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第125話:嵐の大洋

 リトルプリンセス級一番艦アイラ号がサテュロス大陸を発った2日後の早朝、艦はすでに島嶼国家マイヒャンの海域へと至っていた。

 最高速なら十五時間ほどでたどり着ける距離を、調整して40時間以上かけてたどり着いたのには訳がある。


 ドラグーンの少女ナタリィ・デンドロビウムからの提案で、彼らはマイヒャンとの接触を最低限、つまり可能な限り素通りすることにした。


 彼女たちの目的地のひとつである嵐の大洋は、マイヒャンの中ではシシ族の縄張りとする領域に近い、彼らは早朝には漁にでないため接触を避ける為にこの時間帯での接近を選んだ。


 またこの嵐の大洋への接近は、新型艦でスクリュー動力のアイラ号をしても、危険なものである。

 その為もうひとつ、彼女たちは作戦を立てていた。

------

(アイラ視点)

 必要なのはなるべく安全な航海だ。

 魔剣回収と奉納の旅に出るにあたり、共にユーリを支える妻やメイドとして、秘密にできずにナタリィたちとも相談の上、ドラグーンのことやこれまでの事を話して皆を旅に連れてきたけれど、彼女たちを無駄に冒険させるつもりはない。


 仮にも軍官学校を卒業した身なので全く戦えないということはないだろうけれど、アイリスやアイビス、トリエラは性格上荒事に向かない。

 トリエラは性格や戦闘能力以上にうっかりさんが、怖いのだけれども・・・


 その彼女たちを荒事から遠ざけるためならボクが一人で遺跡に潜るくらいはする。

 きっかけは、嵐の大洋の性質と侵入方法を模索した昨日の話し合い。


 嵐の大洋はマイヒャン最大の島であるディプ島のやや南よりの西側シシ族が縄張りとするシシ島との間の岩礁海域にある。

 カルデラ島であるディプ島に上陸できそうなポイントは二つあり、その片方はそもそも出入出来ないほど波の荒い複雑な沿岸部からの上陸ルート、それも島の中に入っていくには長い道悪の陸路がある。

 もうひとつは件の嵐の大洋により侵入が命がけとなる海域だが、こちらには小型、中型の魚人なら出入りできない事もない岩場があり、ここはもちろん一般的なヒトや獣人も出入りできる道となるが、船が使えないため岩場迄は泳ぐ必要がある。


 話を戻そう。

 嵐の大洋の基点周辺は岩礁海域で、竜巻の影響で波が荒いため、いかに頑健な艦体を持つリトルプリンセス級とはいえ、進入は困難どころか不可能だ。

 さらに、基点の遺跡は竜巻の内部にあり、侵入するには波が起こっていない場所から深く潜り竜巻の中心部迄潜航し、遺跡外縁に当たる海底洞窟に侵入、遺跡入り口は地上部にあり、恒例の裏口利用の為には光精の加護が必要、誂えた様にボクはソレを持っている。

 光の精霊が見えたことは無いけれど、ここの裏口は加護持ちが近付くだけで解放されると口伝されているそうだ。


 本来ボクには水中を無呼吸で長距離移動する術はない。

 しかしボクには「跳躍」がある。

 これも誂えた様な展開だ。

 今まで行ったことのない場所でも、安全な中心部への距離がわかっている為跳躍は可能だし、もし失敗しても即座にアイリスの元へ跳躍すれば安全な場所に戻れる。


 そして例のマイヒャンになるべく接触しないという条件を満たすため、ボクたちが選んだ方法は・・・


「それじゃあ、また後で」

 ボクは心配そうにボクを見る妹の頭に手を置きながら、出発の挨拶をする。

「アイラ、ごめんね一緒にいけなくて」

 申し訳なさそうに、ユーリがアイリスを安心させる様に後ろから抱き締めながら微笑みで見送る。


「アイラさん、困った時は無理をせずにすぐに戻ってくださいね、助けが必要な時はなにがあってもすぐに駆け付けますから、連絡をくださいね」

 神楽が心配そうにボクが腰につけた暁天と、下げ緒とに手を滑らせながら見送りの言葉をくれる。


「アイラだけに背負わせてしまってご免なさい、私も竜巻の突破だけならできるのですが・・・」

 ナタリィたちは龍(竜)態になれば竜巻の海域は超えられる。

 けれど大海原で小さな船と飛行状態で行き会うのはなかなかに難しい、ナタリィは目立つしね。


 ボクが遺跡に行く間、リトルプリンセス級はセントールへの航路を進むことにした。

 ボクの跳躍ならばアイリスの事を追いかけられるし、一人で数百㎞ならば問題なく移動が可能だ。

 だからこの選択、一人で嵐の大洋に入り、帰ってくる。


 竜巻中心部との距離を保つため、現在リトルプリンセス級は投錨中、乗員全員から見送りの言葉を貰ってから、ボクは跳躍した。


 跳躍特有の視界の暗転を抜けると、そこは多分小さな島の少しだけ上だった。

 四方を見ても風と巻き上げられた海水とが壁になっていて外の事は見えない。

 ただ、外からみれば竜巻の様だったのに、中心に凪いでいるところがあるのを見ると、どうやらこれは地球で言う竜巻よりも台風に近いものなのだと思う。

 むしろ目がこの狭さで空がハッキリと視認できるほど開けているのだから台風とも違うか・・・


 魔剣で引き起こされている地形だけあって、自然のものではない。

 中のモノを人目から遠ざけ、外の地形に影響を与える機構、こんなものをどうやって産み出したのか、神々の力は本当に不可思議だ。

 それに・・・


「もしかすると神々は初めから、ボクが魔剣回収に着手することを知っていたのではないかって疑いたくなるね」

 目の前の遺跡には入り口、大きな入り口が無造作に口を広げている。

 そしてナタリィから聞いていた裏口はそこから西へ30メートルほど隣にある。

 その裏口の上には漢字の「光」に良く似た図形が象られている。

 レタリングされた様な心地よい納まりの良さ、懐かしさに、もう少し良く見てみたいと思ったけれど、ボクが近付くとその「光」のエンブレムは壁の中へ吸い込まれる様に引っ込んで行って、代わりにその下の裏口が解放された。


 気を取り直して、内部に入ると見た感じは自然の洞窟風、しかし僅か10メートルばかり進むと明らかに人造物になる。

 階段は年月を感じさせないほどしっかりとしていて、滑らないのに表面には傷ひとつない。


 少し下るとまた扉があり、ボクが近付くとすんなりと扉が開く。

 中に入ると、そこに台座と大きな盾が鎮座していた。

 その輪郭はかつて前周でエッラの用いていたヴィントアルタールの様な凧型だが、縦おおよそ8メートル、最大幅は6メートル弱位だろうか?

 その威容はまさに神具や神宝と呼ぶに相応しい。

 サテュロスにあったそれらと比べると明らかに人が扱える大きさではない。


「おかしい」

 その圧倒的存在感の為に気付くのが遅れたが、違和感を言葉に出してしまえばなるほどと気付くことがある。

 部屋の中にボクが入ってきた以外の扉がなく、裏道であるはずのボクの侵入路に向かって台座が正面を向いている。

 これではまるで・・・


 そういえば、アスタリ湖の表側の道に残されていたメッセージでも、裏道に残されていたメッセージでも、嵐の大洋他、各大陸の一番目にあたる場所に来れば魔剣の場所を案内できると言っていたにも関わらず、今のところ映像装置らしい物もない。

「いや、とにかく魔剣を抜こう」

 今の人生では一人でいることに慣れていないからか、独り言が増えていけない。


 ボクは強化魔法をかけ盾を掴むといつも通りに引抜き、収納した。

 するとすぐさま、小刻みな振動が足元から体に伝わってくる。

 注意深く周囲を観察していると、ソレはどうやら盾の刺さっていた台座の下が震源の様だ。

「これまでと違うパターンだね」

 っと、いけないいけない、また独り言


 念のため距離を取り、台座に注視していると、丁度盾の下部が刺さっていた場所が割れて、下から競り上がってくるものがある。

 ホログラフの装置かと思ったがどうも違ったみたいだね・・・?


 地面から競りだしてきたのは、ボクの胴体位の金属製の箱だった。

 今さら罠ということもないだろうけれど、注意深く箱を観察すると、今回収した盾に良く似た大きな盾のエンブレムが彫られている。

 盾にはまん中で線が引かれ、右半分には翼、左半分には馬っぽい生き物がデザインされている。

 さらに良くみれば、盾の上側に柄らしきもの、下側に剣か鞘の先端が突き出ているので、盾の裏に剣が収まる構造なのだろうか?

 そういえば、盾の両側になにか羽の様な突起もみられるね?

 いやエンブレムにそんなことを気にしても仕方がないのかな?


 箱は持ち出せる様だったので一度収納した。

 他には特になにも見当たらない。

 艦の上で開けるのも怖いし、密室内も怖いので一度地上に出ることにした。


 地上に戻ると、先ほどまでより明らかに風が弱まっていて、徐々に竜巻の高さが下がっている様に見えた。

「急ごう」

 収納した箱を取り出し蓋を開けると中には七つの小さな箱が入っていた。


 小箱にもそれぞれなにかエンブレムがデザインされていて中にはそれぞれ武器の形をした小物が納められていた。

 組み合わせにも意味があるかもしれないので、危険が無さそうなことだけ確認して、元の通りに箱に納めると再度収納する。

 皆と別れてから30分ほど経ったか?

 周りをみれば竜巻はますますその勢いを失い、今にも収まりそうになっている。

 もしも有史以来吹き荒れた嵐が急に収まったとしたらボクは危ないことは嫌いなので見に行かないけれど、絶対に見に来る者はいる。

 早く立ち去った方がいいだろう。


 今出てきた裏口は、ボクが出たあと一部が崩れ見た目はただの岩場になっている。

 アスタリ湖のものと同様、解放された後はあると知らなければ見つからなくなる仕組みらしい。

 ボクの上陸した痕跡が無さそうなことを確認したボクは、ボクの帰りをいまかいまかと待っているはずの可愛い妹の姿を想像し、跳躍した。

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