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第9話:早すぎる再会2


 アイラが朝から感じている奇妙な胸のざわつきは、教会に来ても落ち着くことはなかった。

 ただ、落ち着かないというだけで、確証もなく騒ぐわけにも行かず。

 普段どおりを心がけて、アイラはお勉強に精を出していた。


 といっても、彼女にとってはすべてわかりきったものであるので、アイリスに教えるだけであったが・・・

「うわーアイラすごいねー?これ、全部もうわかるんだー?」

 そんなアイリスへの落とし込みを見ていたオルセーが感心した様に声を上げた。


「うん、もう今日のお勉強はボク終わったから、あとはアイリスに教えてるの。」

「ねー!」

 オルセーの問いに応えるアイラになぜか自慢げに同調をするアイリス。


 そんな姿も双子のこの姉妹であれば絵になるしかわいいと、部屋の子どもたちはほほえましく見ていた。


---


 同じ頃、村に西側で柵を設置していた村長エドガーの元に、ブリスの部下のロイスが、あわてた様子で駆け込んできた。

 村の北西側の放牧地、簡素な防護柵で囲われたそこそこに広い平原、そこで家畜を放している時間帯のはずのロイスは足に深い切り傷を作っていて、それでも懸命に走って、情報を持ってきた。

「村長大変だ!・・・ハァッかぎ爪イタチと、平角イノシシが放牧地を襲ってきてる、今ブリスとエグモントが農具で戦ってる!!」


「何!?それはいかん!マーティン、ここの罠はいいから、トーティスとテオロを探して呼んできてくれ、ひとまず俺と、ブリスで抑えられるかやってみる。ロイスはとりあえず教会でアンナに治療してもらえ!ついでにトーティスがいないかだけちょっと見てくれると助かる。」 

 エドガーはあせった。

 かぎ爪イタチはちょうどつい今しがた思い浮かべていた恐れを知らないイタチで、2~4頭くらいの群れで現れ、獲物を見つけるとそれに一直線に襲い掛かる動物だ。

 もしあんなのに子どもたちが襲われたらと思うとそれは耐え難い恐怖であった。


 そして平角イノシシ、魔物ではない動物の猪でありながら2m近い大きな体躯に、ヘラジカの様な巨大な角を持った猪で、角は頭を覆い隠す様に生えており、その突進は木造家屋くらいなら簡単に壊してしまうほどに強力なものだ。

 このあたりの森にはいないはずであったが、どこかから移ってきたのだろうか?


---


 その少し後の教会の中、お勉強もひと段落してかわいい妹アニスを可愛がっていたアイラの少し感度のいい耳は、学習室の外の礼拝堂内に駆け込んできたロイスの声が聞こえていた。

「(どうしたのかねロイス、その怪我は)」

「(マディソン神父、ここにトーティスはいませんか!?そうですか、ではアンナさんを呼んでいただいても良いですか?止血だけして俺もまた放牧地に行かなくては!!)」

 やや切羽詰った声で興奮した様子でまくし立てるロイスの声は、学習室には聞こえない様にしたのかやや小さいが、アイラの耳には聞こえていた。

 そして・・・


「アンナ君ちょっと荷物を取るのを手伝ってくれないか?」

 と、マディソン神父が学習室に入ってきたとき、魔法で感覚を強化していたアイラは礼拝堂から漂う血の匂いを確かに感じた。


------------------

(アイラ視点)


(血のにおい、魔物!?それとも帝国の山賊部隊の襲撃?)

 前世とはあまりにも環境が変わってきている、アレが多少早まる可能性だってあるかもしれない。

 朝から感じていたざわつきのこともあり、そう感じたボクは、ちょっとトイレに行ってくるといって学習室を出た。


 アンナも神父もロイスも礼拝堂内にはいなかった。

 おそらくケガを見られるのを嫌って神父やアンナの私室がある逆側の扉の向こうに入ったのだろう。

(好機だ・・・。)


 ボクは急いで家に戻り両親の寝室に侵入した。

 そして以前にこっそりと確認しておいた小太刀・払暁の隠し場所を開けて払暁を持ち出して、収納魔法へ収める。

 そして、その足で放牧地へと駆け出した。



 放牧地に着いた時、すでに大きな被害が出ていた。

 エッラの父ブリスは鋤を手に持って戦っている様だが、右足の太ももに裂傷と左腕がおそらく折れている。

 ブリスの部下のエグモントは倒れていて動かない、見たところ裂傷はないが、おそらく弾き飛ばされて頭を打ったのだろう。


 そして父エドガーは利き腕を痛めているらしく、まともに剣を握れる状態ではなかった。


 そして敵は・・・?

 アレは見たことはないけれど、猪の魔物か猪か・・・、魔力を感じないから猪なんだろう。

 ヘラジカの様に平たい角が頭部を覆う様に生えていて、牙も長くはないが鋭そうだ。

 よほどうまくやらなければ頭を狙うことができず、突撃を側面に大きくよければその体に剣は届かず、そしてぎりぎりでよけた場合は角の淵に引っ掛けられる・・・と。


 こんな動物の襲撃は前世にはなかったが、すでに人的被害以外にも、馬や家畜化してキバの退化したイノシシが何頭か死んでいる。

 そして猪が目立つせいで気づかなかったけれど、イタチに似た1m位の動物が4頭で死んだ馬を齧っている。

 普通の子どもという立場を捨てても、これを見過ごすわけには行かなかった。


---

(エドガー視点)

(まずったっ!)

 俺は焦っていた。

 駆けつけたときちょうどエグモントが弾き飛ばされたところだった。

 頭から落ちたら死ぬ!そう思ったときにはすでに体が動いていて、俺はエグモントの体を受け取るために右手の筋を痛めた。


 俺は村長失格だ!エグモントを見捨てなかったために、今からどれだけ被害が出るのか・・・せめてケガをさせて逃げる様に仕向けたいな。

 そう思って力の入らない腕で剣を構えた瞬間のことだった。


「せぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」

 恐ろしく速い金色の何かが俺の横を通り過ぎて真正面から平角イノシシに激突していった。

 トーティスか!?いや、それにしては声が高すぎる。

(それにあの矮躯は・・・・アイ、ラ?)


 自分の目に映る光景が、信じられなかった。


-----------

(アイラ視点)

 アイラはイノシシが父に狙いをつけたのがわかった。

 おそらくはもう死に体のブリスやエグモントよりもまだ戦力を残していそうな父からと判断したのだろう。

(畜生にしては頭が良いじゃないか!)

 でもそれを許すわけにはいかない

 ボクの幸せのために!

「せぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」 


 ボクはこの2年で使いこなせる様になっていた2倍加速を発動させ、光弾で覆った払暁でイノシシの正面から斬りつけた。

(父に見られ様が知ったことか、父を失うよりはいい!もう、躊躇して後悔なんてしない!!)


 ボクの一撃目はイノシシの角も牙も丸ごと切り落とし、イノシシはその鼻先すべてを喪った。


 ~~~~~~~~~!

 声にならない獣の声が響き、切り開かれた喉から血が吹き出る。

 さすがに生命力が強いのかその場でのた打ち回り暴れているが後は時間の問題で死ぬ、それでもとどめをさしておかないと、次の行動に移れないのですれ違い様になりながら右側の脚を切り落とした。


 そして今も夢中で馬をむさぼり食っていた4頭のイタチをすべて背後から斬りかかり殺した。

 どういうわけかこちらをまったく警戒してこなかったけれど、結果楽だったので良しとしよう・・・。


「アイラ!?何だ今のは、いやいい、今は村長として助かった、礼を言う!」

 よりによって父の前で、本性を現すことになったけれどもうばれたついでに魔法も使ってしまおう。

 前世のアイリスの様な強力な術は使えないけれど、ブリスもボク程度の治癒術でも死なずにすむはずだ。


「いいえ父さん、ボクもウェリントンの村人ですから、それよりもブリスさんとエグモントさんを・・・」

「あぁそうだな早く運ばなくては!っ痛ぅ」

 父は手に持っていた剣を落とした。


「父さんは後回しです。」

 そういって父を残しブリスの横に行くと、すでに多くの血を喪い真っ青なブリスさんの太ももに下級治癒術を施した。

 この深い傷では完全には埋まらないが、少なくとも自分で歩ける程度には回復させられるし、喪った血もサプライの魔法で補うことができる。


「よし、しばらく座っていてください、あとは・・・」

 おどろいて目を白黒させているブリスを放置してエグモントの元へ下級治癒術をを施してみると呼吸が穏やかになったので、おそらく骨が折れるなどしてどこかに刺さっていたのかもしれない。


「ボクの魔法では二人を完全には治せません、止血と体力の補強はしたので、後は普通の治療を、それと父さんも」

 後回しにしていた父の元に戻り同じく下級治癒術を施すと父はケガの程度が二人より浅かったこともあり、完全に治療することができた。


「あぁ、ありがとう・・・アイラ・・・。」

 しかしボクと父とブリスの間にはなんともいえない気まずい空気が流れていた。

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