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第122話:マハ

 角笛の鎌の魔剣が回収されてから2週間経った。

 魔剣の回収を終えたアイラたちはベアトリカとエイラ、トリエラ、フィサリスを王都に残し、翌日ホーリーウッドへと空路で帰り、約束していた通り、オルセーにクリストリカを紹介した。


 彼女がイシュタルトに来た表向きの理由付けは、特別な家柄である彼女を幼いうちからこちらの大陸で親しませ、将来外交に必要になるであろう、異文化との親和性を高めるための留学の様なものであるが、内向きの理由付けでは彼女はアイラが彼女たちの国に外遊している間の人質代わり、しかし実際の理由は彼女自身がオルセーに会いたかったためにやってきただけである。

 表向きの理由と内向きの理由を聞かされているオルセーは、幼い彼女に嫌な思いをさせないためにごくごく自然体で過ごし、クリストリカはその扱いに満足したのか週に一度はオルセーの元に出かける約束を取り付けた。


 またアイラたちはホーリーウッドにいる間に彼女と可能な限りの人間を顔合わせさせた。

 アイラたちがイシュタルトを離れている間、彼女はずっとこの街で過ごさねばならない、幸いにしてホーリーウッド家の女性陣、エミリアやユーディット、フローレンスらとの顔あわせも良好であり、かまってくれる人間には事欠かないが、それでも顔なじみは少ないより多いほうが良いということで、アイラは旅立つ前の挨拶周りをかねて、これまでに知り合った多くの人間にクリストリカを紹介した。

 貴族や商人、パン職人、旅館の若女将、おねえなど身分にとらわれないアイラの交友関係たちであったが、みなお行儀の良いかわいい幼女を好ましく思うという点では一致しており、クリストリカはそのすべての人間から好かれ、彼女も紹介された人々を快いと感じた。


 ホーリーウッドでの挨拶を終えたアイラたちはその後クリストリカをホーリーウッドに残し、末妹との約束どおり再度王都へ戻って、残った猶予日を屋敷で過ごした。


------

(アイラ視点)

 結局あれからバフォメットさんからの接触はなかった。

 まだ何か準備が終わっていないということだろうか?


 イシュタルト側としては、角笛周辺地域の魔物が減り新しい町ができることは歓迎されることだ。

 角笛の地形は峻険で、魔物の素材の利用も元々多くないので困ることは少ない。

 そのあたりは他の魔剣の地形と同じだ。

 サラマンダーやペンギンみたいに鉱物生成の素材として優秀なのはちょっともったいない気がしないでもないけれど、あれらの危険度は大陸最強と歌われているタイガータイプの比ではない。

 コウモリやトンボはそうでもないのだけれど、それでも他の一般的な魔物と動きが違いすぎる上生息域が限られていたせいで討伐の定石が確立していないのだ。


 いつか『ヒトによる開発のせいで絶滅してしまった魔物』とかいって、未来の歴史学者や生物学者に罵られるかもしれないけれど、その役目はジークが引き受けてくれるだろう。


 気持ちがそれてしまったが、イシュタルト側ではバフォメットの申し出を受け入れる方針となった。

 今のところは王族と結晶通信機で話したホーリーウッド、スザク両侯爵家のみの取り決めだが、バフォメットさんが王都に来た暁には正式に取り決めが交わされることだろう。

 バフォメットさんは王領所属の新興貴族として取り立てるという形で納得してくれるかわからないけれど、あの時の態度からして、王位にこだわっているというよりは、新しく生まれる亜人たちに居場所を作ることを本題にしていたはずだ・・・たぶん。


 ホルンの王とか言っちゃってたけれど、さすがにジーク以外にはバフォメットって名乗らないよね・・・?

 一応ナタリィたち龍の島から監視役も用意されていて、クリスのことや、バフォメットの様子は見ていてくれるらしいのでボクたちは安心して旅に出ることになった。


 監視役の中にはケフェウスさんという、クリストリカの二人いるお兄さんの下の方が混じっているらしいので安心だ。

 お兄さんは568歳のまだ若い(!)ドラグーンらしいけれどクリスが地上に降りることを決めた後彼女を見守るために勤め先の官庁を辞めて、地上周りの訓練を受けてきたらしい。

 クリスには内緒で・・・いいお兄ちゃんだ。


 さて、現在ボクたちは、旧ペイルゼンの港町であるマハにいる。

 一時は、ペイルゼンで第二の都市と言われるほど栄えたが、近年は第1王子の本拠地として、ペイルゼンの法律に反する形での奴隷の輸出が行われていた。

 住民の中にも行方不明の者が居り、いまだそのほとんどは帰ってきていない。

 それが奴隷になったのか、口封じされたのかすらわからない。


 第1王子の廃嫡後は、第2王子アイムザットが一時入ったが、その後のイシュタルトへの併合の初期段階でこの地域にはペイロードの手が入っている。

 違法奴隷貿易の調査に関わる旧ヴェンシン系の取り調べと、マハの調査が同時にできる方が都合が良かったからだ。


 マハの旧市街はそのまま残したが、それまで沿岸整備の技術不足のために放置されていた大きな岬を開発整備して、中型艦船以上の為の港が整備された。

 これは対海外を意識した防衛拠点の1つで、沿岸には火力は高くないが精密射撃に向いた小型敷設式魔導砲と火精石を降り注がせることで敵艦を火事にすることを目的としたカタパルト、そしてある程度近づいた船を撃沈させるための中型魔導砲が敷設された。

 大型魔導砲も設置を試みたのだが、せっかく整備した港ごと破壊しかねないということで見送りとなった。


 そんな新しいマハの軍港とマハの東部に拡張する様に設けられた新市街は軍港に荷を運び易い様に良く整備されている。

 そしてその軍港には、巨大な一枚布を艦首に被せられた新造艦、リトルプリンセス級一番艦が入港していた。

 周囲には北方沿岸部の守備を司る北方艦隊の艦がその足を休めている。


 まぁ艦隊と言っても僅かに五隻、現在イシュタルトが保有する戦闘用スクリュー動力艦は、プリンセス級戦闘艦4隻、ナイト級近衛艦16隻、そして目の前のリトルプリンセスだけである。

 大きさだけならK級と同規模のスクリュー船が川を使った水運用に配備されているが、あくまでも輸送用で、武装も装甲も施されていない。


 後はルクセンティアの工廠でリトルプリンセス級までで得たノウハウを元にドーター級(仮)の開発が始まっているはずだが、そちらはすでにボクの手を離れている。

 元々造船は専門ではないので蓄えた物を吐き出してしまえば、後は技術者達のテーブルだ。


 港には1000人を超える民衆が詰めかけている。

 西の侯爵家の嫡孫と降嫁したプリンセスボク、そして同じく彼の嫁となった南の侯爵の長女と(おまけに男爵家の三女)が、新造艦で新婚旅行に出るというので、娯楽に飢えた人々が集まったのだ。

 軍港部分には民衆は入れないが、すぐとなりの一般港に大量の人影が見えている。


 除幕式には、ボクたちの他に、王家からサリィ姉様がシシィを伴って、ペイロード関係からは新婚のラピスとヒースが、モリオンとシトリンを連れて見送りに来てくれている。

 モリオンの傍らには、ボクたちが王都からつれてきたピオニーが、シトリンと両側を挟む様にして腕にしがみついている。

 除幕式ではボクとユーリ、サリィ姉様が三人でロープを引いて、艦首にかかっている布を取り除く、そこには艦名が象られているはずだ。

 この艦はボクが存命中はボクのものとして扱われるが、本来軍艦として扱われるべき、戦闘艦種リトルプリンセス級一番艦である。

 姉妹艦が建造される予定はないが、むしろだからこそ、実験艦として手間をかけ、高性能を目指した。


 ボクの死後は王家に返還され、おそらく三百年以上は運用されるだろう。

 この世界には保存の魔法があるため、充分に魔力を通していれば経年劣化しにくく、日ノ本では寿命と直結しやすい動力部が交換着脱が容易な魔石回路であるためメンテナンスもそう手間がない。


 維持に負担がない以上、余程性能が見劣りするものに成らなければ使われ続けるだろうし、この世界は新しい技術が入ってきた直後は熱に冒された様に研究に没頭するが、魔法というものが便利なため科学技術的なものは停滞しがちだから、リトルプリンセスはかなり長い間就航することになるだろう。

 多少見劣りするものになれば、改装して客船にするのも良いが、現状で時速64㎞、武装と偽装帆走設備を解除すれば時速72㎞を超えるこの船が時代遅れになるのは一体何時の日のことか・・・。

 軍港側にも、北側に所属する貴族や軍関係者が整然と並んでおり、主役であるサリィとボクたちの登場を今か今かと待ち望んでいる。


「この式典が終われば、しばらくアイラたちに会えなくなってしまうのですね(バフォメット陛下との話し合いは私に任せてください)」

 サリィがボクの頭を抱く様にしていて、すべすべしたドレス越しにフニフニと抗い難い柔らかさの肉がボクの二の腕に押し当てられる。

 耳打ちされた言葉と息が首筋をくすぐって、体温が上がるのがわかる。

「アイラ姉様!早く帰ってきてくださいませね!」

 さらに、数多いボクの妹達の中でも、最も素直に甘えてくるシシィが、正面からボクの両足にしがみつくみたいにして抱きついてくる。

 船乗り用の服があるわけではないので、普段着用のシンプルなワンピースを着ているボクは、足を動かせる範囲がなくなってこけそうになるけれど、サリィの存在が支えになって、なんとか持ちこたえた。


「うん、帰ってきたらまたお城に行くからね?」

 内腿に食い込むくらいガッチリとしがみつくシシィの頭を撫でていると、後ろから左右に大きなだっこちゃんを着けたモリオンが挨拶にくる。


「あねーえ、お気を付けていってらしゃーましぇ」

 多分練習してきたのだろう、自信ありげな顔で見送りの言葉を告げるモリオンだけれども、左右にしがみつくシトリンとピオニーのせいで格好がつかない。

「うん、ボクのいない間、ピオニーのことをお願いね?」

 何せキミは今のところピオニーの未来の旦那様なんだから、ピオニーを泣かせたりしたら承知しない。


 今まで妹を任せる、そういった言葉をあまりかけてこなかったのは、彼の選択肢を狭めてしまう気がしていたからだったけれど、今のピオニーの姿を見ていると、彼以外のお嫁さんになるところなんて想像ができないからそういう言葉をかけた。

 無論普段は王都とペイロードとに離れて暮らしているし、モリオンもまだ子どもなので自由に会ったりはできないだろうけれど、こういった役目を任せることで、彼がますます成長してくれればいい、そんな軽い気持ちだった。


「はい、あねーえ、フィオのことは僕がまもります。」

 しかし、ボクの言葉は予想外に強くモリオンの心を刺激したみたいで、モリオンは決意を秘めた目差しをボクに返した。

 微笑ましげに見守っていたラピスとヒースも少し驚いた様で、でも嬉しそうに弟を見つめる。

「(弟もいいなあ・・・、思えば姉兄妹はたくさんいるけれど、ちゃんとした弟はいたことなかったや、シグルドは義弟になりそうではあったけど年と外見が弟ぽくなかったし、でもいまこれ抱っことかしたらだめだよね、立派な男の子だもの、ピオニーに怒られるかもだし・・・とりあえず。)」

「ピオニーも本当に寂しくて我慢できないときや、助けてほしいときにはモリオンを頼る様に」


 と妹の頭を撫でて誤魔化してみる。

 するとピオニーは照れながら、よりモリオンに体を密着させた。

「はい、おねえしゃま、おねえしゃまが居ない間さみしかったら、リオに甘えます。でもさみしいから、早めに帰ってきてね?」

 半分余所行きのままで、でも甘えんぼの顔を見せてくれるピオニー、それを見て逆側にいるシトリンも負けじとギュっとモリオンに体を押し付ける。

 モリオンは歩き辛そうにしているけれど、泣き言は言わず。

 両手の花の重さに耐えている。

 幼くとも立派に男の子だ。


「シシィとシトリンも、ボクの代わりにピオニーのお姉ちゃんお願いね?」

 ピオニーの頭から手を離して、二人の頭に移してお願いすると、二人も快くうなずいてくれた。

 王家と四侯爵家のちびっ子たちの仲が良いのも、この国の未来にとっては非常に有益なことだ。

 この子達がもう少し大きくなったら今度はソフィやテティス、ネレウスなんかがこの子達に甘えてって繰り返してちょっとずつ大人になっていくんだって思うとちょっと涙が出てきそう。

 

「アイラ、そろそろ技師長の言葉も終わりそう。」

 そのとき、会場の様子を探ってくれていたユーリが、控え室に戻ってくる。

 技師長は、スクリュー魔石周りの設備をブロック化する技術を確立してくれた人物で、スクリュー船開発の要の一人だ。

 技師長の話が終わると次はマハ軍港の基地司令の言葉の後ボクたちの出番となる。

 基地司令の言葉の間にボクとサリィ、ユーリは艦首側にかかった幕を引っ張る準備に、アイビス、アイリスは技師長と司令に渡す花束を持って待機。

 ナタリィは人目につかせない様にメイドたちとともに先に艦に乗り込んでいる。


 ボクたちは事前に決まった通りにそれぞれ会場に移動を開始した。

 会場といっても、今ボクたちがいる控え室は桟橋の一角に仕切りを用意風除け日除け程度のものなので、会場の、リトルプリンセスの横まではせいぜい十数mだ。

 ボクたち3人は艦首近くまで行くので、もう少し遠いけれど・・・


 ボクたちが人目につく場所に出ると、民衆の方からドヨと声が上がる。

 サリィの国民人気はかなり高い。

 それはまだイシュタルトになって日の浅いマハでも同様だった。

 軍官学校卒業して一年と少し、サリィは併合された地域の主要な都市に足を運んで何度も演説や平和の志を説いている。

 その見目麗しさや都市計画の説明のわかりやすさなどが民衆に受けた他、ここマハでは軍港建設に至るまでに、これまでのペイルゼン第一王子の圧制や横暴により低下していた治安の回復や、スラムへの救済措置などを一部サリィとジル先輩に任せたため、なおさらイシュタルト貴族への好感度が高い。


 司令の話も終わりボクとユーリ、サリィも順に軽く挨拶をする。

 途中サリィから技師長や司令に対する労いの言葉とともに、アイリス、アイビスから花束と勲章が贈呈される。

 そして最後にボクたちが一緒になって幕を引っ張って除く。

 マハの軍港に貴族、軍人、平民の別を問わない大歓声があがった。

このあたりのお話に必要だったため、ある設定を書いた話を探していたら時間が経ってしまいました。

ちゃんと設定は全部書きとめておかないといけないですね。

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