表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/220

第116話: 来訪者

(アイラ視点)

 ボクの感覚では約100年ぶりに訪れた悪魔の角笛、ダンジョンというよりは旧ホルン城館跡というべきその場所は記憶の通りまるで今も人が住んでいるかの様に思える小奇麗さでボクたちを迎えた。

 天井や階段が途中から岩肌に阻まれていなければ、さぞや豪奢なつくりだったのだろうけれど、その在りし日の姿は想像もつかない。

 しかしナタリィは、その違和感を見逃すことはなかった。


 少しの間足元を確認していたナタリィはつぶやく

「ここは、10日に一度程度『清めの風』という魔法が掛かり、こんな風に土や砂が入っていることはないはずです。今私たちが入ってくるときに一緒に入ってきた可能性も考えましたが、強い風が吹いているわけでもないですし、私やアイラたちの足元にもこんなにたくさん落ちているわけではないです。」

 たくさん、といっても散らばっている土と砂の量はそうたいしたものではない、よくこんな細かいことに気付いたものだと思う。

 だけども確かにいわれて見れば、そのナタリィが気にした場所には少量の砂と土が散らばっていた。


「つまり10日未満の間に誰かここを通ったってこと?入り口もふさがっていたのに?」

 ユーリの問いかけにナタリィはうなずく

「おそらくは・・・それも地属性の加護を持っていて、この場所を知っているということになります。加えて魔物の群れの中をここまでこられるだけの能力か、飛行能力を持っていることになりますか」

 とナタリィは冷静に状況を分析する。


「ここの存在を知っているとなると、龍の島の関係者とかってこと?」

 周回者のことを知らないエッラやサリィがいるので、とか、の辺りでボクのほうを目で示してユーリが再度問いかけるとナタリィは少し考えるそぶりを見せて答える。

「そうですね、その可能性が濃厚でしょうが、とりあえず奥に向かいましょう。何が出てくるかわからないので注意は必要ですが、進めば何者がここに来たのか、バフォメットが答えてくれるはずです。」

 そう締めくくるナタリィにその場にいる全員が首を縦に振る。

 ここにバフォメットがいることは事前にサリィたちにも伝えてある、パニックを起こして攻撃を仕掛けたりしては困るからね。



 玄関正面の扉から、遠い記憶の中にあるままに進むと、暗い廊下がある。

 さらに10mほどいくとさらに扉がある。

 この向こうにバフォメットがいるはずだけれど、どういうわけか前周で感じた様な絡みつく様な気配はない。

 ただちょっと見られている程度の感覚がある。


 扉を開けると広間。

 かつて謁見の間かなにかであっただろうその部屋は、やはり記憶のままに頭には羊の様に巻いた角、上半身はとても筋肉質、脚は逆関節で、身の丈2mは超えている人身獣面の怪物がそこに座っていた。

「15分といったところか、それにドラグーンも一緒か・・・。」

 一緒か、の後は何を言っているのか聞き取れなかったけれど、その声には聞き覚えがある。

 優しい声色で話すソレは人間離れした姿をしているけれど、獣性は低く、とても理性的な存在だと、すでにボクも知っている。


「お目にかかるのは初めてですねバフォメット王、ドラグーンの代表として参りました、ナタリィ・デンドロビウムです。」

 即座にナタリィが答えるけれど、バフォメットはナタリィにはあまり興味を持たなかったみたいだ。

 というより、もっと興味を引く存在がその場にいた様だ。

 その瞳は、まっすぐにサリィを見つめている。

 魔王の姿は、初めて見るサリィには畏怖さえ覚えるものであったはずだが、サリィは臆することなく淑女の礼をとった。


「お初にお目にかかります陛下、イシュタルト王国の王女サーリア・イシュタルトにございます。」

 その姿を見て何か感じるものがあったのだろうか、バフォメットはその目を細めて優しい顔を浮かべた。

 なお、羊や山羊の様な顔をしているけれどその瞳孔は人のソレと同じ様に丸っこい形をしている。

「あぁ、そうみたいだな、髪の色以外そっくりだよ、一瞬キリエが迎えに来てくれたかと思って呆けてしまった。歓迎しよう客人、時間がないので歓待はしてやれないがな」

 バフォメットは立ち上がる。


「早速で悪いが、ナタリィ、サリィ、アイラ、ユーリ以外は扉の外で待っていてくれないか?ちょっとした秘密の話をしたい」

 神楽やエッラには前もってその可能性を教えていた。

 前周でもそうだったので、キリエの子孫以外は退出を願うかもしれないと考えて、前もってナタリィと相談して彼女から示唆する形で教えてもらっている。


 それでもバフォメットという実物を目の当たりにしたためか、彼女たちは不安そうにしてこちらを見ている。

 なので、ボクからも一言添えることにした。

「大丈夫だよカグラ、エッラ、フィサリス、クリス、彼に敵意はない様だ。」

「アイラさん・・・」

 やっぱり不安そうにする神楽の手を握り口を寄せる。

 すると彼女も納得してくれた。

 神楽は一度バフォメットと視線を交わしたけれど、そのまま扉のほうへ向かい、クリス、エッラ、フィサリスもそれに続いた。


 扉が閉まるのを確認して、バフォメットが話しだす。

「まぁ挨拶からだ。俺の名前はバフォメット・ホルンだ。繰り返しになるが時間がないので、質問の類は受け付けられない、俺の用事を優先させて貰う。サーリア姫、失礼だが頭をなでさせて貰ってもいいか?」

 と、前世でエイラにしたのと同じみたいに、バフォメットはまずサーリアの頭をなでたいという。

 キリエの、そして自身の子孫に未練があるのだろうか?


 結局、前周でオルセーが龍王から聞いたという建国神話は、今生でナタリィから説明されたものともほぼ同じであったけれど、前周のバフォメットの話からすれば本当にうわさ話そのもので、実際にサテュロス大陸に残った神話の原型といえるものであったけれど、真実出ない可能性が十分に残っている。

 その辺りのことを聞きたいと思っていたのだけれど、彼から時間がないからと2度も言われてしまえばソレを聞き質すことは難しいだろう。

 しかし、頭をなでられそうになっているサリィは尋ねる。

「あなたが、私のご先祖様というのは本当ですか?」

「あぁ、たぶんな」

 バフォメットはたいしたことではない様に答える。

 それだけ聞いてサリィは満足したみたいで


「ではどうぞお好きになでてください、知らない殿方に私の髪を触らせるわけにはいきませんが、遠いおじい様相手なら、大臣たちも怒らないでしょう?」

 と、頭を差し出した。

 ソレをみてバフォメットは再び目を細めて笑った。

「アッハッハ、まるでキリエそのものだ。あいつもそう言って・・・いや時間がないんだった。俺からサーリアへの用事はもうない、お前も外に出てくれるか?」

 と頭を一撫でだけしてサリィに退出を命じる。


「そんな、私には何も質問させてくださらないのですか?おじい様?」

 サリィは自分の頭から離れつつあるその手を捕まえると(多分上目遣いに涙を浮かべて、もしかしたら胸元もちょっとだけ見える様にしているかも知れないが後ろからは見えないが)バフォメット尋ねる。

 バフォメットは少しだけたじろいだ様子を見せたものの

「こっちの用件が先だ。アイラたちへの用件を終わらせて時間が残っていれば相手してやる」

 と答え、サリィも納得したのか

「約束しましたからね?」

 と言い残して、扉を出て行った。


 ソレを見届けて、ようやくバフォメットは真剣な顔をした。

「これで、世界の話ができそうだな、お前たちははじめましてか?」

 おそらくは彼自身ははじめましてではないのだろう、その試す様な物言いは、ボクに確信させる。

 彼もまた周回者なのだと・・・

 ユーリとボクは目を合わせて頷き合う。


「いいえ、僕と妻はあなたと逢うのは二度目です」

「むしろそれがわかっているからこそ、ボクたちとナタリィ以外外させたのでは?」

 ボクたちの問いかけにバフォメットは可笑しそうに笑う。


「カカカ!すまないな、もう幾度となくここで留め置かれていてな、進んでいるのが確認できるのがうれしいんだよ俺は」

 笑いながらに彼はボクたちのことを手招きし、ボクとユーリが傍らまで行くと頭を撫でた。


「前は済まなかった。お前たちがアイラだということが、少し恐ろしかった。」

 と、バフォメットは呟く。

『ボク』が『アイラ』であることが、と彼は言った。

 それはつまりボクでない『アイラ』を知っているということか!?


 前周で、アイラとして生きようと決意する前ボクは気にしていた。

 自分という存在が入り込んだことで、『アイラ』という少女が居なくなってしまったのではないか、家族から真実の娘との暮らしを奪ったのではないかと・・・

 それでも、もしも、の話をしてもしょうがないからと、自分に言い聞かせて、ボクはアイラとしての生を受け入れたのだ。

 それを・・・それを前提から覆しかねないことを、彼は知っているのだ。

 彼は周回者であるからこそ、ボクでない『アイラ』を知っている可能性が在るのだ。


 そのことに思い至りボクは恐怖した。

 自分の罪を、自分が奪ったものを彼は知っている。

 その事がとても怖い。

 バフォメットはボクの頭を撫でたままで言い聞かせる様な声で続けた。

「言っておくが、俺が怖かったのはこれまでの仕込みが無になることであって、アイラの事を怖がった訳ではないからな?変な顔をするな、お前は可愛い俺の係累だし、そのアイラとも全く別人だ」


「仕込み、ですか?」

 気になる言葉を聞き返すけれどバフォメットは忘れてくれ、と首を振る。

 でもその代わりにさらに教えてくれる。

「実は今日、俺にとってアイラだった人物が来たんだ。」

 !?

「な、に?」

 ボクは息が止まった見たいに動けなくなる。

 さっきの砂土はそういうこと?

 はたしてそんな偶然があるか?

 今日ボクたちがここに来るのなんて、一体どれくらいの確率だと言うのか?

 そしてボクのアイラとそのアイラとは別人ということ?


 混乱しながらもなんとか声を振り絞る。

「その方はもう帰られたのですか?」

 そして魔剣は?まだここが無事であるということは、抜かれていない?

「まだいる、ていうかお前を待ってる」

 さらに混乱する。

 その『アイラ』はボクと会おうとしている?

 それは、ボクと会うためにここに来たのか?

 それともここに来てバフォメットから聞いて、会ってみようと思ったのか?


 情報が少ない、ボクはどうするべきだろうか?

 その時震えるボクの手をユーリが握った。

 不思議なもので、ただ手を握られただけだというのに震えは止まり、ボクの考えも定まった。

「お、落ち着いたみたいだな?話を続けようか・・・俺がここに留め置かれているのは、ある神々の意向を汲んで、世界を見守ることになったからだ。俺の役目について話すことは出来ないが、そのドラグーンどもとも共犯みたいな物だから、お前たちの敵にはならないはずだ」


 神々、この世界で神々という言葉を当てはめることができるのは、六聖、十二使途、そして語られぬ六の二十四柱のみである。

 彼はそのいずれかの意思を汲んでいる?

「さて、時間も押していることだ。そろそろ行こうか?」

 とバフォメットは急かした。

 世界の話は?


「まぁ、そうにらむな、実のところ俺から話してやれることはほとんどないんだよ、俺の『お役目』は、本当に回ってくるのかわからないほど現実味のないものでもあるしな、それでも一度受けた役目である以上はやり切るさ・・・」

 無意識ににらんでしまったらしい。

 でも話せることもないらしいので、ひとまずついていくことにする。


 しかし3歩歩いたところで、バフォメットは振り返った。

「あぁすまん、忘れていた。アイラだけついてきてくれ、ナタリィとユークリッドはここ・・・よりは外の方がいいか、うん空の見えるところで他の皆と待っていて欲しい、そこから先はナタリィが解説してくれるはずだ。俺の役目が回ってくるかはわからないが、ドラグーンがここにいる以上、ここが最後・・・・・で、次がある・・・・んだろうからな・・・。」

 そして訳知り顔で意味深な指示をする。


 なにか言いたそうな表情をユーリが浮かべたが、バフォメットは先んじて宣言した。

「譲歩する事はない、安心しろ、前と代わる所はほとんどないさ、ただお前たちとは別口の来訪者がいるくらいだ」

 その来訪者、バフォメットがボクだと思っていた・・・いやバフォメットは先にそちらと会っていたみたいだから、ボクをそちらだと思ったのか?

 もしもそうなら、魔剣を回収しに来るのが本来はその人だったと言う意味で、名前や顔貌は関係ないのかもしれない。

 事実はどうあれそう思い込んだら、少しは気持ちが楽になった。


「ユーリ、心配しないで、すぐに戻るから、何にせよ魔剣の回収はするつもりなわけだしね、バフォメットさんに敵意はないよ、多分」

 前周でも変なことはしてこないどころかいつのまにか消えていたしね。


 じっとボクを見つめていたユーリだけど最後はため息をひとつはいてから、苦笑いで送り出してくれる。

「君のことだから、心配はあまりしていないけれど、得体の知れない相手が増えた訳だから、くれぐれも気をつけて」

「うん」

 最後に短くハグをして肩を抱いてくれる。

「話はついたか?じゃあ行こう」

 再び歩き出すバフォメットにボクはついていく。


 かくしてバフォメットが導いたのは、魔剣のあるはずの部屋の前、前回と同じであれば。この中には三体の魔人がいて、ボクに襲いかかってきた。

 そしてバフォメットさんは部屋の中まではついてこなかった。

 しかし今回は彼の対応も少し違う。


「アイラ、前の時はこの中には俺の眷属が居たと覚えているか?」

「もちろん、ちょっとしたトラウマですよ、あんなの・・・あんな・・・」

 自分の腕よりも太いモノなんて、間近で見せつけられたら普通の乙女なら失神モノだ。

 ボクは暁だったときに見慣れていたし、ユーリのモノも見たことがあるからまだ平気だったけれどね?


「そいつは済まなかった。今回はもう倒されてるから問題ないはずだ。」

 あの化け物たちが討伐済み?

 それができるほどの者がいるのならそれは勇者級の戦力だ。


「それもボクたちより前に来た来訪者が?」

「まぁ、そうだ。」

 やはり、この扉の向こうには勇者級がいるらしい、それも魔剣を集めにきた何者か、この大陸でボクたち以外に魔剣を探している者がいるとは思えないし、あるいは別の大陸から魔剣をさがしに来たのか?

 だとするとボクに会うために待っているのは、ボクの持つ六本に用があるとか?

「開けるぞ?」

 問いかけるバフォメットにボクは頷き返す。

 何はともあれ会って見なくてはわからない。

 念のため加速はしておく。


 かくして扉は開かれ、ボクの視界には予想に反して、二つの影が飛び込んできた。

現実に疲れて、妄想が捗りませんがなんとか生きてます。

遅くてすみません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ