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第114話:その前に

(アイラ視点)

 ナタリィとの話し合いはとりあえず終わった。

 終わってしまったというべきか、得られた情報は多くはなかった。

 少なくとも日ノ本語のことについて、彼女が知ることはほとんどなかった。

 単に昔から使われている言語、それだけだ。

 龍の島で使われているのはナワーロウルド全体で使われている『共通語』の様だけれど、アシハラだけは昔からあの『古語』が使われているらしい。


 アスタリ湖の一件から興奮していたためか、途中から神楽も疲れて気が抜けたみたいで、あれだけ握り締めていた手を離した後はあっという間にベッドに飛び込んでいた。

 その姿が、もう17歳だというのにかつて暁が留守にしている間に暁のベッドで眠ってしまっていた彼女の寝姿を彷彿とさせて、なんとも懐かしく思えた。


 話し合いが終わった後少し経ってから、午睡していたピオニーたちが起きたとトリエラが伝えにきた。

 昨日も一緒に眠ったとは言え、まだまだ幼く可愛い妹とのふれあいで癒されようと思いボクは神楽とユーリ、ナタリィも伴って彼女たちの居る部屋に移動した。

 部屋に着くと、身支度を整えたばかりのピオニーとクリスがフィーに近侍されてミルクを飲んでいるところだった。


 クリスはミルクを飲む姿もなかなか堂々としたものだが、ピオニーはその小さな手にはやや大きく見えるカップを両手でしっかりと持ち、なかなかの飲みっぷりであるが、音を立てないあたりさすがは生粋の貴族である。

 同じ年頃のアイリスはミルクを飲むときは盛大に音を立てていたし、ひどいときはゲップまでセットだった・・・とそんな昔のことを掘り返して思い出しては可哀想か、いまや彼女も立派な貴婦人だ。


 しかしそんな彼女もボクたちの姿を認めると途端にただの幼女になった。

「あ、おねえしゃま!おかえりなさいましぇ!」

 カップをテーブルに置いて満面の笑顔でボクたちのほうを向いた彼女は、白いヒゲを拭われながら手を振る。

「お帰りなさい皆さん、ご無事そうでなによりです。」

 と落ちついた様子のままのクリスと比べるとあまりに対照的だけれど、年が2つ離れている上に、片方は周回者だから仕方がない。


「ただいまぁピオニー、クリスも一緒にお留守番してくれてありがとうね。」

 そういって二人のほっぺと頭を順に撫でると、二人はうれしそうに笑った。

 神楽、ユーリも声をかけながら二人を撫で、ナタリィは二人を見て微笑む。

 するとグフグフと、声を上げるものが居る。


 見ればちょっぴりだけ不機嫌そうなベアトリカがエッラにブラッシングされている。

「ベアも、二人のお相手ありがとうね。」

 見ればベアの毛並みはなかなか大変なことになっている。

 しかし、一言労っただけで満足してくれたらしいベアは嬉しそうに喉をゴロゴロならした。

 その一方で末っ子は、ボクに一生懸命に話しかけてくれる。


「あのねおねえさまあのね!きょうはクリスちゃんと花屋さんと、小物屋さんと、それから服屋さんに行ったのよ?それからみなみの広場で・・・」

 興奮した様子で今日の行動を指折り教えてくれるピオニー、ちゃんとお姉様と呼べたのだけど気付いている様子はない。

 いかにクリスを歓待したのかひとしきり捲し立てると、自慢げにその小さな体を反らしてフンスと鼻から息を吐く。


 誉めてほしくてたまらないみたいなので、再度頭に手を置いてワシャワシャと撫でてやると

「アハハハハハ!」

 とある種のオモチャの様に笑い声をあげた。

 この声を聞くだけでモヤモヤしていたのが晴れてくる気がする。


 神楽もピオニーに手渡しでビスケットを食べさせたり、クリスの髪を梳いているうちに多少気持ちを落ち着けることができたみたいだ。


 日ノ本語のこと、地球とこの星になにか関係があるのか、疑問はつきないけれど、目の前の事に集中することにした。

 それでもなかなか切り替えられないと思っていたのだけれど、ボクの妹がこんなに可愛いから、悩みなんて吹き飛んじゃう。

 一緒に住んで居たときはもう少しすまし顔をしていたピオニーが、全開で甘えてくるので、こっちも全開で構ってやりたくなるから、余計なことを考える暇がない。



---

 さらに30分ほど経って、ピオニーに最近王都で流行っているらしい絵本を読み聞かせてやっているとアニスが帰ってきた。

 偶然なのか、城に行っていたアイリス、アイビス、ソル、ナディアも一緒に帰ってきた。

 日程の変更を伝えられたはずのエイラもなぜか一緒に戻ってきているけれど・・・。


「いえ、私だってピオニー様やアニス様ともご一緒に過ごさせて頂きたかったもので、ご迷惑でしたらお城に戻ります。」

 どうして?とたずねたボクにエイラはいつものすまし顔(ただしちょっとだけ照れた顔)で答えた。

 両親ジークとノイシュとの時間と、ボクの妹たちとの時間を同列程度に扱ってくれているということだけれど、どうしてそこまでと思わなくもない。

 エイラというメイドは、出会ってからというものボクとの時間を大事にしてくれているので、ボクも彼女の忠誠に答えられる様なボクでありたいと思わされる。


「そっか、ありがとう。アニスとピオニーも喜ぶよ、ねぇピオニー今夜はエイラも一緒にいてくれるって、うれしいね?」

 暗記するほど絵本を読み込んでいるらしいピオニーは続きをせがむ様なこともなく、ボクとエイラたちの話を聞いていたが、話を向けられると幼くとも貴族らしい微笑を浮かべて

「エイラもフィオのねえの様なものよ?一緒にいられてうれしい」

 ちょっぴり甘えたい時の口調でエイラに手を差し出す。


 エイラもピオニーが乳飲み子の頃から世話をしてきた一人なので扱いは心得ている。

 恭しく差し出された手を取ると跪いて、ピオニーの指先に口を寄せる。

 一種のごっこ遊びで、ピオニーがなぜかよくエイラとソルにだけやるものだ。

 久しぶりのそのやり取りが楽しかったのか、ピオニーはボクの太ももから立ち上がるとエイラとソルとを手招きして貴族のご令嬢ごっこに興じ始めてしまった。

 ごっこ遊びしなくても男爵家のご令嬢なのだけれどね・・・?


「お帰りアイラ、なんだかちょっと元気ない感じ?」

 とアイリスはさすが長い付き合いの半身だけあって、取り繕っていてもボクの焦りや不安を感じ取れるものらしい。

 首をかしげて可愛らしく尋ねてくる?

「お疲れなら、私とアイリスちゃんとで治癒魔法をおかけしますよ?」

 とアイビスもまぶしい笑顔でボクたちを労わってくれる。

「大丈夫、気疲れしただけだから、怪我したわけでも、体を酷使したわけでもないよ」

 と笑って答えるけれど、同時にこの子たちにこれ以上心配をかけたくないという気負いも生まれる。


 妹たちとのふれあいの時間を大切にしているところでもう一人の妹がボクの隣にきてささやいた。

「お姉ちゃん、ちょっといい?」

 アニスだ。

「どうしたのアニス?改まって、学校のこととか?」

 昨日はアイリスたちと寝たので今日はボクと寝る予定のアニスが、クイクイとボクの袖を引っ張っている。

 照れくさそうにしている妹というのもなかなかにかわいいものだ。


「えっとね、私はお姉ちゃんたちと9年も一緒に暮らしてたでしょ?」

 と、アニスはそんなことを言い出した。

「んっとそうだね、10年に近い時間一緒に暮らしたね。」

 アニスの10歳の誕生日のちょっと前まで一緒に暮らした。


「だからってわけじゃないんだけれど、今日はおねえちゃんもアイリスちゃんもフィオといっしょに寝てあげて欲しいの、私はおねえちゃんだからベアと寝るよ。」

 と、かつてのサークラを思い出させるきれいな顔に成長しつつあるアニスがいじらしいことを言う。

 しかし賢いアニスらしくはない言葉だ。


「そんなの、サークラお姉ちゃんやお姉ちゃんたちの結婚したときみたいにみんなで寝ればいいじゃない?アニスだけが寂しいの我慢することないよ?夏だから少人数のほうがいいかなって思っただけで、アニスやフィオが嫌がらないなら、お姉ちゃんは2人ともと一緒に寝たいな。」

 昨日はボクたちが作戦会議してたこともあってバラバラに寝たけれど、一緒に寝たいといってくれるならちょっと暑いくらいなんてことはない。

 ベッドを2つにして寝ればそう暑くもないだろうし・・・

 アニスのために良かれと提案したのだけれど、アニスは少しだけ困った顔をした。


「どうしたのアニス、お姉ちゃんたちとフィオたちとみんなで寝られるよ?嬉しくない・・・かな?」

「あぅ、嬉しいんだけど、ちょっと目論見が外れたっていうか・・・。」

 と、ゴニョゴニョ口ごもるアニス、どうやらいじらしい態度には、ボクと一緒に寝ないことか、ベアトリカと寝ることに何か目的があるためらしい。

「ふぅん、言ってごらん?お姉ちゃんが助けてあげられることなら、してあげるから。」

 かわいい妹、まだ9歳なのに日ごろがんばってお姉ちゃんしてくれてるみたいだし。

 ボクも叶えてあげられることは叶えてやりたい。

 なにせボクもお姉ちゃんなので


「あのね、お姉ちゃんたち明日もうちでお泊りするんだよね?だったら明日は私がベアと過ごしたいなって思って、明日は私につけて欲しいなって思ったの、ベアと行ってみたい訓練場があって」

 と上目遣いのおねだりポーズを取るアニス。

 これはもう、負けそうになっちゃうね。

 でも、先にベアにお願いしないといけないかも、勝手に決めると拗ねちゃうこともあるし。

「ボクはいいけど、ベアに聞いてみてからね。今日も留守番してくれてたし・・・アニスが自分でお願いしてみる?」

 元気なピオニーに結構もてあそばれて、大変だったみたいだし、留守番を嫌がるかも。

 すっかりメイドだから命じれば聞いてくれるけれど、できれば本人(熊?)の嫌がることはさせたくない。

「うん、わかった聞いてみるね、ベアー」

 と、アニスはベアトリカのいる方へ歩いていった。

 その後ろ姿をじっと見つめる。


 スラリとした女の子になってしまって、かつてのプリプリとしたお尻やむちむちしたあんよはすでに面影がない。

 美少女と呼ぶに差し支えない整った容姿と、細いながらも筋肉が適度についた足腰は目を離したわずかな期間で、著しく成長したのがわかる。

 軍官学校でよく鍛えられているのだろう。


 結局アニスが、ベアトリカの説得に成功し、翌日もベアトリカはお留守番組に。

 そして、今夜は予定を変更してウェリントン姉妹4人と神楽、クリス、ベアと同室で寝ることになった。

---

 入浴はウェリントンの姉妹4人とエッラ、エイラ、ソル、トリエラ、ベアトリカと入ることになった。

 神楽はアイビスと、ユーリはナディアと、ナタリィがクリスとフィサリスと入ることになって分かれた。

「ピオニー、お目目瞑っててね、はいザバー、もう1回流すよ?お目目瞑ってー、ザバー」

 三女アイリス五女ピオニーの髪を洗ってやっているのを、湯船に浸かりながら見守る。


 少女アイラの身体感覚に引っ張られているとはいえ、すでに130年近い時間間隔の中に生きているボクにとって、今生ここにきた6歳の頃のこともまるで昨日のことの様に感じる。

 サークラがアイリスの髪をやっていたみたいに、アイリスが9つ下の妹の世話を焼いているのが、とても不思議な光景に見える。

 アイリスが母となり娘の世話をしていた姿も知っているというのに、彼女が人の世話をする姿というのにこんなにも胸にこみ上げるものがあるだなんて、本当に不思議。

 これまでも何度も見てきた光景なのに、今日はあんなことがあったからか、過去を懐かしむ気持ちが強いのかもしれない。


 その後も一通り身体を洗われ、ピオニーはその小さな手でグシグシと顔を拭う。

「フィオ?かゆいとこは残ってない?」

「うん」

「じゃあ私たちもお風呂に浸かろうか」

 アイリスとピオニーも仲良く浴槽のほうに歩いてくるけれど、さりげなくアイリスがピオニーがこけない様に気を使っているのがわかるのが、またなんともグっとくる。

「よいっしょ」


 浴槽は洗い場の方と比べてあまり高くないとはいえ、少しまたがないといけない。

 それはまだ身体の小さなピオニーにはちょっとしたものだけれど、浴槽の外と内で挟む様に3人の姉とメイド(クマを含む)が見守っているので危険は皆無だ。


「ピオニー、抱っこしたげるおいで?」

 と、誘うとピオニーは湯船の中を立ったままで歩いてくる。

 とはいっても、まだ120cmほどの身長しかないので、湯船の中で座ってしまうとほとんどの場所で息ができなくなってしまう。

 そのため湯船に浸かる時は基本的に立ったままか、誰かに抱っこしてもらうか、一番浅い縁のところで入ることになる。


 なので、ピオニーはそのままストレートにボクの腕の中、ひざの上に収まった。

「うぇへへへへ♪」

 と、上機嫌な声を上げるピオニーにボクも頬が緩むし、まだ少し張り詰めていた気持ちが緩む。

 妹の癒し成分というのは一体何が放出されているのか・・・。

 ピオニーも気が緩んでいるのか、それとものぼせているのか、普段なら気取ってしまい、なかなか見せない様な緩みきった笑顔でボクのほうを振り向きながら笑いかけているね

 ちんまりした乳歯がかわいい。

 幼児特有の肉付きのある肩から腕の丸っこいラインがかわいい。

 温まって上気した肌の赤さが皮膚の薄さを想像させてかわいい。

 うちの妹はとてもかわいい。


「ピオニー」

 名前を呼んでみる。

「なぁにぃ?おねえしゃまー」

 すぐに返事をしてくれる、けれど用事があったわけではない。

「んーん?声を聞かせてほしかっただけ」

 そういうと、ピオニーは可笑しそうにする。

「シュ、シシシシ・・・なぁにそれぇ、ヘヘェェヘエヘ」

 何がそんなに面白いのか、ちょっと不気味なくらいの声を漏らしながら笑う。

 でもそれがさらにかわいい。


 ひとしきり笑ったあと、ピオニーは「あ!」と声をあげる。

 その表情は目を見開いて何かあったのかとボクを不安にさせる。

「おねえしゃま、おねえしゃま・・・」

「なぁに、ピオニー?」

 聞き返すボクをしばらく真顔で見つめ返すピオニーだけれど・・・。


「よんだだけー、おねえしゃまの声チュキー」

 とニヤニヤ笑う。

 その姿がまたたまらなくかわいくて

「あ、まねしたなー?おねえしゃまもピオニーのこと好きだよー?」

 ボクはピオニーを抱きしめる。


 するとそれが楽しかったのかピオニーはその場にいる全員に同じ様に名前を呼んで、笑って。

 みんなも空気を読むので、同様に言い返して、抱き締めあう。

 そんなことを繰り返していたら、あっという間にみんなのぼせそうに成ってしまった。


 その後も夕飯の場で好き嫌いのないクリスを母ハンナが誉めた所から、ピオニーが頑張って苦手な根菜類を食べてみたり。

 寝室に入ってからも以前はたどたどしかった絵本の朗読が実はかなり上手くなっているところが見られたりと、ピオニーの成長をたっぷりと堪能したボクは、明日の角笛へ向かうための英気を十分に養うのだった。

本当はもっといろいろ準備したかったのですが、ただ妹をなで回した姉(やや変態気味)がいただけですね

次回は角笛です。

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