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第118話:サテュロスの魔剣全部抜き

 予想外の出来事に多少心を乱しつつも、アイラは妹との絆を改めて深め合った。

 転生者だろうが、周回者だろうが関係なく妹は妹で、今まで居なかった存在であろうが姉妹として生まれた彼女たちの間には確かに姉妹という絆が生まれていた。


------

(アイラ視点)

 3分ほど抱擁し合っていただろうか?

 ボクたちが真面目に話し合っているので途中で空気を読んだベアトリカは、壁際で空気になっている。

 蜂蜜片手なのがちょっと見世物になっていたみたいで落ち着かないけれど、クマ魔物の彼女が静かにできていることの方こそ、褒めてやるべきだろう。


 それよりもだ。

 先ほどまではアニスとのことに集中してたし、感情が高ぶっていたので気付かなかったけれど、端っこに転がってるシープマンたちが五月蝿い。

 ずっと野太い声でメェメェ言ってるし、身じろぎして手足を覆う氷や体が床とこすれる音が密室に響く。

 どういうわけか溶けない氷で封じられているけれど、これをやったのはアニスということかな?

 このシープマンたちかなり身体能力は高いはずなんだけれど・・・。

 気になったことは無理がない範囲で早急に解決しておくとしよう。


 今もまだ胸元に顔を埋めたままのかわいいかわいいうちのアニスに尋ねてみる。

「ねぇアニス、このシープマンたちはアニスが凍らせたの?」

「うん、正直まだ魔物はともかく、魔人はちょっと殺し辛い、なんでかな、何度繰り返してもアニスの・・・この小さな手を血に染めるのはいつも最初は怖いんだ。何人も斬ってきたのにおかしいね」

 と悲しそうに笑うアニス、アニスはやさしい子なんだと再確認する。

 同時にボクもその感覚を思い出す。

 命を奪うことに慣れてしまうのは、良いことではないはずだ。

 このまま魔剣を抜いて、ここが埋る様なことがあれば結局この三体は死ぬだろうが・・・


「アレをどうするかは後にして、先に魔剣を抜いて、それからアニスとベアを平野まで送ろう」

「お姉ちゃんに任せる。私良い妹だから言うことちゃんと聞くよ」

 と、アニスはこれまで通りの賢い妹の振る舞いをする。

 まだ身長さがあるので自然上目遣いになるその潤んだ瞳はボクの庇護欲を大いに満たす。



 前周の様な悲しい想いは、ボクとユーリ、アニスだけが覚えていればそれで十分だ。

 ましてアニスは前周より前にも幾度となく悲しい想いをしてきたというのだから、守らずして何が姉か。

「(ボクの妹、今生こそは手放さないから)」

 ピンクブロンドをくしゃくしゃと掻き撫でながら、ボクはいまひとつの誓いを立てる。

 アニスのことを絶対に守ってみせる。

 アンヘル大陸で何があったのかわからないけれど、どちらにせよすべての魔剣・・・鍵を集めることになった場合にはアンヘルにも立ち寄ることになるだろう、そこにアニスの幸せを遮った存在が健在ならば、必ずやボクの前にも立ち塞がるだろう。

 その時は容赦せずに叩き斬る。


 アニスと手を繋いだまま魔剣の台座の前へ移動する。

 イシュタルト的にはこの武器は魔剣と呼ばれているけれど、バフォメットは鎌と呼んだ。

 それで前周での通称は『角笛の鎌の魔剣』という名詞三つ入りの、判りにくい物になったのだけれど、その形状は鎌というよりは、刃が反りの内側についた長刀の様なものだ。

 その刃の部分で刈り採ったものの熱を奪い、さらには風化させる機能を持っている。

 また地属性魔法に親和性があり、うまく使えばウェリントン領の開拓にも役立つことがあるだろうけれど、今あそこの開発はイシュタルト王国全体でみても異常な速度と、高度な都市計画によって進められているので、ボクの出る幕はないだろう。


 はっきり示し合わせた訳ではないけれど、なんとなく二人で魔剣に手を伸ばす。

 ベアはおとなしく座っていて、でも別にパンや蜂蜜に夢中になっているわけではなくボクたちの方へ注視している。

 左手にアニスの右手を繋いでいるので、ボクは右手で、アニスは左手で、鎌の魔剣に触れた。

 アニスもすでにどこかの周回でここの魔剣を抜いたことがあるそうだけれど、どうしてそんな人生を送ることになったのか、落ち着いたら聞いてみたいなと思いながら、サテュロス大陸最後の魔剣を引き抜いた。

 そしてすぐにボクの空間収納に『収納』する。


 抜いた直後ゴゴゴという音と地響きが始まるのは前と一緒、アニスも知っていたみたいで特に驚いた様子は見せなかった・・・と思ったら、揺れが大きくなったあたりで驚いた様子を見せる。

「こ、こんなに揺れるものだったっけ?」

 と不安そうに抱きついてくるアニス。

「ボクが前周で抜いたときはこんなものだったけれど?」

 少し震えているアニスを安心させようとまた抱き込む形になる。

 するとベアトリカも何か思うことがあったのか、こちらに駆け寄ってくるとボクとアニスを抱きかかえる様にハグしてきた。

 さっきもベアからはハグされたけれど、普通なら死を覚悟する場面だね。


 毎晩お風呂に入ることで脂がほとんど浮いていない体毛は、とても柔らかくフワフワだ。

 ただ洗っているだけなら毛が痛んでしまうだろうけれど、そこはエッラがしっかりとケアしているので、まるで高級な絨毯みたいな優しい手触りでボクたちを包んでくれる。

 アニスもその慣れ親しんだ感触に安心したのか、震えは感じられなくなった。


 やがて地響きも止まった。

「収まったみたいだね、アニスもう怖くないよ?ベアもありがとうね、守ってくれて」

「うん、ありがと・・・お姉ちゃん」

「ウォフ」

 二人に声をかけると、アニスは恥ずかしそうに、ベアは誇らしげに返事をする。

 3体のシープマンが蠢いている以外は穏やかな空気が戻ってくる。


 もう少しこうやって妹とのスキンシップを楽しみたい気もするけれど、そういうわけにもいかない、

 それを思い出させたのは神楽からの通信だった。

「(アイラさん!聞こえますか?凄い地響きがしましたが、ご無事ですか!?)」

 暁天を通して聞こえてくる神楽の声は、その言葉とは裏腹にそこまで慌てた物ではない、何しろ通信が通っているのだから、ボクの健在はある程度約束されている。

 少なくとも生きているのだから、治癒術を使える人間を複数擁している以上そうそう死ぬことはない。

 それがわかっているのだろう、それでも心配そうにしているのは、彼女が優しい女だからだ。


 すぐにボクも答える。

「(大丈夫だよ、危ないと思えば跳躍で外に出られるから、カグラたちは今外にいるのかな?)」

「(はい、外にいます。いえ・・・そうなんですが違うんです。地響きの間、空の上に、大地が見えたんです!今はもう見えませんが・・・。)」

 あぁ・・・と、前周でも大陸中で地響きが観測されていて、角笛周辺にいた兵たちは空が割れたといって混乱していたことを思い出した。

 可能ならそれも見ておきたいと、角笛にくる少し前まで覚えていたはずなのに、バフォメットがボクではない『アイラ』なんて意味深なことをいうから忘れていた。


「(カグラ、それはデネボラで記録できたの?そう、なら後でみせてもらおうかな)」

 幸いなことに神楽が記録してくれていたみたいなので、ボクも見ることができる。

 ボクが神楽との通信に意識を割いていたらアニスがクイクイと裾を引っ張る。

「お姉ちゃん、送ってくれるんだよね?みんなに心配かけたくないし早めに戻ってあげて欲しいな」

 そういって再びの上目遣い、尖らせた唇もかわいい。


「そうだね、ベアも・・・お弁当はもうしっかり片付けてるんだね、さすが賢い子だね」

 そういってベアの頭も撫でてやるとベアもうれしそうに目を細めてグルルと喉を鳴らす。

「じゃあ送るから二人ともしっかりボクに抱きついてね」

 本当は手を繋ぐだけでいいけれど、かわいいアニスとのスキンシップが終わるのが勿体無くってつい過剰な要求をしてしまう。

 二人?ともボクの能力を詳しくは知らないから疑うことなくしがみついて来る。


 と、そこへ前周にはなかった出来事が続く

「おい、アイラ、もう魔剣を抜いたよな!?もうサテュロス大陸の魔剣をすべて抜いたんだよな?」

 ボクが入ってきた扉、前周では地響きで歪んで開かなくなった扉が開けは放たれて、同時に聞き覚えのない・・・・・・・声が室内に響く。

 声の方へ向き直ると、ボクたちの目に飛び込んできたのは一人の男性の姿だった。


 身長は195cm超、頭には大きな巻き角、そのすぐ下側から毛の生えた長い耳が伸びており、ヒト族以外の亜人種を思わせる。

 耳だけ見ればエル族っぽいけれど、その肌は褐色でサーニャとは似ても似つかない。

 長く引き締まった脚が惜しげもなく晒されているが、民族衣装なのかミニスカートの様な丈の布しか巻いておらず非常に目のやりどころに困る。

 髪の色はこげ茶かチョコレート色と表せる色、瞳はボクと同じ赤混じりの金、上半身はかなり筋肉質で手足も同様だが、長いためだいぶすらりとして見える。

 実際のところ腕も太股もボクの胴よりも太そうだ。


 とにかくやるべきことは・・・だ。

「キャー!?ア、アニス見ちゃだめ!!」

「きゃっ!?んむぐ・・・むぐぅ・・・」

 いいながらアニスの顔を両手で目隠しして、ボクも視線をやらない様にする。

 一応鑑定で彼が誰なのかはわかったので、話は聞いてやるつもりだけれど・・・。



 バフォメット M--94ハイサテュロス

 生命20805魔法196意思7033筋力133器用128敏捷88反応139把握175抵抗83

 職業/魔王 戦士 魔導砲兵

 

 生命力が減少している様だけれど、彼は間違いなくさっきまで話しをしていたあのバフォメットさんだ。

 それがどうしてこんな格好で・・・って服装はさっきと変わっていないわけだ。

 単に姿が変わっただけということではないね、種族が変わっている。

 この短時間に進化したということだろうか?

 その姿はすでにグ属系亜人族そのものとなっている。

 ステータスはちょっとえげつないけれどね。


「バフォメットさん、どうしてそんな姿になったか知りませんがとりあえず下は隠してくださいませんか!?」

「むー!むーぅ!!」

 思わず敬語が出てしまう。

 アニスも目隠しされて抗議の声を上げている。

 そりゃあそうさ、何度も生まれなおしているといってもアニスは思春期を迎えたくらいの未婚の乙女、それなのにあんなにも堂々とはみ出したモノを見せ付けられては、悲鳴の一つ出るってものさ。

 一度は自分についていたこともあるボクですらドン引きしているくらいだ。

 あぁそういえば前周ではこの部屋でシープマンのそれを見てドン引きしたっけか・・・。


「あ?あぁこれは役目の一つが回ってきたからだな、進んでいるとは思っていたが、まさかもう役目が回ってくるとは思わなかった。それはそれとして、アイラお前、アニスは自分の妹だろう?死んでしまうぞ?」

 と、あきれた様な顔でバフォメットさんがいうので、アニスを見てみると、彼女は若干青い顔をしてモゴモゴと言っていた。

 なぜかボクの手は彼女の眼ではなく、見事に口と鼻とを覆っていた。

「わ、わぁー!?アニスごめん!!」

 慌てて口を離すとすぐにアニスは浅い息を繰り返し、少しすると一回深呼吸をして平静に戻った。

「もう、お姉ちゃんてば酷いよ、いきなり口と鼻を塞ぐんだもん、息吸った直後じゃなかったら危なかったよ?あとバフォメットさん?は服持ってないみたいだけど何かお姉ちゃん持ってないの?」

 学生鎧の胸元を押さえながらアニスはボクの不手際を訴え、ついでにボクなら何か服をもっているのではという。


 しかしさすがにボクもこの巨体に合う服なんて・・・て別に服じゃなくてもいいのか。

 ボクは収納の内容物を思い浮かべ、中からテント張りや荷馬車の幌をかけなおすときなんかに使うための大きめの丈夫な布とやや細めのロープを取り出すとバフォメットさんの方を見ないままで差し出す。

「とりあえず、これで体を隠してください、眼のやり場に困ります」

「さっきと同じ格好なんだがな・・・」

 彼は渋々といった感じで受けとる。


「さっきまでは毛深かったから、その、モニョ・・・肌とか見えませんでしたし」

 外見の違いに言及してしまうのはデリケートな問題な気がして、毛深かったという身体的特徴に限定して言い訳する。

 現在の彼のよく日焼けしたポリネシアンの様な肌色もサテュロスでは珍しいが、全くいないわけではないし、そもそも基本の造形が著しく人に近づいている。

「おいおい生娘じゃあるまいし、マキサくらい見慣れているだろう?」


 見慣れているとかないとかじゃなく羞恥心の問題だ。

 なおマキサとはサテュロス大陸の古語で、成長的な意味ではなくほどほどに大きくなった男性器のことだ。

 古語であり、表向き大衆からは消え去った言葉であるが、古語であるという格式を感じさせる事実から、その表現に奥ゆかしいエロスを感じる男性も多いとかで貴族の花嫁教育の一環で学ぶ言葉でもある。

 

「マ・・・!?」

 あの大きさでほどほど!?

 いやそうじゃない。

「まだ十歳になったばかりの妹の前で何を口走ってるんですか!?」

 恥ずかしさとデリカシーのなさに怒るボクにバフォメットは特に気にした様子もなく答える。

「いや、年齢はそうかもしれないが、二人とも一回目の人生じゃないだろ?アニスはまだアイラだった頃に結婚してた回が何回かあったし、アイラはあのユークリッドって坊主とつがいなんだろ、だったら別にミクサくらい見慣れてるだろう?」

 ミクサとは平常時よりやや萎れている状態の男性器の以下略。

 どうやら時間が経って小さくなったらしい。


「バフォメットさん!子どもの前なんですよ!?」

「と、お前の姉は言っているが、子ども扱いに対して言うことはないか?」

 再びの男性器発言にボクが声を荒らげると、バフォメットさんはやはり飄々とした態度でアニスに言葉を向けた。

 もう体は布で隠しているのでアニスもバフォメットさんのほうを見ながら言葉を返す。


「教育に悪いっていうけれど、正直お姉ちゃんも大概だと思うよ・・・?」

「えっ!?」

 妹からの突然の裏切りについ声が漏れる。

「お姉ちゃん割りと私のいる前でも、ユーリお兄ちゃんやカグラちゃんといちゃついてるし、エッラちゃんナディアちゃんフィーちゃんのお胸触ってるとことか、逆にエイラちゃんやソルにお胸触らせてるとこ、トリエラちゃんの尻尾にぎにぎしてるとこも見たことあるよ?」


 えぇ!嘘、見られてた!?

 キスやハグはともかく、イチャイチャと言われる様なことなんて私室以外じゃしてないはずだし、エッラたちの胸をたまに触るのはお風呂なんかで胸囲の格差社会に絶望したときかな?こっちは自覚があるや、どうやったらこんなに大きくなるの?って未だにたまにやる。

 エイラやソルは逆に『少し膨らんできたのではないですか?』という流れから確めてもらっただけのことだ。


「お姉ちゃん、舌を使うキスはあまりピオニーの前ではやらない方が良いと思うよ?」

 と、最後にアニスは締めくくり、笑いを噛み殺すバフォメットと、気まずそうに顔を赤くするアニスとに挟まれてボクはいたたまれない気持ちになる。

「クゥン」

「ベアー」

 ベアトリカが慰めてくれるので、その胸元に抱きつくとそのモフモフ感に荒んだ心が少し癒される。

 しかしボクを辛い現実に引き戻す者がいる。


「お姉ちゃん、ベアも女の子だから、それお胸に顔を埋めてるってことに・・・」

クマベアもダメぇ!?」

 ここにボクの味方はベアトリカ以外居ないらしい


---

 少しの間にぎやかに話していると、やがて時間が差し迫っていることに気付く、っていうかユーリたちをいつまでも待たせていたら心配をかけてしまう。

「アニス、ベア、こんなことしている暇はなかった。送るよ、バフォメットさん・・・・でいいんですよね?すぐ戻ってきますから、このお部屋で待っててくださいね?」

「うん、お姉ちゃん」

「ワフ」

 腕を開いたボクにアニスとベアはしっかりとしがみつく。

「待ってる待ってる。俺の方こそお前たちに追加で話すこと、頼むことができたからな、この部屋で待ってればいいんだな?」 


 亜人になったバフォメットさんも頷いたのを確認してボクは跳躍を使う。

 場所はクラナ平原の中央南東部、クラウディアから80kmほどのところにある小さな湖と雑木林のある地域、アニスが行く予定にしていた訓練場よりさらに少し南に位置する。

 ここなら人里からやや遠く、近くの町との間に訓練場や小規模ながら魔物の領域を挟んでいるため早々人に見られることがないと判断した。

 少し北に行けば訓練場なので、軍官学校生のアニスがいても何の不都合もないし、この程度の距離なら、ベアの背中に乗せてもらえば1時間かからずにクラウディアに帰ってこられるはずだ・・・振り落とされない前提だが、アニスが普通の子ではないとわかった以上不可能とも思えない。


「うぉあ、本当に一瞬で移動できちゃうんだ・・・、すごいね、こんなのどこで覚えたの?」

 アニスは純粋に驚いた様子で、あたりをきょろきょろと見回す。

「まぁ一口に勇者って言ってもみんな何か独特な魔法や能力を持ってるものだしね、それよりもこの場所わかる?」

 ここは、ベアトリカもアニスもボクはつれてきたことがない場所だ。

 前周の在学中の訓練で一度着ただけの場所で、それも全員でではなくボクとエイラ、ソニアとナディア、それにサーニャとリスティが他班の女の子4人と共に迷い込んだ場所だ。


---


 当時のことを思い返せば迷い込んだ・・・というよりは、逃げ込んだの方が正しいだろう。

 一年次の最後に卒業する四年生を引率役として、いくつかの訓練場で別れて行われる冬の遠征実習で件の訓練場を使う組になったボクたちが、日程とノルマを守って対魔物戦闘を消化していると、当時の簒奪侯爵家のセルゲイと取巻きたちが引率役らしい四年生と一緒に慌てた様子で茂みから飛び出してきた。

 やつらはボクたちの顔を見てギョっとした表情をしたけれど、舌打ちだけしてそのまま走り去ってしまった。

 嫌な雰囲気を感じたボクたちは、一旦ボクとエイラだけがセルゲイたちが現れた方角を調べることにして、残りの4人はそれぞれ少しだけ左右に扇状に離れていきながら異常がないか気配を探った所、300mほど奥に入った所で、3人の女の子が剣を振るって戦っていた。


 その3人の間には一人の女の子がすでに頭から血を流しひざをついており、その流血具合からそれなりに危険な状態だと察せられた。

 当時見覚えのない娘たちだったので、剣士課のユーリとは異なるクラスの生徒だったはずだ。

 彼女たちは6体のイタチ型魔物に囲まれていた。

 一年生とはいえ、軍官学校の学生はイタチ型程度なら狩ることができる。

 というかそれくらいの実力があるものが班にいなければ実習は留守番になる。

 4人は一対一ならばウルフ程度まで狩れる実力があるはずで、さらに4年生の引率が一人付くはずだった。


 しかし、引率の4年の姿は見えず。

 それもけが人を守りながらという環境では話が違う。

 常に一人以上がけが人を守らねばならず、まだ経験の浅い学生では状況を把握する力が足りないため、どうしても自身の守りが薄くなってしまう。

 彼女たちもその状態で、ボクたちが駆けつけた時はまさに次のけが人が出たところだった。

「キャァ!」

 ボクが一番近いイタチ2体を後ろから斬りつけた時には、すでにショートカットの女の子がふくらはぎを爪で切り裂かれた所だった。


 間に合わなかったことに歯噛みしながらもボクは加速を使い、そのままイタチ型のすべてを斬り伏せた。

「大丈夫ですか!?」

 駆け寄るボクに彼女たちは涙を浮かべ、縋る様な眼で見つめてきた。

 その眼には助かったという安堵の色が見えた。

「アイラちゃん!助かりました!!」

「簒奪侯の●●ピー野郎!よくもハメてくれたな・・・はっ!リーエ、大丈夫!?指の数はわかる?」

「アイラちゃん、こんな出会い方をしてしまうなんて、頼れるお姉さんとして出会いたかったのに・・・・でもありがとうございます、ありがとうございます」

「ヨルディス・・・大丈夫見えてる。2本だよね・・・ハァ・・・アイラちゃん様、助けてくださってありがとうございます」


 3人はすぐに臨戦態勢から、警戒程度の状態になり、応急処置を始め様とした。

 が、どうやら3人とも治癒魔法の類は使えない様であった。

 その後ボクたちの班員も合流したものの、当時はボクを含めて初級や下級までの治癒魔術しかまともに使えず。

 さらに周囲になぜか魔物が集まっており、逃げられる場所がこの少し開けた場所しかなかったため、逃げ込むことになった。


 彼女たちの説明から、彼女たちはセルゲイたちのクラスでの横暴に正面から反抗した班で、今日は4年の先輩を引率とした4人+1人の班であったが、どうもその先輩がセルゲイの息のかかった者の一人であったらしく、セルゲイたちと示し合わせて森の奥深いところまで彼女たちを引っ張っていった挙句、魔物を引き寄せて擦り付けていったらしい。

 魔物はなぜかヒトや亜人の女性を生殖相手として好む物が多いので、途中に女性がいたらよほどのことがない限りそちらを狙う。

 それを見越して、反抗された腹いせに彼女たちを襲わせようとしたらしい。


 彼女たちを引率していた男性の先輩は、キャンプで虚偽の申請・・・彼女たちが血気に逸って言うことを聞かずに魔物の群れに無謀にも襲撃をかけたと報告しており、その場所もてんで見当違いの区画を報告していた(そちらであればあんなにも奥まったところにはならない)

 結局セルゲイたちには罪を逃れられたが、その先輩は軍官学校の卒業を取り消されることになった。

 その後の戦争の中オケアノスの兵となって死んだものの中に名前があったことは覚えている。


 その騒動でボク、隊への合流が遅れ、さらに取り調べの為に一年と二年の間の時のホーリーウッドへの帰郷が遅れた。

 おかげで、サークラ姉さんたちに誕生日祝ってもらえる予定だったのに、誕生日過ぎたけどおめでとうパーティになってしまったのだ。


---

 今生ではもう生まれてくることのない甥や姪の顔を思い出して自然と笑みがこぼれてしまった。

 自分はもう彼女たちのことを過去の思い出にしてしまったのだという悲しみと、笑って思い出せるのが幸せだという感慨の様なものが混ざって、ちょっと複雑な気持ちになる。

「お姉ちゃん?」

 またまた上目遣いのアニスちゃん頂きました。

 あまりかわいいので、無言で筋力強化を使って脇の下から抱き上げてくるくる振り回す。


「お姉ちゃん、時間ないんでしょ!?」

 ちょっと怒らせてしまった。

「あーごめんごめん、ここは今朝アニスが行く予定に訓練場のすぐ南側にある場所だから、そっちの雑木林が訓練場の南側のブロックだね、だからまぁちょうどいいかなって、人目につきにくいし、距離もいいかなって」

「あぁじゃあ王都はあっちだね、うん判った。」

 とアニスも納得してくれた様だ。


「それじゃあまた後で、屋敷で会おう、今夜は一緒に寝るんだからね?」

 と念押しするとアニスは優しい笑顔をボクに向けた。

「うん、せっかく一緒に居られるんだもん、バフォメットさんとの話も教えてもらえる範囲で教えてね?今夜はいっぱいお話しようね?明日学校だから8時半くらいには寝ちゃうけれど・・・」

 とボクと似て夜に弱い彼女は声を徐々に小さくしながら手を振った。

 もちろんベアも、途中までは一緒に歩いて、林を抜けたらきっとベアに乗って移動するんだろう。

「それじゃあ、また後でね?」

 最後にアニスはもう一度振り向いて手を振ってから林の中に消えていく、二人?の背中を見届けた後で、ボクは再度バフォメットさんの待つあの台座の部屋にと跳躍するのだった。

やっと前周72話で帰郷が遅れた理由をはしょりながらも入れられました。

(自己満足)


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