つの小箱が納められていた。


 小箱には外箱と同様にそれぞれ何かの紋章が象られており、小箱の中には、弓や槍などの武具を模した小物が入っていた。

 それらが何を表しているのかは分からなかったが、危険が無さそうな事だけ確かめたアイラは、漁人たちとの接触はしないまま仲間の後を追い、マイヒャンの海域を離脱した。


------

(アイラ視点)

 暗転を抜けると、そこは甲板の上であった

目の前には不安そうに艫側の海を見つめるアイリスとアイビス、それに神楽の後ろ姿があった。

 甲板に着地すると真っ先に気が付いて振り向いたのは神楽だ。

「お帰りなさい、アイラさん」

 その声は落ち着いたもので、ボクが無事で戻ることは一切疑っていなかったのだとわかる。


 それでも心配してくれていたのも良くわかる安堵して弛んだ表情は、幼い日の彼女のそれと何ら変わることのない、育ちの良さと人懐こさを感じさせた。

「ただいまカグラ、アイリスとアイビスも、見守っていてくれたんだ?」

 一番最初に振り向いたのは神楽だけれど、一番早くボクの体に抱きついたのはアイリスだ。

 もう13歳だと言うのに、感情表現がストレートで子どもみたいだ。

 未成年者なのは確かなんだけれどね


「おかえりアイラ!竜巻が急に小さくなったのに中々戻って来ないから、少し心配だったんだよ?」

 いいながらほっぺを膨らますその表情は、やっぱり年齢不相応に幼く見える。


 隣で一緒になってボクの左手を握っているアイビスも、甘えん坊で幼く見えるけれど、ここで絶対に子ども扱いをしてはいけない。

 何せこの二人はボクと共にユーリを支える未来の侯爵夫人なのだから。

「心配かけてごめんね、とりあえずマイヒャンの用事は終わらせたから、アイリスのおかげで素早く安全に帰ってこられた。ありがとうね?」


 ボクに抱きついている柔らかく温かい体、その細い腰に空いている腕を回して抱き寄せると、ボクのよりも僅かに大きく膨らんでいる胸が、ボクの同じ場所にくっついてぐにゃりと潰れ合う。

 間に柔らかい布地を4枚挟んでも、柔らかいものは柔らかいままで、生まれる前から密着していたボクたちの間の距離は容易く埋まる。


「血が繋がってると追いかけられるんだっけ?」

 と、不思議そうに首を傾げるアイリス、至近距離にあるその頬かおでこにキスしたくなるけれど、子ども扱いは我慢しておく。

 こうやって子どもみたいに甘えてくるくせに・・・

「私、みなさんに伝えて来ますね」

 アイビスは名残惜しそうにしながらもボクの手を話して部屋の方へ向かう。

「すぐにそっちに行くから、皆に室内に集まってもらってて!」

 その背中に声をかけると、アイビスはわかりました!と少しはしゃぎ気味に歩いていく。


「普段からお見送りとか、留守番とか、慣らされているつもりでしたが、船から降りているアイラさんを置いて出航するのは、また少し違う怖さがありました。こういう気持ちはもうごめんです」

 言いながら神楽がボクの後ろに回り込んで抱きすくめる。

 彼女の慈愛を具現化した様な温もりが、ボクの首の辺りを暖めて、体の前と後ろを心地よい温かさに包まれてなんとも言えない幸せを感じる。

 夏なのに、温かいのが気持ちいいなんてちょっぴり不思議。



 少しの間温もりを堪能した後、艦内に戻ると、すでにフィサリスとアリエス以外が揃っていた。

 二人が今は操艦中らしい。

 ボクの単独行動は所詮30分程度のことだったので、神楽、アイリス、アイビス以外はそう不安も感じていなかったみたいで、簡単にただいまとおかえりのあいさつを済ませてから、調査結果の報告をする。



「嵐の大洋の魔剣は盾の形だったんだね、それも、かなり大きい」

 さすがに室内ではあの巨大な盾を取り出すこともできないので、簡単に見取り図の様なものを描いて説明したけれど、その大きさに皆どよめいた。

 ユーリは、それを見ながら首をひねる。


 ソレはそうだろう、盾の大きさはナタリィから聞いたイサナ族系最大種の魚人の成体でも取り回しが出来なさそうな巨大さで、神楽の飛行盾で見慣れていなければ、盾だという発想もできなかっただろう。

 それに、百年の研鑽でかなり高められているアイラの強化魔法でも持ち上げるのがやっとで台座と離れたらすぐに収納しなければならなかった。

 一体誰があんな巨大な盾を使うと言うのか?


 元々人が使う前提ではないだけかもしれないけど、それならどうして武具の形をしているのか?

 と、今さらながらに魔剣の根本に疑問も覚える。

 ナタリィたちの説明では、約1万年前の大陸の獣の騒動の際、グリーデザイア族の移動を阻害する地形を生成し、かつ以前はグリーデザイアが賄っていた魔物から新しい亜人、そしてそれを導く魔王を産み出す権能を代わりに満たすための機構として、魔剣は突き立てられた。

 それをそのまま鍵として神々はアシハラに隠れてしまったと言う。


 それがどうして一様に武具の形をしているのか、同じ大陸に刺さっているのが全部同じ形だとか、各大陸に同じ組合せで刺さってるとかでもない。

 武器である事に、なにか意味があるのだろうか?

 嵐の大洋の遺跡はなにかサテュロスの遺跡と趣きが違ったのもあるけれど、裏口に向かって正面を向いていた台座、まるでボクのためにあるみたいに仕掛けられた様な封印、あれは・・・


「アイラ、この小箱の紋章の幾つかには見覚えがあります。特にこの箱のモノはセントール、ヒヨウ地方のダイミョウ、ニコ家の家紋の様に見えます」

 考え事をしていると、ナタリィが気になることを言い始めた。

 ニコ家というと、蝦夷地で言う渡島半島に当たる南セントールとの境界を領有するダイミョウ家だったか?


「ということは、これはやっぱり魔剣のありかと形を示しているのかな?」

 ソレは初めに箱の中をあらためた時に思い浮かんだこと、魔剣の案内に関係することだと思い浮かべた状態でそんな意味深なモノを示されては、それ以外頭に浮かばなかった。


「恐らくは、ですがニコ家がダイミョウとなったのはこの数百年のことだと聞いています。遺跡に収まっていた箱の中ということは、約1万年から収まっていたということですから・・・」

 ナタリィは言葉をぼかしたけれど、その言わんとすることはわかる。

 1万年ほど前に隠されたはずの箱の中に、現在の、それもこの何百年かで台頭した家の家紋がすでに予言されていると言うのは常識的ではない。

 しかし、純粋な心を持った娘達の反応は違った。


「すごいねー!さすが神様達の残した遺物だね!」

 アイリスは目を爛々とさせて感心している。

 そういう不思議をそうやって納得できてしまうのは信仰心か、それとも子供心のなせる業なのだろうか?


 しかし精神的に成熟しつつあるナディアにソル、エイラも目を輝かせているのをみると、子供心故ではなさそうだし、信仰心のあまりないアイビスも驚いているからそれだけでも無さそうだ。

 どちらにせよ、この場にいるほとんどの人は神のなせる業だと納得してしまっている。


 そしてボク自身、あの遺跡の仕掛けがあまりにもボクに都合の良かったことや、裏道であったはずの侵入口以外にルートか無さそうだったことから、これを仕掛けた神々がこの周回で、「アイラ」が魔剣回収に着手することを予見していたのではないかと、考え始めている。


 転生者、周回者、龍人までいる世界なのだから、神様くらいいても何ら不思議ではないのかもしれない、何せ一部魔法を唱えるのに神王の名前が入っている位だ。

 それで魔法が発動できるのだから、やはり神王は実在し、神話の通りの権能を有しているのだろう。

 だとすれば今この瞬間のことを全て予見し仕込みを行っていても何ら不思議はない?


「アイラさん、難しい顔をしています」

 いつの間にかボクの顔を除き込んでいた神楽の可愛い顔が目の前にある。

 日ノ本であれば、きっとお義姉さんたちと同じ学校に四つ子で入学して、美人だから四人ともモテて、神楽だけ既婚者になっていただろうから名前が違って、でも顔の作りが大体同じだから目立っていたに違いない。

 でも、雪羅ちゃん辺りは男の子とも仲が良かったし、神楽の次に結婚とかしたかもしれないね。


 神楽は今だって可愛いし、良く幸せそうに微笑んでいるけれど、けれど、四人揃って居る時は更に幸せそうだったし、神楽と雪羅ちゃんを膝に載せてテレビを見たり、神楽が料理を手伝っている間に刹那ちゃんと二人で紙を折って屑入れを作ってみたり、まだ慣れてなかった頃の彼方ちゃんと居間で二人きりになった時に、ふと名前を呼んだら、「ピイ!」と叫んで立ち上がろうとして、テーブルで足を打って尻餅を付いて、大泣きしてしまったりと、彼女たちとの思い出はボクが思い出して笑えるのだから、神楽はもっとそのはずだ。


 今はまだ彼女を帰す方法もわからないけれど、それでも笑っていてほしいから、ボクも笑顔を浮かべる。

「本当に神王様がいたのなら、ボクたちがこうして旅立つことも知っていたのかもしれないね」

 何せ神王は全知万能なのだから、しかしその言葉も不思議に思えてきた。

 全てを知り、不可能なことがないのであれば、全知全能のはずなのに、なぜ神王を讃える言葉は全知万能なのか?


 出来ないことがあった?

 実際予知はしていたらしく思えるけどグリーデザイアやアンヘルの裏切りや、大陸の獣の事件を止められなかったし、予知はできても回避できないこともあるということだ。

 そしてナタリィは世界を繰り返すことで神々はなにかを成そうとしていると言った。

 その回避できないなにかを軽減しようとしている?

 大陸の獣の事件すら起きたこの世界で、一体何を成そうとしているのか・・・

「アイラさん、また難しい顔してます」


 おっといけない、また神楽に不安を感じさせてしまった。

 神楽だけじゃなくてアイリスやアイビスもボクの顔を見つめて、皆もいつの間にか話し合いを止めてボクの方を見ていた。

「あぁうん、ちょっと・・・」

「わかったトイレだ!」

 何かいいわけをしようと考えているとアイリスが無邪気に叫んだ。

 

 確かに僅かに尿意はある。

 あるけれどさ、ボクのイメージって・・・

「うん、いきたいなってちょっと我慢してる」

 それでも他にはごまかす案もないので、乗っかる。

 羞恥で頬が熱くなるのは、暁では少なかった経験、少なくともトイレのことくらいで羞恥を

感じる様になったのはアイラになったあとのことだ。


「アイラ様、我慢は体によくありません」

 ボクのトイレと聴いて、エッラとエイラが後ろにピタリとつく。

 別に長いスカートでもないし、長いスカートをはいていても簡単な構造の服であれば、ボクは収納と暁天の機能を利用して簡単に着脱ができる。

 それでも貴族が、無防備なトイレや入浴の際に伴を連れないのは、居住区全体がガッチリ防備されている城や邸以外ではありえないと、必ず誰かが伴をする。


 気分を変えたい事もあって、ボクは一度部屋を出た。



 その後、トリエラと入れ替りでフィサリスも話し合いに加わり、七つの小箱のうち3つについて、蝦夷地で言う渡島半島に当たるヒヨウ地方のニコ家、内浦湾に当たる周辺を支配しているファントリー地方のサンキ家、留萌に当たるアシクラ地方を支配するエイゼン家の家紋であるらしいこと、そして残り四つについては不確かであるが、恐らくダイミョウ家のものとして見覚えがあるものが3つと、見覚えのないものが1つ含まれており、彼女たちが覚えているダイミョウ、コンセン家の家紋が含まれていないことが確認された。


 家紋が変わったのか、ダイミョウ家が代わったのか・・・

 何にせよ明後日には南セントール亜大陸にたどり着く、そこで何か新しい情報も手に入るだろう。


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