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第103話:よりそうこと

※17/11/25 サブタイのナンバリングを間違えておりました。102⇒103へ修正しました。

 2月も半ばにさしかかった。

 先ごろ通常よりも一年長い王都滞在を終え領都ホーリーウッドへ戻ったホーリーウッド侯爵家嫡孫、ユークリッド・フォン・ホーリーウッドが、めでたいことに伴侶を伴ってのご帰還を果してから間もなく2週が経とうとしている。


 ホーリーウッド家の直系が、軍官学校通い中に嫁を見つける、あるいは結婚を決意するのはすでに何代にも渡って繰り返された伝統ということになるが、よくよく考えればホーリーウッド家の嫡男は13歳頃に軍艦学校に入学するものが多く、ということは17歳頃で卒業するのだから、在学中に結婚するであるとか、帰還と同時に結婚というのは別にそう珍しくもないことだ。


 ただ今回は少し赴きが違って、まずホーリーウッド侯爵家の長男は、まだ未成年の14歳。

 婚約者が1桁歳からいてもおかしくはない社会とはいえ、必ずしも世継ぎ作りにあせって結婚するわけでもない年頃だというのに彼は卒業と同時に結婚した。

 そしてさらに、嫡孫の嫁は3人いた。

 それも第二側室の座に侯爵家の長女が置かれている。

 この国の貴族制では公爵家が世襲できないため、侯爵家というのは世襲貴族の最高位だ。


 それもつい先頃まで国にたった四家しかなかった家格で、ホーリーウッド家もそのひとつとはいえその最高位の家の長女を側室、それも2番目のなどという状況は、そうそうあることではないが、単純に見初めた順での序列付けである。

 つまり政略結婚ではなく、3人の花嫁は愛の名の下に結ばれたわけだ。


 とはいえ、多くの民衆にとっては花嫁の序列なんていうものはそう関係のあることではなくて、敬愛する領主の孫、幼い頃から美しいことで評判の彼にかわいらしい花嫁が3人も出来た。

 それが単純にめでたいことだった。

 お祝いにかこつけて、人々は大いに飲み騒いだ。


------

(ユークリッド視点)

 昨日はホーリーウッドでの結婚(報告)式を行った。

 午前中にホーリーウッド城から4人で飾り馬車の上に乗り出立、ホーリーウッド、ディバインシャフト両市街を練り歩き昼前にはディバインシャフト城の展望台から市井に向かって報告した。

 それからディバインシャフト城内で、領内貴族や縁故のものを招いてパーティを開催した。

 普段貴族を招いてのパーティはホーリーウッド城側で行うけれど、ボクやアイラが住まうのはディバインシャフト城なので、そちらで行った。

 アイラの茶会友達や商人の夫人となっているアルンなんかも招いており、数年の間により可愛くなったアイラとの再会を喜び、その美しさを誉めそやしていた。


 そしていよいよ夜になると、いよいよ最初に流れて以来先延ばしとなっていた『新婚初夜』と相成った。

 といっても、僕には花嫁が3人いる。

 無論3人同時にという様な倒錯したことは初心者であるアイリスやアイビスには敷居が高いし僕だってそういうのはさすがにどうかと思う。

 結局毎晩一人ずつということになり、序列的にも僕の感情的にも夕べはアイラと同衾した。


 僕とカグラとの間にアイラに関する秘密の取り決めがあって、カグラにも見守られつつだけれど、まぁ歴史上政略結婚の場合なんかにメイドが見届け人として初夜の夫婦の寝室に侍ることも合ったみたいだから、さして変態的なことではないはずだ。

 まぁ普通見届け人は花嫁の緊張をほぐすのに頭を抱きしめるくらいはともかく、キスしたりはしないと思うけれど・・・。


 少し皺の出来た真っ白なシーツの上、僕の隣には穏やかな表情で眠る愛しいアイラがいる。

 前周とは違いカグラがそばにいることで、僕も多少自制が出来・・・るつもりだったんだけれどね・・・。


 出会いが早かったからか、それとも前周と違い生まれた時から渇望していたからか、ほとんど15年に匹敵するくらいの欲が溜まってしまっていたのだろう。

 一度深奥に触れてしまった後は抑えがまったくきかなかった。

 あの僕とアイラのやるいろいろなことに対して大らかなカグラが、ドン引きしていた。


 今だってアイラの穏やかな寝顔が守られていられるのは、散々やらかした後いつの間にか部屋を出ていたカグラが新しいシーツと洗面器を持ってきてアイラの体を清拭して、シーツを変えて空気も入れ替えていってくれたからだ。

 そうじゃなかったら僕も疲れきっていたしそのまま寝てしまっただろう。

 そうしたら春とはいえ汗やら何やらでぐしょぐしょのシーツでは今頃風邪を引いていたに違いない。


 精根尽き果ててヘロヘロになっていたアイラのズロースも替えて、ワンピース類は難しいからと五分袖のブラウスシャツを着せた後

「今日はアイラさんとユーリさんが身も心も夫婦になった特別な日ですから二人でお休みになってください・・・それに、明日明後日は私がアイラさんを独り占めですから」

 とまた出て行ってしまったけれど、おかげで今幸せそうにぬくぬくと布団に包まっているアイラの寝顔を堪能できている。


 カグラの持ってきた洗面器を借りて、僕も夕べのうちに体を拭いたのでそのうちメイドたちが起こしに来るのも気にせず、このまま眺めていられる。

 それにしても・・・

「アイラはいつも可愛いなぁ」

 確か前周で死期が目前に近づいてきた時にもこんなことつぶやいていたなぁと思いながら。

 それから20分後アイラが眼を覚ますまで寝顔を堪能し続けた。


------

(カグラ視点)


 昨日、アイラさんが女になった。

 ううん、最初からアイラさんは女の子ではあるのだけれどなんていうんだろう

 女として、ユーリさんのモノになってしまった?


 もっと耐え難いものだと思っていたのに、私の感情は意外と穏やかなもので、もう何度も3人で同じベッドで寝て、ユーリさんと二人掛かりで幼い頃からアイラさんを可愛がることをしてきたからかな・・・?

 それにしても

「緊張したアイラさん可愛かったなぁ」

『私のアイラさん』が、人のモノになってしまったというのに、いつの間にか私も楽しんでいたと思う。

 昨日のアイラさんの記念日のすべては朝から夜まで、デネボラの記憶領域に映像データとして保存してある。

 その中でもお風呂上りのガチガチに緊張したアイラさんを、ユーリさんがお部屋にやってくるまでにアロマとマッサージでリラックスさせていたところの映像を何度もリピートして見ている。

 不思議と気持ちは落ち着いている。


 相手がユーリさんだからかな? 

 他の人だったらこうも穏やかではいられなれなかった気がする。

 最初からそうだったけれど、どうして私はユーリさんがアイラさんの相手であることをこうもたやすく認められるのだろう。

 少しだけ不思議な感覚を覚える。


 とはいえ、これで今後いつアイラさんに子どもができてもおかしくはなくなった。

 それがもっと、嫌なことに感じると予想していたのに、今の私は、早くアイラさんの赤ちゃんに会いたいと思っている。

 私と暁さんができなかったことを、アイラさんとユーリさんに叶えて欲しいと思っている?

 どうなんだろう。

 自分の感情が少しわからない。



 アイラさんに似ている子が生まれるかな?それともユーリさん似かな?

 誰に似たとしても、きっとかわいい子が生まれるに違いない。

 そしてアイラさんの周りに居るのは、みんな素敵な人たちだから、きっと誰が教育しても優しくて頼もしい、そんな子に育つと思う。

「アイラさんがお母さんになるところも見たいなぁ、それに、アイラさんの子を私も抱きたい」

 昨日まではアイラさんがユーリさんと結ばれてしまえば、私とアイラさんの関係が変わってしまうかも知れないのが少し怖かったはずなのに、私は次の楽しみを見つけてしまったみたい。


------

(アイラ視点)

 昨日ようやく今生でも心身ともにユーリの奥さんとなった。


 あの、体の組織すべてが生まれ変わっていくみたいな幸福感に包まれているところを、神楽に見られたのは正直恥ずかしかったけれど、神楽にユーリとの関係を許容してもらっている立場としては神楽の『全てを見たい』という要求も受け入れないわけには行かなかった。


 幸いにしてユーリもボクと神楽の関係に理解があるので彼女の同席を許可してくれて夕べはユーリの部屋で3人で寝ていたはずなのだけれど・・・。

 朝起きたボクを見つめていたのはユーリ一人だけ、それもすごくパリっとしたきれいな格好でベッドの縁に座ってボクを見つめていた。

 ボクも、なぜかブラウスとズロースだけの姿で横になっていて、体は綺麗なものだった。


 ただベッドから立ち上がろうとすると思ったより疲労が残っていたみたいで、少しふらついた。

 ユーリに手伝ってもらって部屋着のワンピースに着替えた後、起こしにやってきたニコニコ顔のナディアに連れられて入浴のためユーリとは別れて浴場に向かい、すでに浴場で準備をしていたらしいエイラ、エッラ、ソルと4人掛かりでマッサージしてもらってようやく普通に歩ける様になった。


 それからユーリたちと合流、みんなでそろって朝食をとった。

 今日の昼には領地への帰路に就くスザク侯爵家の一行に、これまでずっとアイビスに付き従ってきたフランルージュも、スザク領に婚約者がいるため一緒にスザク領に帰ってしまう。

 さすがにアイビスも寂しいみたいで昨日は笑顔で祝い祝われていたアイビスとスザク組も今朝はなんとなく空気が重たかったけれど

 それでもいざお見送りの段になればアイビスは潤んだ瞳のままではあるが満面の笑顔を浮かべて、両親に弟、そして仲の良い姉の様に慕ってきたメイドとに別れを告げた。

「私旦那様やお姉ちゃんたちと一緒に、すっごいすっごい幸せになるからー!!」

 って街中に聞こえそうなくらい大きな声で宣言して、ボクたちも微笑ましく思ったものだった。


 それがついさっき2時間ほど前の出来事なわけだが・・・。

 今目の前にあるものを見る。


「カグラちゃ~ん・・・。」

 つい10分ほど前まではユーリの仕事終わりを待つ嫁3人と神楽そしてメイドたち(ベアトリカ含む)とで優雅なお茶会をしていたはずなのだけれど、今ボクの部屋の床に転がっているのは先ほどまで気丈に振舞っていた、第二側室の少女だ。

 用意された菓子の中にスザク侯爵夫人の置き土産の、お手製ブリオッシュ的なパンが含まれていたのだけれどそれを食べたアイビスは急速に里心がついてしまってグデグデになってしまった。


 そこで、メイドたちにベアトリカの世話を頼み、人目につかない様に『跳躍』でボクの部屋にアイビスを運びいれて、アイリスと神楽だけ部屋に招きいれたあと、今は床上、やわらかいカーペットの上で神楽の膝にすがり付いてすすり泣いている。

 アイリスは自分が小さい頃そうしてもらうと良く落ち着いたからか、アイビスの小ぶりなおしりをポフポフと叩き慰めている。


 結婚という区切りがったとはいえ、両親に弟、10年も一緒にいたメイドのフランとも離れてしまい心細くなってしまったらしいアイビスは、家族以外ではおそらくもっとも親しいうちの一人である神楽にだだ甘え状態になってしまった。

 ボクとアイリスは同じ夫に寄り添い支える立場として彼女の情けない姿を不特定多数に見せることはできないので、こうして慰めているわけだ。


「アイビス、本当に寂しくなったらいつだって会いにいけるから、落ち着いて、ほらボクたちと何かおしゃべりしよ?」

 幸いだったのは、義父や義母はまだホーリーウッドに帰ってきてから日が浅く、仕事が多くて一緒にいなかったこと、そしてユディは基礎学校に行っている時間帯だったこと

 さっきまでお茶会をしていた部屋はかつてボクがソニアやシャーリーたちを招いてお茶会をしたあの西側の庭園にせり出した茶話室だけれど、夕べの閨事を話す可能性があったので、近侍していたのは茶話室付のメイドではなくボクたちのお付メイドたちだけにしていた。

 そのためアイビスのホームシックのことは外部には漏れないはずだ。


「そうだよー、私たちといっぱいお話しよ?今日は私の番だし、明日はアイビスちゃんの番なんだから

、今のうちに一足先に大人になったアイラのお話きいておこうよ、なんか怖いし。」

 お茶会中だったとはいえ、ボクたちにとっては自宅の様なスペースにいたため、現在はお散歩するのにも不都合のない程度の普段着用ドレスを着ている。


 具体的にいえばアイビスは、ノースリーブの淡い黄色系の色合いのブラウスに、可愛らしいピンク色に白い縁取り様にフリルのついたボレロ、そして下は黒に近い濃紺のハイウエストスカートにブラウスをインしていて、ブラウスはほぼ完全に隠れている。

 山型に開いたボレロの下の部分、スカートとの境目にわずかに見える黄色がかわいかったのだけれど、最初にカーペットに座り神楽にすがりついた時に引っ張られたブラウスの背中側がスカートからはみ出て、みっともなくっている。


「アイビス、ボクの妹分になったんだから、カグラじゃなくってボクに甘えたっていいんだよ?」

 膨らんだブラウスの裾から手を差し込みたくなるけれど我慢して、裾をまとめてスカートの中に収めてやりながら、再度声をかけると少しは話を聞く気になってくれたのか、体を起こして、でも神楽に引っ付いていたいのか神楽の右手側に寄りかかる様にして横座りした。

 神楽に近づいたアイビスを追いかけて、アイリスも無言で半歩分神楽に近づく


「アイラお姉ちゃん・・・」

 アイビスが手を伸ばしたので、ボクも届く場所に移動して手を握り返してやった。

 アイビスのすぐ右前にアイリス、左に神楽、左前方にボクが寄り添う形になる。

 13歳の少女3人に囲まれた神楽の表情が非常に緩んだものになっているのが少し気になるけれどまぁいいだろう。


「なぁに?アイビス」

 ボクと同じくらい小さなアイビスの手を握り返す。

 か細い指は折れそうなくらい、でもしっかりとボクの手を握ってくる。

「今日はアイリスちゃんが旦那様と・・・じゃないですか?」

 少しぼかしながらアイビスが確認するのでボクもアイリスも小さくうなずいた。


「ティトもフランも帰っちゃったから今夜、私一人なんです・・・」

 甘えていいといわれても言葉にするのは恥ずかしいのかアイビスはやはりぼかしながら、でも核心に迫った。

 こうも素直になられては応えてあげるしかない。

「ボクは今夜カグラとおしゃべりして夜更かしの予定なんだけれど、アイビスもご一緒する?」


 これは半分くらい本当、王都屋敷でもだいたい週2日くらいはユーリと、もう2日くらいは神楽と共に休んでいた。

 そして残りをアニスやアイリスやピオニー、可愛がらせてくれる様になったあとのソルや、屋敷にいた頃はオルセーとも一緒におしゃべりしながら夜を共にしたことはある。

 正直に言えばこの4年でベッドに一人で寝たことなんて、時間外れのお昼寝の時くらいな気がする。

 つまりだ・・・。


「今日はまだ寂しいから一緒にいていいですか?明日からはちゃんと奥さんがんばりますから」 

 心細いから一緒にいて欲しい、なんて妹分に言われて無視できるボクじゃない、そもそも誰かといる前提ならば、ボクと居たいといってくれる妹分のために一晩二晩くらいは割くさ。

「いいよ、お風呂の後で枕持っておいで」

「はい!」

 アイビスは、まだ少し寂しい顔だったけれど元気に返事をした。


 するとその声に刺激されたのかアイリスが乗っかってくる。

「ハイハイ!私もアイビスちゃんとおしゃべり会したい!」

 わかりやすく右手を挙げながら左手で体重を支えるみたいにして身を乗り出す。

 結婚してもうちの妹可愛い、可愛いけれどね?

「アイリスは今日はユーリとでしょ!」

「アイリスちゃんはユーリさんとですよ?」

「アイリスちゃんが旦那様と寝ないと私の番がきません!」

「えー!?」

 3人同時に否定されてアイリスは残念そうにペタンと座りなおす。


 どうもアイリスはユーリと営みを持つことに少しだけ尻込みしているみたいだ。

 アイビスのホームシックにかこつけて先延ばしできるなら先延ばししようと思ったんだろう。

 本当に今は嫌ならば、ユーリにお願いして先延ばしでもいいんだれど、アイリスのこれは本当にただの尻込みだから、ダメ。

 逆にアイビスは本当に寂しいだけで、ユーリとの結婚生活にはちゃんと前向きみたいでさっきより確実に元気になっている。

 家族とはなれた初日の今日だから、リチア様手製のパンで特別寂しくなっただけの様だ。

 それなら安心かな?


「アイリス、アイビス、これからボクたちはユーリの奥さんとして一緒に支えていくんだから、二人が寂しかったり、なにか悩みがあるときにはボクに相談して良いんだからね?ボクたちは今のところ3人だけの同志なんだから、一緒にユーリに寄り添っていこうね?」

 可愛い妹分二人の手をとってそう告げると、アイビスはうれしそうに、アイリスは不思議そうにボクの手を再び握り返す。

 この手がいつかボクの手を必要としなくなるくらいまでは、お姉さんとしてボクが支えになってあげようじゃないか。

 

年始から推定1ヶ月半ほど領地を空けたことになるスザク家の事が多少心配ですが、あまり出番を増やす予定もないのできっと大丈夫ですよね


ホーリーウッドにはトーレスの代のウェリントン家や旧茶会メンバーがいるので、アイラは平気ですが

アイビスにはもっとお友達が必要そうですね

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