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第100.9話:回想、ベアトリカ

 無事にエミィやマガレ先輩達を送り出した後のある黒曜日の朝、不思議な夢を見た後目を覚ましたボクの目の前には見知らぬクマの顔があった。

 そのお顔は、厳しい顔をしていたベアトリカと比べると幾分か柔和で、なおかつ2回りは小さかった。

 その得体の知れないクマはしばらくボクの胸元を鼻先でぐいぐいと押していたけれど、ボクが起きたのに気づくと、ベロベロとボクの顔を舐めた。


---

「ひゃう!?」

 ちょ!いきなり!?

 寝起きに知らない顔だなんて普通の女の子なら泣き叫ぶところだ。

 それも大きなクマの顔だなんて・・・。


「ベアトリカ・・・なの・・・?」

 目の前の見慣れない小柄な(それでも2m近くある様に感じる)クマに、王都の屋敷内にそうそう別のクマがいてたまるかと思いつつ念のため確認すると目の前のクマは小さくリャーと声をあげた。

 さらに念のために「鑑定」を行う。

 ベアトリカF9エクスターミネイトベア

 生命6677魔法33意思144筋力121器用42敏捷52反応61把握79抵抗33

 適性職業/戦士 騎獣 猛獣使い


 うんステータスとか、種族名とか大幅に変わっているけれど、間違いなくベアトリカの様だ。

「元気になったの・・・?」

 改めて聞くとやはりベアトリカは小さく唸る様な声をあげる。

 するとその声で目が覚めたのか、エッラがもぞもぞと起き上がった。

 あまりボクが先に起きていることは少ないけれど、エッラのゆったりとしたネグリジェ姿の輪郭は寝起きでも大した存在感を放っている。

 エッラは少し伸びをしてから、目を見開いた。


「ベア!」

 しかし迷いを一切感じさせない動きで、エッラはベアに抱きついた。

 ベアトリカもうれしそうな声を出しながらエッラを舐め返す。

 少しの間二人は抱き合っていたけれど、ベアトリカが何か声を出していて、エッラがうんうんとうなずいている。

 そして・・・

「アイラ様ベアはお腹がすいているみたいです」

 と彼女の言葉を通訳してくれる、さすが村では馬の気持ちがわかるといっていた彼女だ。


 収納からベアトリカに好物のパンとハチミツと無塩バターを練った物をつけて焼いた塩蔵ベーコンを出してやると、ベアトリカはもそもそと食べ始めた。

 そしてボクは寝起きで割りと決壊しかけているダムを放水するために一旦部屋を辞す。

 本当ならば縮んだ分はどこにいったのか?とか推定2回目以上進化をしたベアトリカがこれからどうなるのか?とか考えるべきなのだろうけれど、勇者といえど人である以上は生理現象を制御できないのだ。


 時間が早かったためか、放水を終えて部屋に戻ってくるまで誰にも出会わなかった。

 ただボクが部屋に入るとすでにフィサリスとナタリィがいた。

 どうもエッラが契約で繋がっているフィサリスを呼んだらしい


「あぁアイラ、おはようございます。寝間着姿もかわいいですね。」

 ボクは夕べもベアを暖めるために比較的肌を露出していて、肩のところがストラップしかないタイプのものを身につけていた。

 屋敷内にはイサミやモーリスもいるのでさすがに恥ずかしくて、今はガウンも身に着けているけれど、それでも面と向かって言われるとなんとなく恥ずかしい気がしてガウンの端を交差させた手でつかんで引っ張る。

「おはよう、ナタリィ、フィーも」

 短く挨拶をすると、ナタリィはまたベアの方を向いてなにやら触診の様なことをやっている。

 そしてそのまま3分ほど、ペタンと座ってお行儀よくパンを食むベアを二人は触ったり相談しあったりしながら見ていた。


「アイラ、よかったです、とりあえずベアトリカの健康も、性質も問題なさそう。大好きなアイラやエッラと一緒に出かけられなかった悔しさがきっかけになってコンパクトに進化したみたい、環境的にも屋敷内での暮らしに体の大きさが不便に感じていたんでしょうね」

 いいながら、ナタリィがベアの背中をポンポンとするとベアは照れくさそうに頭をかいた。

 本当に人間みたい。


 そして小さくなったといっても大きい、かつての3m弱から2m弱になって・・・、うんもうちょっと小さい、180cmくらいかな?

 小さくなったとはいえ、それでもまだ成人男性くらいの身長と、それをはるかに上回る質量を持っている。

 ステータスは前より上がってる・・・その辺の準勇者級をはるかに上回ってるし。

 与えた食べ物を食べて満足したのか、それとも進化したてでまだ休息を欲しているのか、ベアトリカは昨日までと同じ様に丸くなると、すぅすぅと寝息を立てはじめた。


 その後起きてきたみんなにも、ベアトリカが無事に小さく進化したことを報告、みんなベアトリカの無事に歓喜したけれど、ピオニーだけはベアトリカが小さくなったことに少し不満そうにしていた。

 でも実際四つんばいの背中に乗ったときの高さは30cmほどしか変わらず。

 昼ごはんの後、いつもの様にベアのトリカ背中に乗ったピオニーは大満足でベアトリカの背中にしがみついていた。

 ベアトリカも、ピオニーを乗せるのが好きなのでそのまま庭ではしゃいで、その場の世話をトリエラとエイラに任せてちょっと部屋でナタリィと、次回の魔剣回収の話し合いをしていたら、30分後庭に出た時にはベアとピオニー、アニスまでも一緒になって、庭木の下でお昼寝していた。



 さて、ナタリィの話では、ベアトリカの進化が10日以上掛かったことから、彼女の進化は2回目どころではない可能性と、ボクがずっと持っていた魔剣の力に当てられた可能性があると提言した。

 それは、魔剣・・・ナタリィたちの言う「鍵」が持つとされる作用の一つ。

 かつてグリーデザイアたちが担っていた、亜人を、あるいは亜人を導く王を作り出す機能。

 それが断片的に作用して、もともと適正の高かったベアトリカを進化させたのではないかという推論。

 結局ナタリィとて鍵の機能のすべてを知っているわけではなく、推論に過ぎないことだけれど、あのナタリィがいうのだから、当てずっぽうということはないだろう。


 ただほかに高い理性や知性を持った魔物のサンプルもないので確定することは難しかろうが・・・、あ?

 そういえばオーティスが狼犬型魔物の使役に成功しているのだったか・・・?

 思い当たったボクは翌日、オーティスの使役している魔物を鑑定させてもらい、一匹の意志力が高いことを確認した。

 そこで、すでに2年時にユーリの第三の婚約者となっていたアイビス経由でオーティスとその婚約者であるアンリエットとをアイビスの護衛という枠で呼びホーリーウッド屋敷で暮らしてもらうことにした。

 なおオーティスは離れの兵舎、アンリエットはフランと同室。

 無論オーティスの使役獣3種類の狼犬型魔物もすべてを新たに庭に作ったスペースに置き、たまにベアと遊ばせたりしながらボクの持つ魔剣と近い環境を確保した。


 三種三匹の狼犬型魔物「サベージハウンド」のトロワ、「ベノムウルフ」のファン、「サンダードッグ」のシアンとがいたが、このうちファンが意志力94と魔物にしては非常に高くボクとナタリィは彼女が進化すれば、それがこの推論をほぼ正解に変えてくれると信じて、暮らし始め、そしてナタリィは1年後に再度くることを宣言して帰っていった。


---

 そして4年生となった後の春先、予想に反して進化の準備期間に入ったのがサンダードッグのシアンだった。

 ある日の朝シアンがエサを食べに出てこず不思議に思ったオーティスが確認したところ、シアンが冷たくなっていた。

 死亡したかと早合点したオーティスは、シアンを埋めるために次の黒曜日の外出をアイビスに願い出たが、アンリエットとアイリスの診断によりシアンの心臓が動いていること、また約1年前のベアトリカと同様の進化の予兆であると推察されたため、ベアトリカとオーティス、アンリエット、フィサリスによる看護体制が敷かれ、ベアトリカの時と同様に対処したが、ベアトリカの時と比べると半分程度の5日目でシアンはサンダードッグからスパークルファングという種族へ進化を果たし、金毛のハスキー犬の様な姿へと変わった。


 またちょうどナタリィがやってきた初夏に、ファンとトロワが同時に進化の予兆を示した。

 二匹が進化しそうになった時にはシアンもさらに賢くなっており、ベアトリカとともに献身的に仲間の世話をして、トロワは3日目に、ファンは10日目に無事進化を果たし、トロワはインフェルノハウンドという赤黒い毛並みのボルゾイの様な輪郭を得、そしてファンはイモータルウルフという頑健な体つきをした大きな狼の体躯を得た。

 これにより、ベアトリカもトロワ、ファン、シアンの進化も魔剣の影響下にあって促進されたのではないかという推論は確信めいたものに変わった。

 そして、3匹が進化前と変わらずトーティスを父、アンリエットを母の様に甘えているのをみてボクたちはホっと胸をなでおろした。

 


 それを見届けた上で当初の予定通り、ボクは、ナタリィ、ユーリ、カグラ、エッラ、フィサリス、ベアトリカとともにまず古代樹の森を攻略に向かった。

 古代樹の森は水晶谷と同様、広い範囲に広がった地形すべてが露出したダンジョンの形式をとっており、本来なら何箇所かに仕掛けられた石版を動かして、正しい状態にしなければ魔剣を取り出せない、しかしながら風精の力を借りれば直接、魔剣の安置されている台座を操作することが可能らしく、現地で待っていてくれたナタリィの従者のドラゴニュートの一人ダリアが協力してくれて、ボクたちはただ現地に飛んで行き、魔剣を抜くだけであった。


 そのままダリアもつれてヘルワール火山へ向かい、今度は上から入れる場所ではなく、地下洞窟になっている場所が魔剣の安置されている場所のため、ボクたちは火山地帯の地下洞窟という劣悪な環境に飛び込むこととなった。

 そしてようやく日の目を見るボクの魔法ブリザーブウォータ

 3年の時攻略した紅砂の砂漠は思ったよりも気温が高くなかったというか、暑さはもっと簡易的な魔法で耐えられるものだったのだ。

 砂が吹き荒れてるくらいで、直射日光もそうでもなかったし・・・。

 しかしやはり本格的な戦闘はないままで、ボクたちは目的の台座付近まで裏道を踏破、現地で待っていたドラゴニュートのゼフィランサスに仕掛けを解除してもらいヘルワールの魔剣も回収した。

 そしてナタリィたち3人はそのまま龍の島へ帰っていき、ボクたちは一人少ない状態で王都へ帰った。


 森も火山も戦闘らしい戦闘は一度もなく、何度か魔物には遭遇したものの、ベアトリカの威容に圧倒されたのか魔物はすぐさま逃げ去ってしまった。

 理性のない魔物といえど生存本能はあるらしく、明らかに上位の魔物であるベアトリカのことは生殖の対象とも、獲物とも映らなかったみたいだ。


 ベアトリカは現在武器として特注の斧を装備している。

 ユーリやエッラのものと同様に取り回しよりも頑丈さを重視した作りで、一般的な武器とは比べ物にならないほど重く20kg超の重さがある。

 構造はカメ島の斧の魔剣を参考にしており、基本は長柄の武器だがヘッド部分が片側に斧の刃、逆側に円柱状の構造物、先端部分はシャベル状になっている。

 殴ってよし斬ってよし突いてよし、伐採も砕石も掘削もできる謎武器となった。

 歩行の邪魔にならない様にホルダーも特注しており、四つんばいでも二足歩行でも地面に対して水平になる様に作られている。


 首にはうちのクマだとあらわすために赤いレザー製のチョーカーをつけ木の名札が吊り下げられていて、アニスとピオニーの合作のヘニョヘニョした文字でベアトリカと書かれている。

 そもそも城内を徘徊するクマはベアトリカくらいしかいないので、名札をつける意味もないのだけれど、この妙に非現実的な名札は、城の人々のベアトリカに対する警戒心を弱めることに成功し、なんとアニスが学習室で勉強しているところに混じって一緒に机に座ってお勉強(机に座ってパンをかじって待っている)もしているらしい。


 そしてクマ散歩と呼ばれる謎のお散歩の光景、アニスとピオニーにルティアにルイーナ、日によってシシィにソフィ、フェベとコンスタンツァなどほかのお城にいる子どもたちも参加して、ベアトリカの背中に乗ったり並走する姿が見られる様になっている。


 ベアトリカは小さく、普通サイズのクマとなったことで我が家の、そして城の名物クマとしてそれなりに人々の日常に溶け込んだけれど、ボクとエッラがホーリーウッドに帰ればついてくるだろう。

 そうなった後、クラウディアよりは魔物の脅威に慣らされているホーリーウッドの城や城下の人々はこのかわいいボクのクマを、受け入れてくれるだろうか?

 残り半年ほどに迫った結婚と、ホーリーウッドへの帰郷を思うと少し不安になる。


 だけど、ボクに鼻先を摺り寄せてクンクンと鼻を鳴らすベアトリカのかわいさに、割と骨抜きにされているボクと家族は、クマというものが通常恐怖の対象であることを失念し始めていた。


 在学中に予定している魔剣の回収を終えたボクたちは、残り少なくなった学生の時を楽しみ、大勢の学友あ後輩たちと親しみ、友情を育み、何人かのホーリーウッドへの仕官希望をボクたちの判断で採用したりしながらすごした。

 その採用試験の項目の中にベアトリカとのハグが含まれていたのは、別に職権の濫用ではないはずだとボクは信じている。


少し短くなりましたが、前回まででベアトリカの心配をするところは終わっていたので、魔剣と魔物の進化、魔王化などについてアイラがちょっとだけ考え、ナタリィも長い間伝わっている伝承を確信できるものに変えるためにアイラの好奇心に乗っかる形で実験をしました。

あと念のため、トロワ、ファン、シアンは3匹とも雌です。

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